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Episode 2 産業振興の流れをつくる

蒲生北部地区は津波被害を受けた住宅地が防災集団移転促進事業により,市有地となった。
業務系の土地利用を図るために,当社JVの総力を結集した誘致活動を紹介する。

災害危険区域の土地を有効活用する

包括委託方式を用いて始まった蒲生北部の復興では,民間事業者にどのようなノウハウが求められたのか。仙台市の公募内容によれば,対象となる事業は次の3件となる。

① 土地区画整理事業
② ①と一体で整備する上下水道整備事業,舗装・地下埋設物撤去事業
③ ①で集約する市有地の利活用促進事業

①と②は一般的な土地区画整理事業に該当する部分。この事業全体の特殊性を示すのが③になるだろう。「利活用促進事業」とは,区画整理によって再整備された土地を有効活用するために,産業や進出事業者(企業)の誘致を行うことを指す。

当社はこれまで数多くの開発事業を手がけてきた。土地区画整理事業はそのひとつだが,蒲生北部の計画に利活用促進事業が加わったことで,当社のノウハウを活かせる機会がいっそう広がった。

図版:蒲生北部地区の保留地と市有地の位置関係を色別に示した配置図

蒲生北部地区の保留地と市有地の位置関係を色別に示した配置図

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開発のノウハウを復興地に投じる

蒲生北部の復興計画は,当社が培った開発事業のノウハウに合致する内容だった。当社が手掛けた,CM方式による岩手県宮古市田老の復興まちづくりでも一翼を担ってきた東北復興開発事務所が,公募型プロポーザルの提案書作成から参画した。

当社JV内では,東北復興開発事務所を中心とした市有地利活用検討グループを編成し,開発の専門チームによる有機的な産業誘致を行うねらいがあった。

事業者に知ってもらうこと

開発事業的な視点に立てば,蒲生北部は仙台港や市街地に至近で利便性が高い。そこで「まずはいろんな企業にこの地域のことを知ってもらうことから考えた」と,東北復興開発事務所で利活用促進を担当するプロジェクト開発部の石塚達也担当部長は語る。市有地利活用検討グループでは当社営業本部や東北支店営業部,さらにJV各社に協力を要請し,蒲生北部への進出が有望視される業態から100 社あまりをリストアップした後,各社にヒアリングを行った。

石塚担当部長によれば「立地的に興味を持つ企業もあれば,被災地のため検討の余地はないという企業もあり,反応はさまざまだった」。東北復興開発事務所では,興味を持つ企業はもちろん,そうでない企業に対しても,進出にあたり何が課題か,何が不足しているかについてヒアリングを行った。「事業内容の周知やアンケートを通じて,関心の度合いを高めるとともに,企業の生の声を吸い上げていきました」(石塚担当部長)。この活動の成果として,「蒲生北部地区事業所立地促進助成金」制度の新設という市施策に結び付けた。

写真:石塚達也担当部長

石塚達也担当部長

産業振興の流れをつくる

企業誘致に向けた広報・営業活動により,最終的には19社から,進出を具体的に考えたいとの感触を得た。そしてこの結果にもとづき,区画整理が並行して進められる2017年2月,仙台市は蒲生北部19ha-5区画の土地への進出事業者の第1回募集を行った。これにより「復興地に産業復興の流れができた」と東北復興開発事務所の所長を務める,プロジェクト開発部の木村茂夫部長は語る。

写真:木村茂夫部長

木村茂夫部長

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図版:同年5月には18haで事業候補者が決まった

仙台市では今年2月,上で示した市有地のうち19ha-5区画で,最初の事業者募集を行った。その結果,同年5月には18haで事業候補者が決まった

誘致活動,最初の結実

2月に開始された事業者公募は,5月に結果が公表され,19haのうち18haで事業候補企業8社が決定した。「名乗りを上げた多くは以前から地元に根付いている企業でした。ありがたい反応だった」(石塚担当部長)。候補企業は現在,仙台市との協議を経て立地協定を締結したところである。

この結果に対し,当社JVを束ねる当社東北支店の加納実統括所長は次のように語る。「復興は住民の生活再建を優先し,産業の復興はその後となる。蒲生北部でも,早く復興を実感できるよう尽くしていきたい」。

写真:加納実統括所長

加納実統括所長

NOTE ゾーニングの考え方
蒲生北部には小規模な事業所が点在しており,その区割りを守ることが区画整理の前提条件となった。津波被害の大きかった東側には工業系の大きな区画を集約し,西側には比較的細かな区画を設定した。最寄りとなるJR陸前高砂駅からの道をエリア内で接続させるために,地区の中心を東西に貫く幅員21mの都市計画道路を敷設し,それよりも下位の区画道路が南北に並行するよう設計された。

