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超高層ビル解体の新たなスタンダード

りそな・マルハビル地上解体工事

当社が開発した環境配慮型ビル解体技術「鹿島カットアンドダウン工法®」の
適用第二弾として進められてきた「りそな・マルハビル」の解体工事が,1月末に完了した。
安全作業と周辺環境への配慮,工期短縮——,当現場では解体工事に必要なこれらの
要素を実現し,超高層ビル解体の新たなスタンダードをつくった。

地図

【工事概要】

りそな・マルハビル地上解体工事

場所:
東京都千代田区
発注者:
三菱地所,JXホールディングス
設計:
三菱地所設計
規模:
解体工事 地上S造・地下SRC造 B4,24F,
PH2F 高さ108m 延べ75,413m2(1978年完成)
工期:
2012年4月〜2013年1月

(東京建築支店JV施工)

全社の期待,注目の的

東京都千代田区大手町は,日本経済の中枢をなす都内有数のビジネス街だ。超高層ビル群が内堀通りを隔てて皇居と隣り合い,お濠の水景や豊かな緑と共に格調高い都市景観をつくりだしている。ここで現在進められているのが,「大手町1-1計画A棟新築工事」である。高さ100mを超える超高層の「りそな・マルハビル」を解体してオフィスビルを建設する計画で,ビルを所有する三菱地所とJXホールディングスが事業を進めている。
当社JVは,この計画の一環として「りそな・マルハビル地上解体工事」を受注し,2012年4月から解体作業を行ってきた。工事では,当社開発の解体技術「鹿島カットアンドダウン工法(KC&D工法)」を採用した。2008年に行われた当社旧本社ビルの解体に続く適用第二弾となるこの解体方法の最大の特徴は地上1階部分で解体作業が行えること。ビル1階の柱下部に大型のジャッキを据え付けて建物全体の荷重を移し,地上階で躯体解体とジャッキの上げ下ろしを繰り返して「だるま落とし」のように下層階から解体を進めていく。1階部分での作業がメインになるため安全に作業できる。縮むように解体される姿も注目を集め,メディアでも頻繁に取り上げられている。
この現場を統括するのが,いくつもの大規模現場を完成に導いてきた吉岡伸明所長。「全社の期待を背負う工法ですから,大変だろうといわれます。しかし,どの現場にもその現場なりの苦労がある。特殊な工法だけに本社・支店からの支援があり,やりやすい部分もあった」。計画時から建築管理本部や機械部,建築設計本部,東京建築支店などがプロジェクトチームを編成して現場を支援し,文字通り全社を挙げて超高層ビル解体に挑んだ。

写真:解体前のりそな・マルハビル俯瞰。

解体前のりそな・マルハビル俯瞰。「大洋ビル」として1978年に完成した。施工は当社JVが担当し,竣工後も継続的にメンテナンスを担当してきた

写真:吉岡伸明所長

吉岡伸明所長

写真:作業のサイクル

作業のサイクル

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写真:最上階に解体重機を揚重して解体する従来の工法

最上階に解体重機を揚重して解体する従来の工法

写真:建物をだるま落としのように,下層部から解体する工法

建物をだるま落としのように,下層部から解体する工法

図版:工期・環境配慮

図版:全体工程表

全体工程表。まず内装や設備配管の解体を行い,アスベストの除去,コアウォールの設置,ジャッキ据え付け,躯体解体と工事が進む。在来工法では1年かかるものが,KC&D工法を採用することで10ヵ月かからずに完了した

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開始直後がクライマックス

この現場でKC&D工法が採用されたのは,周辺環境への配慮が事業者に評価されたことが大きい。過去にこの地域で2件の現場を経験している吉居崇副所長は「皇居とホテル,オフィス…。この現場は大手町のなかでも,周辺環境と景観に格段の配慮が求められた」と話す。一般的に解体工事は最上階から解体を行うため,強風が粉塵を遠方まで飛散させ,屋上と地上が騒音源になって周辺に大きな騒音が発生する。KC&D工法は解体作業を1階部分で行うため,騒音・振動や粉塵飛散が抑制され,外部足場も不要で景観を損なうこともない。加えて現場では,当社技術研究所で実施した気流シミュレーション結果を踏まえ,仮囲いの形状を最適化するなどの工夫を凝らしている。
工事は内装撤去からアスベスト除去とつづき,躯体解体は10月末から実施された。高さ108m,24階建ての建物を約3ヵ月で解体する。計画から携わった上野一郎工事課長は「KC&D工法は,開始直後がクライマックスだ」と語る。最初に最大荷重がジャッキにかかるためだ。ビルの重さ約2万7,000tが40本のジャッキにかかり,解体が進むほど荷重は小さくなる。
基準階の躯体解体は,在来工法では1フロアあたり6日かかる試算だったがこれを3日に短縮した。単純に3日に基準階の22階を掛けると66日間,月の作業日数を25日とすれば約2.5ヵ月の工期が短縮される。階数が多くなるほど短工期化が可能になる計算だ。これは,昼夜を通じた効率的な作業を行うことで実現した。通常,市街地で夜間に解体工事を行うことはできないが,ジャッキダウン作業は大きな騒音・振動が発生しない。昼に重機を使用した解体作業を行い夜間にジャッキダウンする昼夜作業が可能になったのだ。「吟味に吟味を重ねて計画しましたが,厚い柱鉄骨の切断に手間がかかるなど思い通りにはいきませんでした。修正を繰り返しながらサイクル達成に励みました」と上野課長。1分刻みの工程表を作成してKC&D工法に臨んでいる。

