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座談会 選ばれる病院づくりのパートナーとして

冒頭で紹介した「眼科 三宅病院」は,当社中部支店が設計・施工で手がけたプロジェクトである。完成から1年あまりが経ったいま,三宅理事長より贈られた「感動」という言葉から,これまで当社が提供してきた技術とサービスに対し,大きな自信を得ることができた。この言葉を出発点として,当社がめざすこれからの病院づくりの方向性について展望していく。

伊藤 正

営業本部
医療福祉推進部
伊藤 正 部長

医療福祉施設営業担当。技術者としてのノウハウと営業担当者としての感性を併せ持つ医療福祉分野専門営業のリーダー。

郡 明宏

建築設計本部
建築設計統括グループ
郡 明宏 マネージャー

日本医療福祉設備協会理事,日本医療福祉建築協会法規委員長を務めるなど,ソフト面を含めた豊富な専門知識を有する病院建築のスペシャリスト。

海野裕彦

建築設計本部
建築設計統括グループ
海野裕彦 統括グループリーダー

医療施設の設計担当。豊富な実績を有する病院建築設計チームの統括者。

石嶋樹一郎

中部支店
小牧市民病院PJ準備室
石嶋樹一郎 室長

建築施工担当。常滑市民病院をはじめ,数多くの経験と情熱で現場を指揮する病院建築工事のプロフェッショナル。

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施設整備を一緒に考える

──三宅理事長のメッセージをどのように受け止めましたか。

伊藤 私たちは施設整備のパートナーとして,お客様に満足していただくことを目標に取り組んできましたが,このたびの三宅先生のお言葉によって,お客様の満足の先に「感動」があることを気づかせていただきました。
お客様のパートナーとなり,「一緒につくる」ことこそが,当社の病院づくりのサービスの礎です。プロジェクトの初期段階から設計,施工にわたって,発注者や運営者の方々と一緒に考えていく。さらには,運用時を含めた施設整備の課題を皆で協議しながら,実際のかたちにしていく。三宅先生は新病院建設に際して,患者さんの療養環境,スタッフの働きやすさ,清潔でシンプルなデザインという3つの課題を掲げられましたが,その課題を鹿島の担当者が正しく理解したことが,よい結果につながったのだと考えます。

──「施設整備の課題を一緒に考える」際の出発点はどこにあるでしょうか。

伊藤 まず必要なのは,その医療機関が置かれている地域医療の環境やニーズ,その急激な変化について,正しい共通認識を持つことだと思います。いま,地域区分の再設定を含めて,医療機関の機能と役割を明確にし,地域完結の医療提供体制をめざす議論が盛んに行われています。
医療の提供体制には,災害時の課題にも注目する必要があります。このたびの熊本地震では,いまも多くの被災者が苦しまれており,つつしんでお見舞いを申し上げます。
さきの東日本大震災での活躍が話題となった石巻赤十字病院は,災害医療とは何か,それを支えるための建物に求められる機能とは何かを,これ以上ないかたちで示してくれました。そして震災後は,地域の多くの病院が被災したこともあって,高度急性期医療の機能を強化・拡充する必要がありました。その新たなニーズに応えるため,救命救急センターやICUなどを有し,救命医療や重症者への医療を提供する新しい北棟と,災害医療研修センターが増築されました。地域の医療を守るという,震災後の課題を解決するための施設整備といえます。

海野 包括的な地域医療の整備に向けて,救命救急医療,災害医療,高度先進医療を担う地域の基幹病院の整備が求められていますね。

伊藤 2016年3月にオープンした当社施工の土浦協同病院がいい例ですね。救命救急センターや総合周産期母子医療センター,地域がん診療連携拠点病院,小児救急医療拠点病院,茨城県地域災害拠点病院などの指定を受け,地域において,いつでも安心して受けられる高度医療の実現をめざした病院です。

海野 地域で完結する医療体制を構築するためには,土浦協同病院のような高度な医療施設から,リハビリを中心とする回復期の医療施設,長期療養を必要とする患者さんが安心して療養できる慢性期の医療施設まで,地域全体で切れ目ない医療を提供できる体制が欠かせません。現在,各地で行われている病院の再編・統合の動きは,こうした流れのなかで理解しなければなりません。

