復旧に向けた拠点整備
「除染現場の線量が少しずつ下がっていることは実証できている」。福島県で当社が関わる3つの除染現場を統括する西川武志所長は,線量計を手に語る。「“安全”と言うには尚早かもしれないが,“危険”な領域は脱しつつある」
現在,東京電力福島第一原子力発電所から20km圏内に位置する富岡町の運動施設で行われている除染作業。10人ほどの作業員でチームを組み,敷地内の植栽・芝生の刈入れや,屋根・外壁など建物表面の拭き取り,線量チェックを行う。仮置き場には,草木や土砂が詰められた耐候性大型土のうが次々と運ばれてくる。
「警戒区域」に指定されている富岡町では,「先行除染」と呼ばれる段階の作業が進む。一般家屋の除染には住民一人ひとりの同意が必要であり,許可なく立入りが禁止されている警戒区域内では,多くの手順と時間を要する。まずは,役場庁舎や運動場などの公共施設を先行して除染することで,復旧に向けた拠点整備を行う。
当社の除染作業が本格的にはじまったのは2012年3月。それまで,環境省が定めるガイドラインに従いながら除染の効果や運搬,貯蔵の技術開発を独自に行い,富岡町,田村市,葛尾村を対象に除染モデルを構築していった。太田一夫所長は富岡町での除染をモデル事業から指揮してきた。
着実な除染を支える連絡系統
当社JVが担当するもうひとつの現場が,田村市東部,東京電力福島第一原子力発電所の20km圏内のエリアである。「大規模な現場では連絡系統の構築が生命線」と語るのは,この現場を率いる本田豊所長だ。約1,200人の作業員が除染に従事する。
田村市は先行除染を経て,住宅地や林縁部など570haが除染の対象となる「本格除染」の段階に入った。一帯は「避難指示解除準備区域」。住民は現在,制限区域の外に避難しているものの,制限が解除されれば,すぐに生活再建がはじまる。
森林地帯では,作業員20~30人のチームで急峻な山林に分け入り,下草刈りや枯葉の回収にあたる。若い女性作業員の姿も目に付く。仮置き場には汚染廃棄物が積み上げられる。高さ3mを超す圧倒的な物量だ。回収された枯葉は発酵し,湯気が立ち上る。高温に達すると火災に至るおそれがあるため,内部の温度管理モニタリングを実施し,積み上げ高さを制限している。
作業員は全国から集まる。市内の中学校校庭に構えた現場事務所では,200人以上が収容可能な宿舎も稼働している。1日の仕事を終えて事務所に戻ってくる作業員たちは,スクリーニング(線量検査)を受けたのち,チームごとにミーティングを行う。現場事務所はごったがえすが,細かな情報共有が明日の着実な作業を支える。
田村市では対象区域の80%がすでに除染を完了し,かつての里山の風景が戻りつつある。真の復興にはそこに人びとの安全な暮らしが不可欠だ。住民の活気が再び戻るまで,地道な復興支援はつづく。
避難指示区域と警戒区域
(2012年11月30日現在)
●工事概要
除染モデル実証事業
- 場所:
- 福島県富岡町,葛尾村,田村市
- 発注者:
- 独立行政法人日本原子力研究開発機構
- 受注者:
- 鹿島・日立プラントテクノロジー・三井住友共同企業体
- 業務:
- 表土剥ぎ,高圧洗浄,舗装切削,ブラスト処理等,中・高線量地域における,安全,効率的かつ効果的な除染方法の実証試験
- 工期:
- 2011年11月〜2012年6月
富岡町拠点施設緊急除染工事
- 場所:
- 福島県富岡町
- 発注者:
- 環境省
- 受注者:
- 鹿島
- 業務:
- 本格的な除染等の実施に向けた公的施設等拠点施設の除染作業およびその効果の調査
- 工期:
- 2012年3月〜2013年7月
田村市除染等工事
- 場所:
- 福島県田村市
- 発注者:
- 環境省
- 受注者:
- 鹿島・三井住友・日立プラントテクノロジー特定建設工事共同企業体
- 業務:
- 特別地域約570ha(住居約400宅,道路約41ha,水田約95ha,畑・牧草地約56ha,森林約270ha[住宅近傍20m以内])を対象とした除染等措置の実施
- 工期:
- 2012年7月〜2013年3月