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木に包まれる体育館 ~国内最高難度の工事に挑む~

静岡県草薙総合運動場体育館新築工事

静岡県では伝統あるスポーツ拠点にふさわしい施設を目指し,
2010年から草薙総合運動場のリニューアル事業を進めている。
当社JVでは,新体育館の施工を担当する。
県産スギ材を贅沢に使用し,3次元曲面の屋根鉄骨造を木造で支える国内最高難度といわれる現場を訪ねた。

地図

【工事概要】

静岡県草薙総合運動場体育館新築工事

場所:
静岡市駿河区
発注者:
静岡県
設計監理:
内藤廣建築設計事務所
規模:
地上部―RC造/屋根部―木造・S造
B1,2F 延べ13,509m2
工期:
2012年12月~2015年1月

(横浜支店JV施工)

図版:完成予想パース

完成予想パース

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図版:全景写真(2014年5月撮影)

全景写真(2014年5月撮影)。約2,300tの鉄骨で構成された「上屋根」を県産材の天竜スギの集成材柱でできた「下屋根」で支える

伝統あるスポーツ拠点

JR静岡駅から静鉄線に乗り,「県総合運動場」駅を降りて徒歩3分。草薙総合運動場は,静岡電気鉄道が保有し,1934年に第8回日米野球が開催された旧野球場が静岡県へ移管されて以来,陸上競技場や球技場,体育館などが整備され国民体育大会,県大会の舞台として親しまれてきた。施設の老朽化や耐震性の問題から,県は2010年に公園全体のリニューアル事業に着手。今回,再整備される体育館もその一環で,設計は建築家の内藤廣氏,施工を当社JVが担当している。

新体育館のコンセプトは,「木に包まれる体育館」。地下1階,地上2階建てのバスケットコート4面分の広さを有するメインフロアとサブフロアで構成され,館内には県産材の天竜スギが垂木(たるき)や天井のルーバーに使用される。観客席は2,700席,最大4,000名を収容でき,スギの型枠で打設された32本のコンクリート柱には免震装置が64基設置され,災害時には県の広域な防災拠点として中核を担う。

県産スギ材を一括管理

現場を統括する箕浦達也所長は,商業施設や研修所などの現場を率いてきたベテラン所長だ。箕浦所長の案内で建設中の体育館に入ると,木に包まれた空間が一面に広がった。「日本三大人工美林のひとつに数えられる県産の天竜スギが贅沢に使われています」と箕浦所長。県から県産の木材を利用することが設計条件で指定され,良質な木材として知られる天竜スギが選ばれた。垂木や天井ルーバーとして使用されたスギは延べ約1,000m3,約7,000本の原木にのぼる。

この建物は,「上屋根」と「下屋根」で構成された3次元曲面のドーム屋根が特徴だ。約2,300tの鉄骨で構成された上屋根をスギの集成材柱256本から成る下屋根で支える。静岡県では東海地震を想定し,通常の1.5倍の耐震強度が求められた。当社JVでは,木材の調達から一括管理を行い,丸太の選別や製材方法の検討,自然乾燥期間を確保するなど集成材を独自の手法で加工した。

「すべて北,東側斜面で育ったスギに限定しました。歳月をかけて成長するので丈夫で強い。丸太選びや製材方法にこだわり,良質な集成材に仕上げました。使われたスギの樹齢は60年ですよ」と語る箕浦所長も今年で還暦を迎えた。

図版:箕浦達也所長

箕浦達也所長

図版:集積場でスギ材を確認する関係者

集積場でスギ材を確認する関係者

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国内最高難度の工事に挑む

建物の基礎から2階までは鉄筋コンクリート造,屋根は鉄骨造と木造の複合構造から成る複雑な工事である。施工計画を担当した飯塚宏忠副所長は「国内でもこれほど大規模な上屋根鉄骨を木造で支える施設は珍しいですね。また,スギは繊細な素材ですから上屋根鉄骨の荷重をどうやって下屋根に移行するかがポイントになりました」と語る。当初,設計標準案は,鉄骨トラスを地組みし吊り上げる「リフトアップ工法」が検討された。鉄骨の荷重をバランスよくスギの集成材柱へ直接移行しなければならない。工期の短縮や安全性を考慮した結果,鉄骨荷重を51台のベント架台で仮受けする「ベント工法」に変更された。ジャッキダウンするまでの間,ベント架台で上屋根鉄骨を支えた。また,ユニット化できる作業は地上で行い,350tや500tの大型クレーンで部材を揚重していくことで高所作業の低減や大幅な工期短縮を実現した。

