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バイオガス発電「生」 芋焼酎粕をバイオガスエネルギーに

図版:バイオガス発電「生」イメージ

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大手酒造が挑戦する焼酎粕のリサイクル

宮崎県都城の地で,創業97年の歴史を誇る霧島酒造。自社で掘り探した地下の名水「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」と南九州の温暖な気候が育んだ甘藷(さつまいも)「黄金千貫(こがねせんがん)」を使ったこだわりの芋焼酎の数々,中でも主力銘柄の「霧島」シリーズは全国的知名度で人気を博す。焼酎ブーム以降も需要は安定的に拡大し,2011年には新たに本社増設工場が完成(4工場稼働中),焼酎メーカー出荷高第1位(2012年実績)を誇る大手酒造メーカーとして成長を続けている。

環境負荷低減に積極的に取り組む霧島酒造では,芋焼酎の製造過程で生じる焼酎粕(芋の繊維や皮を含む残渣物)や芋くず等をエネルギー資源として再利用している。微生物(メタン生成菌等)の分解作用によって有機物からメタンガスを発生させる「メタン発酵」技術を用いてバイオガスエネルギーを回収し,併設の関連設備や工場内のボイラー等の熱源として使用している。最終的に焼酎粕の固形分は30%以下に縮減,堆肥化され,水分は下水放流できるまでに浄化される。

2006年に完成したこの焼酎粕リサイクル施設は,当社開発の固定床式高温メタン発酵システム「メタクレス」を導入し,当社が設計(土木・建築・プラント)・施工・試運転調整一式を担当した。本社工場の増設に伴い,2012年には第2リサイクル施設が建設された。現在,最大800t/日の焼酎粕からバイオガス36,000m3が回収可能で,このエネルギー量は一般家庭約8,000世帯分の電力消費量/日に相当,霧島酒造における一次エネルギーの年間使用量の7%が,バイオガスエネルギーにシフトした。

開発当初からプラント施設の建設に携わってきた霧島酒造グリーンエネルギー部の森山和之部長は,焼酎粕の処理方法は業界全体の課題だと話す。「当時,海洋投入処分が問題視されはじめた時期でした。環境保全,地域との共生を目指す当社では,以前からメタン発酵による処理方法を模索してきました。液体化処理が前提とされてきたメタン発酵を焼酎粕に使用するのは費用対効果の面で非常に難しかった。焼酎粕のままメタン発酵できる鹿島のメタクレスは画期的な技術でした」

1996年から霧島酒造と当社は共同で実証実験を重ね,約10年の歳月をかけて安定した焼酎粕リサイクル施設をつくりあげた。

図版:霧島酒造本社・増設工場(中央より右)と第1・第2リサイクル施設

霧島酒造本社・増設工場(中央より右)と第1・第2リサイクル施設

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図版:第2リサイクル施設のスラリータンク(奥左端)とバイオリアクタ

第2リサイクル施設のスラリータンク(奥左端)とバイオリアクタ

図版:リサイクル施設内をつなぐ複数のダクト。外気に一切ふれることなく一連の処理が流れる

リサイクル施設内をつなぐ複数のダクト。外気に一切ふれることなく一連の処理が流れる

図版:製造工場から出た芋くず。最盛期には1日10tの芋くずが出る

製造工場から出た芋くず。最盛期には1日10tの芋くずが出る

芋限定の素材が安定したバイオガスを生む

「供用開始後も,霧島酒造様による丁寧なメンテナンス,様々な環境下での微生物の分解能力のデータ収集等,運転のノウハウを蓄積いただいています。こうした協力のもとに改善を重ねる中でプラントは成熟し,第2リサイクル施設の建設へとつなげることができました」。環境本部環境施設グループの塚田亮平部員は,第2リサイクル施設建設工事の現場を経験後,今は継続するプロジェクトの主担当者として奔走する。

リサイクル施設の運転業務を統括する霧島酒造グリーンエネルギー部の横山稔主任は「シンプルなシステムなので管理ポイントが少なくて済む。作業の平準化も図れます」と使いやすさを強調する。この処理システムは,焼酎粕,芋くず等をスラリータンクに受け入れて,バイオリアクタと呼ばれるメタン発酵設備の中で分解・ガス化させるという単純な仕組み。バイオリアクタは16基(各処理量50t)に系統がわかれているので,繁忙期・閑散期に合わせ変則的に稼働させることができるのも利点だと横山主任は言う。

「芋限定の良質なバイオマス原料が強い微生物を育てました。夏季休暇時等により数日バイオリアクタを稼働させなくても,微生物の分解能力に問題はないですね。非常に安定してバイオガスを生成しています」(塚田部員)

図版:右から霧島酒造グリーンエネルギー部・横山稔主任,森山和之部長,田原秀隆副部長,当社環境本部・塚田亮平部員

右から霧島酒造グリーンエネルギー部・横山稔主任,森山和之部長,田原秀隆副部長,当社環境本部・塚田亮平部員

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余剰ガスゼロを目指した発電事業

昨年4月から稼働した第2リサイクル施設も順調に運転中で,現在,回収したバイオガスの一部は余剰分となって焼却処分される状況にある。「今後の施設拡張も視野にいれ,豊富に回収されるバイオガスを何に使うかを検討する時期にきていました」(塚田部員)。昨年スタートした「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が大きな契機となり,焼酎メーカーとしては最大規模のメタン発酵バイオガス発電プロジェクトに着手することとなった。

霧島酒造グリーンエネルギー部の田原秀隆副部長は,長年にわたり当社の提案内容を見極め,ともに施設づくりを行ってきた。「バイオガスを熱利用しながら発電にも使用していくには,生産活動のあらゆる状況を瞬時に把握できる制御システムが必要。難しいプロジェクトではありますが,初めてのことに取り組むわけですから,一緒に知恵を出し合ってつくっていきましょう」。余剰ガスゼロを目指した発電システムを構築したいと意気込みを語る。

5月より当社設計・施工で発電施設の建設工事がスタートしている。2014年秋には,最大1,900kWの発電能力を有する施設が完成予定だ。ここで発電された電力は,リサイクル施設の一部設備に利用し,余剰電力を電力会社へ送電する計画となっている。

当社のメタン発酵技術によって生まれたバイオガスエネルギー──今後は,このプロジェクトを通じ,その使い道のバリエーションを広げるノウハウを蓄積し,この新しいエネルギーの魅力を発信していく。

図版:霧島酒造本社工場焼酎粕リサイクルシステム図

霧島酒造本社工場焼酎粕リサイクルシステム図
製造工場から出た芋焼酎粕や芋くず等はスラリータンクで受け入れた後,バイオリアクタでメタン発酵が行われる。回収されたバイオガスは,製造工場のボイラーや志比田工場から出る芋焼酎粕脱水ケーキの乾燥機の熱源として使用。残りの残渣物と水分は各種処理が行われ,堆肥化,下水放流される。余剰バイオガスを利用した発電設備を現在施工中

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