ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2011:THE SITE

KAJIMAダイジェスト

THE SITE

競馬ファン満足度100%を目指して――大屋根鉄骨上架が完了

中京競馬場スタンド等改築工事

中央競馬の重賞(GI)「高松宮記念」の開催地で知られる中京競馬場で現在,
大規模改築工事が行われている。
築40年を経過したメインスタンドの建替えと,馬場の拡張,東駐車場の整備で,
今回取材したのは,既存施設を解体し新スタンド棟を建設する現場だ。
訪れた時は,屋外ライブスタンドに張り出す巨大屋根の架設作業中で,
天空高く吊りあがる75tの大屋根鉄骨を,固唾を呑んで見守った。

工事概要

中京競馬場スタンド等改築工事

場所:
愛知県豊明市
発注者:
名古屋競馬(株),日本中央競馬会
設計・監理:
(株)山下設計,JRAファシリティーズ(株)
用途:
観覧場
規模:
新スタンド棟―S造 B1,6F,PH2F/
下見所諸施設―RC造 B1,1F/
東入場門―S造 1F/ツインハット改修工事
延べ26,465m2
工期:
2010年3月~2012年5月
(部分竣工:2012年1月)

(中部支店施工)

地図

新生・中京競馬場 スタンド棟の魅力

地上6階建ての新スタンド棟は,屋外スタンドとエントランスプラザ,パドックで構成される。既存の屋内型スタンド『ツインハット』も隣接することから,パドック内の出走馬の様子をどこからでも見ることができるのが魅力だ。271の投票窓口が用意され,勝馬投票券の購入もスムーズに行える。大屋根が特徴的な屋外スタンドは,爽快に駆け抜ける馬たちの臨場感溢れるレースを存分に味わえそうだ。キッズコーナーやフードコート,明るく開放的な5層吹抜けのエントランスプラザは,家族連れやカップルも楽しめる空間を演出する。東駐車場には立体駐車場も整備され,計2,700台の車が収容される。

改ページ

安全で快適な環境のもとで競馬を楽しんでもらえるよう,耐震性の確保,ユニバーサルデザインの積極的な導入,多様な環境共生技術を採用し,環境への貢献と地球にやさしいエコロジカルな新スタンドが誕生する。

写真:スタンド側イメージ

スタンド側イメージ

写真:パドック側イメージ

パドック側イメージ

ファンを大切にする施設

名古屋駅から名鉄名古屋本線で約20分。中京競馬場前駅を出ると,JRA(日本中央競馬会)のマークをあしらった『中京競馬場駅前商店街』のゲートに迎えられる。駅前から競馬場西入場門まで約600mのアーケード『フローラルウォーク』は,その名の通り四季の花々で彩られていた。

『フローラルウォーク』の先に現れる6階建ての『ツインハット』は,屋内・屋外様々なタイプの観覧スペース,飲食店等がある施設で,工事中の現在も場外発売を行っている。敷地内には馬をモチーフにした遊具が置かれた公園や馬場内遊園地(休園中),名鉄7000系車両(パノラマカー)の展示スペースがあり,来場者や地域の人々の憩いの場になっている。きめ細かなサービスが,随所に感じられる施設だ。現場の仮囲いも,中京競馬場の歴史や「高松宮記念」の歴代優勝馬の写真等で飾られ,ファンの目を楽しませる趣向が凝らされていた。

「所長スローガンは“競馬ファンの満足”イコール“施主の満足”。ファン至上主義で工事を行っています」と,出迎えてくれた佐藤佳宏副所長が,早速現場の基本方針を教えてくれる。

写真:名鉄名古屋本線「中京競馬場前」駅前の風景。左手には遊歩道『フローラルウォーク』が続く

名鉄名古屋本線「中京競馬場前」駅前の風景。左手には遊歩道『フローラルウォーク』が続く

3現場の協力で施工合理化を実現

2010年4月より本格化した工事は,既存施設の解体,新スタンド棟の基礎・地下躯体工事,地上躯体工事を約11ヵ月で完了。訪れた時(6月20日)は,設備工事,外装工事等が最盛期を迎える中,屋外ライブスタンドの大屋根鉄骨の上架作業が行われていた。

中京競馬場の敷地内では,スタンド等改築工事の他に,他社施工の馬場改造その他工事,当社設計・施工の東駐車場整備工事が同時進行しているが,作業効率向上に威力を発揮したのが『ウィナーズスロープ』だった。