写真:吉居崇副所長

吉居崇副所長

写真:上野一郎工事課長

上野一郎工事課長

耐震性能の確保と地震

工法の成否を左右するジャッキについては,1基あたり押上能力1,500t・ストローク820mmのジャッキを40基製作した。転用することを見越し,今後解体が見込まれる超高層ビルを調査してスペックを決定している。藤澤武志機電課長代理は「計画時に東日本大震災が発生した影響もあり,万が一にも安全な施工方法を模索した」と振り返る。ジャッキシステム操作時の誤操作を無効にし,ジャッキ動作の同調性能を向上させた制御システムを新たに開発して,ジャッキは製作工場と技術研究所で保持能力と動作確認,同調性などを事前検証している。770mmのジャッキダウンを3日間で5回行い,1フロア分の高さを下げる。現場では,ジャッキシステムを管理するコントロールセンターを設け,1ミリ単位で管理を行った。施工中の耐震性能は,建物内部に構築したRC造の壁「コアウォール」が確保する。この壁の周囲に鉄骨製の荷重伝達梁を設置して建物と一体化させ,耐震性能を得るのだ。

昨年12月7日,三陸沖を震源としたM7.3の地震が発生し,東京でも震度4を 記録した。藤澤課長代理は,すぐさまコントロールセンターに駆けつけ,荷重伝達梁を伝ってコアウォールが揺れを受け止めている様子を確認したという。「想定通りの結果で自信につながりました。カットアンドダウンの信頼性を証明できたと思っています」。

写真:藤澤武志機電課長代理

藤澤武志機電課長代理

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写真:コントロールセンター

コントロールセンター

写真:コアウォール

コアウォール

写真:1,500tジャッキ

1,500tジャッキ

写真:地上部での解体の様子。解体用バックホウが7台で解体を行った。1フロアあたり15tトラックで約30台のスクラップと10tダンプ約60台分のコンクリートガラを搬出した

地上部での解体の様子。解体用バックホウが7台で解体を行った。1フロアあたり15tトラックで約30台のスクラップと10tダンプ約60台分のコンクリートガラを搬出した

写真:りそな・マルハビルの外観定点写真。時間を追うごとに高さが低くなっていった

りそな・マルハビルの外観定点写真。時間を追うごとに高さが低くなっていった

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これからの解体,アスベストとの戦い

KC&D工法に挑む以前,現場を悩ませたのは,耐火被覆材や耐火間仕切材などに使用されたアスベストだった。高度経済成長期に建設されたビルには,アスベストが多用されており,その解体工事ではアスベスト処理を避けては通れない。アスベスト除去作業は法令で実施要領が厳格に定められているため適切な措置を講じたうえで除去を行う。

現場のアスベスト除去面積は13万m2にもなり,その量は1万m3にものぼった。「これまでには考えられない数量。おそらく当社でも過去にない数字だろう」と吉岡所長はうなる。アスベスト除去にあたった作業員は1日最大250人,延べ2万人を超えた。「これだけの人数を確保するのは至難の業。処分地も足りず,遠いところでは山口県までトラックを走らせた。解体工法は確立されつつあり,アスベスト処理が今後の超高層解体現場のクリティカルパスになる」。

社内外から1,000人以上の見学者が訪れた解体工事は, 1月末に無事完了した。周辺環境に配慮して工期短縮に励んだ結果,1件の苦情もなく2ヵ月半の工期短縮に成功している。「りそな・マルハビルを施工した当社OBの方が,現場に立ち寄られたことがありました。感慨深げに施工当時の苦労話をされていたのが印象的です」と吉居副所長は振り返る。月報1979年2月号には,「お濠の水面に映える高層ビル」として当時最新の技術をもって施工された内容が紹介されている。「りそな・マルハビルは解体が惜しいほど,しっかりとしたつくりでした。素晴らしい仕事をしていたと思います」と吉岡所長。30余年間,都心の一等地で景観をつくってきたビルは,静かにその務めを終えた。

解体工事が完了する少し前に,A棟の新築工事も当社JVが施工を担当することが決まった。現場では既に山留工事が行われている。

写真:月報1979年2月号

月報1979年2月号

写真:更地になった現場。これから新築工事が始まる

更地になった現場。これから新築工事が始まる

  
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