経済発展が著しい台湾。
市街地には超高層ビルが林立し,アジア屈指の経済圏を築いている。
各地で積極的な建設投資が続くなか,
当社は台北市を中心に高級マンションなどの建築業務を展開している。
そこには,現地で確立した“中鹿ブランド”があった。
超高級マンション
台湾は,親日的だといわれている。実際に“日本品質”は市民から絶大な信頼を得ており,日系企業に対する期待も大きい。そうしたなか,中鹿営造(中鹿)は工場やオフィスビル,商業施設,マンションなどその時勢に合わせて台湾全土で建築工事を担当してきた。現在,その中鹿が主に携わっているのが,台北市内のマンション工事である。
台北市は,面積約270km2で人口が約270万人。人口密度は1km2あたり1万人近くに及ぶ世界有数の過密都市である。当然,住宅事情は厳しい。高級住宅といっても戸建てはほとんどなく,マンションが主流になっている。こうした超高級マンションには坪単価が1,000万円を数えるものも多く,物件価格が10億円に上るものも珍しくない。
元利建設企業※が計画し,中鹿JVが施工を進めている「元利建國南路集合住宅新築工事」もそのひとつだ。35階建て,高さ143mの計画で,完成すればマンションとしては台北市内でもっとも高いマンションのひとつとなる。外装設計にリチャード・ロジャースを迎え,外装は亜鉛・チタン合金仕上げ。1フロア2住戸を基本に,1フロア1住戸,2フロア1住戸のメゾネットタイプのプランも備える。専有面積が100坪近くになる住戸プランも用意された高級マンションである。
現場を取り仕切る中野裕二所長は「こうしたマンションでは,すべてにおいて最高品質が要求されます。著名な設計者の招聘と最高級の外装仕上げ,制震構造の採用と高セキュリティ機能は当然です。加えて,日系ゼネコンが施工に参画することもひとつのステータスになる」と話す。“日系ゼネコン施工”が大きなブランドになっているのだ。「だからコスト・プラス・フィーという契約が成立するのです」。
※台湾では「建設」といえばデベロッパーを指す。日本でいう“施工会社”は「営造」と呼ばれる
元利建國南路集合住宅新築工事の外観完成予想パース
中野裕二所長
外観デザインの詳細パース
内装デザインの完成予想パース
コスト・プラス・フィーという契約形態
現在,中鹿が担当しているマンション工事の多くが,コスト・プラス・フィー契約を締結している。この契約は日本国内で行われている一般的な工事が,予め定めた金額で工事の完成を約束する請負契約であるのに対して,実際にかかった工事費に加えて合意した比率(額)で施工者の利益相当分(フィー)を支払うものである。
請負契約では施工者が資機材や専門工事を発注し,その額によって施工者の損益が変動する。一方,コスト・プラス・フィーでは発注業務を施主が行うため,施工者にコストリスクが発生しない。「施主が発注業務をスムーズにこなす必要があり,安く発注できる自信がなくては成立しない仕組み。この契約形態は台湾ならでは」と中野所長。台湾の大手デベロッパーはグループ内にゼネコンを持ち中鹿とJVで施工にあたることから,コスト・プラス・フィー契約となる。この工事ではJVを組んでいる五益営造が元利グループの一員で,発注業務は五益営造が行っている。施工者は推薦業者を何社か紹介し,それも踏まえて施主が業者を決めていく。施工者が負うのは工程と品質,安全のリスク。工程を見据えながら施主に迅速で優良な業者を選定してもらうよう交渉していく必要がある。
遠藤明裕副所長は,「どんな契約にもいい部分と悪い部分がある」としながら,施主とエンドユーザーの満足度が高くなる部分で評価できるという。「金額がオープンですから施主が納得したうえで予算を管理できる。いいものをつくるために施主が設計を変更しながら,いいものをつくり込んでいくためには適していると思います」。
遠藤明裕副所長
日系企業への信頼と鹿島ブランド
