スマートデバイスは建設現場ではどう使われているのか。
積極的に活用している「コマツ小山グリーンタウン独身寮新築工事」の
現場を訪ねた。
コマツ小山グリーンタウン
独身寮新築工事【Ⅰ期】
- 場所:
- 栃木県小山市
- 発注者:
- 小松製作所
- 設計:
- 関東支店建築設計部
- 監理:
- 関東支店建築品質監理部
- 規模:
- RC造 地上5階 総延べ6,740m2 194室
- 工期:
- 2012年7月〜2013年4月(関東支店JV施工)
自由な操作性を教育ツールに活かす
栃木県南部に位置する小山市。東北新幹線停車駅でもあるJR小山駅から車で15分ほどいくと,当社JVが工事を進める「コマツ小山グリーンタウン独身寮新築工事」の現場が見えてくる。迎えてくれたのは,菊地章工事課長と輪違(わちがい)裕樹工事係。着工からの半年間,現場でスマートデバイスの導入に取り組んできた。
現場の朝は,8時の朝礼から始まる。ラジオ体操後に,その日の作業内容などが周知され,指差喚呼の声が周囲に響きわたって一日の作業が幕を開けるのだ。この後,会議室では新規入場時教育が開かれる。これは,初めて現場に入る作業員に現場の特徴やルールを知ってもらい,安全作業を進めるために行われる。この日は15名ほどの作業員が新規入場時教育を受けた。
ここでは,タブレット端末に入れたパワーポイントデータをプロジェクターに投影して教育を行う。「持ち運びができる端末でここまで性能が上がるとは数年前には考えられなかった」と新規入場時教育を行う菊地課長はいう。タブレット端末は自由な操作性が大きな特徴。指先で液晶をなぞれば簡単に画面の拡大・縮小ができるため,災害事例などを紹介する教育ツールやプレゼンテーションに有効だ。朝礼やパトロールの結果周知,定例会議などに利用することも可能だろう。
施工範囲が広い現場では,新規入場時教育を分散して行う場合も多い。スマートデバイスを活用すれば効果的な教育を実施することができる。
利用例−1 新規入場時教育
スマートデバイスは,操作性が高く拡大・縮小や画面の切替えなどが容易で見やすいため,プレゼンテーションに適する。新規入場時教育などで資料をプロジェクターに投影してもスムーズな説明が可能。工事現場が広く新規入場者を1ヵ所に集めることが難しい場合,教材などを映像化して作業場所の近くで分散して教育することもできる。
優れた携帯性
新規入場時教育が終わり,作業が始まると輪違工事係が現場を案内してくれた。輪違工事係は,立ち会いや検査で現場に張りつくため日中は事務所に戻れないことも多い。従来は厚い図面ファイルを現場に持ち込んでいたが,現在はタブレット端末を利用して設計図・施工図を確認し,現場の管理を行っている。「図面を持ち運ぶ必要もなくなり身動きが楽になりました。必要なデータはこのなかに保管していますから事務所に戻る必要もありません」。様々なデータを閲覧できるため現場で作業員から受けた急な問合せにも,その場で対応することができるという。優れた携帯性がスマートデバイスの最大の特徴だ。
スマートデバイス導入にあわせて現場では,資料や図面などを施主や設計事務所,協力会社などと共有できるクラウドサービスも導入した。当然,現場からスマートデバイスで閲覧することも可能。現在,サッシ取付けの協力会社と図面参照に活用しており,今後は活用の幅を広げていく予定だという。このほか,スマートデバイスを利用した写真への音声情報付加・動画撮影による安全指示やテレビ電話を使ったコミュニケーションツールとしての活用も検討中だ。
利用例−2 現場での図面・資料閲覧
従来,紙で持ち歩いていた図面・資料をスマートデバイスに保管し現場で閲覧できる。メモ書きや写真の関連付けを行うことも可能。
利用例−3 写真への音声情報付加,動画撮影による安全指示
現場で起きている状況を写真と音声で記録し,その場でファイルを作成。その電子情報を使って関係者へ改善指示を出すことが可能。台風などの自然災害の情報共有にも効果がある。
利用例−4 テレビ電話による作業指示
施工現場と工事事務所や支店間のテレビ電話で,現場の状況を映しながら事務所にいる上司や支店関係者などに相談することができる。
職長がスマートフォンで入力
