ユニバーサルデザイン

<理論編>ひとの感覚にうったえる空間デザイン

私たちは日ごろ視覚情報に頼りがちで、そのほかの感覚について意識することがあまりありません。しかし例えば混雑した駅で、階段の場所を本当に視覚だけで認識しているでしょうか?上り下りする足音やざわめきで、階段の存在に気付くことはないでしょうか?また、視覚情報を得ることが難しい人は、足音や車の音、飲食店からの匂い、路面の凹凸の足裏感覚など、視覚以外の感覚と情報を駆使して空間を認識しています。
視覚だけではなく、聴覚、触覚、嗅覚などを組み合わせて空間をデザインすることで、より多くの人が心地よく利用しやすい空間を実現できます。

鹿島KIビルにみる ひとの感覚にうったえる空間デザイン

鹿島 建築設計本部のオフィスであるKIビルは、旧ハートビル法が定められる前の1989年に竣工しました。いわゆるバリアフリーの概念が定着する前の設計ですが、竣工から40年近く経た今でも、いたるところに見られる「ひとの感覚にうったえる空間デザイン」により、多くの人にとって心地よくわかりやすい空間となっています。

図版:KIビルアトリウム

KIビルの中心をなすアトリウムは、トップライトからの自然光と緑が心地よい空間です。感覚にうったえる様々な仕掛けにより、打合せ、喫茶等、様々なアクティビティを快適に行うことができます。

視覚

図版:コントラストのある配色

<コントラストのある配色>
開放的な空間から脇に入った、落ち着いた来賓スペースの入口です。壁と床のコントラストをとり、空間の形状をわかりやすくしています。

図版:照明計画

<照明計画>
通路のエッジを際立たせる照明により、通路幅や方向性が明快です。また通路の奥を明るく照らすことで、ふいに現れる人の影が浮かび上がり衝突防止にもなります。

図版:オープンなつくりの階段

<オープンなつくりの階段>
オフィスの賑わいが感じられ、コミュニケーションが誘発されます。ろう者・難聴者にとっては衝突の危険性が低く、安心感がある階段です。

図版:鏡面仕上げのエレベーター扉

<鏡面仕上げのエレベーター扉>
扉への映り込みにより、背後の人の存在や動き、混み具合を視覚的に把握できます。奥に詰めて乗るなど、スムーズに行動しやすくなります。

図版:ガラスの扉

<ガラスの扉>
背後の様子が映り込むため、特に足音が聞こえないろう者・難聴者にとって、背後の人の存在に気づき、接触等の危険性を回避することにつながります。

図版:ガラスの間仕切り

<ガラスの間仕切り>
内外の様子が適度に感じられる打合せスペースとなっています。周囲の様子が見えることで、緊急時にはろう者・難聴者も避難しやすくなります。

聴覚

図版:反響音の違い

<反響音の違い>
アトリウム両脇の打合せスペースは、天井の高さが抑えられ、落ち着いた空間となっています。天高の違いによって異なる反響音が、空間認知の手掛かりとなります。

図版:アトリウムの噴水

<アトリウムの噴水>
サウンドマスキング(騒音制御のための喧騒感低減)効果があり、サウンドマーク(音のランドマーク)としても有効です。

触覚

図版:床素材・歩行感

<床素材・歩行感>
アトリウムの両脇の打合せスペースは、片方はカーペット敷、もう一方は石張りです。歩行感の違いが、エリアを認識する手掛かりとなっています。

嗅覚

図版:香りの演出

<香りの演出>
時間によって異なる香りが出るようになっています。朝、一日のやる気を出したり、昼休みにリフレッシュしたり、心理的・生理的な効果があります。

人の気配を感じる空間デザイン


ろう者の生活やコミュニケーションの特性を丁寧に読み解き、それらを空間デザインに生かそうとする考え方があります。このような考え方は「デフスペース・デザイン」や「デフフレンドリー・デザイン」と呼ばれることがあり、特に、人の存在や動きを把握しやすく、コミュニケーションがとりやすい空間づくりなどが重視されます。

近年、日本国内でもこのような視点への関心が高まりつつあります。また、ろう者や難聴者のために意図して計画された空間ではないものの、結果として彼らにとってコミュニケーションしやすく、利用しやすい環境となっている事例もあります。

こうしたデザインは、障がいのある人だけでなく、多様な人々にとって利用しやすい環境づくりにつながります。こうした考え方を空間デザインとして実践するうえでは、いくつかのポイントがあります。そのひとつが、視覚や気配をいかにうまくデザインするかという点です。これはろう者・難聴者が視覚から多くの情報を得ているためです。例えば階段の折り返し部分に、上がり降りする人が映り込むカーブミラーが付けられているのを見たことがあるかもしれません。足音が聞こえない人でも人の行き来を察知し、衝突を避けることができます。

一方、鹿島が設計した学校建築では、階段の壁に丸い穴をデザインしています。階段を行きかう元気な児童・生徒たちが、この穴を介して互いに気配を感じ、衝突を避けることができます。こうした工夫は、ろう者・難聴者にとっても有効です。カーブミラーのような設備を用いらずとも、感覚にうったえるデザインをすることで、障がいのある人にとっても誰にとっても空間認識がしやすくなります。

図版:行き来の気配が感じられる、階段壁のデザイン(西南小学校)

気配が感じられる階段壁のデザイン(某小学校)

図版:行き来の気配が感じられる、階段壁のデザイン(巣鴨中高)

階段壁にほどこした丸穴(巣鴨中学・高等学校)

図版:行き来の気配がわかる、蹴込のスリットやガラススクリーン(巣鴨中高)

行き来の気配がわかるガラススクリーンと蹴込のスリット(巣鴨中学・高等学校)

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