今回紹介したプロジェクトは,様々な機能を備える最先端の複合ビルである。
これらを実現するため,当社は,開発,設計,施工,運営などで培ってきた技術やサービス,
ノウハウをプロジェクト毎に投入し,社会や利用者のニーズに応え,首都・東京の魅力向上の一翼を担っている。
ここでは,都心の大型再開発プロジェクトを支える取組みを7つのキーワードで紹介する。
当社は,都心の大型再開発プロジェクトが最盛期を迎える,東京五輪前の2018・19年を繁忙期と捉え,2002年に策定した全社的な建築工事の基幹業務マニュアル「建築工事 Total Management System(KTMS)」を見直し,「KTMS-2017」を今年度から始動した。現在,業務品質と生産性の向上を図るため,「業務標準見直し」「ICTツールの活用」「労務3割削減」の3つの施策を推進中だ。
首都直下地震が30年以内に発生する確率は70%といわれ,いつ起きても不思議はない。当社は,前ページで紹介した世界最高の制震効率を実現する「HiDAX-R®」を用いた制震構造をはじめ,ハードからソフトまで数多くの地震対策技術を開発・適用している。
「地震応答評価システム」は,建物・基礎・地盤を一体でモデル化して,地盤と建物の動的相互作用を考慮した地震時の建物の動的挙動を解析し評価する技術で,耐震性能評価を精度良く行うことができる。
また,豊富な実績がある「建物安全度判定支援システム(q-NAVIGATOR®※)」は,地震発生後,数分で建物の安全性を判定。数フロアおきに設置した地震計が建物の挙動を計測・推定し,構造的な被害を高精度に評価する。
こうした技術やサービスは,企業のBCPを支援するとともに,安全・安心な“都市づくり”に貢献していく。
当社は,KTMS-2017の「ICTツールの活用」の一環として,施工現場でのBIM※の活用を積極的に進めている。BIMとは,一般に建物の3次元モデルにデータベース機能を持たせたツールだ。プロジェクトの初期段階から,施工に必要な情報を持つ3次元モデル「施工BIM」を作成し,建物や施工情報を可視化。各種検討作業の前倒し(フロントローディング)により,施工の効率化を図っている。大型プロジェクトにおいても,解体手順検討,施工計画の立案,設計者とのデザイン検討,BIM施工図の作成,設備との総合調整など様々な業務に活用されている。施工を進めるうえで,多くの関係者との合意形成は大きなポイントであり,BIMは有効なツールとなっている。また,竣工後の維持管理におけるBIMモデル活用も検証を開始した。
設計・施工プロジェクトには,設計者の感性だけでなく,客観的な指標による裏付けのあるデザインを可能とするシミュレーションツールを数多く開発・適用している。ワークスタイルの調査分析に基づくレイアウトプランから,風の流れや日射の影響など建物周辺環境まで幅広い業務が対象となる。
都心の大型プロジェクトは,従来の設計基準を超える大規模な建物も多く用途も複合化している。エレベータ台数やトイレ個数なども従来の知見やノウハウに頼ることができない場合もあり,最適値を導き出すツールとして活用する。デッキや庭園など屋外空間が計画されているプロジェクトも多い。ビル風のシミュレーションは,快適性の判断や樹木への影響を知るためにも,これまで以上に重要な位置づけとなっている。また,非常時の避難シミュレーションなどBCP関連のツールも充実している。
KTMS-2017の「労務3割削減」では,現場作業を効率化するため,施工の機械化やロボット化に向けた研究開発を加速させ,現場適用を積極的に推進している。
将来の溶接技能工不足に備え,造船業や橋梁工事に用いられている「汎用可搬型溶接ロボット」を鉄骨の柱・梁の溶接に適用するための手法を実用化。現場で熟練溶接技能工と同等以上の良好な結果を確認している。グループ会社の「鹿島クレス」では,溶接ロボットのオペレータ育成にも力を入れており,グループ会社と連携した普及展開を図る。また,重労働となる外壁や内壁の設置作業の省力化を目的として「マイティフェザー」を開発。現場での使い勝手や実際に活用できることを最優先に,シンプルな構造で軽量なパワーアシスト型を採用した。
都市部の再開発では,既存建物の解体を伴うケースが多い。解体工事の工期短縮は,新築工事の早期着工にもつながることから,一層の効率化が求められる。また,騒音・振動など周辺環境への影響を最小限に抑える必要もある。当社は,現場ごとの制約条件を考慮しながら,創意工夫により適切な施工方法を考案し,さらなる効率化を図っている。
