新川防災公園・多機能複合施設(仮称)建築その他工事
全国各地で公共施設の改修が盛んに行われている。
高度経済成長期に整備された施設が,半世紀を経て更新時期を迎えているためだ。
なかでも,注目されているのが東京都三鷹市の「新川防災公園・多機能複合施設(仮称)」。
公共施設集約と防災公園整備を一体で行い,公園広場の地下に体育施設を設ける。
国庫補助金が交付される特殊なスキームに,全国の自治体の注目度が高い。
【工事概要】
新川防災公園・多機能複合施設(仮称)建築その他工事
- 場所:
- 東京都三鷹市
- 原発注者:
- 三鷹市
- 発注者:
- 都市再生機構
- 設計・監理:
- 都市再生機構
- 実施設計:
- 日本設計
- 規模:
- S・SRC・RC・PC造 B2,5F,PH1F
延べ23,634m2 - 工期:
- 2013年10月~2016年7月
(東京建築支店施工)
全国の注目を集める事業スキーム
東京都三鷹市は,東京23区に隣接するベッドタウンとして発展してきた。人口は18万人あまり。利便性と豊かな緑が調和する公園都市で,太宰治などの文豪が住んだ文学の街としても知られる。
三鷹市には現在,600棟以上の公共施設が存在し,延床面積はおよそ30万m2。その多くが更新時期を迎えている。こうしたなか進められているのが「新川防災公園・多機能複合施設(仮称)建築その他工事」である。三鷹市役所に隣接する旧多摩青果市場跡地(三鷹市新川)で防災公園の整備と公共公益施設の機能更新・再編を一体的に行う。敷地約2haのうち1.5haを防災公園として整備し,防災公園の地下には2つのアリーナやプールなどのスポーツ施設を設ける。残る0.5haには5階建ての多機能複合施設(仮称)を建設し,総合保健センターや社会教育会館,福祉会館など点在していた老朽化施設を集約する。
事業主は三鷹市で,都市再生機構(UR都市機構)が整備計画を受託した。最大の特徴が,UR都市機構の「防災公園街区整備事業」を活用している点だ。この制度は既成市街地の防災機能強化を目的に,地方自治体の要請に基づきUR都市機構が防災公園と市街地を一体的に整備するもので,国土交通省から国庫補助金が交付される。用地取得などの手続きはUR都市機構が行うため,財政的にも業務量的にも地方自治体の負担が少ない特殊な事業スキームといえる。
公共インフラの更新は財源不足に悩む全国の自治体が抱えている課題だ。特に東日本大震災以降,市民の防災・減災意識が高まり,耐震性向上などの機能強化も求められている。この事業ではこうした課題を包括して解決できるため注目度は高く,現場には全国の自治体からの視察が後を絶たない。
地下に大空間をつくる
当社は事業のうち,建築の施工を担当している。2013年10月にはじまった工事は,本体の施工を終えて2016年2月に一部完成検査が行われ,今後は外構工事が続く。現場を統括してきたのが矢嶋克彦所長と見吉浩一副所長である。矢嶋所長が意匠,見吉副所長が構造関係と担当を棲み分けて工事を進めてきた。「建物が複雑で当初から相当な業務量になるのは明らかでしたので思い切って分業することに決めました。結果としてこれがうまくいった」(矢嶋所長)。
総合体育施設が防災公園の地下に設けられるのは前例がない。床面積9,000m2を12m掘削したところに各体育施設を設け,コンクリートで屋根を構築して植栽を施す。当然,地下工事は膨大な施工量となり,掘削土量は11万m3におよんだ。現場は,SMW機を3セット投入して山留工事を実施すると,掘削工事ではダンプトラックを1日あたり最大120台集め,700m3/日の残土搬出を行って実働150日で地下掘削を完了させた。ここにコンクリートで地下躯体を構築した。小田原俊郎工事課長は着任時,掘削された広大な地下空間を目の当たりにして「大変なところに来た」と感じたという。「躯体コンクリートの量は3万3,000m3。この大空間をどう形づくっていくか想像できなかった。一つひとつ品質よく打設することに全力を投入しました」。コンクリート打設は週2回のペースで行われ,合計350回を超えた。同時に,打継ぎ部のコンクリート配合に工夫を加えることで漏水防止など地下構造物の機能確保に努めた。
