日比谷連絡通路土木工事
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて様々な再開発プロジェクトが
進められている東京都心――。至るところでタワークレーンが林立し,
大きく変貌していく様が垣間見える。都心の再開発プロジェクトでは,利便性向上のため,
建物と駅を地下でつなぐ連絡通路のニーズが高まっている。
今月号では,人々に知られることがない地下で進められている現場にスポットをあてる。
【工事概要】
(仮称)新日比谷計画建設事業と日比谷線及び
千代田線日比谷駅鉄道施設整備等に伴う土木・
建築工事及びその2土木工事
- 住所:
- 東京都千代田区
- 事業主:
- 三井不動産
- 発注者:
- 東京地下鉄
- 規模:
- (日比谷線連絡通路)R-SWING工法
矩形推進工(高さ4.275m×幅7.25m)
掘削延長約40m
導坑掘削工(高さ5.0m×幅9.0m)
掘削延長5.5m
ほか土木・建築工事一式 - 工期:
- 2014年7月~2017年8月
(東京土木支店施工)
都心の地下空間をつくる
明治維新以降,鹿鳴館や日本初の西洋式ホテルである帝国ホテルなどが建設され,近代化を象徴する街となった日比谷。高度経済成長期には,当社の建築の出発点である日比谷三井ビルが建てられ,現在では,劇場・ホテル・大企業の本社屋が連なる日本を代表するビジネス街のひとつだ。
現在,当社が施工中の「(仮称)新日比谷プロジェクト」(東京都千代田区)は,日比谷三井ビルと隣接する三信ビルの跡地を開発し,地上35階,地下4階の事務所,店舗,文化交流施設,産業支援施設などで構成される複合施設だ。完成は2018年1月の予定。その地下では,この建物と東京メトロ日比谷駅をつなぐバリアフリー通路の建設が行われている。同駅日比谷線側約70mと千代田線側約5.5m等からなる地下通路を構築する工事だ。
「都心の現場は様々な制約があり,当初の計画が重要だ。人の通りはもちろん,現場に近接している晴海通り,日比谷通りは交通量が多いため,昼夜間交通規制をすることはできない」と話すのは上木泰裕所長。八王子市内のシールドトンネルをはじめ東京都内の土木現場の所長や,支店シールドグループの担当部長を務めた経験者だ。「地表面から掘り下げる開削工法ではどうしても夜間の交通規制を長期間行う必要がある。狭隘な都市部でヤード確保が難しく,掘削する距離もトンネル工事としては短いため重装備となるシールド工法の適用は難しい。また,地下には多くの埋設物があり,地下通路の内空6mを確保するためには矩形断面にする必要があった」(上木所長)。日比谷線側約70mのうち42mの通路構築には,こうした厳しい施工条件で工程を確保するため,当社が2011年に開発したアンダーパス工法「R-SWING®工法」の採用が決まった。
日比谷版R-SWING
R-SWING工法は,上方のルーフ部(Roof)と下方の本体部で構成される矩形掘削機を,本体先端のカッターヘッドを左右に揺動(Swing)させながら掘り進め,トンネルを構築する技術だ。ルーフ部は本体マシンより最大1.5m前方へ先行掘削することで,予期しない埋設物の早期発見や地盤沈下の防止を図ることができる。また,矩形断面により通路に必要な部分だけを掘るため,ムダな掘削土の発生を抑えることが可能。周辺施設への影響も低減でき,狭隘な都心部の地下構造物には最適だ。掘削機は,本体部ユニット(幅2.3m×高さ2.7m×奥行き約5m)とルーフ部ユニット(幅2.3m×高さ0.9m×奥行き約5m)の組合せで構成され,用途に応じた断面調整ができるのが特徴。搬出入や現場での組立てが容易であり,ユニット間の接続はボルト締めで溶接や解体時のガス切断作業が不要なため工程の短縮が実現できる。
