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Chapter IV 「くりひろげる」 水ビジネスの展開とネットワーク

世界的な水環境問題の解決に向けて,資源確保から水供給,
再利用までの循環システムの提供が各国で求められている。
2025年には87兆円の市場規模にもなるといわれる水ビジネス。
当社は国内関連分野の産・官・学による協議会の立上げをはじめ,
事業展開に積極的に取り組んでいる。

異業種の企業連合を支える

水資源分野に関して,当社では産業界や行政関連主導の研究会活動に積極的に参画し,異業種ネットワークをいかしながら建設技術ノウハウの提供やシステムの検討を行ってきた。

産業競争力懇談会(COCN)の「水資源プロジェクト」では幹事企業として参画し,2008年に海外水循環システム協議会(GWRA)を立ち上げた。産・官・学が連携し,水循環システムの開発と海外展開に向けた基盤となる。市場調査,国際交流の活動をもとに政策提言を行いながら,技術開発などにより競争力を強化。モデル事業を立ち上げて,検証しノウハウを蓄積していく。2010年からはベトナム・ホーチミン市新都市開発地域での水循環ビジネスモデルの構築に着手。企業連合の一員として,軟弱地盤の洪水常襲地帯において防災事業・都市計画インフラの調査・提案活動を行っている。

写真:海外調査。ホーチミン市新都市開発地域にて

海外調査。ホーチミン市新都市開発地域にて

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図:インフラ整備/技術領域マトリクス

水ビジネスの種を支える

2010年,膜技術を保有する東レと海外展開を積極的に取り組んでいる日立プラントテクノロジーが,経済産業省の事業認可を受けて設立した海外水循環ソリューション技術研究組合(GWSTA)に参画。新しいコンセプトの海水淡水化システム構築の取組みがスタートした。GWSTAがNEDOとともに整備を進めてきた水循環システムのデモプラントが,昨年12月,北九州市に,今年3月,周南市にそれぞれ完成。当社はこれら2施設の土木・建築工事を担当した。

写真:完成した「ウォータープラザ北九州」

完成した「ウォータープラザ北九州」

写真:設置された機器(ウォータープラザ周南)

設置された機器(ウォータープラザ周南)

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From MALAYSIA 成長するアジアのインフラをつくる~マレーシア・下水処理施設工事

急速に経済成長を遂げているマレーシア。発展に伴い都市部を中心に上下水道,ごみ処理,交通といったインフラの未整備による生活環境の悪化が進む。同国重点施策の下水処理場の整備が,国際協力銀行の資金協力で行われた。この工事は,クアラルンプール及び2州に合計4ヵ所の下水処理場などを建設するもので,当社が土木建築工事を,荏原製作所・西原環境テクノロジーが機器関連工事を担当した。

躯体工事では,下水の浸透による耐久性低下防止のため水密性コンクリートを打設。4現場合わせて約7万m3の打設には,ドイツ工業品標準規格に基づく水密性試験が用いられた。流動性が低く,硬化時の収縮ひび割れが多い,施工性の悪いコンクリートの施工管理を徹底した。

クアラルンプールからマラッカまでの約180kmに分散する4現場を,統括する所長がきめ細かく巡回して,品質・コスト・工程・安全対策を徹底。2006年着工から3年以内の工期で全て竣工した。すでに操業を開始した4施設は,市民生活の環境改善に寄与している。

地図

写真:竣工したクアラ・サワ下水処理場

竣工したクアラ・サワ下水処理場(処理水量5万9,000m3/日)。このほかダマンサラ下水処理場(処理水量2万5,000m3/日),スンガラ下水処理場(処理水量1万5,000m3/日),スンガイ・ウダン汚泥処理場(処理水量250m3/日)を建設した(海外支店施工)

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interview 社会において最も重要な事業

水環境の持続可能な循環型社会構築について,
国内外の環境問題に取り組んでいる国立環境研究所大垣眞一郎理事長に聞いた。
大垣理事長は,都市環境工学,水処理工学,水環境工学を専門として,
国内外の水資源の保全と利活用について研究・指導にあたる第一人者である。

