2016年度がスタートした。
昨年度始動した「鹿島グループ中期経営計画(2015~2017年度)」は,
押味社長が掲げる「現場第一主義」のもと,生産性向上と品質管理の徹底に取り組んだ現場の努力と
グループ一丸となっての現場に対する支援体制の強化が大きな力を発揮し,
初年度は目標数値を大きく上回る業績を達成することができた。
昨年の社長就任時,「社長は現場の一番の応援団でありたい」と本誌で語った押味社長。
新年度を迎え,現場の頑張りに対する感謝の意を伝えるとともに,
いま最前線の現場が抱える問題や課題を共有することを目的に,座談会を開催した。
テーマは「東北復興に向かって,いま我々がやるべき事」――。
震災から5年,押味社長と東北の復興支援業務に従事する社員が,
ひとつの目標にベクトルを合わせ,語り合った。
座談会出席社員
西村正夫 にしむら・まさお (46歳)
富岡町廃棄物処理業務 副所長
1992年入社,名古屋支店(当時)配属。入社3年目の時,阪神・淡路大震災が起きる。95年4月に関西支店に異動し,阪急電鉄西宮の復旧工事などを担当。2011年,土木管理本部土木部着任直後,東日本大震災が発生し,物資輸送ルートの情報収集をはじめ復旧対応に尽力する。その後,除染,がれき処理関係の技術開発・現場支援を行い,2014年4月より現職。現場管理から環境省との調整役まで幅広く活躍する。座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。
伊藤健人 いとう・たけと (46歳)
新規制基準対応土木工事 所長
1994年の入社以来,東北支店一筋。浅虫治水ダム(青森県),砂子沢ダム(秋田県)の工事に従事する。震災直後は「JX仙台製油所」の復旧工事に従事し,2014年1月,「災害廃棄物処理業務(石巻ブロック)」の現場に着任。キーマンとなって廃棄物処理を完了させた。2014年11月,「女川原子力発電所防潮堤かさ上げ工事」副所長,2015年12月より現職。座右の銘は「後悔しない道を選ぶこと」。
星野 亨 ほしの・とおる (38歳)
おながわまちづくりJV工事 工事課長
2000年入社,東北支店配属。2006年から半年間,土木設計本部シールドグループで研修を積み,2009年7月より「津軽蓬田トンネルJV工事」(青森県)の担当となる。北海道新幹線本州側新設工区間最長のトンネル工事であり,新トンネル施工法「SENS」の採用で注目された。2013年2月より「おながわまちづくりJV工事」に着任。若手社員のリーダー的存在として現場を牽引し,発注者,設計の調整役も担う。座右の銘は「思い立ったが吉日」。
平野篤司 ひらの・あつし (42歳)
女川町女川駅北地区災害公営住宅建設工事 所長
1996年入社。東北支店配属後6年間,大小様々なジャンルの建築現場を担当し,経験を積む。2002年3月から約1年半は東京支店(当時)で学校建設を担当。2003年7月より東北支店で見積調達の仕事も経験する。震災復興関連では,2014年1月~2015年7月まで,「石巻赤十字病院増築及び改修工事」を担当し,2015年10月より現職。座右の銘は「切磋琢磨」。初心にかえり,所長職に奮闘する日々。
吉開 秀 よしかい・しげる (44歳)
建築部設備施工グループ 課長
1995年入社。建築管理本部で1年間研修後,東北支店に配属。見積業務を経験後,郡山営業所を経て,2003年4月より九州支店。2004年4月から4年間は支店を代表する大型生産施設の設備工事を担当し,経験を積む。2008年4月より東北支店。設備施工グループの中堅として,震災直後の応急復旧から現在も,東北6県の建築現場を奔走する日々。後輩育成にも力を入れる。座右の銘は「常識人であれ」。
酒井健司 さかい・けんじ (40歳)
たろうまちづくりJV工事 事務課長
1999年入社,札幌支店(当時)配属。総務部情報システム課で支店のIT化推進に力を発揮する。横浜支店静岡営業所を経て,2004年11月から東北支店。震災前は福島地区を担当し,現場事務から営業活動までを行い,地域とのコミュニケーションを積極的に推進してきた。震災時は顧客の受け皿となって,復旧対応に多大な貢献をした。2014年5月から現職。座右の銘は「一隅を照らす,これ即ち国宝なり」。
5年間を振り返って