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災害医療を極めた病院の機能拡張――石巻赤十字病院

2006年に当社JV施工により完成した石巻赤十字病院本棟は,東日本大震災での震度6強の揺れに耐え,免震構造の効果を実証した。その後は地域の医療機関不足に応え,仮設病棟の建設に震災の約半年後に着手。翌年3月には50床の病室とリハビリセンターなどをオープンした。2015年には,救命救急センター,救急病棟,ICUなどを備えた72床をもつ免震構造の北棟や災害医療研修センターを新設し,医療機能の高度化を進めている。石巻市が同敷地内に建設中の石巻市夜間急患センターとともに,地域における救命救急医療の拠点整備の範として,医療関係者からの関心は高い。

写真:災害医療研修センターと北棟

災害医療研修センターと北棟

石巻赤十字病院
北棟,災害医療研修センター

場所:
宮城県石巻市
発注者:
日本赤十字社
設計:
日建設計
規模:
北棟 ― S造(免震構造)4F,PH1F 72床
延べ14,823m2
災害医療研修センター ― S造 3F,PH1F 
延べ6,229m2

北棟 ― 2015年7月竣工
災害医療研修センター
― 2015年3月竣工
(ともに東北支店施工)

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高度先進医療に取り組む地域の中核病院――土浦協同病院

3月1日に開院した土浦協同病院は,旧病院の老朽化や診療効率の低下,駐車場混雑などの解消を図り,さらに高度な医療を提供することを目的に移転新築された。

新病院は,全ての疾患に対応する800床の急性期総合病院で,ハイブリッド手術室・MRI手術室を含めた手術室が18室,高機能救命救急室(ER)と密接に連携する集中治療室は39床など,充実した設備を備える。また,救命救急センター,地域がんセンター,総合周産期母子医療センター,化学療法センターなど,数多くの機能を有する。高度先進医療を含めた質の高い医療を提供し,地域の中核病院として県全体の医療を担う。

写真:「土浦協同病院」外観

「土浦協同病院」外観

土浦協同病院

場所:
茨城県土浦市
発注者:
茨城県厚生農業協同組合連合会
設計:
梓設計
規模:
RC(柱)・S(梁)
造一部SRC(柱)・
S(梁)造(免震構造)
10F,PH1F 800床
延べ73,211m2

2015年10月竣工
(関東支店施工)

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患者の信頼に基づく病院のブランディング

──病院の再編が進むなかで,施設整備で重視すべき観点は何でしょうか。

伊藤 地域完結の医療体制が構築されていけば,とくに中小病院が自らの役割と機能を明確にし,患者さんに選ばれることがますます重要になります。建物の建替えは,病院のブランドイメージを高めたり更新する絶好のチャンスのひとつです。その好例として,愛育病院が挙げられます。全国的にも名高い母子医療施設ですが,手狭となった旧病院を移転新築しました。新しい建物はエレガントなデザインもさることながら,施工においてもその名に相応しく極めて高い品質となっています。当社は,新しい命を授かる施設であることを重視し,工事中の無事故を徹底しました。病院の役割やブランドをよく理解し,それらを間接的にではありますが,工事においても守り通そうとする姿勢だったということができます。

石嶋 私が施工を担当した常滑市民病院は,「コミュニケーション日本一の病院」を理念に掲げています。エントランスホールに飾られているモザイク画は,地元の常滑高校の生徒がデザインし,市の名産である陶器製のタイルを約3,000人の市民が貼って完成しました。病院が市民とも積極的に接点をもつことで,信頼関係をより深く築いています。市民病院としてのブランドづくりのひとつだと思いますね。

総合周産期母子医療施設のハイブランドの継承――愛育病院

皇室とのゆかりが深く,全国的に名高い母子医療施設。少子化時代にあって分娩件数の増加などから新病院を建設。小児救急センターが新設され,伝統と革新を兼ね備えたブランド病院として,全国の総合周産期医療,小児医療をリードする。病院の高いブランドイメージを表した設計事務所のデザインの具現化に,当社は施工技術で対応。想定以上の地中障害物が着工後に見つかり,杭工事への着手が遅れたが,高層階の庇のPC化をはじめとした工期短縮の策をさまざまに講じ,工期内での高精度・高品質の施工を実現した。

