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地道に積み上げた信頼の先に 中電本館工事事務所

1963(昭和38)年に竣工した中部電力本店ビル。
その竣工とともに開設された中電本館工事事務所は,増改築やメンテナンス工事の一手を担い,
中部電力の本社ビルとしての機能維持に貢献してきた。
今日までの約60年,地道に築き上げた信頼は,鹿島ブランドの形成にたしかにつながっている。

図版:1963年,竣工当時の中部電力本店ビル外観

1963年,竣工当時の中部電力本店ビル外観

重厚感と先端設備を備えた本社ビル

名古屋の中心部である栄地区に,中部電力本店ビルは居を構える。中部経済圏の動力源を担う中部電力が創立10周年を期し,本社機能を有する新社屋として計画,当社が施工を担い1963年に完成した。

竣工当時の建物は地上10階,地下2階,塔屋2階,延床面積4万9,975m2。講演会から長唄演奏会まで幅広い一般利用が可能な中電ホールも併設され,当時,名古屋市内では一企業の建物として最大規模を誇った。本店ビル1,2階の柱梁は石張りで重厚感あるつくりとなっていて,全面ペアガラスの採用やヒートポンプシステム,照明,音響など最先端の設備を導入。管内の全事業所に対し指揮命令を行う通信機械施設や給電指令設備も完備され,まさしく中部電力の中枢機能が集約したビルであった。

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図版:東玄関ホール(竣工当時)

東玄関ホール(竣工当時)

図版:基準階事務室 (竣工当時)

基準階事務室 (竣工当時)

図版:1975年には本店ビル隣に西館(写真手前)が完成。

1975年には本店ビル隣に西館(写真手前)が完成。
当社が施工し,当工事事務所がメンテナンスを行う

図版:現在の東玄関ホール

現在の東玄関ホール。天井は脱落対策工事を実施

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図版:改修した中電ホール

改修した中電ホール。デザインは竣工当時のまま,耐震仕様につくり直した

図版:改修のため石を移動して再敷設した枯山水

改修のため石を移動して再敷設した枯山水。新築当時は水力発電が主流だったことから,中部地域の各河川の自然石が用いられている

図版:リニューアルした執務室

リニューアルした執務室

図版:本店ビル2階につくられた喫茶室

本店ビル2階につくられた喫茶室

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鹿島が施工を担う“価値”

中部電力本店ビル竣工後,当社はビル地下階の1室に,増改築やメンテナンス工事を請け負う常駐の工事事務所,「中電本館工事事務所」を開設した。以来,本店ビルにかかる建築工事のほとんどを当工事事務所が担っている。

工事は,本店ビルの平常運用を基本とした「居ながら®」施工だ。工事の指揮を執る小野宏所長は,「工事中は多少なり騒音やにおいが発生します。本店ビル内の全ての方々への影響を考慮しながら,いかに安全と品質,工期,コストを担保する施工計画を立てるかが私たちに課せられた命題なのです」と語る。入居者への影響を考慮し,休日や夜間に行う作業もある。「粛々と進めるだけです」と小野所長は話すが,当工事事務所が担当する年間数十件もの工事量を,発注者と作業調整を行い施工方法と体制を日々工夫しながらこなしていくのは容易ではない。

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小野宏所長

小野所長が当工事事務所に着任したのは1993年。約30年にわたりこのビルの変遷とともに歩んできた。初めは居ながら施工という特異な施工条件の中で現場をどのように進めていくべきか悩んだこともあったが,その経験一つひとつが自身の糧となった。「お客様の要望に対し,なんでも“Yes, No”で答えるのは簡単ですが,双方にとってそれが正しいとは限りません。お客様と対話を重ねながらベストな道筋を示し,そして鹿島に任せてもらった以上はその価値を提供することが大切なのだと思っています」。模索の末にたどり着いた小野所長のポリシーだ。

図版:現在の本店ビルと中電ホール(写真右)

現在の本店ビルと中電ホール(写真右)

図版:外観東面。耐震補強のため1階のガラス張りをRCの石に張り替えた

外観東面。
耐震補強のため1階のガラス張りをRCの石に張り替えた

鹿島ブランドの最前線

小野所長の現場での気配りは細やかだ。「安全とよい仕事は養生と区画で決まると言っても過言ではありません」と,現場では養生や掃除などの雑作業ほど丁寧に行い,身なりや所作にも気を配るよう呼びかける。

