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Episode 0 復興前の蒲生北部

蒲生北部地区では現在,総面積約92.1haの大規模な土地区画整理事業が行われている。
仙台市が委託する「蒲生北部被災市街地復興土地区画整理事業等包括委託業務」により整備が進む。
東日本大震災で甚大な津波被害を受けた土地を再整備し,新たな産業基盤として位置づける。
これほど広範囲な土地区画整理事業はいかにして始まったのか――。
ここでは東日本大震災以前にさかのぼり,事業の来歴をたどる。

蒲生の地勢

蒲生地区は仙台市宮城野区の東端に位置し,仙台駅から約10kmの距離にある。市内を東西に貫く七北田川をはさんで地区は南北に分かれる。土地区画整理事業の対象となる蒲生北部は七北田川の北側に位置する地区だ。この蒲生北部地区は,国際拠点港湾の仙台港(仙台塩釜港仙台港区)に接し,西側を輸送車両が往来する産業道路の塩釜亘理(わたり)線が走る。

こうした立地から,震災前は工業系の施設ばかりが立ち並ぶ土地だったように思われるがそうではない。蒲生北部はもともと,住宅地と業務系の土地が併存する地域であり,震災前の2010年10月時点で人口は3,092人,1,149世帯が暮らしていた。

写真:蒲生北部地区位置図

蒲生北部地区位置図。仙台駅から約10kmの距離で,仙台港や仙台国際空港にも至近な立地

震災以前の蒲生

地区の東端の太平洋沿岸部には風光明媚な蒲生干潟が広がり,多くの生き物が生息していた。そのすぐそばには,津波で標高3.0mとなった名物・日和山も6.05mの山容を留めていた。仙台市民にとって蒲生と言えば,渡り鳥の飛来する干潟と,日和山が隣り合う,自然豊かな風景だった。

この地区の特色を記した『わたしたちの中野』という冊子がある。津波被害によって閉校となった蒲生北部地区内の仙台市立中野小学校が1986年に発行したものだ。蒲生の豊かな自然が小学生向けにわかりやすく図解されている。これによれば蒲生干潟や七北田川河口ではボラやハゼなどが多く釣れ,浜辺にはハマヒルガオやウンランが美しい花を咲かせていた。しかし,東日本大震災の津波被害によって,蒲生干潟一帯もその姿を一変させてしまう。

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蒲生北部と仙台市の被災状況

震災当時,地震規模はマグニチュード(M)9.0,仙台市宮城野区では震度6強と観測された。仙台港に押し寄せた津波の高さは推定7.1mと伝えられている。地震発生から1時間後に襲来した津波によって,太平洋沿岸部で多くの人が犠牲になった。仙台市の人的被害は死者904名,行方不明者は27名にのぼる。蒲生北部地区では157名が亡くなった。

新たな産業基盤への転換

東北地方太平洋沿岸部の他の地域と同様,津波によって壊滅的な被害を受けた蒲生北部は,「仙台市震災復興計画」にもとづき,2011年12月には災害危険区域に指定された。災害危険区域とは津波や高潮などによる危険の著しいエリアに対して地方公共団体が条例で指定する区域のことだ。これによって蒲生北部地区では住民の生命などを災害から保護するため,区域内にある住居の集団的移転を促進することを目的として,防災集団移転促進事業が進められることとなった。

仙台市では,この防災集団移転促進事業による転出者の土地を取得し,この土地利用として新たな産業基盤集積地とする方針を固めた。もともとの住宅地と業務系建物が併存する土地利用から,業務系土地利用へと転換を図ることとなった。

区画整理と利活用促進,復興の二本柱

仙台市が委託する「蒲生北部被災市街地復興土地区画整理事業等包括委託業務」は,準工業地域と工業地域の用途にまたがる蒲生北部地区で,地域経済の復興を図るべく計画された。

当社は6社で構成されるJVを主導し,公募型プロポーザルを通じて業務を入手した。JVは当社,フジタ,大手コンサルのパスコ,地元ゼネコンの橋本店,地元コンサルの復建技術コンサルタント,URリンケージからなる。当社JVは約92.1haの「土地区画整理事業」と,このうちの19haで事業者を誘致する「利活用促進事業」の両方を担う。土地区画整理事業は2015年8月より本格着工し,2021年度に完了予定である。

NOTE 包括委託方式
土地区画整理事業の新しい発注方式のことで,地方公共団体が施行する土地区画整理事業において業務の相当部分を一括して民間事業者に委託する仕組み。区画整理を地権者で構成される組合から民間事業者が請け負う場合,「業務代行方式」が用いられるのが一般的だが,「包括委託方式」はいわばこの公共事業版と呼べるものだ。蒲生北部のように,大規模な市有地の区画整理や利活用を行う際に,民間事業者のノウハウを提供できるメリットがある。この方式は区画整理促進機構が2010年に公表したガイドラインにもとづくものである。

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interview すでに道路ができはじめている様子に強いインパクトを受ける

