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KTビル大解剖…②  都市型中規模オフィス,最新の省エネ性能

外皮性能を高める開口部のデザイン

KTビルには当社の省エネ技術の粋が投入されている。KTビルと,隣接するAKASAKA K-Tower,鹿島本社ビルとの一見して異なる違いは開口部のデザインにある。AKASAKA K-Towerと本社ビルはアウトフレーム内がすべてガラスであるのに対し,KTビルはパネルとガラスが交互に並ぶ構成になっている。

この窓のかたちはオフィス内部から見た際の外皮の要求性能を高めるため,採光量や空調性能などから総合的に導かれたものだ。また,アウトフレームはオフィス内部への日射を遮蔽する庇の役割を果たし,東面の窓にはより高い断熱性能と自然採光を両立するガラスブロックを用いている。このように,KTビルの外観デザインには,建物外部からの負荷をできるだけ抑える発想が込められている。

明るさ感とはなにか

開口部のボリュームを抑えることは採光量を減らすことにもなる。執務環境に影響は出ないのだろうか。

じつはこうしたデザインは,オフィスに良好な光環境をつくり出す重要な役割も担っている。いま主流とされているカーテンウォールは,直射日光のまぶしさから執務中ブラインドを下げたまま使われる例も多く見られる。これを踏まえ,KTビルでは開口部をオフィスの明るさの感じ方を支配する重要な要素と位置づけ,天井照明による照度設計ではなくオフィス空間全体の明るさの感じ方を照明計画に採り入れた。

例えば私たちは照明が十分に灯っていても,暗いと感じることがある。壁面に光が当たっていなかったり,インテリアにダークトーンの素材が用いられていたりと原因はさまざまだ。逆に天井照明の照度が抑え気味でも,間接照明が壁に反射することで明るいと感じることもある。「明るさ感」とは照明と空間を一体的に捉えて省エネを図る,新しい基準なのだ。

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写真:執務空間の明るさ感を支える照明計画

執務空間の明るさ感を支える照明計画。天井照明だけに依存せず,かつ低電力で成り立つ一体的な光環境のデザイン

ガラスブロックのポテンシャル

建物東面の窓にガラスブロックが用いられているのは断熱効果のためだけではなく,オフィス内部の明るさ感確保の視点によるところが大きい。光をそのまま透過する通常のガラス窓と違い,ガラスブロックはやわらかく光を拡散する。また,狭隘敷地では隣地の建物との見合いの防止にもなる。ガラスブロックは光を透過するブラインドの役割を果たしているのだ。

日没後には,外側のフレームからの夜間照明が灯り,ブロック面が行灯のような表情をつくり出す。夜間でもガラス窓が“黒い壁”化せず,室内の閉塞感を和らげてくれる。

図版:窓周り断面図

窓周り断面図
開口部に採り入れられたガラスブロック。日中には直射光線を拡散し,日没後は外部照明で明るい壁面をつくり出す。明るさ感の追求から導き出されたオフィスビルの新しい発想だ

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写真:昼間の自然光による効果

昼間の自然光による効果

写真:夜間ガラスブロック照明による効果

夜間ガラスブロック照明による効果

写真:夜間ガラスブロック照明なし

夜間ガラスブロック照明なし

省エネの犠牲にならない空間づくり

KTビルでは,明るさセンサと人感センサからなる当社独自の調光制御システムと,多様な照明を組み合わせることで,これまでにない光環境を構築した。ワーカーの滞在中,天井照明やガラスブロック照明,壁面の間接照明により総合的に空間の明るさをコントロールする。残業時間の閑散状態に消灯範囲が増えても,明るさの感じ方にもとづき最適な点灯設定が導き出される。ワーカーの知的生産性が省エネの犠牲にならない発想が採り入れられている。

汎用性を備えた空調システム

オフィスの空調設備は一般的に,空間内部の負荷処理用と換気のための外気処理用から構成される。KTビルの空調には,ビル用マルチエアコン(ビルマル)と呼ばれるシステムが採り入れられた。ビルマルは都市部の中小規模ビルで採用件数が最も多い。都市型中規模オフィスへの展開を視野に,最も使われているシステムを当社独自に開発した省エネ制御システムと組み合わせた。建物内の空調負荷や外部の気象条件に応じた冷媒温度の自動可変制御や,空調のオートストップ制御,室内のCO2濃度に応じた外気量制御といった機能も備えられている。

KTビルの空調システムは,ほぼすべてのフロアで,モジュールごとにコントロールされる仕組みになっている。徹底した規格化によって,後の更新やメンテナンスも容易になった。またフロアごとに系統が独立しているため,テナントビルへの適用にも有効である。

図版:基準階の空調システム平面図

基準階の空調システム平面図
モジュールに沿って冷暖房,温度の切替えができる基準階平面の空間系統図。施工上の合理性が高く,かつ,使い勝手を損なわない細やかなゾーニング計画にもとづく

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図版:ビル用マルチ空調システムの省エネルギー制御

ビル用マルチ空調システムの省エネルギー制御
中小規模オフィスで最も汎用性の高いビル用マルチ空調システムを採り入れた新開発の省エネ制御システム。外気と内部負荷の処理を自動的にコントロールすることで従来の同型システムに比べて2倍以上の効率を実現した(当社比)

進化するインターフェース

KTビルの執務環境は,ワーカーの密度や室内の照度,温度等に応じて,モジュールごとに自動制御されるシステムで構成される。刻一刻と変わるコンディションは人感センサや昼光利用センサ,室温センサを通じて情報化される。この情報はネットワーク上で共有できるため,ワークスタイルに応じた環境設定のアレンジも可能だ。KTビルでは設定変更のインターフェースにタブレット型のスマート端末を導入しており,操作の簡便さに加え,モジュールごとの稼働状況も把握できる。

写真:ワーカーオリエンテッドのオフィス環境調節用インターフェース

図版:ワーカーオリエンテッドのオフィス環境調節用インターフェース

ワーカーオリエンテッドのオフィス環境調節用インターフェース。わかりやすいグラフィックで稼働状況を把握できるため,省エネの啓蒙にも役立てられる

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データの蓄積が省エネビルの未来を拓く

テナント型のオフィスは,入居者誘致のために過度にハイエンドな仕様で設えられる場合が多い。これを顕著に示すのがコンセントの電源容量だ。KTビルでは入居者となる東京土木支店・東京建築支店の使用状況データを事前に収集・分析し,適正化を図った。使い勝手に合わせた設備容量の選定は実稼働における設備機器の効率が上がり,省エネにもつながる。

KTビルにはこのほかにも当社が蓄積したエネルギー実績のデータが,さまざまなかたちで反映されている。供用後の現在もまた新たな視点でデータが収集・分析されており,省エネビルの設計に活かされていくのである。

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