ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2014:特集「台湾 鹿島の伝統とブランドが息づく地」 > 伝統を継いで

KAJIMAダイジェスト

伝統を継いで

台湾統括営業所は,1899年より先人が築いてきた
伝統を受け継ぎ,台湾発展の一助を果たしてきた。
近年でも,土木工事を通じて
台湾社会資本整備の電力土木や地下鉄関連で力を発揮。
鹿島の名を高めている。

高難度の電力シールド工事

台湾全土の土木工事は台湾統括営業所が担当している。営業所管下で現在,行われているのが電力シールド工事。台湾電力が行うこの事業は,各地の電力需要増加に伴って進められている。高圧ケーブルを格納するシールドトンネルが変電所と変電所を結ぶことで安定した電力供給が可能になる。当社が現在携わるのは,9月に竣工を迎えた新竹電力シールド工事と大安電力シールド工事,大林高港電力シールド工事である。

台北市内で工事が進む大安工事は,地下鉄・台湾新幹線を避けるように,地中20~50mの深さに総延長6,000m近いシールドトンネルを構築する。狭隘な場所でも施工できる圧入ケーソンで3ヵ所,地中連続壁で1ヵ所,合計4ヵ所の立坑を構築し,2つの立坑からは外径5.25mのシールドマシンを発進させ,それぞれ2,675mと1,959m掘進して最後は地中接合する。さらに同じ立坑から外径6.15mのマシンが966mを掘進し,外径2.92mのマシンは一度構築したトンネルに横穴を掘るように279mの分岐トンネルをつくる。土被り50mの大深度施工と地中接合,分岐シールドは,計画時点でいずれも台湾初となる技術だ。

この難工事を指揮しているのが石丸裕所長である。機電のプロフェッショナルでシールド工事に長く携わってきた。「もっとも用心しなくてはならないのが大深度の施工。地中深くは水圧が高く,ちょっとしたことで大事故につながる可能性がある」と石丸所長。いかに水圧対策して精度よく進めていくかが鍵だと話す。「もちろん,やさしく掘っていくことも重要。マシンに無理をさせずに70%くらいの力で掘っていくことでトラブルも抑えることが可能になる」。

この工事で見られる「景美層」といわれる玉石砂礫層での施工も台湾ではあまり例がない。掘進と排出をうまくバランスさせるためにシールドマシンの機構を工夫した上に,2段式のスクリューや高水圧対策として特殊な加泥材を採用した。「単純化したいが,施工環境が単純化を許さない。様々な技術を取り入れざるをえなかった」。現在行われている大林高港電力シールド工事も同様の難しい工事となっている。

図版:石丸裕所長

石丸裕所長

改ページ

言葉の壁と住みよい環境

大安の工事でシールドマシン全般を担当するのが神田(こうだ)憲二機電課長。6月に着任して台湾の生活は2ヵ月が経ったばかり。目下の問題は言葉だ。「周囲の話をまだあまり理解できていないのが実情です。もうすぐシールドマシンが発進しますから,忙しくなる心積もりはできていますが,そのなかで言葉もしっかり覚えていきます」。台湾では北京語が中心で一部台湾語のやり取りも見られるが,英語はあまり使用されない。工事全般を取り仕切る大隈充浩次長は,台湾で2本のシールド工事を仕上げ,7年を過ごしてきた。大隈次長も言葉の壁は大きいと話す。「日常に支障をきたすことはなくなりましたが,交渉などで微妙なニュアンスを表現できないことはあります。もどかしさを感じますね」。大切な打合せでは通訳を介することもあるが,できるだけ自分の言葉で伝えることを心がけているという。立坑を担当する巴紀行次長は,台湾で通算6年半,エジプトで2年半の海外経験がある。アレキサンドリアの製鉄所とスエズ運河橋に関わった。「台湾は日本と協力業者のシステムが似通っていて仕事がやりやすい。治安もよく,コンビニがあちこちにあって生活も不便がない。日本以上に,台湾が肌に合うという人もいるかもしれません」。

機電設備の最終確認も終えて竣工を迎えた新竹電力シールド工事。台湾が誇るIT企業が集う新竹科学園区の変電所から2方向に延びる総延長3,138mのシールドトンネルを構築した。片桐冬樹所長はアメリカとエジプト,ドバイ,台湾に赴任経験をもつ。「仕事が大変なのはどこへ行っても同じ。海外という道を自分で選んだわけですから毎日が充実しています。台湾は距離だけでなく人々の考え方が日本に近い。若い人がはじめて海外に挑戦するにはうってつけの環境ではないでしょうか」。