包括委託方式は土地区画整理事業と市有地利活用促進事業の双方を,一括で受発注できることが特徴だ。蒲生北部地区の復興では,産業誘致とインフラ整備を一体的に行ううえで不可欠な制度であった。こうした方式は発注者である仙台市においてどのような背景で採用され,いかなるメリットを発揮したのか。蒲生北部の区画整理と利活用促進のそれぞれを担うふたりのキーパーソンに話を聞いた。

写真:鈴木陽課長

仙台市都市整備局市街地整備部蒲生北部整備課
(蒲生北部地区土地区画整理事業担当)
鈴木 陽 課長

写真:山田健一主幹兼ものづくり産業係長

仙台市経済局産業政策部企業立地課
(蒲生北部地区市有地利活用促進事業担当)
山田健一 主幹兼ものづくり産業係長

津波が襲ったとき

鈴木 私が震災後に初めて蒲生北部を訪れたのは2011年3月末でした。震災廃棄物処理の対応のためです。津波によって一変した風景を目の当たりにして衝撃が走りました。

山田 同じ時期に,私も被災車両処理の担当として蒲生北部の対応にあたりました。仙台市中心部から沿岸部へ向かう途中,仙台東部道路に差し掛かるところで風景が変わりました。沿岸部の被災の度合いは中心市街地とまったく違っていました。

鈴木 蒲生北部では,根こそぎ流された東側の住宅が,西側の地区でがれきと化して山積みになっていました。

山田 がれきの撤去は7月ごろに目途がついたものの,これからどうなるんだろうと被災地を眺めながら考えていたのを覚えています。もちろん当時はまだ,自分がこの地の復興に関わるとは思っていませんでした。

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包括委託方式の採用

鈴木 復興の基本は生活基盤の再建が最優先であるということです。次にくるのが経済の復興ですが,居住者の皆さんには防災集団移転というかたちで内陸側に生活拠点を移していただきました。皆さんは断腸の思いで移られたと思います。この跡地を整理集約し,造成工事を行っています。

山田 防災集団移転の跡地利活用について,2013年に行った企業へのアンケートでは消極的な意見が多数を占めていました。しかし一部には企業進出の可能性を感じる回答も見受けられました。仙台港や高速道路ICが至近な蒲生北部に,ポテンシャルを認める声もあったのです。仙台市では,市有地に産業を誘致する事業は昭和50年代以降,例がありません。そこで包括委託方式を採用し,民間企業の力を活用することになりました。

鈴木 土地区画整理事業の面においても,できるだけ短期間で復興を進めなくてはならないなか,膨大な業務量を限られたスタッフで消化する必要がありました。こうした状況に苦心するなか,一括して業務を発注できる制度に行きつきました。

包括委託方式のメリット

山田 利活用促進の面では,企業誘致の手法や事業者募集要項の記載内容といった細かなアドバイスを鹿島JVから提供してもらいました。とくにJV各社の進出事業候補者とのネットワークを活かしてさまざまな情報を得ることができました。これを踏まえ,支援制度を策定したうえで当市でも第1回事業者募集に踏み出せました。

鈴木 地区の西側は今,住宅や既存事業者の建物が点在している状況です。区画整理もそこで生活や事業を再建されている方々のご迷惑にならないよう施工しなくてはなりません。そのためには緻密な工程調整が必要になってきます。大きな区画の東側に比べて,西側は都市土木とほぼ変わらないほど工程が複雑です。鹿島JVでは一つひとつ丁寧な調整が行われており,工期に配慮しながら全面的にバックアップしてもらえることをとても心強く感じています。

山田 今年2月に開始した第1回の募集では,19ha中18haの事業候補者が決まりました。この時点での募集は早いという声もあったのですが,来年の秋には対象エリアの一部の造成工事が完了する予定で,引渡し後,ただちに事業者が着工するためには,むしろぎりぎりのタイミングでした。今決まったことにより,区画の形に応じたインフラの配置が区画整理の設計段階に組み込めます。また今後は,造成工事の進捗に合わせて事業者募集を行う予定です。私たちと鹿島JVの間でこうしたディスカッションや確認ができるのも包括委託方式のメリットと言えるでしょう。

環境への配慮

山田 事業者を募集する際の審査内容には,環境配慮の視点を盛り込みました。今後,開発を始めるには,蒲生干潟のような環境資源や,住民の方の住環境への配慮が欠かせません。

鈴木 蒲生干潟の生態系も回復していると聞いています。現在建設中の堤防の位置は干潟からセットバックした計画となっています。また,海側の在来種の植物を保全するために,一部表土を切り取って仮置きしています。工事完了後,この表土は緑地の表土として利用します。

山田 こうしたことを積み重ねながら,一歩一歩着実に工事が進んでいます。今,現場に行けば,少しずつ道路ができていく様子が見て取れ,これには強いインパクトを受けます。

鈴木 工程調整や住民への配慮など,まだまだたいへんな面も多いと思いますが,引き続きよろしくお願いします。

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写真:現在の蒲生干潟。震災前の風景を徐々に取り戻しつつある

現在の蒲生干潟。震災前の風景を徐々に取り戻しつつある

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