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KAJIMAダイジェスト

SAFE+SAVE 支援と復興の土木・建築

CASE8 みんなで増築する公営住宅(チリ)

写真:鮮やかな配色が目を引く増築部分。色や形のルールに基づいて景観の統一が図られている 
Photo by Christobal Palma

鮮やかな配色が目を引く増築部分。色や形のルールに基づいて景観の統一が図られている
Photo by Christobal Palma

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チリ北部の砂漠地帯にある人口20万人の町,イキケ。その中心部に5,000m2のスラムがある。30年前から徐々に不法占拠が始まり,約100世帯が密集した住居群のなかで生活していた。違法に増築し続けた部屋の約6割は自然光が届かず,風は抜けない。人の目も届かない場で麻薬の密売さえ行われていた。

こうした環境を改善させるために,公営住宅が完成したのは2004年のこと。5,000m2の敷地には4つの中庭が配され,各住宅は中庭に向けて出入り口を設けている。日常生活のなかで,人々が出会い,会話することが意図された住棟配置だ。

写真:計画前のスラムの状態。100世帯あまりが違法に増築していた

計画前のスラムの状態。100世帯あまりが違法に増築していた

それまでチリ政府は,スラムを改善するための地区改善プログラムを用意してきたものの,うまく機能していなかった。不法占拠している人たちにローンを組ませて,郊外につくった公営住宅を買い取らせるというのが大まかなスキームだが,居住者たちはそれまで従事していた仕事を失い,コミュニティも分断されるため,郊外に移ってからは働かず,酒に溺れ,ローンを滞納する人々が後を絶たなかったのである。そもそも1戸あたり120万円の建設費は,彼らに払いきれないのは明らかだった。政府としても,郊外に公営住宅をつくったことで,交通や教育や医療に関する施設に莫大な費用がかかっていた。

そこで,2002年からは新しい地区改善計画を実行することになった。スラムの住民を郊外へ移住させるのではなく,同じ場所に公営住宅を建てるのだ。そうすれば従来どおりの仕事を続け,コミュニティが助け合って生活することができる。住宅の予算もローンで払いきれる75万円とした。

問題は地価の高い都心部であることだ。予算には住宅の建設費のみならず,土地代とインフラの整備費用も含まれている。当然,公営住宅は構造的に安定したものでなければならず,採光や通風も考慮されていなければならない。それらのコストを勘案すると,1戸あたりの敷地面積は30m2が上限だということがわかった。

こうした制限が課せられた公営住宅を設計したのは,首都サンティアゴで活動する建築家アレハンドロ・アラヴェナである。1994年に事務所を設立し,2000年から5年間はハーバード大学にて教鞭を執った。そのころ,彼は低所得者層のための住宅に興味を持ち始めたという。自国のスラム問題を解決するための住宅設計は絶好のチャンスだった。

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アラヴェナはまず,スラムの住民たちを集めてワークショップを行った。最初に今回の制限を伝え,彼らの生活について徹底的に聞き出し,複数の設計案を出して住民自身に選んでもらうということを何度も繰り返した。その結果,「ハーフメイド」の住宅というアイデアへと行き着いた。30m2の敷地に半分だけRC造の住戸をつくり,残りの半分は彼らが必要に応じて増築できるデザインである。

1階と2階部分をずらしてつくることによって,増築部分が構造的に安定するよう配慮した。垂直に部屋を配置することによって,狭い敷地でもクイーンサイズのベッドが置ける部屋,独立したキッチン,バスタブ付きの浴室などを入れられた。半分だけつくることで工期が短くなり,住民が一時的に生活していた仮設住宅からすぐに戻ってくることができた。

