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「原子力」建設の安全・安心・安定を支える人と技術

原子力施設の建設に携わる社員一人ひとりが,「技術力で原子力発電の安全・安心に貢献し,エネルギーの安定供給の一翼を担う」という責任感で取り組んでいる。
多様な分野の人と技術を通じて「鹿島の原子力」のDNAを探る。

大型モジュールの屋根トラスを吊り込む(島根原子力発電所3号機)の写真

「鹿島の原子力」の人と技術

ライフサイクル毎の技術展開

当社は約40年余にわたり,原子力発電所の原子炉建屋など主要施設の設計・建設を継続的に担当しており,これら業務を通じてノウハウを蓄積している。

「計画・設計」では準備・計画段階の地震力の設定という上流の業務から,実際の建物の設計までを行う。また,「研究・開発」では新型炉の研究から既設発電所の耐震補強の技術開発まで幅広くカバーする。さらに,「解体・廃棄物処分」では将来の原子炉施設の廃止措置やバックエンド(放射性廃棄物処分)まで取り組む。当社の総合力で「原子力」のライフサイクルを一貫して支えている。

実践的ローテーションによる人材育成

長年,柏崎刈羽,浜岡などの基本計画,実施設計,施工管理等の経験を踏まえ,現在,当社の原子力部の原子力設計全体をマネジメントする小西秀利室長は,「常に原子力施設の施工実践の場があり,人材育成の面から見ればOJTの場がある,という恵まれた環境が当社にはあります。社員にはローテーションで地震動などの研究開発,実機設計,現場の施工担当など,いろいろな経験を積ませており,人材の質・量ともに高いレベルを維持しています」という。

ノウハウの蓄積で確かな品質管理

原子力施設の設計において品質管理は最も重要であり,設計業務の各段階で様々なチェック,審議を行っている。

2006年9月の耐震設計審査指針改訂により,過去に設計した施設にも遡及する,いわゆるバックチェックにおいて耐震安全性の評価を行っている。「既存施設の設計図書に先輩たちのノウハウがぎっしり詰まっています。新規の実機設計でなくてもバックチェックに携わることで,そのノウハウを吸収し,活用することができます。新しい技術も大切ですが,お客さんが建物を何十年も使い続けるための安全性という観点から,積み上げてきた技術の展開が実は一番重要なのです」。

ライフサイクルの図

小西秀利原子力設計室長の写真

小西秀利原子力設計室長

計画・設計

計画・設計の図

長期間にわたる原子力施設のプロジェクトは,
各段階で周到な準備・計画が必要となる。
最新の知見と豊富な経験を集約して行われる地震動評価,
施工や維持管理も十分に考慮した構造・工法一体の設計技術,
土木と建築の技術連携で,より確かな安全を築く。

「安全」なサイトをつくる地震動評価技術

原子力施設では一般の建物と違い,設計段階においてその地域で起きると予想される地震を個別に徹底的に洗い出して,敷地やその周辺の安全性を確認する。

(株)小堀鐸二研究所の加藤研一統括部長は,最新知見と技術を駆使して原子力発電所立地(原子力サイト)での設計用の地震動レベルを設定する業務を担当。執筆した研究論文が設計根拠として全国の原子力施設で用いられ,研究開発と設計を結ぶ役割を果たしている。「耐震指針の改訂により,学識経験者と同等以上の最先端の知識と,確かな根拠に基づいた検証が求められています。電力各社の期待にお応えできるよう,最新動向を常に把握するように心がけています」。

地震のタイプには東海・東南海地震などプレート境界の巨大地震,中越沖地震など活断層系の内陸地殻内地震,プレート内地震などがある。原子力施設の周辺地域では地下構造の詳細な調査に基づいて断層面を想定して地震動を評価する。

「地下数キロ以深から伝わる地震動のメカニズムを合理的に分かりやすく説明することに努力を続けています」。

加藤研一統括部長の写真

加藤研一統括部長

なるほど!原子力

地震の発生メカニズム

日本列島周辺には4つのプレートがあり,長い年月をかけて少しずつ移動している。その際,プレート境界部やプレート内部に大きな力が加わり,そこがずれる時に地震が発生するといわれる。

地震の発生メカニズムの図

建物の「安全」を支える土木設計技術

建物の地盤安定性を評価する技術,岩盤を掘削する施工技術,冷却水を取り込む取放水設備の設計など——原子力施設における土木設計技術の分野は裾野が広く,どれも重要性が高い。地震などの非常時にも原子炉建屋はじめ原子力施設の安全を支える。

