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開業を迎えて──沿線住民の悲願成就

延伸開業が,沿線地域に与える恩恵は大きい。
特に,新幹線を待ち続けた市民の喜びと期待はひとしおである。
ここでは,金沢と富山でそれぞれ生まれ育った,
当社北陸支店の釜谷秀治金沢営業所長と中村昭彦富山営業所長に,
開業への思いと地元の反応などを聞いた。

写真:開業を迎えて──沿線住民の悲願成就

早朝5,000人が詰めかける

3月14日,開業当日。各駅でイベントが行われ,多くの人々が開業を祝った。

「早朝のJR金沢駅には約5,000人の市民が詰めかけました。かなり以前から来場者向けのアナウンスが行われ,盛り上がりましたね」と金沢営業所の釜谷秀治所長は話す。開業イベントに向けて深夜から準備が行われ,午前3時には駅に市民が集まりはじめたという。

北陸新幹線は,北陸地域を経由して首都圏と関西圏を結ぶ。新幹線は,他の交通機関と比較して輸送力と定時性が高く,安全性に極めて優れ,自動車や飛行機などと特性を補完し合うことで,北陸地方の交通網をより強固なものに発展させる。冬季でも雪の影響を受けにくく,悪天候に強いのも新幹線の特徴で,災害時などに東海道新幹線の代替補完機能を確保することも整備の大きな目的だ。

写真:釜谷秀治所長

釜谷秀治所長

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「世紀の大イベントですから,私も一番列車の発車を見送ろうと駅に向かいました。当然ですが,当地の人間は新幹線を見慣れていませんので,純粋に一目見たいという人も多かったと思います」。北陸新幹線では新型新幹線車両「E7系」と「W7系」が投入された。この車両名はEastとWestを略したもので,北陸新幹線の高崎から上越妙高までを営業するJR東日本と,その先を担うJR西日本それぞれの所有を表している。定員は934名で営業運転最高速度が時速260km。外装デザインでは,アイボリーホワイトを基調として上部色には空色を配し,北陸新幹線の沿線に広がる空の青さを表現した。帯色は日本の伝統工芸である銅器や象嵌の銅色と空色。伝統と未来的なイメージの融合を表現している。東北新幹線「はやぶさ」でのみ営業していたグランクラスも連結され,上質でゆとりを感じられる空間を演出している。東京–金沢間直通列車として速達タイプの「かがやき」と停車タイプの「はくたか」が運転され,「つるぎ」は富山と金沢をつなぐシャトル便の役割を果たす。

写真:富山駅に到着した東京発の一番列車「かがやき501号」

富山駅に到着した東京発の一番列車「かがやき501号」

白山総合車両基地

北陸新幹線の整備で当社が担った工事のうち,大きな注目を集めたのが「白山総合車両基地」(石川県白山市)だ。金沢駅西方12kmに位置する約25万m2の広大な敷地に,盛土量約88万m3の造成を行い,車両の留置や日常点検を行う車両基地と大小36棟の施設を建設した。全長およそ2.4km,最大幅員250m,総延床面積は約9万m2にのぼり,軌道や電気,機械など複数の工事が輻輳するなかで複雑な作業工程の調整や動線計画が必要となった。白山総合車両基地は,国内で4つ目の新幹線総合車両基地となる。

釜谷営業所長は振り返る。「10年以上も前になりますが,いよいよ新幹線が来る,白山に車両基地ができると聞いて,電車に乗って予定地までの沿線を住宅地図を片手に行ったり来たりした記憶があります」。新幹線が延伸することで企業誘致も活発になり,用地にかかれば移転計画が出てくるかもしれない。特に白山総合車両基地は,約25万m2の広大な敷地を利用するため影響も大きい。釜谷所長は得意先に状況をヒアリングしてまわったという。

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富山営業所の中村昭彦所長は,新幹線延伸を身近に感じたのはここ10年くらいではないかと話す。「北陸新幹線が来ると実感したのは,田園風景に高架橋が見えはじめたくらいから。この1~2年で急激に機運が高まりました。実際に開業して,北陸と東京との心理的な距離感が一気に近くなりました。進学や就職など人生そのものに関わってくる大きな変化になると思います」。北陸はもともと鉄道網の整備状況などから大阪や京都など関西圏とのつながりが深い。たとえば大学進学に際しても,地元に次いで関西の大学が候補に挙がってくるという。新幹線が開業して東京に乗り継ぎなくいけるようになったことで,今後は首都圏への流れが加速していく。

写真:中村昭彦所長

中村昭彦所長

写真:「白山総合車両基地」は全長2.4kmにおよぶ

「白山総合車両基地」は全長2.4kmにおよぶ

写真:仕業交番検査庫。大小36棟の施設が建設された

仕業交番検査庫。大小36棟の施設が建設された

富山県の新たな顔

もちろん,開業による最大のインパクトは観光にある。北陸はもともと観光面で高いポテンシャルを持つ。金沢は,いわずと知れた“加賀百万石”の城下町で兼六園や武家屋敷,近江町市場など名の知れた観光地が顔を揃える。富山の立山連峰や黒部峡谷,福井の東尋坊など名勝は数知れず,豊富な海の幸も魅力だ。開業直前,各メディアは特集を組んで北陸の魅力を伝えた。