構造形式のオンパレード
現場の最大の特徴が,多様な構造形式が採用されている点だ。構造形式は使用用途や高さ,スパン,荷重に応じて異なってくるが,地下大空間には2つのアリーナとプール,武道館などのスポーツ施設が収められる。メインアリーナはアーチ屋根鉄骨,サブアリーナがトラス鉄骨,多機能複合施設は免震鉄筋コンクリート造,ほかにもプレストレス(PC)梁,ボイドスラブ,アンボンドPCなどが揃うまさに構造形式のオンパレードだ。「これだけ様々な構造が並ぶ現場もなかなかないでしょう。その分躯体工事は複雑になり,パズルを解くように綿密な施工計画を練って実施してきました」と見吉副所長はいう。各構造形式の施工順序を調整し,躯体を支える山留アースアンカー解体のタイミングなどを検証した。なかでも難度が高かったのがメインアリーナのアーチ屋根鉄骨工事だった。特注の鉄骨部材をピン留めでつなぐために施工精度がミリ単位で求められた。大規模なステージを構築して施工精度を高め,躯体工事後にはその仮設材を仕上げ足場に盛り替えて天井と壁工事を効率的に完了させた。
技術的な課題のほか,深刻だったのが全国的な作業員不足だ。施工数量と協力業者の労務状況を考慮し,躯体工事を使用用途・構造種別で4工区に分割した。鳶・土工が3社,鉄筋4社,型枠大工6社に分割発注することで必要労務数を確保した。「これまでの現場で一緒に汗をかいてきた各協力業者が,優秀な職長・作業員を派遣してくれた。そのおかげで厳しい工程も乗り越えることができた」(見吉副所長)。
工事の区切りで行われた検査業務も見逃せない。通常の検査に加えて補助金認定に際する国土交通省の検査も行われる。「補助金が下りないことにもなりかねないので写真1枚でも絶対に手は抜けない」と検査業務を担当した山口智道工事課長。社内検査,製品検査,監理者検査,発注者検査など現場では延べ460回の検査が行われた。
全社支援で真正面から解決
「苦労したことを挙げれば切りがない」と見吉副所長は振り返る。現場は着工から職員不足に悩まされ,その状況で発注者や設計者,監理者,別途業者など70人以上が集まる定例会議で幹事会社を任された。人員が増強されても現場職員はベテランと20代の若手に二極化され,中間層が着任することがなかった。嶋田友紀工事課長は繁忙のなか若手の教育も意識した。「段取りが悪ければ協力会社はついてこない。次の工程を意識しながら現場管理するよう若手に指導しました。ただ,本来いるべき中間層がいないことで若手には負担も大きかったと思います」。
こうしたなか,現場がここまで無事に来られたのは鹿島全社を挙げた支援によるところが大きい。本社・支店の各部署が,施工計画や調達業務などの支援を行うことで工事が円滑に進んだ。コンクリートの品質や地下躯体における湿気対策など様々なシーンで技術支援を受け,根拠をもって提案・協議にあたることができた。現在ではその積み重ねが関係者との信頼につながっていると矢嶋所長と見吉副所長は声を揃える。「全社の支援を受け,どんな問題も真正面から解決できると確信した。これが現場運営の大きな自信になった」(見吉副所長)。工事を振り返り,公共性の高さゆえに市民の期待を感じたと矢嶋所長は話す。「そのうえ,発注者・設計者をはじめとして関係者は厳しい目をもつプロフェッショナル揃い。“鹿島の仕事”を見せたいという意気込みでやってきた。一部完成し,皆さんが出来栄えに喜んでくれている。一緒にやってきた職員たちと胸を張りたい」。
全体の完成まで残すところわずか。あと少し,工事は続く。