原子力発電所は硬い岩盤上に立地するが,建屋を支える地盤として適切であることを評価するのは重要な役割の一つ。原子力サイトの地盤安定性評価を担当する当社土木設計本部耐震設計グループの戸田孝史設計長は,「当社は,これまで数多くの原子力サイトでの評価実績があり,岩盤の安定性についてのサイト特性を詳細に分析するノウハウを活用して精度の高い評価をしています」と語る。

原子力サイトの地盤の安定性が確認された後,工事はまず,岩盤を深さ20〜30m近くまで掘削することから始まる。安全性確保のため原子炉建屋などの施設は地中に埋め込んで建設する。岩盤も原子力施設を安全に包み込む構造体となる。同本部の田中耕一地盤基礎グループ長は,「原子力施設の基礎掘削工事では建物の形に合わせ岩盤を垂直に掘ることが理想的です。地盤を垂直に掘ると崩れやすいため慎重な設計と施工が要求されます」。多くの原子力施設の土木設計に携わってきた経験から,「研究開発・土木・建築の連携が密接で,全社一体となった総合力で技術提案ができる」と,当社原子力プロジェクト体制の強みを語る。

田中耕一地盤基礎グループ長(右)と戸田孝史設計長の写真

田中耕一地盤基礎グループ長(右)と
戸田孝史設計長

原子炉建物の基礎掘削状況(島根原子力発電所3号機)の写真

原子炉建物の基礎掘削状況
(島根原子力発電所3号機)

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研究・開発

研究・開発の図

原子力サイトで起こりうる事象について事前にあらゆる状況を想定し,
構造技術や施工方法などを解析や実験により確認・検証することで
安心を醸成する研究・開発。
原子力発電所の設計や施工のために開発された技術は耐震関連技術はじめ数多い。
技術研究所を中心に全社的な連携で取り組んでいる。

設計と実構造物をつなぐ模型実験

原子炉建屋などの構造実験では,実構造物のスケールが一般建築物に比べ巨大なため,縮尺模型での実験が重要となる。技術研究所建築構造グループの澤本佳和上席研究員は,入社2年目にコンクリート構造物の衝撃実験のシミュレーション解析を担当。その後,鋼板コンクリート(SC)構造の性能評価のための構造実験などを数多く担当している。

近年,原子力分野では,新型炉などの新しい設計事象(高温+地震力)を考慮した研究が行われており,数年前に実施した当社の実験では,模型試験体を高温に加熱した状態で加力した。「加熱しながら加力する初めての実験だったので,どのように計測すれば良いかなど,未知の分野が多くやりがいがありました」。

「原子力関連の研究開発は,開発スパンが長いので技術継承が大事」という澤本氏は,若手担当者と共に実験に取り組んでいる。

澤本佳和上席研究員の写真

澤本佳和上席研究員

加熱載荷試験(2006年度 自社研究) の写真

加熱載荷試験(2006年度 自社研究)

地盤改良による耐震裕度向上技術

既設の原子力発電所についても,耐震補強の工事など安全・安心に向けた技術開発が重要となる。原子力施設の地中構造物の補強工事で全国を飛び回る,技術研究所土質基礎・岩盤構造グループの藤崎勝利上席研究員は,「いつの間にか地盤改良工法の専門家になってしまった」と笑う。従事したダム耐震補強工事で地盤改良を行ったことが現在に繋がっている。

2005年に中部電力・浜岡原子力発電所で初めて耐震裕度向上工事を行った。耐震指針改訂後,2007年の新潟県中越沖地震を契機に電力各社が一斉に原子力施設の耐震裕度向上工事の検討を開始。浜岡で先行していた当社に多くの問合せがあった。以来,8発電所での地盤改良による耐震裕度向上工事に携わる。「当社は,地盤改良工事専門のケミカルグラウト社をグループ企業に持っていることが強みです。今後も当社グループの技術力を結集して,より良い工法を開発し,お客様のお役に立てるようにしていきたい」。

藤崎勝利上席研究員 の写真

藤崎勝利上席研究員

ケミカルグラウト社が開発したジェットクリート工法による改良体の写真

ケミカルグラウト社が開発した
ジェットクリート工法による改良体

なるほど!原子力

耐震裕度向上工事

原子力発電所が持つ耐震上の余裕を,補強や改造などによって,さらに向上させる工事。中部電力・浜岡原子力発電所では当社が開発した制震技術で,構造物(排気筒)の耐震裕度を向上させた。