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interview

写真:レノバ バイオマス事業本部 企画運営部 永井裕介 部長

レノバ バイオマス事業本部
企画運営部
永井裕介 部長

第1回事業者募集の選定結果において,物流・運輸系事業者が多く占めるなか,バイオマス発電施設の提案で事業候補者として選ばれたのが,再生可能エネルギー分野の雄であるレノバだ。同社はユナイテッド計画らと共同で,蒲生北部で新たなエネルギーシステムの構築を模索する。

この地域のいかなるポテンシャルが再生可能エネルギー分野を惹きつけたのか――,レノバの永井裕介氏に話を聞いた。

進出の前史

今年2月に行われた蒲生北部事業者第1回募集で,当社とユナイテッド計画らとの共同事業体がバイオマス発電施設の提案で事業候補者として選定されました。ユナイテッド計画とはこれ以前,私たちにとって第1号となるバイオマス発電施設の共同事業を,秋田県で実現させており,鹿島にはこの施工を担当していただきました。

もともと当社は震災当時,宮城県下で震災廃棄物処理のお手伝いをしていました。県内では処理できないほどの物量が発生し,県外でも引き受けてもらえるよう,産業廃棄物処理事業などを行うユナイテッド計画に相談しました。これが機縁となってその後,秋田県でバイオマス発電所の共同事業を立ち上げることとなったのです。

バイオマス発電とは,木材など生物由来の燃料を燃やすことで発生させた蒸気を利用し,タービンを回転させ,電気を生み出す発電のことです。私たちは蒲生北部で事業を行うにあたり,発電の技術や運営,木質燃料の調達,事業の開発を得意とする各々の強みを活かし,事業の主要部分をなす3本柱を構築しています。

蒲生北部地区のポテンシャル

発電施設をつくるためには3つのインフラ条件が必要です。1つ目は燃料輸送の観点から大型船舶が着岸できる港があること。2つ目は電力供給のための送電設備が整っていること。3つ目は施設のための広い土地があることです。これらがすべて揃う候補地にはなかなか出会えませんが,蒲生北部はまさに,これらの条件を満たすポテンシャルを備えており,秋田に続く計画を模索していたなかで,鹿島から蒲生地区の紹介を受けたことは非常にありがたいことでした。

さらに私たちは木質を用いたバイオマス発電事業の意義の1つとして,林業振興を重視しています。秋田は豊富な森林資源を利用する計画でした。蒲生北部の発電所でも輸入品の木質燃料に加え,可能なかぎり国産材,県産材を使用し,林業の発展につながればと考えています。そのために現在,既存産業との競合にならないよう配慮しながら,宮城県内の森林資源の可能性を探っています。

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まちづくりに資する

蒲生北部地区には蒲生干潟という貴重な環境資源があります。ここで事業を興すことは,被災された方の思いにも自然環境にも最大限の配慮が必要であると捉えています。

環境アセスメントに係る説明会では出席者から環境や健康への影響を懸念する言葉をいただきました。皆様の不安はもっともなことです。私たちはこうした心配を安心へと変えられるよう,精細な調査をして,きちんと説明責任を果たし,皆様の思いに応える義務があると考えています。

そしてこの蒲生の地で,新たに整備される都市基盤を活用することで地域経済の活性化に貢献し,仙台市の復興,未来に向けたまちづくりに資することを目的に事業を進めたいと考えます。

写真:秋田県秋田市のバイオマス発電施設

秋田県秋田市のバイオマス発電施設。レノバとユナイテッド計画の共同事業のもと,当社は施工を担当した
(提供:レノバ)

図版:バイオマス発電施設の完成予想パース

蒲生北部地区で現在計画中のバイオマス発電施設の完成予想パース
(提供:レノバ)

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Background  東北復興開発事務所の軌跡をたどる

開発事業本部プロジェクト開発部を母体とする東北復興開発事務所。彼らは蒲生北部において土地区画整理事業と利活用促進事業の推進力となっただけでなく,これまでにも被災地の復興に不可欠な開発的知見を提供してきた。ここではプロジェクト開発部の木村茂夫部長と石塚達也担当部長の談話から,蒲生の前史となった事務所創設当時や,宮古市田老と石巻市の事業をたどり,復興に投じられた知見やノウハウを見ていく。