写真:公園に面する西側外観

公園に面する西側外観。窓の大きい病棟部分は庇を設け,日射を調整している

総合母子保健センター愛育病院

場所:
東京都港区
発注者:
母子愛育会
設計:
日建設計
規模:
S・SRC(地上)・RC(地下)造
(免震構造)
10F,PH1F 160床
延べ17,586m2

2014年10月竣工
(東京建築支店施工)

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選ばれるソフトを支えるハード

──患者さんに選ばれる病院づくりという観点で,客観的な指標はありますか。

伊藤 例えば,国際認証のJCI認定が挙げられます。患者さんの安全や医療の質の改善を目的とする国際的な医療機関評価で,この春までに国内で認証を受けている医療機関は18を数えます。埼玉医科大学国際医療センターが,2015年に大学病院では日本ではじめて認定されました。海外からの患者の受入れに積極的なシンガポールやタイなどでは,多くの高度医療機関がJCI認定を受けています。

──高度な医療の提供が,ブランディングにつながるということですか。

 JCI認定で問われるのは,患者の安全と医療の質の改善に関わる運用面,つまりソフト面の合理性です。病院建築ではソフトのニーズを実現するハードの整備が重要となります。例えば,手術中に画像診断で確認し,より精度の高い手術を行うニーズに対応したハイブリッド手術室や,画像診断機器誘導下で患者負担を減らした手術を行う低侵襲手術室の需要が増加しています。ここでは手術室の清浄度に加え,画像診断機器を使用するためのシールドや従来以上の手術室面積が必要となります。当社では患者さんを移動させずに画像診断機器が使えるように,可動式の無影灯や手術室間仕切りを開発し,ご利用いただいています。

海野 高度な医療の提供には,それに相応しい空間が必要です。例えば感染管理については,清潔・不潔の管理エリアを明確にしたゾーニングや動線,空調設備などが求められます。

 感染防止の考え方にも変化がみられます。スタッフが手術エリアに入るときに,感染防止のための履替えが不要な一足制が一般的になってきました。それは手術部位の衛生管理が適切ならば,環境からの感染に差がないとする研究結果によるものです。患者さんを搬送用から手術用のベッドに載せ替えることも不要になりました。また,麻酔技術の進歩から,患者さんの意識がある状態で手術室に入ることが主流となってきています。患者さんの心理を考え,手術エリアの機械的なイメージも変えていく必要があります。
また,当社では「手術室新空調システム」を開発しています。従来の手術室空調では吹出し周辺部での塵埃の巻込みや術者の暑熱感が問題となっていました。「手術室新空調システム」は,空調吹出しを分離し,手術台回りと周辺部に別々の温度と風速を設定することによりこの問題を解決しました。患者さんの低体温化による免疫力の低下防止と,術者の暑熱感軽減を図るとともに,気流の乱れによる塵埃の手術部位への巻込みを低減する効果が実証され,現在3件の病院でご利用いただいています。

*低侵襲医療: 患者の体への負担を従来に比べて低減させた医療技術。切開や注射といった手術のための傷を小さくしたり,麻酔の時間を短くするなど,医療機器の発達と麻酔技術の向上によって近年広がりをみせている。

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変化する医療ニーズに応える――埼玉医科大学病院

埼玉医科大学病院の国際医療センターは,日本において最も医療ニーズの高いがん,心臓病,救命救急をおもな対象として設立。それぞれの疾患に特化した外来病棟は独立させつつ,共有の治療空間を中央に集約。患者の院内移動の距離を最小化するとともに,医療ニーズの変化にも柔軟に対応できる合理的な平面計画となっている。大学病院で国内初のJCI認定を取得した。川越市にある総合医療センターにおいては,今年新たに高度救命救急センターが完成。2013年オープンの総合周産期母子医療センターと一体となり,県内の急性期医療の中核としてさらなる活躍が期待されている。

写真:埼玉医科大学日高キャンパス全景

埼玉医科大学日高キャンパス全景。手前の建物群が国際医療センター

埼玉医科大学国際医療センター

場所:
埼玉県日高市
発注者:
埼玉医科大学
設計:
伊藤喜三郎
建築研究所・
鹿島建設・
竹中工務店・
高砂熱学工業・
東光電気工事設計
共同体
規模:
RC造一部SRC造
(免震構造)
6F 600床
延べ66,644m2