現場では,11時30分から作業間連絡調整会議が行われた。各協力会社の職長が参加し,当日と翌日の作業人員や作業内容,クレーンの使用予定,資材搬入予定などを報告して作業を円滑に行うよう調整する会議である。以前は,ホワイトボードを使用して各職長が人員や作業内容を書き込み共有していたが,ここでは当社が開発したアプリケーションソフト「e-現場調整Pro」を使用している。このシステムは,パソコンやスマートデバイスなどのインターネット環境から作業予定などの入力ができ,この入力内容をプロジェクターに投影して会議が行われる。安全衛生日誌や作業人員集計,作業指示書など各種帳票が簡単に作成できるのも魅力のひとつだ。
「当初は不安もありましたが,スマートフォンを使い慣れている職長が多く,導入当初からまったく違和感なく入力できていました」と菊地課長。作業予定記入の待ち時間が解消されて効率よく会議を始められている。
利用例−5 作業間連絡調整会議に「e-現場調整Pro」を利用
作業間連絡調整会議システム「e-現場調整Pro」を使うことで,作業予定・実績や揚重・車両・機材・火気の使用予定などの調整確認と記録を効率的に行える。パソコンやスマートデバイスからインターネット経由でタイムリーに入力できる。
配筋検査
午後になって,配筋検査に立ち会わせてもらった。昨今,現場にとって大きな時間を割かなければいけないのが検査業務である。なかでも鉄筋は,コンクリート打設後には確認ができなくなるため,しっかりとした検査結果が要求される。配筋検査を専門に行う職員がいることも珍しくない。それだけ作業が煩雑なのだ。
通常,配筋検査は黒板に検査情報の記入と図面との整合性のチェック,写真撮影の3つのステップを踏む。これを必要箇所で行った後に事務所に戻り,写真整理や検査記録をまとめて書類を作成する。
ここでは,スマートデバイスを使い,市販の配筋検査システムを導入して検査が行われている。現場での手順はほぼ同じで,チェックの入力と写真撮影はスマートデバイスから行う。一通りの手順が終わると,自動的に検査記録と写真アルバムが作成されてその場で作業が完結する。検査結果をKSS(Kajima Smart Shelf)に格納すると,社内関係者に共有される。
検査業務を担当する輪違工事係は「写真整理や検査書類作成の手間が省けて,事務所での作業はほぼなくなりました」と話す。実作業時間は半分程度になったという。これまでにPDA(携帯情報端末)を用いて検査を行ってきた菊地課長も効果を強調する。「画面が見やすくて操作性もよい。取り扱いも難しくない。非常に大きな効果がありました。配筋検査のためだけにスマートデバイスを導入してもいいほど」。システムの導入で検査員1名相当の省力化になっている。
ますます広がりを見せそうなスマートデバイスの活用。ネットワークカメラを現場に設置して状況の確認などに役立てている例もある。「使えるものはなんでも使った方がよい。むしろ,使わなければ業務をこなせないという現場も多いのではないか」と話すのは現場を統括する松井友紀所長。少ない人数でどう現場を運営していくかが現場所長の大きな課題だという。「竣工して建物をお引渡しするだけでなく,検査書類など施工中のプロセスも我々にとっては商品の一部。現場を預かっている以上,中途半端な仕事はできません。本支店の支援を受けながら,様々なツールを活用していきたい」。今後の抱負を述べてくれた。
利用例−6 配筋検査
配筋検査ツールを用いて,スマートデバイスで検査記録・配筋写真を現地入力することで,自動的に配筋全数検査記録,配筋写真アルバム,指摘是正記録を作成。検査記録の作成などがフィールドで完結する。配筋のほかに,鉄骨や仕上げの検査アプリも提供されている。
システム画面イメージ
利用例−7 KSS
KSS(Kajima Smart Shelf)は,社内で規定された各種図面・書類を電子化して分類・整理・保存するためのデータフォルダ。現場では各自のPCで作成した書類を都度,統一したデータフォルダに保管することで現場業務の効率化を図る。社内サーバーを使用することで,関係者が随時確認可能になる。
利用例−8 現場設置カメラの確認
現場に設置したネットワークカメラの映像を,スマートデバイスを使っていつでもどこでも参照できる。