社長 今日は忙しい中,どうもありがとうございます。東北支店の皆さんの頑張りは,2015年度の当社の業績に大きく反映されました。心から感謝申し上げます。
全員 ありがとうございます。
社長 今年は東日本大震災から5年という節目の年です。復興事業に対しては,主役である地元の方々の声をうかがいながら,当社の有する土木・建築・開発などのノウハウを活かし,できる限りのお手伝いをさせていただきたいと考えます。月報でも,復興支援業務に携わる社員の活躍を伝えてもらいましたが,今日は勝治支店長にも参加してもらって,是非とも皆さんの生の声を聞きたいと思いまして,お集まりいただきました。
勝治 本日は,復興支援業務を担当する土木3名,建築・設備各1名,事務1名のキーマンたちに集まってもらいました。
社長 そうですか。それは楽しみです。では,この5年間,皆さんがどのようなかたちで東北の復興に関わってきたのか,簡単に自己紹介をしてもらいましょう。土木の西村君からお願いします。
西村 はい。私は2014年4月から,福島県の「富岡町廃棄物処理業務」で副所長を務めています。富岡町は,東京電力福島第一原子力発電所の事故により,いまも全町民が避難している状況にあり,住民帰還を目標に,国の直轄で除染作業が行われてきました。私の現場は,除染した廃棄物をはじめとする町内の災害廃棄物を破砕選別・焼却処理する業務です。
社長 廃棄物処理は福島復興に向けての大切な仕事ですね。西村君は,震災の時は本社勤務でしたね。
西村 土木管理本部技術部にいました。主に除染,がれき処理関連の技術開発を担当しまして,「災害廃棄物処理業務(石巻ブロック)」では,本社側の連絡調整窓口となり技術支援をしました。その経験から,「富岡町廃棄物処理業務」には技術提案の時から参画し,現場入りしました。
社長 西村君は阪神・淡路大震災の時,関西支店で復旧工事も経験していると聞いていますが。
西村 そうです。入社3年目に震災があり,出身が京都なもので,当時の名古屋支店から関西支店に異動となり,主に鉄道の復旧工事に従事しました。
勝治 「富岡町廃棄物処理業務」は関西から多くの社員が来ており,他にも阪神・淡路の経験者がいます。
西村 はい,そうです。そして,富岡町は石巻ブロックの経験者が数多く活躍しています。
社長 石巻ブロックは大変苦労してもらいましたね。土木のマネジメント能力の高さを感じました。伊藤君が担当した現場ですね。
伊藤 はい。石巻のがれき処理は,技術提案の段階から現場が終わるまで,担当させてもらいました。何もかもが初めての経験で,最初は手探り状態でした。土木管理本部,環境本部に協力いただき,災害廃棄物約300万tを粗選別・破砕選別・土壌洗浄・改質・焼却等の中間処理を行ったのち,リサイクル・最終処分する業務を一日でも早く完了させることに,全力で努めさせていただきました。
社長 最終的には,そのことがいま富岡町で活かされているわけですね。
西村 はい。その通りですが,富岡町は放射性物質を含む廃棄物の処理となるため,施設全体を建屋で覆う構造とした点が,石巻ブロックと異なる点です。これは,土木・建築の協働作業となりました。
社長 土木,建築を含むあらゆる部門が結集し,当社が持てる力を発揮できたということですね。
勝治 伊藤君は,石巻ブロックの後,女川原子力発電所防潮堤かさ上げ工事で副所長を担当してもらいました。
伊藤 はい,2014年11月からでした。現在も工事は継続中ですが,私は2015年12月より,青森県六ヶ所村にある日本原燃さんの使用済み核燃料再処理施設の新規制基準対応に関わる土木工事の所長を務めています。
社長 初の所長業務ですね。この工事も,今後の原子力関連施設の維持・管理という観点で,復興を支える大切な業務です。後程,ゆっくり教えてください。さて,次はこの中で最年少の星野君お願いします。
星野 2000年入社の星野です。震災の時は,青森県の「津軽蓬田トンネルJV工事」の現場にいました。新たなトンネル施工法「SENS(センス)」が採用された現場で,トンネル掘削を完了させて,2013年2月から,現在の「おながわまちづくりJV工事」を担当しています。
社長 津軽蓬田トンネルの現場にいたのですね。地下水位が高く,水が多く出る難工事だったと聞いています。3月に北海道新幹線も無事開業しましたね。これからは,女川町で復興まちづくりに精一杯力を注いでください。