2007年1月竣工
(関東支店JV施工)

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エビデンス設計と設計の見える化

──医療環境を支える多様な建築技術を空間としてデザインする際に,建築の設計者は何を大切にしていますか。

海野 「使いやすい病院」を実現することです。「きれいな病院」も大切ですが,「使いやすい病院」はもっと重要です。「使いやすい」は,患者さんにとってのアメニティの充実から,病院スタッフの働きやすさまで,その意味は多岐にわたります。

──建物の使いやすさは,実際に使ってみないと分かりにくい点が多々ありますね。

海野 そこで必要となるのが,「エビデンス設計」と「設計の見える化」です。「エビデンス設計」では,病院の運用から診療内容までのヒアリングやモニタリングを行い,新しい病院計画の要望を病院職員の皆様と共有することからはじめます。それらをさまざまなシミュレーションで検証し,そのエビデンス(根拠)に基づく設計を積極的に取り入れています。例えば,あけぼの病院では142床の透析患者さんの入退室をシミュレーションし,開業前の業務改善を検証しました。透析患者さんの治療環境の向上にも取り組み,光,音,空調の工夫で睡眠と安静の環境を構築しました。
一方の「設計の見える化」とは,例えば3Dの画像によって空間のイメージを病院スタッフと設計者がより具体的に共有する取組みです。竣工後の運用を協議する際のリアリティが高まり,病院スタッフの皆様とのコミュニケーション密度が上がり,より使いやすい建物の実現には欠かせないツールになってきています。また,建設業界で急速に導入されているBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は,設計から施工まで一貫して立体的に検討できます。竣工時に「3Dの通りですね」とおっしゃるお客様は少なくありません。

 設計内容の実際の効果を確かめるPOE(入居後評価)も重要ですね。例えば群馬病院では,認知機能の低下した方でも,時間経過を視覚的に把握できるスケジューラーを導入しました。そして,新病棟の整備前と後で患者さんの行動の変化を病院と一緒に調査し,その効果を確かめています。

海野 病院それぞれの特徴や個性を最大限に引き出す施設づくりが,医療環境の設計にとって重要だと肝に銘じています。

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病院のフレキシビリティを生む建築技術

──変化の激しい医療環境に対して,建物はどのように対応できるのでしょうか。

海野 建物のフレキシビリティを確保することが挙げられます。建物は比較的簡単に変更できる間仕切壁などの非構造部材と,変更が困難な柱や梁,床などの構造部材に分けられます。そこで,最初から大きな空間を得られるロングスパンの構造とすることで,将来の変化に合わせて,部屋のレイアウトを自由に変更できます。邪魔な柱がないため見通しもよくなります。

石嶋 その観点で有効になる技術のひとつが当社開発のKIP-RC構法です。圧縮力に強い鉄筋コンクリート(RC)柱と,曲げに強い鉄骨(S)梁のそれぞれの長所を生かし,大きなスパンを得ることができます。施工面ではRCの柱とSの梁をつなげるのに高度な技術を要する構法ですが,コスト削減や工期短縮にも役立ち,メリットの多い構法ですね。

 設備の更新にともなう変更への対応も重要です。当社では「可変ホスピタル」®*をシリーズで展開しています。病棟はもちろん,先ほどの清浄度を保ちながら無影灯を移動する技術や,2室を一体にも使える可変手術室もそのシリーズです。

*「可変ホスピタル」®:設備と構造躯体を分離したスケルトンインフィルを基本とし,病院のサステイナブルデザインを実現する当社開発のシステム。そのメニューは幅広く,ロングスパン,フラットスラブ,二重床,外部設備シャフト,ベッドサイドユニット,フレキシブル手術室,可動無影灯架台システム,シースルーMRIユニットなどの技術を展開している。

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既存施設の有効活用と「居ながら」®建替え

──既存の建物へはどのような提案ができますか。

 既存施設内に手術室を増やせる「低階高手術室」も,フレキシビリティを実現する技術のひとつです。一般的に手術室は3m以上の天井高が求められ,階高を通常より高くしなければなりません。しかし,空調システムの工夫によって,一般の階高でも天井高を確保し,手術室の増設が可能となります。低侵襲手術などの増加に対応した技術です。