写真:住民たちとのワークショップの様子。子どもたちも参加して,スケッチや模型で対話を重ねながら計画がまとめられていった

写真:住民たちとのワークショップの様子。子どもたちも参加して,スケッチや模型で対話を重ねながら計画がまとめられていった

住民たちとのワークショップの様子。子どもたちも参加して,スケッチや模型で対話を重ねながら計画がまとめられていった

アラヴェナは言う。「戻った家族は,住宅の内装を自らつくりながら,増築部分の住宅のあり方について話し合うことができる。核家族はそのまま使い,大家族はみんなで力を合わせて増築することになるだろう」。こうすることによって,初期費用も当初の半分に抑えることができる。

写真:入居前の様子 Photo by Tadeuz Jalocha

入居前の様子
Photo by Tadeuz Jalocha

写真:建設風景。ハーフメイド(=半分だけ建てる)のアイデアがローコストで短工期の供給を可能にした

建設風景。ハーフメイド(=半分だけ建てる)のアイデアがローコストで短工期の供給を可能にした

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秀逸なのは,ワークショップのなかで増築部分の色や形についてルールをつくったことである。「これによって,各住戸の個性を出しつつ,全体としては統一した景観をつくりだすことができている」。住民たちは構造的に安全な増築の方法に関するレクチャーも受けており,中庭を囲むコミュニティが協力しながらそれぞれの増築を進めている。

通常,建設費のなかで構造体が占める割合は3割程度とされる。しかし、仕上げや設備を最小限に抑えたこの住宅の場合,コストの8割を構造体が占める。そこから住民の手で内装がつくられ,増築され,完成する。その間に人々は協力し合い,コミュニティを育むことになるのだろう。2004年に入居が始まり,半年後にはほとんどの住戸が増築されていたという。

写真:家族が協力し合う増築工事と,入居後の様子。住民たちはすぐに増築に着手し,入居開始の半年後にはほぼすべての増築スペースが埋まったという

Photo by Christobal Palma

写真:家族が協力し合う増築工事と,入居後の様子。住民たちはすぐに増築に着手し,入居開始の半年後にはほぼすべての増築スペースが埋まったという

家族が協力し合う増築工事と,入居後の様子。住民たちはすぐに増築に着手し,入居開始の半年後にはほぼすべての増築スペースが埋まったという

この住宅は,専門家がつくって住民に供給するトップダウン方式と,住民が入居後に増築して新しい風景をつくっていくボトムアップ方式をうまくバランスさせたものだといえよう。現行の法制度の枠組み内でできるプロジェクトだったこともあり,チリ国内では同様の公営住宅が各地でつくられることになった。さらに,ブラッド・ピット創設の財団がハリケーン「カトリーナ」の復興時に採用した住宅もこの方式を踏襲している。アラヴェナの“発明”は国境を越えてさまざまな人々の生活に影響を与えている。

写真:公道に面したファサードと室内の様子。インテリアも増築部分も生活スタイルに合わせたこだわりの空間づくりがなされている

公道に面したファサードと室内の様子。インテリアも増築部分も生活スタイルに合わせたこだわりの空間づくりがなされている
Photo(left) by Christobal Palma

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山崎 亮 やまざき・りょう
ランドスケープ・デザイナー。studio-L代表。京都造形芸術大学教授。1973年生まれ。
Architecture for Humanity Tokyo / Kyoto設立準備会に参画し,復興のデザインの研究を行う。
著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社),『震災のためにデザインは何が可能か』(NTT出版)など。
Architecture for Humanityはサンフランシスコを拠点に世界各地で復興や自立支援の建設活動を主導する非営利団体。

参考資料

  • DESIGN AND LANDSCAPE FOR PEOPLE: New approaches to Renewal, by Clare Cumberlidge, Lucy Musgrave, Thames & Hudson, Ltd. 2007
  • 「特集=未来へつなぐ、デザイン」『Pen』(2011年6月15日号,阪急コミュニケーショズ)
  • 展覧会図録『Small Scale, Big Change』(MoMA)
  • Quinta Monroyウェブサイト:http://www.elementalchile.cl/viviendas/quinta-monroy/quinta-monroy/

(写真提供:特記なきかぎり©ELEMENTAL)

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