施工中の現場から
新東名の整備は今後も続く。
当社は現在,橋梁を中心とした7工区の工事を進めている。
なかでも,新しい発注形態・デザインビルド方式で
工事を受注した佐奈川橋工事に注目が集まっている。
デザインビルド方式
佐奈川橋工事は,上下線分離で橋長約700mの上下部一体型高橋脚橋梁工事である。高さ89mの橋脚は新東名のなかで最も高く,国内でも4番目の高さになる。
この工事の最大の特徴が「高度技術提案型総合評価方式における設計施工一括方式」で発注されたこと。いわゆるデザインビルド(DB)方式の工事で,施工方法のみならず基本設計も併せて提案する。通常は構造や材質などが予め設計された構造物に対して技術提案を行うが,DB方式では“ここに道路をつくる”ことだけが決まっている。構造から施工業者が設計できるため,鋼製の吊り橋にすることもコンクリート製の桁橋にすることも可能だ。橋ではなく盛土で道路をつくってもいい。それぞれの施工業者が得意とする分野を提案に盛り込むことでコストと工程を縮減できる。DB方式は“民間技術を活用した”新しい発注形態。佐奈川橋工事は中日本高速道路では4件目になる。
Super-RC構造
この工事の応札に対し,プロジェクトコーディネータを担当したのが山本徹工事事務所長。世界トップクラスの橋梁技術を持つドイツ・ディビダーク社に技術留学した経験を持ち,矢作川(やはぎがわ)橋(PC・鋼複合上部工)西工事(愛知県豊田市)でも監理技術者として活躍した橋梁のスペシャリストである。「DB方式の提案は簡単ではありません。約3ヵ月で設計から積算,施工計画までをつくらなければならない。技術力がなければ提案すること自体難しい」と話す山本所長。様々な技術を盛り込んで設計を行った。
その柱となるのがSuper-RC構造の採用。国内最大橋脚高118mを誇る「東海北陸自動車道鷲見橋工事(岐阜県郡上市,当社施工)」で採用された実績がある。高強度鉄筋と高強度コンクリートを使用し,橋脚断面が小さくなるのが特徴で,佐奈川橋でも断面積が約40%縮小された。コストが縮減されるほか,配筋もダブルからシングルになって鉄筋の組立てやコンクリート打設などの施工性も向上した。
橋脚は細くなるが,耐震性能にも不安はない。「断面が小さくなる分,逆に長周期化して耐震性能は向上する」と山本所長。「構造が成立することが第一条件ですから,耐震性能に不安がある提案は採用されません」。
3割の工程短縮
施工計画も提案時点で完成している必要がある。高橋脚の施工にあたっては,クライミングフォーム工法を採用した。この工法は,作業足場と型枠を橋脚の躯体に固定し,コンクリート打設完了後に特殊な部材で上昇させていく工法。高所作業時の安全性や作業性が確保される。コンクリート打設にはポンプを使用せず,バケットを利用した。高い流動性が不要になるため,セメントと水の量を少なくすることが可能になり,施工性と品質確保に有利な配合ができる。2.5m3のバケット2台を用意し,1台の打設中にもう1台にコンクリートを投入して,サイクルタイムの削減に努めた。
橋桁の施工は,移動作業車を利用した張出し架設。最大16台の作業車を投入して桁の閉合を早期に行い,工期短縮を図っている。
入札時点では開示されていなかった事業者案では工期が1,680日。山本所長の提示した工期は1,168日で,3割程度短縮されたことになる。入札の評価は技術点・金額ともにトップだった。
ゼネコン総合力の見せ場
「事業者からみてもコスト・工程ともにメリットがある。現在は試行段階だが,今後も制約条件の少ない案件ではデザインビルド方式は有効ではないか」と山本所長は期待する。ゼネコンは総合建設業。設計も含めて様々な分野の技術を保有するのが強みだ。技術提案には,その多様な技術が生きてくる。山本所長はいう。「デザインビルド方式の提案や上下部一体工事は,ゼネコン総合力の見せ場。事業者の期待も感じている。中日本高速道路豊川工事事務所の桐山昭吾所長の指導を仰ぎながら,着実に工事を進めていきたい」。
施工は順調に進んで橋脚工事が既に完了。現在,2012年5月の竣工に向けて橋桁の施工が進められている。
「森から橋脚が生えているようだ」。たびたびそんな感想が聞かれると山本所長はいう。新東名の工事では,周辺環境への配慮が徹底して行われている。
例えば,この工事では森林伐採を用地内全てではなく, 工事用道路と作業エリアに限定して実施。また,中日本高速道路が開発した「竹割型土留め工法」を採用し,地形の改変面積を縮小させている。森林を保護することで,付近に生息する希少なドジョウや猛禽類の保護にもつながる。工事排水を流さないように配慮しながら施工が進められている。