海野 既存施設の改修工事も増加しています。京都市立病院では,既存施設に囲まれたスペースに新棟を建設し,既存の本館は改修,老朽化の進んだ北館は解体しました。増築と改修により,先端医療の提供と新たな地域医療ニーズに対応した事例です。また,病院スタッフが働きながら子どもを見守る院内保育所の設置などは,働く女性を支援する好例だと思います。

石嶋 病院建築の増改築や改修では,工事中も医療機能を継続しなければなりません。したがって,万一の施工トラブルが患者さんの命に関わると心得ねばなりません。また,病状によっては,臭いや騒音,振動に敏感な方もいますから,工事現場ではマニュアルを整備するなどして注意を徹底しています。最も大切なのは,工事の内容やスケジュールについて病院側に丁寧に説明し,協議させていただくことです。話し合うことで,工事の側でも工夫の方向性を見出せますし,病院の側も事前に適切な準備ができます。「居ながら」建替えでは,こうした病院とのきめ細かなコミュニケーションと慎重な工夫の積み重ねが不可欠です。

 改修工事では,塵埃による影響にも注意を払わねばなりません。高齢患者などへの感染リスクを低減するために,ICRAを活用しエビデンスに基づいた感染対策を行い,病院側と協議することでリスクの低減を図っています。

*ICRA(Infection Control Risk Assessment): 感染リスク評価のためのツール。アスペルギルス症に代表される工事にともなう院内感染の予防には,この評価に基づく工事関係者の教育と,塵埃の封じ込めの徹底が重要とされる。

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機能を再編する敷地内の「居ながら」®建替え――京都市立病院

地域医療の中核病院をPFI手法によって大きく再整備。医療活動を継続しながら,新館,院内保育所,救急・災害医療支援センターが整備された。既存の本館を改修し,老朽化した北館と看護師宿舎を解体。患者さんのいる本館の病室と,新たに建設された新館の躯体は,近いところで5mに迫る。都市部の狭隘な敷地内での複雑な「居ながら」建替えは,設計と施工が一体となって技術検討を繰り返し,高品質な施設計画を練り上げていった。

本館の諸室の配置は,改修前から大きく変更せずに,新館と複数のブリッジでつなぐことで一体的に機能を更新。従来の使い勝手を継承しつつ,スタッフが働きやすい空間を生み出している。

写真:新館

新館

京都市立病院

場所:
京都市中京区
発注者:
SPC京都
設計:
当社建築設計本部,関西支店建築設計部
規模:
新館 ― RC造(免震構造)B1,7F 278床
本館 ― 内装・設備改修 270床
院内保育所 ― S造 1F
救急・災害医療支援センター ― S造 2Fほか
総延べ59,497m2

2015年3月竣工(関西支店施工)

図版:建替えプロセス

建替えプロセス

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設計段階から取り入れる施工技術

──昨今の建設費高騰という状況のなか,新しい発注方式も模索されていますね。

伊藤 例えばDB(デザイン・ビルド)方式やECI方式(常滑市民病院参照)といった,設計の段階から施工者が関与する方式などが採用されるようになりました。そのメリットは,単に建設費を抑えるだけでなく,工事に関連する専門ノウハウを設計段階から取り入れることによって,品質の向上や生産過程の効率化を図れることです。結果的にコストダウンにつながることも確かです。

石嶋 私が施工を担当した常滑市民病院は,医療施設分野におけるECI方式の先行事例といわれています。建設計画がはじまったのがちょうど,人件費や資材の高騰が建設費に影響してきたころで,公共工事の不調不落が日常化していました。そこで発注者は,コストを下げるには施工者の知恵を生かすしかないと考え,基本設計の完了時点で施工者を決めることになりました。私たち施工者は,技術提案の総合評価と所長候補者の面接によって選ばれました。「誰とつくるか」を重視した選定方式であり,いわば施設整備事業のパートナーを選んでいるわけですね。