図版:大安電力シールドの現場に搬入されたシールドマシン

大安電力シールドの現場に搬入されたシールドマシン

図版:片桐冬樹所長

片桐冬樹所長

大安電力シールド工事

【工事概要】

大安電力シールド工事

発注者:
台湾電力
規模:
シールド工法
施工延長=4,639m 仕上り内径4.6m 
施工延長=279m(分岐シールド) 仕上り内径2.4m 
施工延長=966m 立坑4ヵ所 仕上り内径5.5m
工期:
2012年10月~2018年12月

(鹿島・大陸工程JV施工)

図版:シールドマシン搬入作業の様子

シールドマシン搬入作業の様子

改ページ

図版:大安電力シールドのメンバー。左から大隈充浩次長,巴紀行次長,神田憲二機電課長

大安電力シールドのメンバー。左から大隈充浩次長,巴紀行次長,神田憲二機電課長

図版:大安電力シールド工事の所員

大安電力シールド工事の所員

新竹電力シールド工事

図版:完成したシールドトンネル

完成したシールドトンネル

図版:新竹電力シールド工事の所員

新竹電力シールド工事の所員

【工事概要】

新竹電力シールド工事

発注者:
台湾電力
規模:
シールド工法
施工延長=1,522m 仕上り内径6.0m/施工延長=812m 仕上り内径4.6m 
施工延長=804m 仕上り内径4.6m/立坑6ヵ所 連絡通路1ヵ所
推進管仕上り内径2.4m 施工延長=47m/立坑2ヵ所 機電設備工事一式
工期:
2009年7月~2014年11月

(鹿島・中鹿JV施工)

改ページ

台湾インフラ整備に貢献

台湾の南部に位置する高雄市内で行われているのが大林高港電力シールド工事。大安と同様に地中接合や複雑な線形を描く急曲線施工などの高度な技術が求められることに加え,総延長約7kmを2016年9月までに完工する必要がある。高雄の大林火力発電所は現在供給態勢の整備を実施中で2016年9月の供給を目指しているためだ。この実現には,台湾過去最速となる平均月進500mの高速施工が求められる。門型クレーンや高機能の残土処理設備を設置したほか,セグメントの継手にはワンタッチジョイントを採用。日本のメーカー監修の下,日本から持ち込むのではなく台湾で製作することにした。セグメントは通常6分割のものを5等分割にすることで施工速度を稼ぐ。

現場を統括する三井隆所長はいう。「簡単な工事ではないが十分に準備は重ねてある。これまでに成し遂げられてきた工事を振り返っても難工事ばかりだった」。三井所長はこれまで地下鉄工事に携わり,台北地下鉄の「蘆州線CL700B工区」を所長として完成に導いた実績がある。地下鉄工事は,シールドトンネルだけでなく地下駅舎や操車場など様々な構造物とまみえる必要がある。加えて,リーマンショックなどで資材などが暴騰した。様々な危機を乗り越えて無事2010年に開通を迎えた。「地下鉄と電力土木を通じて,当社が台湾のインフラ整備に寄与してきたという自負はある。これからも積極的に関わっていきたい」。

技術者たちが,伝統を絶やさぬよう継いでいく。

図版:三井隆所長

三井隆所長

図版:2010年に完成した台北市地下鉄蘆洲線CL700B工区。このほかにも当社は4つの地下鉄工事を手がけた

2010年に完成した台北市地下鉄蘆洲線CL700B工区。このほかにも当社は4つの地下鉄工事を手がけた

図版:高雄地下鉄CR4(2007年竣工)

高雄地下鉄CR4(2007年竣工)

図版:新荘線570C工区新荘線・蘆州線分岐立坑(2011年竣工)

新荘線570C工区新荘線・蘆州線分岐立坑(2011年竣工)

改ページ

大林高港電力シールド工事

【工事概要】

大林高港電力シールド工事

発注者:
台湾電力
規模:
シールド工法
施工延長=1,934m 仕上り内径5.7m 
施工延長=2,030m 仕上り内径5.7m 
施工延長=3,022m 仕上り内径5.7m 
立坑2ヵ所 人員出入口立坑2ヵ所
冷却室建築工事 機電設備工事一式
工期:
2013年6月~2016年9月

(鹿島施工)

図版:発進前のシールドマシン

発進前のシールドマシン

Column:大林高港電力シールド工事の社員たち

難工事にチームワークよく立ち向かう社員たち。工事にかける意気込みを聞いた。

仲英明工事課長
台湾で施工管理に務めて13年。2つの地下鉄工事と新竹電力シールドに携わり,この現場に着任しました。現在は台北に家族を置いて仕事に励んでいます。この工事はカーブが多いなかで高速施工が要求されます。技術的にかなり難しく,当初,曲率半径R=30mの急曲線形をみて痺れました。これはなかなか面白そうな工事だぞと。若手も集まってきていて,貴重な経験のできる現場になると思っています。やはりポイントは工期でこれから365日24時間の施工体制に入っていきます。気を引き締めて掘進に臨みます。