台湾は人材の流動性が高く,プロジェクトベースで人員が変動することも珍しいことではない。デベロッパーからすれば,技術支援と品質管理,工程管理で日系ゼネコンに期待する部分は当然大きい。遠藤副所長はいう。「中鹿では,コンクリートの配合を確認して一般的に出回っているものから日本品質に近いものに変えています。鉄骨の溶接しかり,あまり目につかないところでも,品質向上を図っているのです」。中鹿は現場に要求する品質レベルが高い。中鹿本社が行う定期的な品質チェックも効果的で,地場ゼネコンのなかにはその仕組みを参考にして取り入れている会社も多いという。
中野所長が優位性として掲げるのが,仮設計画と図面の品質だ。「中鹿の施工図の精度は抜群に高い。図面の精度が高いことで品質が担保されます。ただもっとも重要なことは,いいものをつくりながら施主と信頼関係を築いていくこと。その考え方はどこであっても変わらないと思っています」。
現在のブランドは,これまでに築いてきた信頼関係があってこそ。中鹿は,日系企業に期待される役割を果たしながら,昨年創立30周年を迎えた。
中鹿創立30周年を迎えて
現地法人として中鹿営造が創立されたのは,1983年。従来,台湾では国際競争プロジェクトなどの特殊な案件を除き,外国業者が建設工事の施工に参画することができなかった。一般工事の施工には営造業ライセンス取得の必要があり,当社は当時盛んになってきた日系企業の建設投資に対応するとともに,台湾との縁をより永続的にするために中鹿を設立したのである。
中鹿は日系企業の工場建設を手始めに徐々に力を蓄え,現地資本のホテルやオフィスビル,商業施設など様々な建造物の施工を手がけてきた。西華飯店や新竹国賓飯店などの一流ホテル,宏盛帝寶マンション,台湾大手企業の本社ビルなど台湾を代表する建築物も少なくない。
もちろん創立から30年が経った現在でも工場建設には積極的に取り組み,最近ではヤクルト(養樂多)とファミリーマート(全家)の新工場が竣工を迎えた。
創業当時から中鹿を支えてきた社員は歴史そのものといっても過言ではない。
2人のベテラン社員からコメントが届いた。
本社・協理
何 正旺 さん
1984年,中鹿第一号工事である日本航空電子台中工場のエンジニアとして入社。中鹿とともに入社から30周年を迎えた。
四半世紀以上中鹿と歩みを共にし,変遷を重ねながら会社も自分も成長してきました。様々なことを経て,会社も現在の規模になりましたが,過去を振り返って楽しかったこと,悲しかったことを追想すると感慨無量です。当時,労働人口がピークを迎えていましたが,現在は人手不足。技術系管理職の人材も集まらない時代になりつつあり,現在の規模を保つためには組織が少し覚束ないと感じています。会社が持続的に成長するためには,新技術・工法開発に突き進みながら広く人材を求め,迅速に育成していくことが肝要です。確かな品質を追求し,より高い付加価値を創造してお客様に提供していく。私も可能な限り力を発揮して,若手社員に自分の持つ知恵を継承していきたいと考えています。そうしていくことで,さらに30年先に中鹿営造がより栄えているものと確信しています。
高雄シートパイル事業所・経理
杜 秀玲 さん
1974年,中国造船高雄ドック工事の会計係として入社。その後,同工事の残余シートパイルの賃貸事業を開始するにあたり,1984年,中鹿に移籍。同事業に30年間携わっている。
中鹿設立30周年を迎えることができ,本当に嬉しく思います。若い頃から台湾鹿島チームに加わり,中鹿に移籍してからは,シートパイル賃貸という新たな業務にあたって関連知識と管理方法を学んできました。その過程で仕事だけではなく様々な方面で自信を身に着けた「現在の私」。この経験こそが成長するための大事なエネルギーなのだと感じています。当時,台湾では外国営造が開放されておらず,「中鹿営造」が設立されましたが,この規模に発展するとは誰しもが思っていなかったのでは。年間売上高が約NT$600~700万だったシートパイル賃貸事業も中鹿の発展とともに,約NT$7,800万(約2.7億円)と10倍以上の規模に拡張しました。これからもたくさんの社員が中鹿を支えていくことと思いますが,私も中鹿チームのリーダーを深く信じ,中鹿発展の証人として歩んでいきたいと思っています。
工事の現況写真。完成すれば台北で最も高いマンションのひとつとなる予定
