北陸新幹線、富山駅高架橋
立山連峰をはじめとする急峻な山々に囲まれ,深い湾を抱くように平野が広がる富山県。
豊富な自然と全国トップクラスの居住水準を誇り,住みよい環境を形成している。
この地で,北陸新幹線の建設が進んでいる。
各地で建設の槌音が響くなか,当社JVは,富山駅で高架橋工事を行っている。
狭隘な施工ヤードと記録的な豪雪。厳しい条件下で工事に挑む現場を紹介する。
工事概要
北陸新幹線、富山駅高架橋
- 場所:
- 富山県富山市城北町地内,明輪町地内
- 発注者:
- (独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構
- 規模:
- 場所打RC杭(φ1,100~2,000mm)370本,
ラーメン高架橋19連,橋脚RC9基,T桁RC23連,
PPCT桁(L=24m,30m,34m,35m)4連,
PPC箱桁(L=58m)1連,落下物防護工262m - 工期:
- 2009年11月~2012年9月
(北陸支店JV施工)
立山連峰のふもとで
北陸新幹線は,長野市・富山市・福井市などを経由して東京~大阪間を結ぶ路線である。1997年に東京から長野までの区間が部分開業して長野新幹線として営業しているほか,現在,2014年度末の開業を目指して長野~金沢間の延長約228kmで整備が進められている。
このうち当社JVが施工を担当している工事の一つが「富山駅高架橋」。富山駅の在来線路を振り替えた跡地に延長約1,350mの新幹線高架橋を建設する。2009年に開始した工事は,杭打設から掘削,橋脚構築と進み,現在は主に梁やスラブの施工を行う。残る工期は5ヵ月ほどで,工事はまさに佳境を迎えている。富山駅周辺では,新幹線工事と同時に連続立体交差事業が行われており,在来線と富山地方鉄道の高架化で駅の南北をつなぎ,駅前広場を整備して街の活性化が図られる。
「新幹線の開業は,富山県民が待ち焦がれた長年の夢なのです」と語るのは,監理技術者として工事を統括する高嶋晋工事事務所長。入社以来,関東支店を中心に数多くの鉄道工事を手がけてきた。富山県出身だが,北陸の工事にはこれまで縁がなかったという。「生まれ故郷,富山での初めての工事が北陸新幹線とは思いだにしなかった。立山連峰のふもとで仕事ができることに誇りを感じながら,県民の皆さんに喜んでもらいたいという一心で工事を進めています」。北陸新幹線は,北陸の利便性向上はもちろん,日本海側の交通網を強化するほか太平洋側で災害が発生した際の代替ルートにもなると高嶋所長は力を込める。「工程は非常に厳しいですが,開業時期が決まっていますから,絶対に遅らせることはできません」。過酷な施工条件下だが,様々な工夫を凝らして工事を進めている。
狭隘な施工ヤードと連立事業との競合
この現場の最大の特徴が,狭隘な施工ヤード。東西の延長約1.3km間に工事用道路は幅員4mのものが一本しかなく,進入路も一ヵ所のみ。これを3つある在来線の高架化工事で共用している。その上,同時施工を行うため資機材置き場などの施工ヤードが確保できない。ラーメン高架を分割して施工することで,ヤードをやり繰りし,クレーンを橋脚の間に据え付けて施工していく。林立するクレーンの数は20台にもなる。
高嶋所長は「この現場では,工事用道路とヤードの確保が生命線。細やかに作業間で連絡調整しながら工事を進めています」と話す。PC鋼線を使うため強度が高く,道路や川を跨ぐスパンが大きな箇所に適用されるPPC桁工事では,当初,施工ヤードを設けて桁を製作し,2基の360tクレーンで吊り上げて据え付ける計画を立てていた。しかし,ヤードを確保できず,支保工を使った場所打ちに変更を余儀なくされた。「もともと厳しいヤード状況でしたが,施工ヤードどころか,クレーンを据え付ける場所さえありませんでした」。(高嶋所長)