写真:東北復興開発事務所の歴代メンバー

東北復興開発事務所の歴代メンバー。左より鹿島軽井沢リゾート・小原浩武部長,安永担当部長,木村部長,石塚担当部長,中津次長,資産マネジメント事業部・高橋浩人部員

復興に開発担当者が加わる強み

木村 プロジェクト開発部ではこれまで,都市部を中心とした大規模な面開発事業を担当してきました。上流段階で街のグランドデザインを検討するところから関わり,土地区画整理事業や開発行為などの手法を活用し,許認可権者である行政や,利害関係者である地権者との折衝・調整を行いながら,土地を整備・利活用することが本来の目的・仕事となります。震災後に設置した東北復興開発事務所では,蒲生北部被災市街地復興土地区画整理事業以前にも,宮古市田老地区震災復興事業や石巻市水産物地方卸売市場建設事業等に携わってきました。

石塚 田老では,住宅の高台移転(開発行為)と被災市街地再整備(区画整理)の建設事業に「CM方式」が導入され,当社JVは調査・測量・設計・施工業務に加え,まちづくり全体のマネジメントを行いました。石巻では,国内の公共建築初となる「アットリスク型CM方式」が採用され,当社は,設計・施工業務や事業全体のマネジメントなど,多岐にわたる業務を担いました。東北復興開発事務所が,これらの事業や包括委託方式である蒲生北部の土地区画整理事業と利活用促進事業に関与することができたのは,私たちに,これまで開発事業で培ってきたノウハウを活かせる強みがあったからです。

開発担当者,現場に常駐する

木村 プロジェクト開発部のなかに東北復興開発事務所を設立したのは2012年8月のことですが,まずは同年の1月から3月にかけて東北支店に長期出張し,東北支店営業部や土木管理本部の担当者などとともに沿岸部の被災状況を視察しながら復興計画を調査していったのが始まりでした。そして復興計画のなかに高台移転や区画整理という整備手法が位置づけられるにつれ,私たちがこれまで蓄積してきた面開発のノウハウを活用できる可能性が高まっていきました。こうした背景から開発担当者も被災地で対応する必要性が高まり,東北復興開発事務所を設置して常駐体制で復興支援に従事することとなったのです。

石塚 私は宮古市田老地区震災復興事業を初期段階から担当しました。JV組成や技術提案書作成から始まり,当社JVが事業者に選定された後も,2年半ほど田老の現場事務所に常駐しました。開発部門の担当者が工事の現場事務所の一員として常駐する例は,震災以前はほとんどなかったと思います。

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都市計画と土地利用の専門家として

木村 開発事業本部は,都市計画法にもとづく開発手法に精通している部署ですが,本来の仕事は,区画整理などで整備された後の実際の土地利用(エンドユーザーへの売却なども含めて)です。私たちには,田老の発注者である宮古市やURの担当者との間で区画整理などの開発手法や実際の土地利用に関する専門的な話ができるノウハウがあると同時に,実際に土地を利用される被災者(エンドユーザー)にも対応できるスキルがありました。

石塚 田老では,甚大な津波被害によって住民の方々は高台移転を余儀なくされました。仮設住宅での生活で復興後の街のイメージを描きにくいなか,なんとか街に留まってもらおうと,宮古市やURの担当者とともに定期的に現場見学会を開催し,街が復興していくさまや新たな「わが街」の魅力を発信し,積極的なコミュニケーションを心がけました。こうした試みが功を奏し,最初は復興事業に半信半疑だった方も含めて多くの方たちに田老に住み続けることを選択していただきました。

開発×復興,もう1つのノウハウ

石塚 田老や石巻は,当時は導入例が非常に少ないCM方式の事業であり,宮古市や石巻市にとっても前例のない発注方式であったため,事業の立ち上げから試行錯誤の連続であり,当初の契約から日常業務に至るまで膨大な書類や手続きを処理・管理していく必要がありました。開発事業本部では,開発事業においてさまざまな契約や書類を取り扱っており,そういったノウハウも現場事務所の支援に役立ちました。

木村 蒲生北部被災市街地復興土地区画整理等包括委託業務は,土地区画整理事業に必要なすべての業務だけでなく,区画整理で整備された土地の利活用事業にまで包括委託方式を導入した先駆的なプロジェクトです。そういった点では,大規模事業であり,かつ様々な業務を一体的に推進する必要のあった田老や石巻のCM方式の延長線上にあるプロジェクトとも言えます。プロジェクト開発部からは現在,安永担当部長が現場事務所に,中津博史次長が東北支店開発部に駐在し,プロジェクトの推進にあたっています。

土地区画整理事業の造成工事が現在,最盛期を迎えており,東北復興開発事務所でも事業を円滑に推進するべく精一杯支援していきたいと思っています。

写真:宮古市田老地区震災復興事業の対象エリア全景

宮古市田老地区震災復興事業の対象エリア全景

写真:石巻市水産物地方卸売市場石巻売場全景

石巻市水産物地方卸売市場石巻売場全景

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