地上部の解体では,ジャッキで建物を下降させ,下の階から解体していく環境配慮型の解体工法「鹿島カットアンドダウン工法®」など独自技術のほか,諸条件に合わせて解体工法を選択する。
地下部の解体は,前ページで紹介したように,難工事となるケースが多い。現場ごとに施工条件が大きく異なるなか,様々な工夫が行われる。既存の杭や基礎の再利用,土留壁の強度を高め広い作業空間を確保するなど,解体工事の効率化を図る。新技術の開発・適用も積極的に行っている。2011年に開発した微少発破による建物基礎の解体工法「鹿島マイクロブラスティング(MB)工法」を,より深い場所まで一度に発破できるよう改良した「パイルMB工法」(商標登録出願中)も開発。「鹿島MB工法」は,これまで都心部の大型再開発工事を含む20件に適用し,騒音・振動を低減するとともに,解体工期の削減に大きな効果をあげている。
「東京都在来種選定ガイドライン」では,再開発プロジェクトなどを実施する際,在来動物の生息空間のネットワーク化(エコロジカルネットワーク)を考慮し,周辺に生育・生息する動植物に配慮した環境創造が求められている。
当社は,屋上・壁面緑化や自然エネルギーの利用だけでなく,自然の恵みを都市でも十分に享受できる「いきものにぎわうまち®」を提案している。質の高い緑の整備とそのネットワーク化によって,健全で安定的な生活環境の形成を目指す。具体的には,都市域の生態系を示す環境指標種を選定し,エコロジカルネットワークを評価する技術の展開のほか,ミツバチの受粉による地域生態系の活性化や地域の野菜・米を育てられる菜園・水田の設置などを積極的に提案している。地域に配慮した環境創造に加え,ハチミツや農作物を生産することで,環境教育や地域交流の場の創造にもつなげている。
「(仮称)竹芝地区開発計画」では,養蜂や屋上水田など8つの取組み「竹芝新八景」の整備を進めている。
地域が持つ特性を重視し,民間や市民が主体となって,地域の魅力を高める取組みに注目が集まり,様々なイベントが行われている。
7月26日,「日本橋橋洗い」(主催:名橋「日本橋」保存会)が開催された。当社からは「日本橋二丁目地区第一種市街地再開発事業(C・D街区)」と「日本橋室町三丁目地区第一種市街地再開発事業A地区」の現場や営業本部,東京建築支店営業部の社員ならびに家族約50人が参加した。このイベントは,五街道の起点である日本橋の美しさを後世に伝えようと1971年から始まり,今回で47回を数える。
日本橋は,長さ約49m,幅約27mの石造二連アーチ橋。1999年には国の重要文化財に指定されている。地域の住民や企業関係者,地元の小学生など約1,800人が,たわしやデッキブラシで丁寧に清掃した。当社社員らは,鹿島の半纏を羽織って1年の汚れを洗い流した。今年は,橋上の高速道路の地下化に向けての取組みが発表されたこともあり,マスコミの注目度も高かった。
8月23~25日には,竹芝客船ターミナルで「第3回竹芝夏ふぇす“TAKESHIBA Seaside Music&Dining”」(主催:竹芝エリアマネジメント)が行われた。東急不動産と当社が共同で開発を進める「(仮称)竹芝地区開発計画」におけるエリアマネジメントの一環として開催され,都心の希少なベイサイドで,多くの人々が潮風に吹かれくつろぎながら音楽と食事を楽しんだ。また,まちづくりに向けた社会実験イベントでもあり,「コンテンツ×デジタル」産業の国際ビジネス拠点の実現に向け,ロボットやAIといった先進技術を,まちの活性化や課題解決に活用する可能性の検証も行われた。
まちづくりの中心は,開発(デベロップメント)から管理運営(マネジメント)にも配慮した“エリアマネジメント”へと広がっている。
今年,テレビニュースなどで「(仮称)新日比谷プロジェクト」と「日本橋室町三丁目地区第一種市街地再開発事業A地区」の食堂が何度か紹介され話題となった。
都心の大型プロジェクトでは,1,000人を超える作業員が働くことも珍しくない。多くの人に,おいしい食事をとってもらえる環境を整備したいという思いから設置を決めた。工事の進捗とともに,設置場所が上階へと変わっていくのも建設現場の食堂ならでは。火気は使えないので調理は全てIHで行われている。麺類や丼ぶり,カレーライスなどが提供され,できたての温かいものを食べられると,作業員からの評判も高い。
8月23日,NHK総合テレビで放映された「サラメシ」の特番「真夏の社長メシスペシャル」には安全パトロールをする押味社長が登場。現場の食堂でカレーライスを味わった。