改ページ

写真:(左)施工合理化の鍵となった工事用仮設道路『ウィナーズスロープ』、(右)中京競馬場全景。敷地内ではスタンド,馬場,東駐車場の工事が同時進行する

施工合理化の鍵となった工事用仮設道路『ウィナーズスロープ』

中京競馬場全景。敷地内ではスタンド,馬場,東駐車場の工事が同時進行する

「総合評価方式で出件された当工事は, 3現場の調整役も条件となっていました。これを活かして,独自に3現場の作業工程を綿密に作り込み,施工の合理化,品質の向上,安全の確保,工期短縮を図る様々な技術提案を行いました」と,入札時からプロジェクトに携わる横井隆幸所長が説明してくれる。

当初,工事用資機材の搬入は,競馬場西入場門や馬場工事エリア(他社工区)を通る経路が指定されていた。しかし,このルートだとツインハットを使用するファンの動線と重複し,安全面や清掃面,週末の作業制限等の課題が生じる。その解決策として,当社担当の東駐車場工事に協力を仰ぎ,両現場をつなぐ工事用仮設道路『ウィナーズスロープ』をつくり,搬入動線を鹿島で共有することを提案したのだった。

「ファン動線と工事用動線が完全分離できた他,スタンド工事で出た土砂を駐車場造成に使用し,駐車場工事で出た残土はスタンド工事のダンプで搬出する等,双方メリットが生まれた。資材置き場も共有できました」(横井所長)。

大屋根の施工も,隣接する馬場改造工事と作業工程を再調整することで,大型重機が使用できるスペースを確保した。技術提案時の工法から,より安全面・品質面を向上させた『移動式ベント併用ブロック組み工法』の採用が可能になった。横井所長は,「難条件をプラスへ転じる創意工夫は,ものづくりの醍醐味です」と話す。

改ページ

大屋根鉄骨上架も無事完了

大屋根の施工に採用した『移動式ベント併用ブロック組み工法』は次のような手順で施工する。①長さ約13mの鉄骨梁3本を地上で1本に組み立て,②組みあがった大梁2本と大屋根を構成する梁・鉄骨を地上で組み立てる(大屋根鉄骨のブロック組み)。③500tクレーンで大屋根鉄骨を吊りあげ,④調整用のジャッキが組み込まれた「移動式ベント(仮設支柱)」上に仮置きする。⑤取付け位置を調整後,ボルトの本締め・溶接を行い,スタンド本体の躯体と一体化する。⑥ベント開放によるジャッキダウン後,ブロック間の屋根鉄骨梁をつなぐ。⑦ベントを移動する。①~⑦までの作業を1サイクルとし,1週間で1サイクルを終える。

図:大屋根鉄骨の構造図 大屋根鉄骨は37mの片持ち梁になっていて,Y4~Y7間を含めた大きなトラスで支えられている。6階の大梁は,大屋根鉄骨より先端の柱を介して吊られた構造になっている

大屋根鉄骨の構造図
大屋根鉄骨は37mの片持ち梁になっていて,Y4~Y7間を含めた大きなトラスで支えられている。6階の大梁は,大屋根鉄骨より先端の柱を介して吊られた構造になっている

「移動式ベント併用ブロック組み工法」作業の流れ

図1:地組ヤードでブロック組みされた大屋根鉄骨は,クレーンでブロックヤードまで移動し上架作業を行う。高所作業の低減を図ることができる。(上架作業後述)

【図1】 地組ヤードでブロック組みされた大屋根鉄骨は,クレーンでブロックヤードまで移動し上架作業を行う。高所作業の低減を図ることができる。(上架作業後述)

図2:大屋根鉄骨2ピース分ベントを移動する

【図2】 大屋根鉄骨2ピース分ベントを移動する

図3:図1同様にブロック組みした大屋根鉄骨を,500tクレーンで吊りあげベントに仮置きする。取付け位置を調整後,ボルトの本締め・溶接を行いジャッキダウンする

【図3】 図1同様にブロック組みした大屋根鉄骨を,500tクレーンで吊りあげベントに仮置きする。取付け位置を調整後,ボルトの本締め・溶接を行いジャッキダウンする

図4:ブロック組みして上架した2つの大屋根鉄骨の大梁の間に,中間梁を設置してつなげる。以降2~4の作業を繰り返す

【図4】 ブロック組みして上架した2つの大屋根鉄骨の大梁の間に,中間梁を設置してつなげる。以降2~4の作業を繰り返す

図5:最後は端部の大梁を1本上げる。約2ヵ月間で,計8回の大屋根鉄骨の上架作業が完了

【図5】 最後は端部の大梁を1本上げる。約2ヵ月間で,計8回の大屋根鉄骨の上架作業が完了

改ページ

「この1週間サイクルは,競馬ファンへの影響を最小限にとどめるよう計画した工程なので,絶対厳守です」と,大屋根施工を統括する佐藤副所長はいう。「スタンドは完成すると,既存のツインハットとつながる。つまりツインハットの真横で工事をしているわけです。高さ30mある大ベントはお客様へ威圧感を与えるので,少しでも早くツインハットから遠ざけたかったのです」。

