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モビリティ・ライフ 世界のりもの周遊記 第8回 アトランタ メガターミナルは車の海に浮かぶ

写真:3万台収容の駐車場が空港ターミナルを囲む

3万台収容の駐車場が空港ターミナルを囲む

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世界屈指の発着・旅客数

世界一の空港はどこかと問えば,常に上位にランクインするのが米国ジョージア州都アトランタにあるハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(以下アトランタ国際空港)だ。2015年には発着回数,旅客数で第1位に輝いた。

5本の滑走路をもち,発着回数は年に約88万回。国内線は150都市,国際線は75都市に就航している。デルタ航空のハブ空港の1つであり,同社の路線は1日に1,000便が発着する。旅客数は1日に26万人以上,年間にして約1億人が利用する。

これだけの大空港をもつアトランタは,コカ・コーラやCNN,デルタ航空など世界企業が本社を構える大都市。都市圏人口では全米ベスト10に入り,500万人以上の住民を抱える。市街地とそこから南に約16km離れた空港を,地下鉄のゴールドラインとレッドラインの2路線が結ぶ。

今回は街の中心部にあるファイブポイント駅で地下鉄に乗り空港をめざす。ダウンタウンを発車した列車はほどなくして地上に出て,住宅地のなかを走る。エアポート駅までは20分ほど。しかし不思議なことに,終点の空港まで乗っている人はほとんどいなかった。

図版:地図

写真:地下鉄ゴールドライン

地下鉄ゴールドライン。空港とアトランタのダウンタウンを20分で結ぶ。空港周辺は地上を走る

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クルマ社会のアクセシビリティ

その理由は空港に到着するとわかる。周囲に広大な駐車場が設けられているからだ。国内線利用客用に3万台以上,国際線利用客用に3,500台以上のスペースを確保しているという。多くを占める平置きの駐車場はほとんど車両で埋まっており,自動車の海と呼びたくなる眺めだ。ターミナルからやや離れたエリアには,長期間駐車するためのパーク&ライドスペースがあり,利用客はここに自家用車をとめて,24時間運行しているシャトルバスでターミナルへ移動する。

アトランタは米国のなかでもとくに自動車利用率が高く,市街地は郊外に拡散してきた。空港へのアクセス手段は自家用車が圧倒的に多いのである。地下鉄は開通したものの,公共交通への移行はあまり進んでいない。

地下鉄エアポート駅のすぐそばでは「スカイトレイン」と名付けられた無人運転の新交通システムが発着している。このシステムはなんと「レンタカーセンター」へ向かうためのものだという。この空港では外来の旅客のために多くのレンタカー会社からなるサービス拠点が空港敷地の外側に独立して設けられている。レンタカーに乗るために鉄道を敷いてしまう,スケールの大きさに驚かされる。

当然ながらスカイトレインの車内は,スーツケースを持った旅行者でいっぱいだ。ターミナルを出発し,広大な駐車場を越え,国際会議場やホテルが並ぶ中間駅を経て,終点のレンタカーセンター駅まで約5分。ホームに降りた乗客は,階下にあるレンタカーのサービスカウンターに向かう。2つのフロアに計13社が入っている。こちらも24時間営業だ。レンタカーセンター駅の両側には4階建ての立体専用駐車場があり,レンタカーの収容台数は合わせて8,700台にもなるという。

写真:13のレンタカー会社が合同で運営するレンタカーセンター

13のレンタカー会社が合同で運営するレンタカーセンターでは,ずらりと並んだ各社のサービスカウンターが旅行者を出迎える

写真:レンタカーセンターの駐車場

レンタカーセンターの駐車場。8,700台のレンタカーが24時間体制で旅行者を待つ

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“最大級”を支えるゲート数

再びスカイトレインに乗って空港に戻る。空港西端の国内線ターミナルの1階にはタクシー,路線バス,ホテルのシャトルバスなどの乗り場が並んでいる。こちらは駐車場とは対照的にコンパクトなつくりで,ホテルや自宅などへ向かう人でごった返している。ようやく空港らしい景色を目にした。

