沖縄から世界へ
1万人の熱狂を届ける
(仮称)沖縄市多目的アリーナ建設工事
沖縄市で進む,県内初の1万人規模の全天候型アリーナ建設プロジェクト。
プロバスケットボールチーム「琉球ゴールデンキングス」のホームアリーナとしてスポーツ興行や
音楽,文化など,沖縄で開かれるエンターテインメントの新たな拠点の誕生に期待が高まる。
ECI方式が採用されたこの工事に,当社JVは設計段階から計画に携わってきた。
目指したのは,今までにない“劇的空間”の実現。チーム一丸となって取り組む現場の姿を追った。
【工事概要】
(仮称)沖縄市多目的アリーナ
建設工事
- 場所:沖縄県沖縄市
- 発注者:沖縄市
-
設計:梓設計・創建設計・アトリエ海風
共同企業体 -
用途:プロスポーツ,コンサート,
展示会など各種イベント - 規模:S造 6F 延べ27,712m2
- 工期:2018年8月~2021年2月
(九州支店JV施工)
日常的に集える場所
沖縄本島中部に位置する県内第2の都市の沖縄市。地域伝統芸能のエイサーのまちとして知られ,毎年県内最大規模のエイサー祭り「沖縄全島エイサーまつり」が開催される。また,プロスポーツ団体によるキャンプや公式戦も開かれるなど,スポーツも盛んな地域だ。コザ運動公園の一角に姿を現した沖縄アリーナは,沖縄市の交流および地域振興の拠点として,またほかとの差別化を図り,地域の活性化に向けた施設として計画された。
1万人規模のメインアリーナは,バスケットボールをはじめテニス,フィギュアスケートなどの屋内スポーツや,コンサート,展示会など多種多様なイベントに対応する。地上5階建ての観客席の一部を多層のバルコニー席とし,観客席数を優先しないエリアを通常の建物のように構成。そこに,幹線道路に面した立地を生かし,商業機能を備える構想を立てた。「沖縄アリーナは,現代の多様な観戦環境のニーズやイベント時以外の利活用にも重点を置いています。1年を通してにぎわいのある施設をつくるため,当社もECI方式の範囲で設計段階からさまざまな提案を行いました」。現場を統括する百田茂所長は,施設の特徴をそう語った。サブアリーナやコンコースも配置し,建物内外で活気あふれる場所とするのと同時に,災害時は防災拠点の機能も果たす。
新たな観戦体験を
完成後,沖縄アリーナを本拠地とするプロバスケットボール男子Bリーグの琉球ゴールデンキングス(以下,キングス)は,監修者として沖縄市とともに建設プロジェクトに携わっている。百田所長は次のように話す。「発注者やキングスさんがつくりたいのは,バスケットボールの本場NBAのような観戦体験を味わえるアリーナです」。
具体的には,選手と観客が一体となるような臨場感あふれる施設を指す。日本では珍しい八角形の外形や,すり鉢状に配置されたスタンドは,全ての観客からの近さや角度など“観る”ことへのこだわりを実現するためのものだ。
当社JV提案の屋根架構は,67mのボックストラスを柱で支持し,そのボックストラスにてトラスを支持する。トラスの軽量化を図ることで,天井架構に特殊照明や総重量30tにもなる大型映像装置などの劇場的な演出機構の構築が可能となり,多様なイベントの可能性が広がる。
施工計画全般を担当したのは宮谷一義工事課長。ボックストラスの施工では沖縄特有の気候に悩まされた。「1個あたり重さ約22tのボックストラスをいくつかのブロックに分けてつないでいきます。冬から春先にかけて施工したのですが,予想以上に日射しが強く,鉄骨が熱伸びしていました」。最後のブロックは建てた柱と梁の間に正確にはめ込む必要があるため,熱伸びした状態では作業が進められない。現場では気温が低い早朝5時から作業を始め対応したこともあった。
また,沖縄は時期によって豪雨や暴風が吹き荒れる。宮谷工事課長が特に苦心したと話すのが,屋根鉄骨の荷重を仮受けするベントの計画だ。「一部床下にピットがあり,荷重をかけられる位置が限定されていました。その条件下で,どんな強風を受けても耐えられる計画でなければいけません」。宮谷工事課長は当社九州支店建築設計部と相談しながら風圧や構造計算を繰り返し,ベントの足元に井桁の鉄骨を据え付ける工法に行き着いた。