海野 病院は関係者が多く,設計をまとめる時間は膨大です。公共施設のように工事費に関わる予算が先に固定される場合,高騰する建設費は病院の要望や設計図との相違が大きくなってしまいます。予算に合わせるためには,事業計画まで立ち戻って見直す必要があるケースも出てきます。病院こそ,早い段階から発注者と設計者,施工者が一体となって建築をつくる発注方式が適していると思われます。

「100人会議」の思いを早期施工者選定方式で実現――常滑市民病院

常滑市では「新・常滑市民病院100人会議」を開催。建設計画に先駆けて,市民と病院・行政関係者が医療のニーズや病院経営,財政計画など,病院のあり方を徹底的に議論した。そこから導き出されたのは「本当にあってよかった」「私たちが支えていこう」と市民が思える病院像。その建設予算がつぎの課題となった。

市は,コストと工期を短縮する切り札として,設計と施工を連携させる仕組みを採用。基本設計完了と同時に,施工候補者選定コンペが行われ,当社が選出された。実施設計の段階から,当社の特許構法KIP-RCを採用するなど,施工のノウハウを取り入れたマネジメントを行い,厳しい工期と工費内で工事を達成した。なお,本件が先行事例といわれるECI方式とは,「Early Contract Involvement」の略で,設計段階から施工者が関与する新しい発注方式として注目されている。

写真:KIP-RC構法による大空間が印象的なエントランスホール

KIP-RC構法による大空間が印象的なエントランスホール。正面のモザイク画の制作には約3,000人の市民が参加した

常滑市民病院

場所:
愛知県常滑市
発注者:
常滑市
設計:
日建設計
規模:
RC(柱)・S(梁)造一部RC・SRC造
(免震構造)
7F 267床
延べ22,421m2

2015年2月竣工
(中部支店施工)

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建物の価値を最大限に発揮しつづけるために

──病院建設のパートナーという意味では,竣工後の運用段階におけるアフターフォローも大切です。

伊藤 病院の場合,ほかの施設に比べて設備のウェイトが大きく,エネルギーの消費量も大きいので,設備の維持管理やエネルギーマネジメントが欠かせません。

 建設コストは病院のLCC(ライフサイクルコスト)全体の2割程度にすぎないといわれています。むしろランニングコストのなかでも大きな割合を占めるのは,水光熱費や維持管理費などです。したがって,建物や設備には,コストは低く効果は大きい最適な状態を維持するようにするFM(ファシリティマネジメント)の発想が重要です。那須赤十字病院では,そうした維持管理業務を当社グループ会社の鹿島建物総合管理が担当しています。

伊藤 眼科 三宅病院のスタッフさんからは,鹿島建物総合管理の対応にも感激したというお言葉をいただきました。大雪の翌朝,患者さんが転ばないように雪かきをしようと早出したところ,すでに除雪されていたそうです。日常の小さな出来事かもしれませんが,建物運営にはこうした日々の積み重ねが大切です。企画・構想から設計・施工,そして竣工後の維持管理に至るサービスを通じ,当社グループの一人ひとりが,その建物が最大限の価値を発揮するようサポートしていく。これが医療施設の建設事業のパートナーとして,感動する病院づくりへつながっていくと考えています。

維持管理の視点を病院にフィードバック――那須赤十字病院

栃木県北で最大の基幹病院として26もの診療科を開設。多くの医療機能が複雑に組み込まれた総合病院ゆえに,建物の維持管理においても,POE(入居後評価)による確認は有効な観点となる。

ここでは当社グループ会社の鹿島建物総合管理が,設備管理点検や清掃をはじめ,日々の水質検査などの環境衛生管理や植栽管理など,施設運営を総合的にサポートしている。維持管理の現場担当者だからこそ気づく視点は,設計者と施工者にフィードバックされている。昨年からは病院の野球チームとの交流試合が開催されるなど,スタッフ同士の一体感が強まっている。

写真:エントランスホール

写真:形成外科・眼科受付清掃の様子

エントランスホール(左)と形成外科・眼科受付清掃の様子(上)。 病院運営を支えるスタッフの数は800人を超える

那須赤十字病院

場所:
栃木県大田原市
発注者:
日本赤十字社
設計:
横河建築設計事務所
規模:
RC造一部S造 10F,
PH1F 460床
延べ40,291m2

2012年7月竣工
(関東支店JV施工)

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