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Interview 鉄道がつくる持続可能で快適な都市

現在,日本都市計画学会会長を務める岸井隆幸氏は,都市計画・都市交通の分野を中心に幅広い視野で研究活動を行っている。大都市の様々な生活や活動を支える重要な社会基盤となっている都市鉄道について,その意義と可能性を語ってもらった。

写真:岸井 隆幸

日本大学理工学部教授
岸井 隆幸(きしい たかゆき)

1953年兵庫県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業,同大学院修士課程修了。建設省(現国土交通省)勤務を経て1992年日本大学理工学部専任講師,1998年より同大学教授。2010年より日本都市計画学会会長。

世界的な都市間競争がより熾烈さを呈する中で,東京が海外の大都市と比較して優れている点は大きく2点あります。一つは,子どもが大人の付添いなしに電車に乗って出かけることができるほどの治安の良さ。もう一つは,都心部なら駅から徒歩数分でどこにでもたどり着ける,公共交通ネットワークの利便性です。

東京は,歴史的に見ると都市として成長する早い段階で山手線という環状鉄道が整備され,都心部に複数の特徴ある中心地区ができました。大手町・丸の内・有楽町地区,新宿,渋谷,品川,上野など,それぞれに個性的な街の顔を持っています。

街の魅力をいかしてさらに都市の競争力をつけるためには,まず,今後発生が予想される大規模地震に対してより一層のリダンダンシーを高めることが求められます。この点は東京圏より大きな圏域で考えなければなりません。地震で中心地区のどこかに支障が起きても圏域全体で機能する仕組みです。鉄道網も複数のルートを確保することが重要です。東京圏では,山手線の西と東で既存の湘南新宿ラインと京浜東北線に加えて,現在地下鉄副都心線と東急東横線の相互直通運転や,東北線と東海道線をつなぐ東北縦貫線の整備が進められています。それぞれ南北軸の選択肢になります。北関東の要でドメスティックな核「さいたま」と,国際港を保有し羽田空港にも近いインターナショナルな核「横浜」が,公共交通ネットワークで強く結ばれて,東京をバックアップするのです。

次に,道路と鉄道の立体化です。関東大震災の昔から「都市内の鉄道は高架または地下にすべし」といわれ,山手線の内側では地下鉄ネットワークの整備が進みましたが,郊外の鉄道は平面交差のままでした。これほど踏切が多い都市はほかにありません。やがて都市化の勢いが郊外にまで及ぶと,踏切をなくす連続立体交差事業の必要性が高まりました。各所で行われているこの事業は,世界に誇るメガロポリスとして必ずや成し遂げるべきものなのです。

都市と鉄道の関係でもう一つ重要なのは,鉄道がつくる新しい街のかたちです。SUICA(スイカ)やPASMO(パスモ)といったICカードは,これまでの駅改札口の内と外というバリアを低くしました。さらに,エレベータなどの昇降機設置で空間的なバリアフリー化などの駅改良も進んでいます。安全・安心で快適な都市生活の中心となるのです。

鉄道は,都市という肉体における動脈のようなものです。その動脈の心臓部ともいうべき東京や渋谷,横浜などの大規模ターミナル周辺では,都市と鉄道の一体的な"世紀の大改造"が進められています。さらにもう少し先を見通せば,リニア整備の進展でこれまでの範囲を超えた国土レベルの新たな都市圏が誕生し,国際都市としてのさらなる飛躍も期待されます。首都圏がこれからも日本経済を支えるため,都市が機能を停止することなく常に「再生」を続けていくことが求められています。

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