富山県の観光客を迎える新たな“顔”となったのが当社施工の富山駅だ。特徴的なのは,高架橋の土木工事と駅舎の建築工事両方を担当したことである。特に富山駅高架橋は難しい工事になった。3つの在来線に近接して作業を行わなければならない上に,在来線に沿うように延びる工事ヤードは狭く,新幹線隣接工区や在来線の高架化工事も同時に行われていた。東西延長1.3km間に工事用道路は幅員4mのものが1本しかなく,進入路も一ヵ所のみ。これを他の工事と共用した。クレーンを橋脚の間に据え付けて施工し,林立するクレーンの数は20台にもなった。工事は高架橋が2013年5月,駅舎が2014年10月に無事竣工を迎えている。当社は,長野を出て最初に停車する飯山駅でも同様に駅舎の施工を担当した。

写真:建設中の富山駅高架橋

建設中の富山駅高架橋

写真:新たな富山の顔となった富山駅

写真:新たな富山の顔となった富山駅

新たな富山の顔となった富山駅

写真:新たな富山の顔となった富山駅

写真:飯山駅雪景色の外観(左)と改札(右)

飯山駅雪景色の外観(左)と改札(右)。雪山の印象的な美しさと飯山の伝統工芸“内山紙” の柔らかさを感じさせるデザインを採用

金沢駅周辺は開発が進み商業都市としての伸びも著しい。大型の商業施設も次々とオープンしており隣県からも買い物客が訪れているという。金沢駅周辺の地価は上昇を続け,2年連続で駅西側の地価上昇率は全国1位になった。また,富山は伝統的に医薬品やアルミ建材などの製造が盛んで,重工業も発達している。拠点移転などがビジネス展開のひとつとしても注目されており,既に拠点移転を表明しているメーカーも出てきている。新幹線の開業効果は様々なところに表れている。

写真:富山駅に乗り入れる路面電車

富山駅に乗り入れる路面電車

一方で,これまで在来線として市民の生活を支えてきた北陸本線は,並行在来線としてJR西日本から経営分離され,県ごとに第三セクターによる鉄道事業者に継承された。富山市内を走る路面電車の富山駅南北接続事業も進められている。中村所長はいう。「在来線の乗り継ぎが変わったり,人の流れが変わったりで,多少の混乱やトラブルも出ているようですが,少し時間が経てば解消するのではないかと思っています。個人的には近いうちに両親と一緒に新幹線に乗車したいですね」。

北陸新幹線は,福井県敦賀までの延伸が決まっている。当社も敦賀市で「新北陸トンネル(葉原)」を施工中だ。最終的には,大阪まで延伸される予定になっている。新幹線の夢は,まだ続く。

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Interview 世界都市金沢に向けて─────金沢青年会議所

青年会議所は,40歳までの青年経済人によって「明るい豊かな社会」の実現を目指す団体。優れた指導者を輩出して地域の発展に貢献するために日々活動を続けている。今後の北陸・金沢について金沢青年会議所の北村宜大理事長と鈴木規秀副理事長に話を聞いた。

北陸新幹線の金沢開業が及ぼす経済効果は,生産・雇用などへの波及効果も含めると,石川県内だけで年間120億円にものぼると想定されています。従前から,北陸地方はPRが上手ではなく,観光のポテンシャルを活かしきれていないといわれてきました。この開業を機に,金沢を訪れた皆様には,ここでしか体感できない文化に触れていただき,金沢のファンになっていただきたいと考えています。訪れた方がリピーターになり,情報発信者になり,またファンが増えていく。重要なのは開業効果をいかに持続させられるかということです。

こうしたなか,今年度は5月に国内では初めてとなるユネスコ創造都市会議,11月には国際青年会議所の世界会議と金沢マラソンが開催されます。国際青年会議所の世界会議は,120以上の国と地域から1万人の出席が見込まれる大規模な大会で,政令指定都市以外の地方都市では国内初の開催になります。国際青年会議所の運動が始まってから100周年の記念大会ともなる金沢大会では,民間外交による国際交流の機会にするとともに,国内外からのお客様には,金沢が持つ日本らしい文化に触れていただきたいと考えています。独自の記念事業や,北陸信越地区の各地青年会議所とも連携した観光エクスカーションを企画するなど,大会出席者に北陸信越地区の魅力を存分に味わっていただけるよう準備を急いでいます。今年から新たに始まる金沢マラソンは,世界中から1万2,000人が参加する見込みになっています。

写真:金沢青年会議所 北村 宜大 理事長

金沢青年会議所
北村 宜大 理事長

写真:金沢青年会議所 鈴木 規秀 副理事長

金沢青年会議所
鈴木 規秀 副理事長

大きな国際イベントの開催は,歴史と伝統を継承しながら,新しい文化を取り入れてきた金沢の魅力を国内外に発信する大きなチャンスです。北陸新幹線の開業で金沢が「世界都市」へと飛躍するためのインフラは整いつつあります。金沢の新たな価値の創造に向けて,これからも挑戦していきます。

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