アトランタ国際空港の国内線ターミナルは1980年に,当時の世界最大規模の空港施設としてオープンした。空港施設は旅客数の増加にともない,増改築や建て替えられる例が多いが,この国内線ターミナルは,搭乗ゲートこそ増築されたものの,今も現役を務めている。

特徴的なのはチェックインカウンターと手荷物受取りのターンテーブルが同じフロア上に並ぶ東西に細長いレイアウトだ。フロアの中央に設けられた円形のアトリウム周辺にはショップやレストランが用意されている。国内外から集まった大勢の旅行者が,仮眠をとったり,食事をしたり,おしゃべりを楽しんだりと,思い思いのスタイルで出発の時を待っている。

写真:国内線ターミナルの2階を発車するスカイトレインと1階玄関に並ぶシャトルバス

国内線ターミナルの2階を発車するスカイトレインと1階玄関に並ぶシャトルバス

写真:国内線ターミナルの中央に設けられたアトリウム

国内線ターミナルの中央に設けられたアトリウム。この空間の外側に手荷物受取りのターンテーブルが並ぶレイアウト

一方,空港敷地の東側にある国際線ターミナルは2012年に完成したスマートなデザインで,1階が到着ロビー,2階が出発ロビーという一般的なレイアウトだ。

これら2つのターミナルの間には,それぞれ約30~40の搭乗ゲートをもつ,独立した細長いコンコースが並ぶ。障がい者や高齢者がこの長いコンコース内を移動する際には,事前予約で専用カートをチャーターできる。搭乗ゲートの数は全部で207にもなる。そのなかで国際線用搭乗ゲートはわずか40にすぎず,アトランタ国際空港の主力は国内線にあることがわかる。

写真:アトランタ国際空港では,障がい者や高齢者のために移動を助けるカートが用意されている

アトランタ国際空港では,障がい者や高齢者のために移動を助けるカートが用意されている

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巨大さを楽しむコンコース移動

これらのコンコースは動く歩道を設けた地下通路で結ばれているが,コンコースとコンコースの間が約300mもある。ここもまたアメリカならではのスケールだ。多くの旅行者は動く歩道と並行して走る無人運転の新交通システム「プレイントレイン」を利用する。こちらは2分おきに運行していて,1日に20万人以上の旅行者を運ぶ。

便利なのはもちろんプレイントレインだが,動く歩道を選ぶ旅行客も意外と少なくない。さまざまなモニュメントで空間が演出されていたりするので,飽きることなく移動できる。時間がかかる装置にあえて身をゆだねながら,旅の余韻に浸るか,はたまた新たな旅立ちに胸を弾ませるか。巨大施設を不便と捉えず,むしろ楽しみが多いと考えられるのが,旅慣れた人と言えるのかもしれない。

写真:各コンコースをつなぐプレイントレインの乗車口

各コンコースをつなぐプレイントレインの乗車口

写真:コンコースを結ぶ地下通路

コンコースを結ぶ地下通路。工夫を凝らしたインスタレーションを動く歩道に乗って楽しめる。写真はジンバブエの石像彫刻パート

図版:空港敷地

空港敷地は1,902ha,東京都新宿区がすっぽり入る。東西に延びた5本の滑走路には,毎日2,000便以上の航空機が発着する。周囲に広がる駐車場は,時間単位の短期駐車場から長期預かりのパーク&ライドまで,さまざまなニーズに応える

森口将之(もりぐち・まさゆき)
モビリティ・ジャーナリスト,モーター・ジャーナリスト。1962年東京都出身。早稲田大学卒業後,1993年まで自動車雑誌編集部に勤務。フランス車を専門としていたが,パリ市が環境政策を打ち出したのをきっかけに,2000年前後から交通,環境,地域社会,デザインを中心に評論活動を展開。現在は世界の各都市をめぐりながら,公共交通のかたちについて取材に取り組んでいる。著書に『パリ流 環境社会への挑戦』(鹿島出版会,2009年)など。

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