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都市をはかる:第4回 圏域をはかる

江戸時代,江戸・京都・大坂などの城下町では町の出入り口の木戸付近に,治安維持のため「木戸番屋」と呼ばれる詰所があったそうです。そこには,「番太」と呼ばれる番人がおり,彼らは木戸の開閉をする傍ら,内職として生活雑貨,駄菓子や焼き芋などを商っており,木戸番屋は今でいうコンビニエンスストアのような場所であったようです。

現代のコンビニは食料品や生活雑貨を販売するだけでなく,宅配便の受付,公共料金の支払いなどもでき,都市の生活を支える重要な場所となりました。全国に約5万2,000店(2015年4月現在)が構えられ,月間の来客数は延べ約12億4,700万人(2015年4月期)*1と,その数からも私たちの生活と密接に関わっていることが裏打ちされています。

コンビニは「最寄り施設」とも呼ばれ,デパートのように,遠くても魅力度の高い店舗まで行くということはあまりなく,今いる場所から最も近い店に行くことが多い施設です。そこで今回は,ひとつの店舗が最寄りとしてカバーできるエリアを「圏域」と呼び,その範囲をはかり,店舗の配置について評価してみます。この圏域はコンビニが持つ「商圏」と考えられ,店舗経営にとっては重要な指針と言えます。

*1 数値はいずれも日本フランチャイズチェーン協会調べ

コンビニがないエリアをはかる

図1は京都の中心地(158店)と上野周辺(215店)の各コンビニの圏域を塗り分けたものです。この図は,街路を移動する距離を基に描いた図ですが,一般に圏域を描く場合は,「ボロノイ図」という領域分けの方法が用いられます(図2)。コンビニの分布は,店舗数と密度を考慮した「平均最近隣距離」という数値を求めると,パターンの違いを定量的に評価できます。この数値が1より大きいと集中,小さいと分散,約1だとランダムと言えるのですが(図3),ここでは京都が0.927,上野が0.966となり,同じ程度のランダムな分布パターンとなっていました。

しかし,図1のように街路を測って圏域を描き,例えばどのコンビニからも500m以上離れているエリアを黒く図示してみると,都市の違いが現れてきます。京都ではこの黒いエリアが遍在しているのに対して,上野では,一か所に集中している様子がわかります。

この黒いエリアは言わばコンビニのない「孤島」であり,新規出店に相応しい場所と言えます。

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図版:図1

図版:図1

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図1 京都の中心地と上野周辺のコンビニの圏域
コンビニの位置をで示し,各店舗の圏域を色で塗り分けた図。黒く塗られた領域は500m以内にコンビニが一軒もない場所で,上野より京都に黒い領域が遍在している様子がわかる

図1のPDFをダウンロード

図版:図2

図2 ボロノイ図とは

図版:図3

図3 分布のパターン

経営者から見たコンビニ配置の評価

コンビニ経営者から見て,コンビニの立地場所はどのように評価できるでしょうか。コンビニの売上げには,既存のコンビニの分布,人口分布,人の流れ等が影響します。ここでは,圏域内の人はどれくらいの時間でコンビニに行くことができるかをはかることで,各コンビニを評価してみます。コンビニにとって,利用者の店舗への行きやすさも売上げにつながる重要な評価となります。

図4は,コンビニ圏域内のすべての地点からコンビニまでの距離の平均値を色で表した図です。平均距離が短いほど赤く,長いほど青くしています。圏域の大きさに関係なく,赤いエリアほど圏域内の中心的場所にコンビニがあり,利用者が行きやすく,売上げが見込めるエリアだと言えます。京都では,四条河原町や烏丸御池周辺,上野では,上野駅から秋葉原周辺は,行きやすい場所にコンビニが立地しています。このエリアはいずれの都市でも繁華街となっており,店舗数が多いにもかかわらず立地のバランスはいいようです。また,京都と上野を比較すると上野に赤いエリアが多いこともわかります。

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利用者から見たコンビニ配置の評価

反対に客として見たときのコンビニの配置はどうでしょうか。自分の家の周辺にいくつかコンビニはあるけれど,どの店も意外と遠いというような人がいるかもしれません。基本的に,コンビニはできるだけ多くの消費者を獲得できるように立地していますが,その場所が私たちにとって必ずしも公平な場所であるとは限らないからです。

