ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2017:特集「都心大型再開発プロジェクト~魅力ある首都・東京へ~」

KAJIMAダイジェスト

特集 都心大型再開発プロジェクト~魅力ある首都・東京へ~

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催まで3年を切った。
現在,東京都心部は,建設ラッシュの様相を呈している。
今月の特集では,これらのプロジェクトが,首都・東京の地位をいかに高め,
魅力を向上させていくのかを考える。

写真:東京ミッドタウン日比谷

東京ミッドタウン日比谷

改ページ

interview 生まれ変わる東京の現況とこれから

都市計画・都市交通の分野を中心に,幅広い視野で研究活動を行い,
様々な街の都市計画や東京五輪関連の委員を歴任した岸井隆幸教授。
東京の現況と今後の展望,世界的な都市間競争を勝ち抜くために必要な東京の再開発について語ってもらった。

写真:日本大学理工学部  岸井隆幸 教授

日本大学理工学部
きしい たかゆき
岸井 隆幸 教授
1953年兵庫県生まれ。
東京大学工学部都市工学科卒業,同大学院修士課程修了。
建設省(現国土交通省)勤務を経て1992年日本大学理工学部専任講師,
1998年より同大学教授。
2010年~2012年 日本都市計画学会会長。

東京の現況と成長過程

建設ラッシュとなっている現在の東京,今の再開発の中心は東京駅周辺です。このあたりは戦後復興によって建てられたビルが多く,老朽化や耐震性の問題を抱えていました。そして,2001年都市再生本部が設置され再開発の機運が盛り上がった。また,2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まったことで,「2020年までに完成させる」という目標ができたと言えるでしょう。

今後,東京の再開発がどのように展開していくかを考えるためには,まず東京という都市がどのように成長してきたのかを振り返る必要があります。東京駅周辺の整備に続き,1964年の東京五輪を契機に,代々木のメイン会場と駒沢公園のサブ会場に近い渋谷が変わっていきます。また,1970年代には京王プラザホテルを皮切りに超高層ビルの建設ラッシュとなった新宿,サンシャイン60を代表とする池袋の開発が続きます。では,なぜこれらの場所が成長したのか。そこには交通インフラとの関係性が見えます。新宿にはJR中央線がありました。同様に渋谷,池袋には地下鉄銀座線,丸ノ内線があり,いずれの地区もビジネスの中心地である東京駅周辺へのアクセスが容易でした。このことが,これらのエリア発展の一因だと考えます。

都市の「資源」に着目する

東京には,渋谷,新宿,池袋といった,副都心と呼ばれる地域が複数あり,公共交通機関で相互につながり,巨大な都市圏を形成している。これが東京の特徴だと思います。これは世界的にも珍しいことです。また,各エリアが持つ「資源」にも注目すべきです。

丸の内であれば銀行や老舗大企業,日比谷であれば劇場や映画館,日比谷公園などの文化資源があります。渋谷だと若者への情報発信基地でしょうか。東京駅周辺の整備では,歩行者優先の新しい駅前広場と皇居に向かう象徴的な行幸通りに,復原された丸の内駅舎が歴史という価値を付加し,多くの人を惹きつけています。これからの再開発は,こうした地域の資源を最大限活用しながら次の時代の都市基盤を整備することが重要だと思います。さらに,こうした資源を生かすエリアマネジメントの活動が各々の街の魅力をより一層高めるのだと考えます。

改ページ

産業の変化が建物を変える

もうひとつ,重要な要素が産業の変化です。産業の主流によって建物に求められる機能も変わり,その時勢に合ったものを造らなければいけません。

現在,最も勢いがあるのはICT系の産業です。東京では他の産業分野の就労人口が減少するなかでICT系は増え続けています。今後,ICT・IoT化はますます加速し,浸透するでしょう。ICTを生業とする人が働くICT企業だけではなく,各企業内部にICTを軸にした組織が確実に広がっているように思います。歴史を遡ると,蒸気機関が発明された後,各産業がその動力をいかに使って自身の産業を発展させるかを模索したように,ICTも各産業がICTを取り込むステージにきているのではないでしょうか。今後ICTの浸透によって仕事が合理化,省力化されれば従来の働き方が変わるかもしれません。その場合,オフィスに求められる機能も変化し,それに見合う環境を実現しなければなりません。

都市間競争を勝ち抜くために

現在,世界的な都市間競争がより熾烈さを呈するなかで,東京がいかに立ち向かうかが課題です。GDPシェアで日本はこれまでアジアの半分近くを占めていましたが,ASEAN・中国などの発展により,昨今では2割弱となっており,必ずしも日本がアジアをリードしているとは言えません。世界の人口の6割近くが集中するアジアという巨大マーケットを国際的なビジネスを展開する企業は無視することができず,消費地に近いシンガポール,香港に拠点を置こうとする流れがあります。こうした状況で,東京が戦うために重要なのが,先に述べた東京にはビジネスの中枢機能を担う街が複数あること,それぞれの街が個々に成長してきた歴史をもっており,多様性がある点です。現在,東京駅周辺で大規模な再開発が進んでいても,東京全体の国際ビジネス都市としての機能が停止することはありません。今後,渋谷,新宿などが再開発の中心となる時には東京駅周辺は既に生まれ変わっている。つまり,東京では常に先進性に富んだ再開発が行われており,次世代の産業のニーズにあった新しい都市環境をつくることが可能で,それが東京をサステイナブルな都市とする強みなわけです。その強みを生かし,変化する時代のニーズを満たす再開発を行い,都市の魅力を高め,「東京には常に最新のモノがある」状態をつくりあげることが国際競争を勝ち抜く鍵だと言えるでしょう。

ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2017:特集「都心大型再開発プロジェクト~魅力ある首都・東京へ~」

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