「日々本店ビルで作業にあたる中電本館工事事務所の仕事ぶりが,お客様にとっての鹿島ブランドにつながっています」。そう話すのは,愛知北地区工事事務所の石川久人所長。主に名古屋市北部エリアの当社施工物件のアフターフォロー現場を総括する立場として,小野所長とも適宜コミュニケーションを取り,必要なときの相談役となっている。「お客様は鹿島という組織はもちろん,小野所長という個人を信頼しています。だからこそ,今もこうして本店ビルに関わる建築工事を任せていただいているのだと感じています」。

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石川久人所長

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小野所長が配属されてからの約30年間,現場は無事故・無災害を継続している。こうした長年の功績は社内にも認知され,2019年には当社中部支店から支店長賞(特別賞)が贈られた。小野所長は,「私たちは目の前の仕事を,事故がないよう安全に全うすることを何よりも大切に考えて取り組んできました。そうした長年の積み重ねにスポットライトを当てていただいたことは大変光栄です」と当時の心境を振り返る。

「お客様からの『ありがとう』という一言が私にとってのやりがいであり,そのために一所懸命に仕事をしています。新築時の設計者のこだわりと施工者の努力が詰まったこの本店ビルを,長くご利用いただけるようこれからも精一杯努めます」(小野所長)。

図版:作業区画用の仮間仕切りは,丁寧かつきれいにつくり込む

作業区画用の仮間仕切りは,丁寧かつきれいにつくり込む。写真左が施工中,右が工事完了間際

図版:現場事務所。約60年変わらずに居を構える

現場事務所。約60年変わらずに居を構える

図版:今ではなかなか見られないドラフター

今ではなかなか見られないドラフター。設計者を志した時期もある小野所長の愛用品

図版:所員の集合写真

所員の集合写真。本店ビル1階ロビーにて

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interview

建物を長く活かすために

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中電不動産
施設運営部
資産保全センター長
岩田美成

中部電力本店ビルは中部電力のグループ会社である中電不動産が所有・管理をしている。本店ビルの保全に関する各種工事と保守点検・清掃・警備・受付業務を統括する中電不動産施設運営部の岩田美成資産保全センター長に,これまでの歩みを聞いた。

竣工から約60年,
本店ビルはどのような変化を遂げてきたのでしょうか。

建物の外観デザインは竣工当時とほとんど変わっていませんが,いつ何時も中部電力の中枢機能としての役割が果たせるよう,耐震補強など建物の機能強化を図ってきました。唯一外観が変わったのは,東面のガラス張りを耐震補強のために石(RC)に張り替えたことですね。中電ホールのリニューアルもそうですが,中部電力には新築時からのデザインに深い思い入れを持つ社員も多く,材料は鹿島さんにもご協力いただき,こだわって選定しました。

日本経済を支える電力産業の本社ビルを
建物管理者として維持管理するのは大変なことでしょうね。

電力供給の指揮命令をはじめ災害復旧時の対策本部が設置されるため,建物は24時間365日稼働していて,一般的なオフィスビルとは仕様も運用も大きく異なります。ここ数年は,時代の趨勢により幾度となく組織改革に伴うレイアウト変更を実施してきました。工事によって中部電力社員の業務品質の低下を招かぬよう,工事関係者との情報連絡を密に行うことを心がけています。

工事では施工サイドの要望も汲み取ってご調整いただき,大変助かっております。

当然,安全が最優先です。また,近年は新型コロナウイルスへの対応など新たな課題も生まれました。対策をみんなで考える雰囲気づくりを大切にしたいと思っています。

本店ビルを長くご利用いただけるよう,これからも精進いたします。

一般の方々との距離が非常に近い現場です。作業を行う人が安心に働けるような作業計画の策定と,安全意識の醸成を引き続きよろしくお願いします。

図版:遊び心ある中電不動産の事務所の一角

遊び心ある中電不動産の事務所の一角。25年以上前にフリーアドレスの研究をしていたこともある岩田センター長が監修,当社が施工した

図版:中電不動産が保管する本店ビルの記録の数々

中電不動産が保管する本店ビルの記録の数々

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