坂根英之機電課長
地中接合と特殊な機構のシールドマシン。はじめての技術が詰め込まれた現場でやりがいはあります。国内外どの現場でも仕事をすることに変わりはありませんから,常に新しい場所で,新しいことに挑戦していきたいと思っています。社内で海外土木工事に対する見方が厳しさを増すなか,この現場が今後の海外土木工事の命運を握っているといっても過言ではありません。単純にこなせばいい工事ではないと所員一同感じています。全力を尽くしていきたいと思います。

松浦勇気工事課長代理
計画・見積もりを担当して乗り込みました。もともと海外志望で台湾,マレーシア,ドバイと勤務してきましたが,この工事には家族帯同で臨んでおり,家族と共に海外生活するという形が実現してモチベーション高く業務に取り組んでいます。所長をはじめ,各分野のプロが集まって現場のムードはよく,現場も計画通り進んでいます。シールド工事は日本が得意な分野。だからこそ我々が技術的にも模範を示さなくてはなりません。先日,八田與一が活躍した烏山頭ダムをみてきました。台湾の市民に慕われる先人のように,謙虚な気持ちを持って工事に邁進していきます。

改ページ

奥山義英工事課長代理
1年ほどシールドや関連施設の詳細設計を担当してきました。今後,いよいよ3本のシールドが発進し,現場で現物を本格的につくる段階に入ります。シールド工事はエンジニアリング要素が非常に強い分野です。私は台湾での経験がまだ浅いですが,技術的な分野で引けをとるつもりはありません。台湾にこれまでなかったセグメントを製作するなど,現場はチャレンジを続けています。現場の最前線で,協力会社とともに社員一丸となって高品質な構造物をつくりあげたいと思っています。

佐藤航太郎工事係
7月に配属され,清掃・整理整頓業務を担当させてもらっています。もともと海外勤務志望で,学生時代にはパラオの研究をしていました。3年かけて延べ1ヵ月間ほど現地に赴き,鹿島が施工したパラオ友好橋もよく渡りました。友好橋が現地に貢献している様をみて鹿島を志望したのです。台湾では日台の技術者が協力して施工している姿に感じるところがあります。台湾の長い歴史のなか,鹿島の信頼関係がどうやって築かれたのか,現場の業務を通じて勉強していきたいと思っています。

左から坂根英之機電課長,松浦勇気工事課長代理,仲英明工事課長,奥山義英工事課長代理,佐藤航太郎工事係

左から坂根英之機電課長,松浦勇気工事課長代理,仲英明工事課長,奥山義英工事課長代理,佐藤航太郎工事係

改ページ

Column:日月潭の大観発電所80周年迎える

観光地としても有名な日月潭(にちげつたん)は台湾最大の湖。この地で進められた「日月潭水力発電所計画」は台湾インフラの歴史を語るうえで欠かせない一大事業である。海抜1,300mの峠を越えた原生林に囲まれた秘境地帯にダムをつくり,台湾一長い河川「濁水渓」の水を日月潭に導いて,水社と頭社の2つのダムにより日月潭の水位を20m上げ,有効落差329mの発電を行う最大出力10万kWの東洋一の大発電所計画だった。7工区のうち鹿島は最大最難の第1工区(武界ダム,取水路,放水路)と第3工区(導水路トンネル2,600m)を担当した。過酷な環境を乗り越えながら延べ30万人が従事して工事は3ヵ月工期を短縮し,完成を迎えた。

7月29日,日月潭の大観発電所(当時:日月潭第一発電所)完成から80周年を迎えて記念式典が行われた。当社からは田代副社長が式典に出席。田代副社長が中村社長からの祝辞を台湾電力の黄重球董事長に手渡すと,黄董事長は「計画を完成に導いた立役者」と鹿島を紹介し,会場からは万雷の拍手が起こった。

日月潭で最初につくられた武界ダム完成当時の写真。完成から80周年を迎えた

日月潭で最初につくられた武界ダム完成当時の写真。完成から80周年を迎えた

最前列左から9人目が呉敦義台湾副総統,同8人目に台湾電力黄重球董事長,黄董事長左斜後方に田代副社長,その左に出浦所長

最前列左から9人目が呉敦義台湾副総統,同8人目に台湾電力黄重球董事長,
黄董事長左斜後方に田代副社長,その左に出浦所長

ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2014:特集「台湾 鹿島の伝統とブランドが息づく地」 > 伝統を継いで

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