勝治 このまちづくりは,CMと呼ばれるコンストラクション・マネジメント方式を採用した先進的な復興事業です。
星野 女川町と都市再生機構(UR)さんがパートナーシップ協定を組んで行われているまちづくりですが,当社JVは施工業務だけでなく調査,測量,設計,並びにマネジメントを含めた一連の業務を任せていただきました。
社長 女川町とURさんが協働してまちづくりに関わること,そのこと自体が先進的であり,今後のまちづくりの形の見本にもなっていますね。
勝治 コスト面ではオープンブック方式という新たな試みも採用しています。双方初めての仕組みのため難しい面もありますが,頑張ってもらいたいと思います。
社長 星野君の若さをもって,是非引き続き頑張ってください。さて,次は建築に関わることについて聞かせてもらいましょう。平野君は,星野君が造成を担当した場所に公営住宅を建てているのですか。
平野 はい,そうです。震災復興関連では,「石巻赤十字病院」の増築・改修を担当した後,昨年11月に着工した「女川町女川駅北地区災害公営住宅建設工事」の所長となりました。5棟からなる地上5階建て,総延べ約1万m2の集合住宅を来年2月竣工に向けて頑張っています。
社長 石巻赤十字病院の本棟は免震構造でしたから,震災の際は非常にその有効性を発揮しましたね。
平野 こちらも当社JV施工の物件でした。そして,被災地の中核病院として,より安全な医療サービスを拡大するため,増築・改修が行われました。
社長 平野君も初めての所長業務ですか。
平野 入社2年目の時に担当した2.5億円程度の工場の増改築は,所長兼務のひとり現場でした。それ以来です。
社長 入社2年目でそういう経験をできたことは非常に貴重だと思います。
平野 とても良い経験となり,自信がつきました。
社長 さて,事務の酒井君はこの5年間,東北3県で現場と被災地の方々をつなぐ役割を担ってきましたね。
酒井 はい。震災時は福島県の切削工具メーカー「タンガロイいわき工場改修工事」の現場事務を担当していました。竣工間際に震災に遭いまして,復旧工事を実施した案件です。
勝治 震災直後はいわき地区の応急復旧対応にも尽力してくれました。
酒井 被災直後は,いわき地区の顧客物件の被災状況確認にはじまり,お客様の要望や相談の窓口となって,それを工事担当へ報告し復旧工事につなげていくというパイプ役でした。また,各復旧工事支援として,事務所や宿泊先,必要物資の確保にも苦労しました。その後,宮城県の日本製紙石巻工場復旧工事でも現場事務を担当させていただきました。現在担当している岩手県の「たろうまちづくりJV工事」は2013年7月に着工しまして,昨年11月,まちびらきを迎えることができました。
社長 たろうまちづくりもURさんが手掛けるCM方式による震災復興事業ですね。まちづくりの話は,後程女川町と併せて教えてください。では,最後に吉開君お願いします。
吉開 私は建築設備を担当しています。9年次に九州支店に異動し,大分県の 2大生産施設の設備工事を全て担当させていただきました。5年後,東北支店に戻ってからは見積りを2年間,その後は現場を担当しています。
社長 あれほどの規模の生産施設を全部担当したことは,勉強になったでしょう。当時の特殊施工方法については,私も横浜支店時代に,天井内設備工事に同様のリフトアップ工法を使わせてもらいました。
吉開 震災時は,支店管内の各地で被災物件の応急対応,客先対応に奔走しました。いまも現場を飛び回って繁忙を極めていますが…。
勝治 東北支店で一番忙しいのが建築の設備グループです。
吉開 設備は現場常駐がなかなかできないので,東北6県を移動するだけでも大変です。
勝治 ここで少し震災前と現在の東北支店の社員と現場数の推移をお話ししますと,2月末現在,社員数は778人を数えますが,そのうち265人が復興関連の現場に従事しています。現場数でいいますと,102現場中,土木26,建築13の計39現場が復興支援業務となっています。
社長 震災前と比べ社員数はどの程度増えましたか。
勝治 2011年2月末の社員数が552人でしたから,200人以上増えています。特に土木は,現場数の6割強が復興関連ですから,全国から社員を動員している状況です。
社長 支店の枠を越えた社員配置を行っていますね。しかし,設備担当はそれほど増えていない状況ですか。どの支店も設備が一番忙しいと聞いていますが,この点については増強を図る必要がありますね。
