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Scene 4 Interview 「触れられる」ものづくり

愛知県とのジブリパーク構想の立ち上げ以来,
5年以上の時間が経過し,ついに1期部分がオープン。
ようやくこのときを迎えられて安堵しているという
宮崎吾朗氏に,ジブリパークへの思いや見どころ,
つくる過程について聞いた。

図版

宮崎吾朗
ジブリパーク監督

photo by Studio Ghibli

場所の記憶を残す

「テーマパーク」に定義はありません。ジブリパークを構想するにあたっては,いわゆるアトラクションのある施設型のものよりも,散歩や運動などリラックスやリフレッシュするために行く「公園」の側に軸足を置いたものをつくりたいと思っていました。それがいま,まず半分できたのだなと実感しています。

この場所は,1970年に「愛知青少年公園」として誕生して52年,愛知万博の会場となった2005年からは17年が経過していて,たくさんの人の思い出や記憶が残されています。つくる際にその公園の記憶を消してしまっていいのだろうか。だから,古いものを壊して新しいものをつくるだけの提案はできませんでした。なるべく未整備だった場所を探し,既存の施設を活かしたり少し形を変えることで,記憶の断片は残していったつもりです。

また僕は,制約があったほうが発想が豊かになるとも思っています。原作がある映画をつくるか,オリジナルの映画をつくるかと聞かれたら,僕はたぶん原作つきのほうを選ぶんです。与条件のあるなかでものを考え発想することが好きですから,発想は同様だと思います。

公園の記憶。愛知万博の会場となった「モリコロパーク(愛・地球博記念公園)」と,
「ジブリパーク」の名前がともに記されたメインゲート

photo: エスエス 内山雅人
改ページ

結論は任せてきた

今回取り組んだリベット施工や大津壁,タイル,さまざまな金属造形などに,いったい僕がどれだけこだわったのかと言うと,あまりこだわってはいないのですよ。絶対にこうしてとは,言っていないつもりなんです…(笑)。でも建築や土木の仕事は,30年,50年,それ以上の長いスパンで残る。つくり手がいなくなってもちゃんと残っているものをつくってほしい,責任を持って取り組んで欲しい,とは話したことがあります。

設計者や鹿島の皆さん,職人さんたちは,原案に対して「こうしてはどうか」と案を出してくださる。そうしたやり取りを繰り返してきましたが,結論はいつも信頼して任せてきました。結果,タイルなどは僕の想像を超えた素晴らしいものができました。任せられた側が自信を持って取り組んでくださったと思います。ですから,僕は,つくり手のトーチング(火を灯す),の役割をしてきたと思っているのです。

「触れられるものをつくる」こと

そしてこうしたものやものづくりを見せることもいいことだと思っています。ジブリの大倉庫は夕方,ガラス越しに外から丸見えですけれど(笑),2期工事の足場もよく見えます。でもそれでいいと思うんですよね。由緒正しいテーマパークだったら外から絶対見えないようにするのかもしれませんが,こうした隙だらけな,ものをつくっている過程がよくわかることも大事です。

すべての発想のスタートは,「子どもたちが喜んでくれるもの」。これは以前にも鹿島さんと一緒につくった,「三鷹の森ジブリ美術館」からあまり変わってない考えです。「美術館」をつくるときに書いたメモを最近見たスタッフが,言っていることがいまと同じですねって話していました。そこには「子どもたちを中心にした人々にとって一瞬でも解放される場を提供したい。日常のなかで失われた何かを備えた場所であること。実感できる世界」と書いてあった。あの頃より表現や,仕掛けのつくり方などの知恵はつきましたけど,根本のところはあまり変わっていません。

三鷹の森ジブリ美術館
(東京都三鷹市。2001年竣工)

©Studio Ghibli

子どもは,触って遊べるとか,触って体験できることを面白がるものです。これほどのバラエティに富んだ建材,大津壁や,タイル,いまあまりやらないテラゾーや塗りの壁,木や石…たぶん子どもたちの身近な普段の生活にないものばかりだと思います。完成したものを見て,やはりそういうことでよかったと,自分でも思い直しました。見るだけではない,「触れられるものをつくる」ことは,とても大事だと僕は改めて思うんですよ。

子どもに限らず,いい仕上がりだなぁとか言って,思わずほれぼれしてなでたくなるような建物。そんなもので溢れていたら,都市は本来とても豊かな空間になると思っています。

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