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有馬の地に誇れる建物を

エクシブ有馬離宮新築工事

豊臣秀吉も愛したと伝えられる日本三古湯の一つ,有馬温泉。
伝統ある街並みに最高級の会員制リゾートホテルが誕生しようとしている。
六甲山系に囲まれたロケーションはホテルの価値を高めると同時に,施工の難易度を高めた。
大胆な計画変更と繊細な施工。日々邁進する現場は,最盛期を迎えていた。

 

地図

工事概要

エクシブ有馬離宮新築工事

場所:
神戸市北区
発注者:
リゾートトラスト
設計・監理:
日建設計
規模:
RC造一部S造 B5,8F,PH2F 延べ43,758m2
工事数量:
基礎杭248本(場所打ちコンクリート杭)
掘削125,159m3/鉄筋9,618 t
型枠203,257m2/コンクリート48,825m3
鉄骨207 t
工期:
2007年11月〜2011年1月
(関西支店施工)
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写真:現場全景。2010年6月現在,躯体工事がほぼ完了

現場全景。2010年6月現在,躯体工事がほぼ完了

図:2008.02 開削・場内道路整備

2008.02 開削・場内道路整備

図:2008.09 掘削・山留め・構台設置

2008.09 掘削・山留め・構台設置

図:2008.11 杭打設・構台設置

2008.11 杭打設・構台設置

図:2009.03 構台設置完了・基礎工事

2009.03 構台設置完了・基礎工事

図:2009.06 構台盛替え・躯体工事開始

2009.06 構台盛替え・躯体工事開始

図:2010.06 躯体工事完了・構台解体

2010.06 躯体工事完了・構台解体

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ものづくりの主役

「足元よいか!」「安全帯よいか!」。各職の職長が次々と行う指差喚呼は朝礼の前に行われる。700人を超える作業員。雄叫びのような復唱の声が地下のコンクリートに反響する。

「声を出すことは大切な訓練」と現場を指揮する山本靖二次長。現場での安全確認に役立つことはもちろん,あいさつが活発になることで,職種間のコミュニケーションを活性化するのだという。

敷地高低差60m,18.5度の急傾斜地。工事用車両は温泉地内を通行できず,施工時間にも限りがある。山林を切り開くことから始まった工事は,施工条件に制約の多い難工事だった。しかし,引渡し後に事業者が地域に根ざして営業を続けていくためには,一切の施工によるトラブルは許されない。「われわれは事業者の代理人。背負っているのは鹿島の看板だけではないのです」。勝森宏昌所長は,安全かつ慎重に工事を進める必要性を説く。そのためには「職人さん一人ひとりが,もの造りの主役だという強い自覚を持つことが大切」という勝森所長。朝礼の熱気と発声は皆が高い意識を持っている証拠だと語る。自ら伝えようとしなければ伝わらない。そういって,毎朝の新規入場者教育を自ら行う。

写真:朝礼風景

朝礼風景

写真:勝森宏昌所長

勝森宏昌所長

写真:山本靖二次長

山本靖二次長

突きつけられた課題

計画当初から,工事のポイントの一つは土工事と基礎工事にあると見られていた。敷地全体の傾斜が厳しく,工事用車両の進入路が一ヵ所しかないためだ。しかも工程は12ヵ月しかない。

斜面での工事には,大規模な造成と仮設構台の設置は必須。掘削レベルに18mの高低差がある部分で上部と下部に工区をわけて工事を進める。計画では,造成の進捗を待ち,上部工区の掘削地盤レベルに合わせたフラットな構台を設置する予定だったが,二つの課題を突きつけられた。下部工区が難しいのだ。

一つは,作業エリアが狭く重機の動線が錯綜すること。安全上の問題と,作業間の工程調整の難航が予想された。

もう一つが重機の乗入れ範囲の狭さだ。乗入れができない部分は構台上からの作業か人力での作業となる。計画では杭総数248本の約半数にあたる箇所を,人力で掘り進める深礎工法で施工する予定だった。重機は不要だが,時間はかかる。杭径が最大3mと大きく,最深12mの人力掘削は工程を遅らせる可能性があった。

写真:深礎工法は土留めをしながらその中を人力で掘り進める工法

深礎工法は土留めをしながらその中を人力で掘り進める工法

写真:構台の計画が工程を左右する

構台の計画が工程を左右する

写真:当初計画/下部工区は構台上からの作業と人力作業

当初計画/下部工区は構台上からの作業と人力作業

写真:実施計画/スロープ構台により重機が施工地盤にアプローチ

実施計画/スロープ構台により重機が施工地盤にアプローチ

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パズルのような現場

そこで思い切った変更を行った。大きく施工範囲を囲むように,下部工区の掘削地盤レベルに合わせた勾配12度のスロープ構台を架けた。これにより,施工箇所に重機が直接アプローチできる。躯体工事で必要な構台は基礎の施工完了後に盛り替えることにした。深礎工法の施工を減らすのが最大の狙いだった。