「復興・創生期間」を迎えて
勝治 私も震災当初は東北支店で建築部長を担当していまして,「集中復興期間」と呼ばれる,震災直後の応急復旧対応から本格的な復興工事に至るまでの5年間の東北を見てきました。いま,「復興・創生期間」という新たなステージが始まり,地域が抱える独自の課題が明確になってきています。復興支援業務に携わる我々も,一緒にその課題を克服しながら,被災地と寄り添う仕事をしていかなければなりません。
社長 そうですね。せっかく土・建・事務が集まっているわけですから,各地域の復興状況や課題,いま現場で悩んでいることなどがあれば,皆で知恵を出し合って検討していきましょう。
勝治 先程も話に出ましたが,URさんが取り組むCM方式を採用した震災復興事業の第1号として,女川のまちづくりは大変注目されています。星野君,現況を教えてもらえますか。
星野 「おながわまちづくりJV工事」は2012年10月に着工しまして,2015年3月,先行整備に取り組んできた駅前地区に女川駅が完成しJR石巻線が全線開通となりました。その時に,「おながわ復興まちびらき」も行われています。
勝治 9月には当社施工で「女川町地方卸売市場荷捌場・管理棟建設工事」が着工しており,年末には駅前商店街がオープンしています。
平野 他社施工ですが公営住宅も1棟完成していて,住民の方が生活されています。
社長 新しいまちが動き始めた感じがしますね。星野君の仕事の状況はどうですか。
星野 現在の土工進捗率は5割程度です。CM側の業務と元請の業務の両立がなかなか大変です。着工時は,漁港を囲むように広がっていた宅地を高台に移し,低地部はかさ上げして水産加工団地など,産業を中心とする公共施設を配置するといったまちづくりの具現化をお手伝いするのが我々の仕事でした。
社長 設計するというより,グランドデザインしていくイメージですね。
星野 そうですね。もちろん,デザイン会議などを通じて,町とURさんと協議しながら業務を行っています。最近は,戻られる町民の方の具体的な内容が話し合われる場面が増えています。
平野 住宅の建設でも事前登録制を採っていますが,適宜見直しが行われています。
社長 それは,被災者の皆さんの将来のビジョンが明確になってきたということではないでしょうか。5年という歳月の中で,新たなコミュニティができたり,ライフステージが変わったりと,被災者の方々の生活にも変化が起こる時期なわけですね。そうした中で,まちづくりを支援させていただくことは,難しいとは思いますが,とても大切な仕事ですので,引き続き頑張ってください。
星野 はい。あらゆることに耳を傾け,真摯に対応していきたいと思います。
酒井 現在,たろうにつきましては,関係者ご協力のもと事業自体はお陰様で順調に進んでおり,災害公営住宅が早期のものでは昨年11月に完成し,住民の方々の入居が始まっています。今年2月には高台部を全て引渡し致しました。国道周辺の区画整理についても随時引渡しを実施しており,年内には全ての事業を完了する予定です。
社長 女川とは規模が違うわけですが,凄いスピードですね。
酒井 昨日も高台からまちの景色を見てきたのですが,整備した宅地のいたるところで戸建住宅建築が急ピッチで進んでいる状況になってきました。既に住宅が完成し,お住まいになっている方もいらっしゃいます。震災から5年経過する中で,現場としては,一日でも早くスピード感を持って安全安心なものを作らなければならないという思いで取り組んできました。少しでも,住民の皆さんが将来の絵を描きやすくできるよう,住民の方々を対象とした見学会なども積極的に対応してきました。
社長 それは素晴らしい取組みですね。
酒井 開発当初,住民の皆さんの中には,何もない山に重機が入って森林を切り倒していく様子だけで不安感を持たれた方もいらっしゃいました。しかし,区画が整備されていく中,見学会の折に住民の方々の会話に耳をそばだてると,皆さん将来の夢を語られるのですね。家の間取りはこうしたいだとか,車はここに2台とめられるとか。そういう話を聞くとこちらも非常に嬉しくなりました。
社長 酒井君のモチベーションはそこにあったわけですね。
酒井 はい,そうなんです。
社長 平野君も是非,公営住宅を建設する過程で,ここで生活する方々との様々なコミュニケーションを通してまちづくりを支援し,盛り立てていっていただきたいと思います。
