(上の断面図をクリックすると拡大表示されます。)
「線路改良区間」は既存の引込み線を改良して使用する。
「高架橋新設部」にあたる神田駅周辺では新線のための土地が確保できないため,新幹線の軌道上を通すこととなった。
架設現場となる「重層部」まで,東京駅の「南部ヤード部」から新幹線の軌道内を通って大型の機械や資材が運ばれる
工事概要:
東北縦貫線(南部)鉄骨架設他工事,PC・鋼桁架設他工事
- 場所:
- 東京都千代田区丸の内,中央区日本橋〜千代田区神田須田町
- 発注者:
- 東日本旅客鉄道
- 規模:
- 施工延長—東京方アプローチ部高架橋350m,新幹線重層部高架橋600m
- 工期:
- 2008年3月〜2013年7月
(東京土木支店施工)
神田駅周辺では東北新幹線の高架橋を重層化して新線を通す。
その足元には京浜東北線,山手線,中央線などの在来線が隣接する
首都圏の“首根っこ”
JR東北縦貫線の工事区間は,上野駅と東京駅間の3.8km。高架橋を新設する区間と,既存の線路を改良する区間に大別される。
高架橋の新設は神田駅周辺の1.3km。その中ほどの600mが新幹線の高架橋の上に新線の高架橋を重ねて新設する「重層部」だ。既存線路との高低差を解消するため,両端は「アプローチ部」とよばれるスロープ状の高架橋でつなげる。ほかに大型の機械や資材の待機場所として,東京駅の南側に「南部ヤード部」を設けた。
当社が工事を担当するのは「重層部」,東京駅側の「東京方アプローチ部」,そして「南部ヤード部」。難易度の高い区間の多くを受け持つこととなり,全社を挙げてのバックアップ体制で臨んでいる。
「鉄道の品質は何よりも安全輸送,安心輸送。鉄骨やコンクリートを正確に仕上げることだけではない。列車の運行を妨げるようなことは絶対にあってはならない」と支援部隊を率いる土木管理本部の浦田直明鉄道グループ長は気を引き締める。「ここは首都圏の鉄道網の“首根っこ”といえる最大の要所。東北新幹線をはじめ,5本の新幹線が通っていますから,何かあったらその影響は計り知れません」。
建設中の橋脚と東北新幹線の高架橋。新幹線の橋脚には各所に“継ぎ目”が設けられている
毎晩が総力戦
重層部にあたる神田駅周辺は,6本の在来線が密接し,建物も密集する地域である。工事のための余地はほとんどなく,新幹線の狭い軌道内に大型の機械を入れての作業となる。
「新幹線軌道上での工事は類例がなく,ボルトひとつの置忘れも許されない」。当社工事事務所の永田敏秋所長は作業の特殊性を語る。
主な作業は新幹線や隣接する在来線の終電後に限られ,線路の閉鎖や安全確認作業を差し引くと,実質3時間程度しかない。時間も空間も限られた厳しい条件のもと,工事は進められる。
「ここでのひと晩の作業は大規模な線路の切換工事に匹敵します」と現場の所員は口をそろえる。細心の注意と全精力を傾けなければならない総力戦の作業が,毎晩のように繰り返されるのだ。
2大工事が同時進行
重層部ではふたつの工事が同時進行している。東京駅側から順に,橋脚を立てる「鉄骨架設」が先行し,その上にプレキャストコンクリートの桁を架ける「PC桁架設」が後を追う。
ともに東日本旅客鉄道(JR東日本)のなかで最も難易度の高い工事に指定されている。新幹線に電気を供給するトロリー線の合間を縫いながら,最大20tの鉄骨部材を組み立て,軌道の上に数百トンのPC桁を架ける。現場では永田所長自らが陣頭指揮をとることも少なくない。当社は本支店から緊急連絡要員を現場入りさせ,事業者であるJR 東日本は工事施工本部をおき,昼夜を通して目を行き届かせている。
ひと晩1ピースに集中
「鉄骨架設」の橋脚は,1基の部材が多いもので30数ピース。工区全体で16基の260ピースを架設しなければならない。大規模切換相当の作業が260回行われるのだ。
終電後の限られた時間で架設できるのは,ひと晩に1ピースがやっと。さらに新幹線の線路メンテナンスの期間も必要なため,軌道内での作業は1ヵ月の半分程度しか行えない。長い時間をかけて事業者と当社のあいだで検討会が重ねられた。
しかし工事がいざ始まると,検討会でのさまざまな心配や不安が取越し苦労に思われるほど,現場の作業は整然と進み,計画よりも早い時間で作業を終える日が続いた。日に日に高まる事業者の信頼に,建設会社としての伝統と責任を改めて感じながら,現場ではひと晩1ピースの安全架設に総力を注いでいる。
空中を進む1,700t架設機
「PC桁架設」では,最大重量600t となるPC桁17本,鋼桁2本を,20〜60mのスパンに架けていく。軌道外に場所がとれないなかで効率よく架設を行うため,新幹線の軌道上に乗るように組み上げ,移動しながら架設していく「移動式架設機」が採用された。
当社では,以前にもJR北千住駅付近の常磐新線工事で同様の経験を積んでいる。今回の架設機の総重量はそのときのおよそ4倍。高さ20m,全長最高200m,総重量1,700tの巨大な架設機が新幹線の軌道上を,尺取虫のように進んでいくこととなる。
東北新幹線の橋脚に継ぎ足すように新線の橋脚を立てる。100tクレーンを南部ヤード部から軌道内に搬入して作業を行う。
橋脚1基は多いものでは30数ピースで構成され,ひと晩に1ピースずつ架けていく
東京駅から神田駅方向をみた断面図
橋脚の間に桁を架ける。東京方アプローチ部で組み立てた移動式架設機を軌道上に乗せ,
順次架設しながら移動を続ける