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On Site:BIMが引き出す現場の先取り力 佐野市新庁舎建設工事

BIMはすでに当社の130を超える現場で導入が進んでいる。BIMソフトの活かし方は工事によってさまざまだ。
着工間もない佐野市新庁舎建設工事では,所長主導のもと,工程のシミュレーションにフル活用されている。
現場が切り拓くツールの新たな可能性に着目した。

所長自らBIM導入を発案

第一声は「おもしろそうだと感じたから」。現場へのBIM導入の動機をそう語るのは,栃木県・佐野市新庁舎建設工事を率いる松浦稔国所長だ。前任地の現場でBIMに接し,可能性を感じた。今回の現場を立ち上げるにあたり,当社建築管理本部BIM推進グループへ技術支援を呼びかけた。

JR佐野駅前で建設が進むこの工事が始まったのは,2013年10月のこと。地上7階・地下1階・塔屋1階で延床面積2万m2超の規模となる。地下1階部分に免震装置を設ける柱頭免震構造となっており,現在は地盤改良工事を終え,二次掘削が進行中だ。

【工事概要】

佐野市新庁舎建設工事

場所:
栃木県佐野市
発注者:
佐野市
設計・監理:
佐藤総合計画・都市環境建築設計所、特定設計業務共同企業体
規模:
SRC造一部S造
B1,7F,PH1F
延べ20,440m2
工期:
2013年10月~2015年8月

(関東支店施工)

着工4ヵ月,早くも現れた成果

この現場では施工図の作成を4人体制で行う。一般的な人数と言えるが,異なるのは総合図を完成させるまでのスピードだ。

図面はまず,建築の施工会社によって「施工図」が作成される。これに電気・設備等の工事協力会社が担当部位を描き加え,すべての情報が集約された「総合図」となる。多くの手が入るため図面完成までには検証と修正に大幅な時間がかかるのがつねだ。

この現場は着工から4ヵ月で地下階から地上2階,さらに屋上階の総合図の検証を終えた。通常6ヵ月ほどを要する作業だ。この2ヵ月の短縮にBIMソフトならではの「3D総合図」の可能性がある。

図版:BIMソフトでの施工図作成

BIMソフトでの施工図作成。図面は4人体制で描いている

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図面作成のプロセスが変わる

これまでの現場では,図面の作成と検証を平面図と展開図(立断面図)で分けて行っていた。まず平面図でチェックし,これを踏まえて展開図が作成・検証される。このとき構造・設備などの干渉部分が見つかれば,平面図に戻って修正が必要となる。施工図から総合図まで,図面の作成はこうした手順の繰り返しだ。ここに費やされる人員や時間も少なくない。

3D総合図はこのプロセスを変えた。3DモデルがベースのBIMソフトでは平面図と展開図が同時に作成できる。これにより,今まで段階的だった検証と修正が一度に行えるようになったのである。

松浦所長にとって,自身が統括する現場でのBIM導入は初めてのケース。「まだまだ手探り」としながらも,手ごたえを感じている。「所員全員がこの環境に慣れれば,省力化はさらに進むはず」

図版:3Dで描かれた図面

3Dで描かれた図面。「2Dで作成するのとほぼ同等の操作性」(松浦所長)

現場発のBIMソフト活用術

さらにこの現場では,工程のさまざまな検証にBIMを取り入れている。工区割の決定プロセスはそのひとつ。

現場を区切る工区割は,1日に打設可能なコンクリート数量と躯体容積にもとづいて分けられる。作業に無駄がない,適切な打ち継ぎ位置(区割線)が決まるまで,何度も試算をやり直すことになる。煩雑な作業にかかる手間も時間も大きい。

ここでも,全4工区の割り出しにBIMソフトが活躍した。3Dモデルにコンクリート数量の計算式を組み合わせたプログラムを新たに構築。区割線の配置から直ちに数量が算出されるので一目瞭然だ。図面の情報と資材の物量を連動させるこうした手法はさらに,配筋や作業足場の構築シミュレーションにも取り入れられている。

図版:3Dでの配筋シミュレーションの全体と部分

3Dでの配筋シミュレーションの全体と部分。図は柱頭状の形が特徴的な免震装置付近の部位。複雑な配筋でも職人に伝達しやすい

図版:足場の構築の3D検討図

図版:コンクリート数量にもとづく工区割検討図

足場の構築の3D検討図(左)とコンクリート数量にもとづく工区割検討図(右)。松浦所長の発案からBIMソフトにプログラムを追加。「見た目と数量で直ちに効用がわかるのは大きい」(松浦所長)

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ツールが現場を活かし,現場がツールを活かす

松浦所長によれば,3Dで検討できる最大のメリットは「戦略が練れること」だという。「数量で直ちに実感できることが,検討の幅を広げます。たとえば足場の組み方もバリエーションで検証できると,仮設コストを減らすための策が講じられるようになります」

さらに3Dによって作業員に対する説明もしやすくなった。現場事務所には80インチの大画面モニタを設置し,協力会社との疎通を強化している。「職人たちも3Dだとイメージがつかみやすいようです。より精度の高い仕事につなげてほしい」

こうした拡張性こそBIMソフトの賜物と言えるだろう。と同時に,現場ならではの視点が新しい活用法を生み出してもいるのである。ツールが現場を活かし,現場がツールを活かす――BIMの可能性は今後も広がりそうだ。

図版:新たに導入した80インチの大画面モニタで,躯体と設備の干渉部位を確認。3Dで表示されるため,現場内での疎通はスムーズだ。このモニタは近隣説明会にも活用されており,わかりやすいと評判だ

新たに導入した80インチの大画面モニタで,躯体と設備の干渉部位を確認。3Dで表示されるため,現場内での疎通はスムーズだ。このモニタは近隣説明会にも活用されており,わかりやすいと評判だ

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View Point 佐野市新庁舎建設工事・松浦稔国所長

これまでの現場では,所員たちに「3D思考」で図面を読むことを説いてきました。2Dの図面からでも頭のなかに空間を立ち上げられる感覚を養ってほしいと考えていました。こうした方針はまさにBIMの特性と合致するものです。

現場が始まるにあたって建築管理本部からは定期的に専門家(BIMマネージャー)を派遣してもらっていますが,常駐ではありません。適度に放任してもらったほうが所員への普及が進むと考えたからです。施工図の担当者にも2日間ほど研修を受けてもらったところ,2Dが使えれば,3Dもまったく問題なく操作できるとわかりました。

目下の成果として,3D総合図の検証が格段に効率化できたことはとても大きいと感じています。BIMソフトは一元管理を旨としているから,誰が修正しても最新版の図面はつねにひとつ。この一気通貫性が早くも発揮されました。

図版:松浦所長

松浦所長。これまで〈早稲田大学本庄高等学院95号館〉〈芝浦工業大学大宮キャンパス国際学生寮〉などの現場に従事

その分,図面などの確認は念入りに行っています。修正が入れば,かならず一度出力して,皆で見直す。ツールの汎用性が高いからこそ,監理,協力会社,お客様がひとつのテーブルでやりとりすることが大切なんです。

今回,私たちからも提案して,足場や工区割のシミュレーションのために,BIMソフトの機能を拡張してもらいました。その結果,すでに省力化できていますが,これからもBIMのさらなる可能性を引き出したいと考えています。

図版:2次掘削中の現況

2次掘削中の現況

図版:2次掘削の3Dモデル

2次掘削の3Dモデル

図版:BIMソフト上での建て方シミュレーション

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