写真:独立行政法人 国立環境研究所 理事長 大垣眞一郎

独立行政法人
国立環境研究所 理事長
大垣眞一郎
(おおがき・しんいちろう)

1969年
東京大学工学部
都市工学科卒業
1974年
東京大学大学院
工学系研究科
都市工学専門課程
博士課程修了
1974年
東北大学工学部助手
1983年~1985年
タイ国アジア工科大学
助教授
1989年
東京大学工学部教授
2002年
東京大学工学部長・
工学系研究科長
2005年
日本学術会議副会長
2006年~2008年
国際水学会副会長
2009年
独立行政法人
国立環境研究所理事長

代替物質がない「水」

水資源について考えるとき,重要なのは「代替物質がない」ことです。工業や鉱業で産み出される消費財と違い,水は循環しているという点で,自然界を構成する物質の中で特に重要です。大切なのはH2Oそのものではなく,生活サービスを提供する素材としての役割といってよいでしょう。

ボトルウォーターという「水」が市場商品となっています。ボトルウォーター1リットルと,私たちが1日に一世帯で普段使用している生活用水およそ1m3とが,同じ200円程度です。価格が1,000倍違います。安全・安心で安価な生活用水をどう供給するかが大切なのです。

水資源を自然界から持ってきて,人が使って,また自然界に戻す。東京なら多摩川,利根川などから取水して,東京湾に返しています。上流から下流,さらに海洋に至るまで,水循環という大きな自然環境の中に都市生活があります。

「水」は公のものとして供給しなければなりません。ローマ帝国の時代から社会として最も重要な事業の一つとしての水システムがあります。水供給や汚水処理といった水環境ビジネスの根本なのです。

日本の水資源の技術と文化

日本の狭い国土で人口が集中する東京都が,世界一の水供給システムを作り上げてきました。漏水率わずか3%の水道管網の品質の高さや,一人当たり1日の使用料数十円という低廉さは,社会インフラとして成功している証です。

1980年代から,東京・西新宿地区で世界に先駆けて高度下水処理水を水洗便所などに利用してきました。また,玉川上水など用水としての機能がなくなったところでは,景観用水として見事に再生されています。水を大切にする社会的合意があるのです。

国内では上下水道施設の新規整備は少なくなりました。経験豊かな技術者も減り,技術継承が課題となっています。一方,設備更新などの再整備の投資が差し迫っています。膜処理などの新技術や新しい水環境システムに対応できる人材の育成が必要となっています。

水環境ビジネス,建設業の役割

水環境の社会インフラについて,鹿島さんをはじめとする民間企業・団体が,勉強会などを通じ様々な形での海外進出に取り組んでいます。世界各地の多様なニーズに,日本のこれまでの水に関する豊富な実績と技術のノウハウが活かされることでしょう。

これまで,施設・設備分野は建築,上・下水道は土木と分かれていましたが,最近は水環境を一体的な循環系のシステムで考えるようになってきています。これからは水環境システムに関して建築・土木などの専門分野を統合する必要があると考えます。

水循環システムとして持続可能な「環境都市」を提案していくためには,幅広い知見が必要です。水源地,ダム,河川,上水,下水,海域など水環境にトータルで関わっている建設業の活躍が期待されているのです。

column 水の土木遺産を護る~重要文化財(建造物)旧三河島汚水処分場喞筒場施設整備工事

旧三河島汚水処分場喞筒場施設(東京都荒川区)は,現在の台東区のほぼ全域と千代田区の一部区域の雨水及び汚水を処理するために建設されたもので,1922(大正11)年に運用を開始した。ウィーンで流行したセセッション様式で建てられたポンプ室や東・西阻水扉室,沈砂池など一連の構造物が,当時の様子をよく残している。

これらの施設群は,1999年,施設の再構築により休止施設となったが,東京都下水道局は歴史的価値を評価して保存を決定。日本初の近代的下水処理場として,2007年に国の重要文化財(建造物)に指定された。当社は,これら施設群のうち東・西阻水扉室,沈砂池などについて修理工事を行い,この3月に完成した。国の貴重な文化財として,今後も段階的に保存・整備が図られる。

写真:旧三河島汚水処分場喞筒場施設全景

旧三河島汚水処分場喞筒場施設全景

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