<実践編>ひとの感覚にうったえる空間デザイン
多くの人が訪れる建築空間では「ひとの感覚にうったえる空間デザイン」が有効です。障がいのある方に空間認識の手掛かりを提供するだけではなく、より多くの人にとって自然と親しみを感じられるものとなります。鹿島のユニバーサルデザインは、「ひとの感覚にうったえる空間デザイン」の理論や計画論にとどまらず、お客様との対話しニーズを丁寧に聞き取りながら、科学的エビデンスに基づき、だれにとっても心地よい空間をデザインすることに重きをおいています。
足裏感覚でわかる空間デザイン
神奈川工科大学 情報学部棟・KAIT TOWN
情報学部棟
情報学部棟を設計していた当時、神奈川工科大学に全盲の学生が在籍していたことから、大学より「誘導ブロック以外の方法で、全盲の学生の誘導支援ができないか?」という依頼がありました。そこで鹿島は、床材の貼り分けをルール化し、「安心して歩行できるエリア」「注意が必要なエリア」がわかるデザインを提案しました。注意喚起だけではなく、異なる床材の境目を頼りに、スムーズな歩行が可能です。
また、教室等の出入口の脇には、足元に警告ブロック(点鋲)、壁面に浮き出し文字*、点字のサインを設置しました。警告ブロックを頼りに立ち止まり、サインに触れることで教室番号がわかるという仕組みです。
この他、エレベーターホールに向かいあったエレベーターは、かご内の音声案内を男女別としています。どちらのエレベーターに乗っているのかがわかるようになり、到着階で自分の行く方向を正しく判断することが可能です。
*この浮き出し文字は、神奈川工科大学名誉教授小川喜道先生が中心となったフォアフィンガー研究会で考案された文字を採用しています。
情報学部棟:エントランスホール
壁際の床は磨き仕上、歩行エリアはバーナー仕上としている
情報学部棟:廊下・教室出入口
警告ブロックと浮き出し文字サインで部屋がわかる
KAIT TOWN
情報学部棟でのUDデザインルールは、その後に新築した校舎にも踏襲され、10年以上にわたってわかりやすく使いやすいキャンパスが整備されてきました。
2023年に竣工したKAIT TOWN は、eスポーツセンターおよび地域連携・貢献センターのための施設です。大学関係者だけではなく地域の子どもや高齢者も利用するため、空間のわかりやすさがより重要であるといえます。エントランスホールに入ると、正面は印象的な赤色の壁、床は黒のタイルで、そのほかの白い壁や白い天井とのコントラストがはっきりしており、空間がわかりやすくなっています。さらに床の壁際部分は白いタイル、壁と天井の境界には照明がめぐり、空間の輪郭が把握しやすくなっています。また、廊下の歩行エリアは黒いカーペット、壁際は白いビニル床シートとし、足裏感覚でわかる空間づくりがなされています。
これらのデザインのひと工夫により、見えにくい人だけではなく、視機能・認知機能に衰えのある高齢者にも、誰にとってもわかりやすく安心してすごせる空間が実現しています。
KAIT TOWN:エントランス
空間の輪郭がわかりやすいカラースキーム・照明計画
KAIT TOWN:2階廊下
足裏感覚で歩行エリアがわかる廊下
五感を刺激する“ウェルネス” アトリウム
イオンモール白山
北陸最大級の郊外型ショッピングモール「イオンモール白山」では、高さ25mの全天候型アトリウムが、1年を通じあらゆる人にとって魅力的なウェルネス空間となっています。豊かな緑と自然換気、最新のテクノロジーにより、光・風・緑・音・香りが五感にうったえ、五感を刺激します。
大きな開口部からは自然光がふんだんに入り、時間と光のうつろいを感じることができます。自然の光に人工光をハイブリッドし、省エネでありながら心地よい光環境となっています。夜間は色温度を落とした照明へと変化させ、サーカディアンリズムを整える健康的な空間となっています。また、アトリウム上部のハイサイドライトは開放でき、大吹抜を利用した重力換気で外に居るかのような心地よい風の流れが生まれます。
さらに、自然の感じられる光と風のもと、高木が連なる緑陰空間を実現しました。在来種約30 種以上の植栽で構成し、モール内の緑視率を高めるバイオフィリックデザインを試みています。外構の緑とも連続させ、様々な樹種で起伏に富んだ木陰としています。植栽帯に近づくと、鳥のさえずり・川のせせらぎ等の自然の音とともに、アロマの心地よい香りが感じられます。植栽帯内に立体音響スピーカー(OPSODIS) を設置し、植栽ゾーンにだけ環境音が聞こえる仕組みです。
自然と連動した心地よい光、風、緑、音、香りのもと、買い物の途中の休憩や、雨の日のリフレッシュにも、地域のだれもが思い思いに憩える空間を実現しています。
五感にうったえるウェルネスアトリウム
アトリウムの豊かな緑
ウェルネスアトリウム断面図
光・色・素材・音による五感へのはたらきかけ
千葉商科大学付属高等学校
「学校の顔」となる校舎の中心の吹抜け空間は、ひとの五感に着目した細やかな配慮がなされています。吹抜けにはメディアステージやギャラリーラウンジ、アートテラスといった多様な空間が開かれ、見る・見られるという視線が行き交い、生徒たちの元気な声が聞こえる、賑わいとコミュニケーションの空間となっています。さらに、床のカラースキーム、書架高さ、家具の種類等の工夫により、吹抜け側の共同作業ゾーンである「動」の空間から、窓際の集中カウンターの「静」の空間へと、ゆるやかに変化させています。生徒が自分の感覚に沿って、心地よい空間を選択できるようになっています。また、光環境をシミュレーションし、過度な直達光や眩しさを抑えつつ十分な明るさを確保した、北側ハイサイドライトからの採光を中心としています。より目に優しく快適で心地よい学習光環境を実現しました。
吹抜け空間まわりの様々な居場所
生徒たちが行きかい、視線・対話が交わされる吹抜け空間
ひとの感覚にうったえる空間デザイン インデックス
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