作業エリアと重機の動線確保が可能となり,最大5セットの杭打機が乗り込んで現場を重機が覆った。残土の直接搬出ができるようになったこともあり,工事は一気に進捗した。基礎・躯体工事を担当する土江康嗣工事課長は言う。「重機の数が多くて現場はパズルのようだった」。

この結果,深礎工法による施工は計画から4割ほど減少。終わってみれば,1ヵ月前倒しで基礎工事までを完了した。「関西支店土木部,施工を担当したグループ会社のケミカルグラウトと協議して計画を変更したことが大きかった」と山本次長は,土木・建築の協力体制構築の重要性を語った。

写真:土江康嗣工事課長

土江康嗣工事課長

写真:重機が林立,パズル状態に

重機が林立,パズル状態に

泉源をまもる

有馬温泉は,国内のみならず近年では海外からも観光客が訪れる観光名所。その命ともいえるのが温泉の泉源だ。「有馬での工事だから,最も気を遣わなくてはいけない」と吉田英則事務課長。

有馬温泉泉源保護協議会によれば,温泉は山肌から地下深くに浸透した雨水が源になり,長い年月を経てつくられていくという。この工事でも泉源を枯渇させないよう,建物の周囲に砂利敷きの透水層をつくり,植栽計画も前倒しで施して雨水の地下への供給を促すなど万全を期した。また土工事時には敷地境界に3ヵ所の観測井を設置し,水質などを調査した。

杭工事は水質に影響が及ばない工法を選定しており,外壁のクリーニングも洗剤を使わず真水で行うなど工夫を凝らしている。

写真:吉田英則事務課長

吉田英則事務課長

写真:植栽計画は前倒しで行われた

植栽計画は前倒しで行われた

写真:外壁クリーニングは洗剤不使用

外壁クリーニングは洗剤不使用

夢をかたちに

高級リゾートブランドのエクシブだが,その中でも離宮シリーズはさらに上の最高級ブランド。内外装の仕様もハイグレードだ。外観のコンセプト「クラシック&スタイリッシュ」を外壁とパティオで表現した。内観には美しさと快適さを求める。細やかな施工力が問われるところだ。

高い要求品質は内外装だけではない。快適さと非日常的な雰囲気を大切にするからこそ,遮音性能にこだわる。

「音の感じ方は人それぞれ。実際に確認しなければわからない」という考えの下,確認検査は事業主立会いの体感試験により行われた。客室の床には一部フローリングが採用されたが,カーペットに比べ下階に音が響きやすい。施工に先立ち,技術研究所や建築管理本部の協力で,様々な遮音効果を施したフローリングで試験が行われた。

試行錯誤を繰り返しながら,仕上げ工事が進んでいく。せわしない毎日だが,菅野智義工事係は言う。「夢をかたちにする仕事だと改めて実感します。今から完成が楽しみ」。

工事はこれから佳境に差し掛かる。2011年1月,竣工の予定である。

写真:客室やレストラン,スパなど各施設をつなぐ六角形のパティオ

客室やレストラン,スパなど各施設をつなぐ六角形のパティオ

写真:ゴルフボールなどを落下させ,下階への反響を確認

ゴルフボールなどを落下させ,下階への反響を確認

写真:完成予想パース

完成予想パース

写真:客室内装のモックアップ

客室内装のモックアップ

写真:現場の皆さんの集合写真

現場の皆さんの集合写真

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Column 「一番の現場」

職長会の浅野健三会長は,職長会も各職長が高い意識をもって運営にあたっているという。

50名余りの職長を安全推進・環境・美化・広報と一声掛け・指差喚呼・現地KYの7つの班にわけ,組織立てて運営を行う。各班持回りで毎日パトロールを行い,所員・近隣住民も交えた親子現場見学会なども企画した。交流は作業間の調整を手伝い,士気の高さが安全を生む。

「当現場の推進力は職長会」と山本次長が言えば,浅野会長は「鹿島と職長会がお互い提案できる環境が整っている」。信頼しあう良好な関係が現場運営を円滑に進めていく。現場の皆が誇りを持って働いているという浅野会長の言葉が印象的だ。

「全国に現場は数多くあれど,ここが一番の現場」。

現場に関わる人が同じベクトルを向き,もの造りに励んでいる。

写真:職職長会のメンバー。「優秀な人材が揃った」と勝森所長

職長会のメンバー。「優秀な人材が揃った」と勝森所長

写真:職長会の浅野会長

職長会の浅野会長

発掘!旬の社員
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