わが国は地震だけでなく,津波や火災,さらに台風・豪雨が引き起こす高潮,
河川の氾濫,土砂崩れ,また噴火,竜巻といった災害にたびたび脅かされてきた。
1923年9月1日の関東大震災の発生日から定められた「防災の日」は,90年あまりが経った今もなお,
私たちに自然の脅威と災害への備えの大切さを喚起し続けている。
今月号は鹿島の防災・減災技術を特集する。キーワードとなるのは「レジリエンス」。
「強靭化」を意味し,災害に対する抵抗力や回復力を総合的に捉えるための新しい視点である。
「天災は忘れたころにやってくる」
政府の地震調査研究推進本部は「全国地震動予測地図2016年版」を公表した。折しも熊本地震から約2ヵ月が経った6月10日のことである。ここに転載したのは同版に収録された「確率論的地震動予測地図」で,今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布を示している。南海トラフや相模トラフが分布する太平洋沿岸と,中央構造線沿いで,「高い確率」を示すこげ茶色が多く見て取れるが,大地震が起こる可能性は全国的に高い。
「天災は忘れたころにやってくる」と発したのは関東大震災を経験した物理学者・寺田寅彦と言われているが,この警句は日ごろの備えが大切だとする教訓を込めて今日に伝えられている。起こりうる災害は地震だけではなく,これにともなう津波や火災,高度利用が進む臨海部での液状化現象も私たちの暮らしに深刻なダメージを与える。さらに台風や豪雨は河川の氾濫を引き起こすだけではない。2014年の広島土砂災害は私たちの記憶に新しい。
都市化の進展にともない,災害に対するBCP(事業継続計画)への関心が高まるなか,政府は国土の強靭化(レジリエンス)に向けた基本方針を打ち出した。これは狭義の「防災」を超え,社会全体の「抵抗力」「回復力」の確保を目的とするもので,建設業にもきめ細かな対応が求められる。
レジリエントな社会に向けて
当社の技術開発に着目すると,制震構造の実用化に向けた研究は,今からちょうど30年前の1986年に発表された,コンピューターで制御する「アクティブ制震」のコンセプトが端緒を開いた。以来,当社は制震技術の先駆けとして,つねに新しい発想でその開発に努めてきた。最新技術となる新世代制震装置〈HiDAX-R® (Revolution)〉は今年4月,日本産業技術大賞において文部科学大臣賞を受賞した。
当社ではこれまで地震だけでなく,災害リスクの評価やシミュレーション,これを踏まえた対策技術の開発と普及を行ってきた。今月号で紹介するのはその一例だが,地震を中心に水害,火災,風害に対する技術のメニューはきわめて多様であり,やがて訪れるレジリエントな社会に向けられた高度な知見を見ることができる。