平野 近くに小・中学校もありますので,積極的に見学会を開きたいと思っています。
社長 星野君の現場とも協力して,是非イベントを企画してはどうでしょうか。女川のまちづくりは,震災復興事業のモデルケースとして注目度も高く,これは日本を代表するまちづくりを支援する大切な業務といっても過言ではありません。社内外から期待が大きい分,プレッシャーもあって大変だと思いますが,是非とも,まちの賑わいと住民の皆さんの笑顔が戻ることを目標に,頑張っていただきたいと思います。
福島の復興と様々な課題
勝治 原子力発電所の事故の影響を受けた福島の復興状況は,宮城・岩手とは全く異なると思います。西村君,現況を整理してもらえますか。
西村 福島は,第一原子力発電所周辺の11市町村が,避難指示区域に指定されました。平成24年7月に田村市で本格除染が開始されて以降,各市町村で順次本格除染が実施されています。
社長 当社も除染作業を担当させていただきましたが,進捗状況を少し詳しく説明してもらえますか。
西村 いま3つに区分されている避難指示区域は,準備が整ったところから順次解除され,「帰還困難区域」を除く全区域の避難指示を来年3月末までに解除する方針が示されています。
勝治 来年の3月がひとつの節目となるわけですね。やっとそこから福島は本格的な復興が始まりますので,引き続き,精一杯のお手伝いができればと考えています。
西村 来年3月に復興のスタートラインに立つというイメージだと思います。もちろん,各自治体でまちづくりの構想は動き始めていまして,私の現場のある富岡町も様々なアクションプランを検討中と聞いています。こうした取組みの中で,先般,メガソーラー建設の工事を当社が参画するグループが受注することになりました。
吉開 ただ,住民の皆さんが帰還されるためには,ハードとソフトの両面で検討課題が残っているのも事実ですので,それらをひとつずつ丁寧に検討し,解決していく必要があると思っています。
社長 そういった検討を通して,本当の意味での復興が始まるわけですね。
吉開 避難指示区域内での工事の課題のひとつは,他の地域の協力会社に参加を要請する必要があるという点です。参加する協力会社には積極的な志が求められますし,迎え入れる側も宿舎等を含め,万全の受入れ体制が必要になります。
社長 何か具体的な施策を講じているのですか。
吉開 支店や建築管理本部と協議して,対応策を検討しているところです。
勝治 問題点を的確に把握して,社内外の関係者と調整するのも我々の責務だと考えています。大変ではあっても,その一つひとつの解決が,復興の後押しになるという気持ちで取り組んでいます。
社長 それは大切な役目です。少し話は別かもしれませんが,鹿島グループの設備工事専門であるクリマテックなど,もっとグループ会社を活用して対応していくことも検討していく必要があると考えています。先程話に出た建築設備系の人手不足の対応も含めて,グループ会社のサービスの質と人材のスキルを向上させていかないといけないと思っています。
勝治 福島で働く社員のモチベーションは十分だと思っていますが,いかがですか。
西村 私の現場は,いま職員が20名いまして平均年齢が41歳ということもあって,活気のある職場だと思っています。ただ,これまでに経験のない仕事なだけに,特に若い人たちの育成方法については,色々なことを考えなければいけないと思っています。
社長 除染や廃棄物処理は,私たちが果たさなければならない大切な責務です。石巻から始まった一連の業務によって,被災地の復興へ向けた大きな一歩のお手伝いをすることができました。皆さんには、その意義を深く受け止めてもらって,誇りを持って頑張って欲しいと伝えてください。
西村 ありがとうございます。
社長 ただし,若い人たちのキャリアメイクという意味では,ローテーションをきちんとしてあげることが大切です。それは支店がコントロールしていくことが必要です。
勝治 わかりました。これから中間貯蔵施設の整備など,まだまだ廃棄物関連の仕事は続きますので,人材育成の観点からも社員配置の管理には気を配っていきたいと思います。
所長の醍醐味を知る
社長 震災後,原子力関連施設の安全性に関わる再整備工事が増えていると思うのですが,伊藤君の現場はまさにそういった仕事をしているわけですね?