【工事概要】
元利 建國南路集合住宅新築工事
- 発注者:
- 元利建設企業
- 基本設計:
- Rogers Stirk Harbour+Partners
- 実施設計:
- 陳傳宗建築師事務所
- 用途:
- 集合住宅
- 規模:
- 北棟—S造一部RC造 B4,31F,PH3F 39戸
南棟—S造一部RC造 B4,35F,PH3F 41戸
総延べ64,139m2 - 工期:
- 2012年12月~2015年12月
(中鹿営造・五益(元利ゼネコン)JV施工)
山縣一夫所長
濵野伸洋計画課長
【工事概要】
冠德 興雅案集合住宅新築工事
- 発注者:
- 冠德建設
- 外観設計:
- DBI Design Pty
- 設計:
- 周,簡,柯聯合建築師事務所
- 用途:
- 集合住宅
- 規模:
- B棟—SC造一部RC造 B3,16F,PH3F
15戸 延べ9,761m2/C棟—SC造一部RC造 B3,16F,PH3F,15戸 延べ11,961m2/F棟—SC造一部RC造 B3,12F,PH3F 11戸 延べ6,509m2 - 工期:
- 2013年4月~2016年1月(B・C棟)
2013年7月~2016年1月(F棟)
(中鹿営造・根基(冠德ゼネコン)JV施工)
平井康所長
今村一人計画課長
【工事概要】
忠泰長虹 明日博新築工事
- 発注者:
- 忠泰建設,長虹建設
- 外観設計:
- DBI Design Pty
- 設計:
- 大衡聯合王克誠建築師事務所
- 用途:
- 集合住宅,事務所
- 規模:
- A棟—S造一部RC造 B4,11F,PH2F 53戸
B棟—S造一部RC造 B4,23F,PH1F 82戸
C棟—S造一部RC造 B4,23F,PH1F 83戸
総延べ65,714m2 - 工期:
- 2012年6月~2015年8月
(中鹿営造・大億(忠泰ゼネコン)・宏林(長虹ゼネコン)JV施工)
小倉匡浩所長
蔡文忠工事長
【工事概要】
國聚德杰 敦南案新築工事
- 発注者:
- 國聚開發,德杰建設
- 設計:
- 呂建勳建築師事務所
- 用途:
- 集合住宅
- 規模:
- SC造一部RC造 B6,22F,PH2F 21戸
延べ14,655m2 - 工期:
- 2012年2月~2014年9月
(中鹿営造・金弘承(國聚ゼネコン)JV施工)
小西正人所長
田中誠工務長
【工事概要】
文心 信義住宅大楼案新築工事
- 発注者:
- 文心建設
- 基本設計:
- Robert A.M. Stern Architects
- 実施設計:
- 元宏聯合建築師事務所
- 用途:
- 集合住宅
- 規模:
- SRC造一部RC造 B3,22F,PH3F 34戸
延べ17,735m2 - 工期:
- 2012年6月~2015年8月
(中鹿営造・亞記(文心ゼネコン)JV施工)
原弘昌所長
藤木憲治計画課長
【工事概要】
統創 龍騰企業大樓新築工事
- 発注者:
- 統創建設開發
- 設計:
- 李天鐸建築師事務所
- 用途:
- 事務所,住宅
- 規模:
- S造一部RC造 B5,15F,PH3F
延べ12,308m2 - 工期:
- 2013年3月~2015年7月
(中鹿営造施工)
【工事概要】
台湾養樂多(ヤクルト)新工場建設工事
- 発注者:
- 養樂多
- 設計:
- 当社建築設計本部(基本+実施設計),大矩聯合建築師事務所(申請)
- 規模:
- 工場棟—RC造 2F/エネルギー棟—RC造 3F 総延べ12,468m2
- 工期:
- 2013年1月~2014年6月
(中鹿営造施工)
谷口勝彦所長
江崎顕二郎工事長
舟久保茂設備長
曾詠程所長
【工事概要】
全家(ファミリーマート)新豐 鮮食工場
- 発注者:
- 全家便利商店
- 設計:
- 大矩聯合建築師事務所
- 規模:
- 工場棟—S造 2F/宿舍棟—RC造 4F/
警衛棟—RC造 1F/汚水処理棟—RC造 2F/
消防ポンプ室—RC造 1F 総延べ11,451m2 - 工期:
- 2013年6月~2014年8月
(中鹿営造・大億(忠泰ゼネコン)・宏林(長虹ゼネコン)JV施工)