図5は各コンビニの圏域ごとに,店から最も遠い地点までの距離をはかり,距離が遠い(利用者にとって不公平な)ほど青く,近い(公平な)ほど赤く表示した図です。いずれの地域も,駅周辺などのコンビニが密集している場所は赤くなっています。このエリア付近では,どこにいてもコンビニを探すのに不自由しないで済みます。また公園や鉄道などにより道路が分断されている部分は青くなっていることもわかります。

一方で,2都市には違いもあります。京都より上野のほうが黄色いエリアが多く,全体的に最も遠い地点までの距離が短いのです。この意味では京都に比べ,上野では,より利用者にとって公平に配置されているコンビニが多いことがわかります。

図版:図4,図5

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図版:図4,図5

図4 経営者から見たコンビニの圏域の評価
コンビニの売上げに直結する重要な要素である「利用者の店舗への行きやすさ」によって,圏域を評価した図。赤いエリアほど,圏域内のすべての地点からの平均距離が短く,利用者を呼び込みやすい店舗がある場所

図5 利用者から見たコンビニの圏域の評価
利用者からすると,便利な場所にあるほうが望ましいという観点から,「店舗から圏域内の最も遠い場所までの距離」がいかに短いかでコンビニの圏域を評価した図。青いエリアでは,圏域内で店舗までの距離が極端に遠く,不公平になる利用者が出る

コンビニの分布パターンを歪める街路

一見すると同じように見えるコンビニの分布パターンでも,経営者,利用者から見たそれぞれの評価には違いが生じることがわかりました。これは,街路形状が都市生活にいかに影響を与えているかがわかる一例です。

こうした利用者,経営者両者の評価も考慮に入れながら,コンビニのような都市施設の配置場所を決めていくことが,私たちの都市を,より良い場所へと変える一助になるかもしれません。

Lecture

経営者から見たコンビニ配置の評価方法

図4では,コンビニの利便性の良さを評価するため,グラフ理論の「近接中心性」という計算法を用いています。
近接中心性=(交差点の数-1)/(コンビニのある交差点から他の交差点までの距離の総和)
の計算式で求められ,今回は左下の図のようにコンビニの圏域ごとに計算をしました。
この数値が大きいほど,店舗の位置は圏域の中心(左下の図の赤いエリア)に近くなり,圏域内のどこからも近く利便性の高い場所にあると言えます。
計算式には交差点の数が考慮されているので,圏域の広さに関係なく,他店との比較ができます。

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利用者から見たコンビニ配置の評価方法

図5では,現代のコンビニを様々なサービスを提供する公共性を帯びた施設ととらえ,施設の配置を考えるときに使われる「ミニマックス基準」で利用者から見たコンビニの配置を評価しています。
ミニマックスとは,最も大きな距離(Maximum)を最小化(Minimize)するという意味です。
今回で言えば,圏域内でコンビニから最も遠い交差点までの距離が短いほど,評価は高くなります。
右下の図で見ると,C店はこの距離が短く,圏域内で最も遠くにいてもさして不自由しませんが,B店ではこの距離が比較的長く,最も遠くにいる人は不便に感じやすくなり,利用者から見ると評価が低くなります。また,A店とF店を比べると,圏域の狭いF店のほうがこの距離が長くなるような場合もあることがわかります。

図版:Lecture

Map data © OpenStreetMap contributors (openstreetmap.org)

図1のPDF版をダウンロード

Profile:hclab. エイチシーラボ

國廣純子,新井崇俊,市川創太を中心とする都市研究室。タウンマネジメント,都市解析,都市・建築設計などに携わりながら,デザインの下敷きになりえる都市・建築の構造や潜在価値を探るために,評価・設計支援ソフトウェアを独自開発している。都市工学を現実のデザインにアプライすべく,ユーティライズを行い,形の特性,空間情報と統計情報などとのブリッジを得意とする。「ICC都市ソラリス展」「杉浦康平・時間地図デジタイズ プロジェクト」など。
http://hclab.jp

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