図版:飯塚宏忠副所長

飯塚宏忠副所長

図版:上屋根(鉄骨トラス)の設置

上屋根(鉄骨トラス)の設置

図版:ベント架台・天井足場・測量足場の設置

ベント架台・天井足場・測量足場の設置

図版:下屋根(集成材柱)の設置

下屋根(集成材柱)の設置

工事の鍵となるスチールリング

「スチールリングの位置が決まれば,鉄骨トラスと下屋根の集成材柱を正確に取り付けることができます」と語るのは矢作貴工事課長だ。

スチールリングは,集成材柱の上端部に取り付けられ,鉄骨トラスと下屋根をつなぐ鋼管のこと。これらを中心的に担当したのが,矢作工事課長と下山陽平工事係のコンビだ。工場で製作された鋼管を地上20mまで組み上げたベント架台の上にクレーンで揚重し,鉄骨トラスに先行し設置した。矢作工事課長は「スチールリングは,3次元曲面のドーム屋根に沿って360°楕円形を一周します。誤差は5mmまでとミリ単位の調整でしたが,測定を担当する下山工事係と息ぴったりでした」と話す。全面足場を組み立てたことで遮るものがなく見通しが良くなり,より正確な測定ができた。

この工事では,設計図の段階から積極的にBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が活用された。元の設計ではスチールリングは溶接縮みが予想されることから実寸より長く製作することが検討されていた。そこで建築管理本部のBIM推進グループ協力の下,モデルの作図を行い,接合部分の長さを短くすることを再検討して解決した。下山工事係は「スチールリングの設置検討以外にも,協力業者との情報共有のツールとして利用するなど,施工面でのBIMの重要性を実感しました。スチールリングの取付けが完了した際は,それまでの緻密な計画が結果となった瞬間でした」と振り返る。

図版:矢作貴工事課長(右)と下山陽平工事係

矢作貴工事課長(右)と下山陽平工事係

図版:約5.5mのリングを溶接してつなげる

約5.5mのリングを溶接してつなげる

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8月,それまでベント架台で支えていた約2,300tの上屋根の荷重が事前の解析結果をもとに集成材柱で構成された下屋根へ移行された。亜鉛合金板が仕上げに設置され,ドーム屋根が完成した。

図版:BIMによる施工検討図。ベント架台で上屋根を仮受けし,下屋根を設置する

BIMによる施工検討図。ベント架台で上屋根を仮受けし,下屋根を設置する

図版:スチールリングの揚重。全周は約280mにおよぶ

スチールリングの揚重。全周は約280mにおよぶ

工事の流れ

図版:地上躯体工事

地上躯体工事

図版:スチールリングの設置

スチールリングの設置

図版:上屋根鉄骨の設置

上屋根鉄骨の設置

図版:集成材柱の設置

集成材柱の設置

図版:上屋根の設置

上屋根の設置

図版:亜鉛合金板が下屋根を覆う

亜鉛合金板が下屋根を覆う

県民から親しまれるスポーツの聖地

現在,設備や内装の工事が最盛期を迎えている。箕浦所長は,所長を初めて任された現場も草薙にあるレジャー施設だった。「今年で還暦を迎え,この現場が最後になります。草薙の仕事にまた関われたのはご縁ですね。国内最高難度といわれる現場に携われることを誇らしく思います」と目を細める。そして「県民から親しまれ,新たなシンボルとして全国の小中高生からも“目指せ,草薙”といわれるスポーツの聖地となる日が来るといいなと思います。完成まであとわずかですが,一つひとつ心を込めて所員一同力を尽くします」と熱っぽく語った。完成は,来年1月末を予定している。

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図版:内観写真。集成材柱は長さ15m,太さ360mm×360mmで複雑に角度を変えながら上屋根鉄骨を支える

内観写真。集成材柱は長さ15m,太さ360mm×360mmで複雑に角度を変えながら上屋根鉄骨を支える

図版:鳥瞰写真。中央部分がメインフロアで手前に見えるのがサブフロア(2014年9月撮影)

鳥瞰写真。中央部分がメインフロアで手前に見えるのがサブフロア(2014年9月撮影)

+THE SITE 天竜美林

天竜美林は,静岡県の西部に位置し南アルプスと一級河川の天竜川がつくる急斜面の多い山林地域で日本三大人工美林のひとつに数えられる。明治時代には,社会事業家・金原明善氏から要請を受けた鹿島組が天竜川の治水を中心とする地域開発協力を担い,金原氏が現在の浜松市天竜区にあたる龍山村瀬尻にスギやヒノキの大規模植林を行った。

天竜スギは雪害のない恵まれた自然環境で育林されるため,根曲りが少なく,通直で節も少ないのが特徴である。とくに心材の耐久性が高く,耐水性にも優れていて塗装などを施さなくても光沢を放つ。

図版:地図

図版:イメージ

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