宮谷工事課長が,百田所長と同じ工事を担当するのは,今回が3現場目。これまでも厳しい条件下の工事をともに乗り越えてきた。「今回,百田所長は私が計画に専念できる体制を整えてくれました。部材ひとつとってもスケールが大きいアリーナ建設を,最後まで楽しむ気持ちをもって進めたいです」。
施工を先導する若手社員
宮谷工事課長が練った計画を,現場で形にしていくのは若手社員が中心だ。入社11年目の中城勇太郎工事課長代理は,現場で鉄骨建方工事が進む間,観客席を支えるスタンドのプレキャストコンクリート工事や内装下地工事を主に1人で担当した。時には工期短縮を目的に夜間対応をしたこともあった。「大変な面もありましたが,宮谷工事課長が作成した工程表を守れば必ず工期内に竣工できます。与えられた役割を果たすだけです」と中城工事課長代理は言い切った。
週に1回,施工を担当する若手社員を中心に「週間シミュレーション」と呼ばれる会議が行われる。これは,当社JVのほかにサブコンからも担当者が集い,次の1週間の予定や動きを調整するもの。九州支店管轄の現場で広く採り入れられており,担当者は事前に協力会社と1週間分の段取りを確認したうえで会議に臨むことで,突発的な作業を極力減らし,円滑な現場運営に役立てている。
その会議に,以前は担当者が1枚の紙の図面に情報を書き込んでいたが,現在は図面や書類データをサーバー上で共有できる「CheX(チェクロス)」というITツールを用いている。直感的な操作性でパソコンやスマートデバイスから手軽にメモを書き込めることが特長だ。導入を提案したのは,今年1月に着任した八汐洋平工事課長代理。中城工事課長代理と同期で,東京と北陸で大規模オフィスビル建設を担当してきた。「CheXは私が別の現場で活用したことがあり,自分のタイミングで情報を書き込み共有できる点が,週間シミュレーションのニーズに合致していると感じました。自分が良いと思ったものはどんどん現場に展開していきたいです」。若手の闊達な意見が現場を進める原動力になっている。
快適で非日常的な空間の構築
メインアリーナの大空間に大規模な吊足場が広がった。主に天井に配管設備を敷設するためのもので,規模は延べ3,400m2にわたる。沖縄県内の建築工事で吊足場が使用されたのはこの現場が初めてだという。材料は全て本州から調達する必要もあり,下から組み上げる通常の足場と比べてコストはかかったが,それ以上の成果があった。1つは,組立てにかかる労務を削減できたこと。さらに,足場設置後も床が自由に使えるため,クレーンを最大2台用いた作業も可能となり,工期短縮にもつながった。
天井には空調設備用のメインダクトが12本,吹出し口が192個敷設された。亜熱帯地域の沖縄では,1万人規模の人的負荷や演出機構などの発熱負荷に対応するため,空調設備の規模・能力は大きくなる。また,吊り下げる大型映像装置は500インチの大型フルハイビジョンで,演出に合わせて移動する。この現場では,建築と設備の連携が建物の品質に直結するのだ。
「吊足場もですが,全体的に設備の要望に沿った施工計画を立ててもらっています」。そう話したのは,入社8年目の中野太郎設備係。設備全般の施工計画・管理から発注者との物決めまでを幅広く担当する。スポーツ施設を施工したのは今回が初めてで,まずは発注者の要望を理解するところからはじまった。「日本であまり扱われていない仕様の要望もあり,苦労はしましたが,最適解を見つけられたと思っています」。
膨らむ期待
アリーナで躍動する選手を,国際バスケットボール連盟の基準を満たした暖色系光源の照明が明るく照らす。最新鋭のソフトを採り入れた映像装置と95dBの大音響。光と音の演出が会場を盛り立てる。この沖縄アリーナには,臨場感のある劇的空間を実現する機器や仕掛けが随所に組み込まれた。
現場を率いる百田所長自身も竣工を心待ちにしている。「着任してすぐ,キングスさんの試合を観戦しました。収容人数3,000人ほどの体育館でしたが,会場全体が一体となっており,すごい迫力でした。それが今度は1万人。どんなものになるのかと,とてもわくわくしています」。
2023年,沖縄アリーナでのバスケットボールワールドカップの予選ラウンド開催が決まった。「世界に誇れるアリーナをつくる。そういう想いで日々取り組んでいます」(百田所長)。竣工まで残り3ヵ月。1万人の熱狂が轟く瞬間が近づいている。