他工区に隣接する工区の起点箇所を担当する今井俊一郎工事課長は,所内のみならず在来線の高架工事,隣接工区とも作業調整を繰り返す。「狭い現場だからこそ,せめて心は広く持ちたい」と前向きに対応しながらも施工方法に工夫を凝らした。通常,柱の構築では,スラブ下まで一息に施工するが,この場合,クレーンが旋回できなくなる。敢えて柱を低く構築し,後に打ち継ぐことで旋回スペースを確保している。「ここは営業線近接工事でもありますから,施工には慎重を期しています。ただ,近接工事という意味ではルールに則って粛々と進めれば結果はついてくる。ヤードの問題は,工夫しなければ工事が進まない。各担当者が智恵を絞っています」。
豪雪とコンクリート打設
この冬,富山では26年ぶりに積雪量96cmという記録的な豪雪に見舞われた。現場には,除雪車が常備され,毎日の作業は除雪から始まる日が続いた。施工数量が大きな駅部工事を担当する仲高信義工事課長代理が,最も苦労したのはコンクリート打設時の降雪対策だ。「昨年末にスラブのコンクリート打設を予定していました。大量のコンクリート打設ですから絶対に中止できません」。
打設が行われたのは,12月27日。予報では,当日は天候が回復するものの打設前に寒波が到来するという。1,260m3のコンクリートをポンプ車4台で打設する計画で,この数量のコンクリートを手配するには,事前に入念な用意が必要になる。万が一中止になれば,年末年始を挟むこともあり,工程の大幅な遅れが懸念された。
想定していた寒波が訪れたのは12月24日。打設場所が狭ければ積雪防止のために屋根をつけることも可能だが,約1,600m2の広さでは難しい。スラブ下は,支保工をシートで覆いジェットヒーターで給熱。スラブ上の作業は打設日まで毎日,除雪とシート養生をしながら進めた。加えて,打設前夜は水温12~13℃の地下水を汲み上げて散水を行った。散水の様子を仲高工事課長代理は振り返る。「舞い降りる雪を溶かしていく感覚でした。交代しながら作業員と7人ほどで一晩中撒き続けました」。甲斐あって,当日には雪は止み,無事にコンクリート打設を終えた。
追い込みの時期に雪が工程に与えた影響は大きい。待ち望んだ春の訪れに,遅れを取り戻すと挽回を誓う高嶋所長には,好きな言葉がある。『何も咲かない寒い冬は,下へ下へと根を伸ばせ,やがて大きな花が咲く』。箱根駅伝でも有名な山梨学院大学上田誠仁監督の銘に,厳しい冬を乗り越えた現場の躍進を思い浮かべるのだという。「豪雪の影響で作業が3割しか進まなければ,ぐっとこらえて3割確実に進めてきました。所員も協力会社も努力を続けている。無事に完工させてみせます」。
現場の懸命の作業は,竣工する2012年9月まで続く予定だ。
現場では,毎日の朝礼前に平均台などを使ったサーキット運動を行い,事故防止に取り組んでいる。高嶋所長が考案し,10年ほど前から担当現場には欠かさず取り入れてきた。
この運動は,作業員全員が平均台の上の歩行や安全帯の脱着訓練,鉄棒ぶら下がりなどを行うコースを一周して作業に備えると同時に,高嶋所長が全員の様子や顔色をみて体調を確認する。調子が悪そうな作業員には,配置変更を指示している。「安全作業には体調管理が欠かせません。平均台はその日の体調把握のほか,狭所での作業に必要なバランス感覚を養うのにも役立ちます」と高嶋所長。高架橋の工事では,高所足場上の作業が多くなる。体調不良による転落事故なども起こりうるため,こうした事故防止にも役立つという。労働基準監督署に評価されているほか,労災事故防止の一例として新聞にも取り上げられた。