今回の工事で製作したマシンは,本体部の上にルーフ部を配置したユニットを横に3つ(3連)並べた。さらにスペーサーで調整することで幅7.25m,高さ4.275mの断面に対応した。このうち,左右2つは2011年に新御茶ノ水駅とオフィスビルをつなぐ地下連絡通路建設工事「新御茶ノ水駅連絡出入口設置工事」で使用した機械を転用した。そうすることで,一般的にトンネル工事ごとに製作するシールドマシンよりコストを削減することができた。
「土木管理本部や機械部などの本社各部署やマシンを製作したカジマメカトロエンジニアリングと共同で事前に何度も実験をした」と話すのは山田敏博次長。上木所長とともに計画段階からこのプロジェクトに携わっている一人だ。硬い地盤に対応できるようカッタービットを超硬チップに変更するなど従来機に改良を加えて工事に挑んだ。
超狭隘な土地で工事を進める
都心部は地上エリアだけでなく,地下もインフラ機能が錯綜している。電気・ガス・水道などの多数の埋設管が入り組み,まるで蟻の巣のようだ。施工管理を中心に発注者対応まで幅広い業務を担当した工藤耕一工事課長代理は「これだけ狭い敷地内で工事を円滑に進めるためには段取りをどれだけできているかが決め手となる。現場内はもとより隣で施工している建築工事などとも綿密な作業調整を行った」と話す。作業員とよくコミュニケーションをとり,共通認識を持つことを意識することで現場の一体感を醸成した。杭打ち,地盤改良,掘削工事を行い,立坑を造った後,3月17日からR-SWINGマシンのユニット搬入に取り掛かった。夜間に発進立坑から順次搬入されたユニットは24日間で組み立てられ,5月16日,発進を迎えた。
「発進後に万が一マシントラブルが発生したら工程に大きく影響を与えてしまう。実際にR-SWINGマシンが発進してからは緊張の連続だった」と山田次長。
掘進には,マシン後方に固定した元押しジャッキでセグメントと掘削機を一緒に前進させる推進工法を適用した。掘削距離が短いトンネルに適している工法だ。推進では,長さ1mのセグメントを計42リング組み立てた。セグメントは,土留めや支保工の役割も果たす。「カッターが自動で揺動する動きと推進のタイミングを調整しないと,掘削機の進む方向が徐々にずれてくる」と山田次長が語るように,掘削機と元押し装置をうまく調整することが重要だった。ポイントとなるのは元押し装置(装備推力3万8,880kN)の16本のジャッキだ。それぞれのジャッキのスピードを巧みに制御しながらトンネルの線形を管理し,効率よく掘削できるよう新たにシステムを構築し,施工した。
発進から約3ヵ月が経った8月26日,掘削機が到達立坑に予定通り到達した。
「R-SWINGマシンは無事に到達したが,まだこれからも千代田線の連絡通路などのずい道工事が続く。無事に工事が完了するまで気を抜かずに,所員一丸となって邁進しなければならない」(上木所長)。現在は人の見えないところで造られている通路だが,完成後多くの人が行き交う景色が待ち遠しい。
都市部の地下空間構築では地上部の交通規制への影響を最小限に抑えることができる非開削工法で円形に比べ断面積が小さく,トンネル断面の合理化が図れる矩形断面のニーズが高まっている。
当社ではR-SWING工法をはじめ,用途・施工条件に応じた矩形シールド・推進工法のラインナップを「VERSATILE BOX※工法」と総称し,積極的に展開中だ。
ワギング・カッタ・シールド工法
コンパクトを実現した世界初の矩形シールド・推進工法
- カッターヘッドを一定の角度内で往復運動させながら矩形に掘削
- 油圧ジャッキを伸縮させカッターヘッドをワイパー状に揺動させる機構を採用
EX-MAC工法
伸縮カッターにより多様な矩形断面の施工を可能としたシールド工法
- カッターヘッドを回転運動させながら掘進
- カッタースポークに内蔵された伸縮カッターで回転時に形状に合わせて伸縮させて切削
アポロカッター工法
大深度の硬質地盤において優れた切削性を発揮するシールド工法
- 3つの掘削機構を自転・公転させて掘削
- 地中障害物切削に威力を発揮
- ニーズに応じた自由断面を掘削