月曜日に大屋根を上架して各種作業を行い,金曜日にベントを次のポジションへ移動すれば,お客様が来場する土曜日には,1週間前よりもベントを遠ざけることができる。施工方法にもファンへの細やかな配慮がなされている。

写真:パークウィンズ開催時の『ツインハット』の様子。奥には工事中のスタンドの大屋根と移動式ベントが見える

パークウィンズ開催時の『ツインハット』の様子。
奥には工事中のスタンドの大屋根と移動式ベントが見える

写真:地上でブロック組みされた大屋根鉄骨。長さ13mの鉄骨梁3本をジョイントした2本の大梁の間を中間梁でつないだ構造となっている。左側先端には高所作業となる膜屋根施工のための吊足場が設置されている

地上でブロック組みされた大屋根鉄骨。長さ13mの鉄骨梁3本をジョイントした2本の大梁の間を中間梁でつないだ構造となっている。左側先端には高所作業となる膜屋根施工のための吊足場が設置されている


写真:上架作業直前の大屋根鉄骨下での作業の様子

上架作業直前の大屋根鉄骨下での作業の様子

写真:大屋根鉄骨の本締め・溶接完了後, 50tジャッキが組み込まれたベント上でジャッキダウンを行う

大屋根鉄骨の本締め・溶接完了後, 50tジャッキが組み込まれたベント上でジャッキダウンを行う

改ページ

訪れた日の朝,最後の大屋根鉄骨の上架作業を前に,作業員たちは準備に慌ただしかった。佐藤副所長は各種作業を入念にチェックし,横井所長は一人ひとりに声をかけて回る。

写真:大屋根鉄骨上架作業の様子。長さ37m・幅8m・重さ75tの大屋根鉄骨が天空高く吊りあがった

大屋根鉄骨上架作業の様子。長さ37m・幅8m・重さ75tの大屋根鉄骨が天空高く吊りあがった

午前9時,500tクレーンが動き出した。長さ37m・幅8m・重さ75tの大屋根鉄骨がゆっくりとあがりはじめる。大屋根鉄骨に結ばれた太いロープを体に巻き付けた作業員が,体全体で巧みにバランスをとっている。「みんな作業にも慣れて,微妙な調整も阿吽の呼吸でできるようになった・・・」。最後の上架作業を見守る横井所長が,佐藤副所長につぶやいた。

2ヵ月間に及んだ上架作業も,この日の8回目で完了。地上40mまで吊りあげられた大屋根鉄骨を見守る2人の横顔には,ひとつの大仕事を終える達成感があった。

大屋根鉄骨の取付け完了後は,屋根の折板や膜張り等の作業が行われ,7月6日に上棟式を迎えた。新中京競馬場グランドオープンは2012年3月,4大場(東京・中山・京都・阪神)以外で唯一開催されるGⅠレース「高松宮記念」が行われる。その日まで,「ファン満足度100%の競馬場」を目指して工事は続く。

写真:上架作業を見守る横井所長(手前)と佐藤副所長(奥)

上架作業を見守る横井所長(手前)と
佐藤副所長(奥)

改ページ

現場自慢  “うちの所長すごいんです!”

横井隆幸所長(44歳)。中部支店でも一目置かれるカリスマ所長だ。34歳の若さで現場所長に抜擢され,以来大型工事を多数経験してきた。新入社員の時に“この会社は現場所長が一番おもしろい”と確信し,少しでも長く所長をやっていたいと頑張ってきた。

後輩の育成に力を入れる横井所長。技術力そして,ものづくりの楽しさを伝えたいと話す。「建物をつくるプロセスの中で,知恵を注ぎ創意工夫して自分じゃなきゃできない付加価値をつける。これぞものづくりの楽しさです。若いうちは色々なことを経験して,やりたいことを見つけて欲しい」と話す。

工事がスタートすると所員に配布される『横井所長の10箇条』。ここには,技術屋としてあるべき姿と工事管理の厳しい掟が,熱い言葉で示されている。これは部下に実践して欲しい事柄であり,自分への教訓でもあるそうだ。

【所員からの寸評】

  • ずば抜けた統率力。ビジョンがはっきりしていて考え方がぶれない。
  • 裏表がない。怒ると怖いが,後をひかない。
  • 事前に相談すれば,やりたいことをやらせてくれる。
  • 所長の能力とパーソナリティで客先との関係がいつも良好。
  • ムードメーカー。所長がいる日といない日では,現場の雰囲気が全然違う。
  • もっと,も~っと,おもしろくなってください!

(現場所員一同)

写真:大屋根鉄骨上架作業を前に記念撮影。中段右から三番目が横井所長

大屋根鉄骨上架作業を前に記念撮影。中段右から三番目が横井所長

ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2011:THE SITE

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