伊藤 そうです。新規制基準の対応に必要な設備を新築する工事で,土木と建築連携の現場です。地下部分の掘削工事を土木で,建屋新築を建築で施工予定です。
社長 伊藤君には,その前は女川原子力発電所のかさ上げ工事も担当してもらいましたね。
伊藤 女川は13mにおよぶ津波が押し寄せました。現在,海抜約29mにおよぶ防潮堤のかさ上げを中心に,再稼働を視野に再整備工事が行われています。
社長 こういった工事が全国の原子力関連施設で着手しているわけですね。これも震災から5年という中での動きですね。
伊藤 原子力関連の工事は,土木と建築の接点が多いです。いまは土木設計本部,原子力部などと情報を共有しながら仕事をしています。
社長 ここでも,当社の各部署が一体となって貢献することができており,大変頼もしく思います。
伊藤 石巻のがれき処理や富岡町の廃棄物処理は,部署そして種別を越えたプロジェクトとなりました。
社長 そして,福島第一原子力発電所関連では,東京建築支店・東京土木支店を中心に全国から社員が集まり廃炉へ向けて頑張ってくれています。
伊藤 はい。とにかく私たちができることは,みんなで一生懸命頑張っていこうと思っています。
社長 伊藤君と平野君は所長職ということで色々と大変なこともあるかと思いますが,所長さんの一番いいところは,“現場のために良いと思われることは何でもできる”ところだと思いますよ。
平野 非常にやる気のある部下に恵まれていまして,所長としてはできるだけ彼らの働きやすい職場環境を整えたいと思っていますが,繁忙による労働時間の管理などで悩むところもあります。
社長 そうですか。現場所長は支店長から,所長としてこの現場をまとめてくれと頼まれたわけですから,そのやり方は所長が考えてやってもらって結構なんです。繁忙に関しても,人を増やすことも必要だけれども工夫してみることから始めて,思い切って色々なことを試してみてください。
勝治 “試して合点”の精神ですね。そういったチャレンジをする際に相談があれば,いつでも支店長の私に言ってください。
社長 そうです。所長の育成と任命は支店長の責務です。部下はあなた方の背中を見て成長するものなんです。所長は大いに楽しんで仕事をしてください。
2016年度のキーワードは「備え」
勝治 ひとつ心配されるのが,東京五輪に向けて東京での工事がピークとなる頃と,福島の復興関連工事の時期が重なってくるというところです。
社長 いまの予想では,2017年の後半から2018・19年は,作業員数から資機材の調達,それに伴う価格高騰と,超繁忙下で建設業界全体が大変な状況になると思います。
勝治 そういった状況下で,自治体から入札の参加要請があった時に,人手や資機材不足を理由に辞退するようなことは,絶対にあってはならないと考えています。
社長 東京の工事をはじめ色々な事情はあるわけですが,勝治支店長が言うように,当社が最も優先すべきことのひとつは,東北の復興だと認識しています。
勝治 先輩方が築き上げたお客様からの信頼がありますので,地元からの期待には是非とも応えたいと考えています。
社長 そうですね。今日,皆さんの話をきいて思ったのは,震災があったことは事実ですが,こうした非常に希有な経験を通じ,やはり会社としては,復興へ向けたお手伝いをさせていただく中で,一歩成長させてもらったわけです。その意義は深いと思います。被災地の方々の声に真摯に耳を傾けながら,最後まできちんと我々の業務を全うしていかなければなりません。
勝治 社長の言葉を肝に銘じ,今後も支店一丸となって東北復興のために頑張っていく所存です。
社長 私は,2016年度は「備え」という言葉をキーワードに,2018~19年に予想される超繁忙期への準備を整えていきたいと思っています。震災復興も「復興・創生期間」という新たなステージに入るわけですから,皆さんも将来起きることを予測して,それぞれの場面で一人ひとりが何を準備すべきかを考えてもらうというのが,今年の大きな課題のような気がします。
今日は長時間にわたりどうもありがとうございました。一日も早い被災地の復興を心から願っています。そして,皆さんの活躍に大いに期待します。