右: 排気筒、 左: 制震装置Nu-DAMの写真

左: 排気筒
右: 制震装置Nu-DAM

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解体・廃棄物処分

解体・廃棄物処分の図

将来の原子力施設の廃止措置や放射性廃棄物処分は,
原子燃料サイクルの確立に向けた重要課題である。
とりわけ高レベル放射性廃棄物の地層処分は世界的にも事例のない新しい領域で,
国,NUMO(原子力発電環境整備機構)を中心とした取組みを,
当社も全力で支援している。

「安定」に向けて放射性廃棄物処分を次世代のために担う

原子力施設などから出される放射性廃棄物,中でも再処理工場から発生する高レベル廃棄物については,地下300m以深での処分方法を検討しているが,従来技術だけでは対応できない難しい課題も多い。

土木設計本部核燃料サイクルグループの高村尚設計長は,高レベル廃棄物処分プロジェクトを担当。「電力会社で原子力を担当した父親から,廃棄物処分の課題を君たちの世代で解決して欲しいと言われ,この大きな仕事に携わりたいと思いました」。事業の要点は,10万年もの超長期にわたる安全性の説明であり,地質環境調査,放射性物質の移行評価,施設の長期挙動評価など様々な技術が求められる。「子孫への情報の伝承も重要なテーマです」。

廃棄物処分は,廃棄物処理から処分場閉鎖後の長期挙動評価まで,学術的に多様な領域が関係する。RWMC(原子力環境整備促進・資金管理センター)は,廃棄物処分に必要な技術開発を進める公益財団法人で,当社技術研究所から須山泰宏氏が出向している。「超長期にわたる安全性の評価について,柔軟な発想や整理された知見に基づく説明ロジックが求められますが,若手でもこれらを示せれば中核的な業務を担当させてもらえます」。出向先では,国内外の幅広い人的ネットワークを構築し,廃棄物処分の全体像を学んでいる。「物を作る立場で柔軟な発想を持ちながら,安全性確保のための橋渡し役を担いたいと思います」。

高村尚設計長の写真

高村尚設計長

須山泰宏プロジェクトリーダーの写真

須山泰宏プロジェクトリーダー

放射性廃棄物の処分方法の図

放射性廃棄物の処分方法

高レベル廃棄物処分場。地下300m以深のトンネル群(NUMO公募関係資料「処分場の概要」に加筆)の図

高レベル廃棄物処分場。地下300m以深のトンネル群
(NUMO公募関係資料「処分場の概要」に加筆)

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TOPIC「原子力教育講座」

当社では,初めて原子力関連の工事を担当する社員に対し,「原子力」の重要性を認識し,関係する基礎的な教養の習得を目的に,原子力教育講座を行っている。内容は,原子力の歴史,エネルギー・環境や原子力の基礎知識,原子力工事の特徴と施工事例など多岐にわたる。

講師は社内の各分野のエキスパートが担当。講師を担当する原子力部企画室の須貝康一課長代理は「電力会社・機電メーカーの皆さんとのコミュニケーション力向上と原子力工事の重要性を認識してもらうよう,きめ細かく指導しています」という。

建設現場での講義風景の写真

建設現場での講義風景

CLOSE UP 新潟県中越沖地震が残した「原子力の未来」

2007年7月16日,東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所の北方16kmを震央とするM6.8の「新潟県中越沖地震」が発生しました。設計用の地震動を上回る大きな揺れでしたが,原子炉は安全に停止し,原子力発電所の安全性に対する取組みがしっかり行われていることや,施設が高い耐震性を有していることが確認できたのではないかと思います。

地震後の対応としてわれわれは東京電力殿からの委託で,「現地の復旧作業」,「健全性を評価するための点検・解析」,「中越沖地震を踏まえた施設の耐震安全性の評価」,「制震技術や地盤改良技術を用いた補強」などを担当しました。

中越沖地震から教訓も数多く得られました。そのひとつとして被災後の活動拠点となる緊急対策施設の重要性があげられ,緊急対策施設は免震構造として建設されました。

耐震設計については,今後も調査・研究を続けていくことが重要です。しかし,中越沖地震で確認された安全性や地震後の対応は広く公開され,国内外で高く評価されています。これらのことは,一般の方々の安全・安心への意識につながり,原子力への理解がさらに深まっていくと考えています。

原子力部 技師長 兼近 稔の写真

原子力部 技師長 兼近 稔

地図

東京電力柏崎刈羽原子力発電所の写真

東京電力柏崎刈羽原子力発電所

免震重要棟(緊急対策施設)外観の写真

免震重要棟(緊急対策施設)外観

発掘!旬の社員
鹿島の見える風景作品集

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