全国に約3万4,000ヵ所あるという「踏切」。
連続立体交差事業は,鉄道の高架化や地下化で多くの踏切を一挙に取り除き,交通渋滞や踏切事故を解消する。
都市空間と鉄道交通のクオリティを同時に高める大切な事業の,複雑かつ長期にわたる難工事をひも解く。
調布駅付近連続立体交差工事第3工区
工事概要
- 場所:
- 東京都調布市
- 事業主体:
- 東京都
- 発注者:
- 京王電鉄
- 設計:
- パシフィックコンサルタンツ
〈土木工事〉
- 規模:
- 地下3層構造,幅約15〜23m,深さ約23〜25m,長さ505m
仮土留工(SMW)21,870m2,(圧入パイル)3,230m2
仮設ホーム工2,230m2 掘削工251,200m3
躯体工(RC,SRC造)73,780m3 路面覆工3,520m2 - 工期:
- 2004年9月〜2013年3月
(東京土木支店JV施工)
〈建築工事〉
- 規模:
- RC造一部S造 B3,1F 延べ16,573m2
- 工期:
- 2011年5月〜2013年3月
(東京建築支店JV施工)
地域を一体化するために
京王線新宿駅から特急電車で15分ほどの調布駅。1913年に初めて開業した時の終点駅だ。その一帯で国領・布田・調布の3駅を地下化する調布駅付近連続立体交差事業の工事が進められている。
京王線柴崎駅〜西調布駅間約2.8kmと京王相模原線の調布駅〜京王多摩川駅間約0.9kmの区間を地下化し,8ヵ所の都市計画道路を立体交差にする。この事業で解消される18ヵ所の踏切のうち半数以上が「開かずの踏切」※という。市役所や病院などの公共施設と商業施設が集積する駅前地区で待ち望まれた地下化。道路渋滞の解消や事故防止とともに,分断されていた地域を一体化し,魅力あるまちづくりにつなげる。
毎日11万人が利用する駅直下の難工事
当社が担当する第3工区は,調布駅を含む全長505mの地下トンネル部分で,現在の鉄道施設を仮受けし,地上より開削工法で地下3層1〜3径間ボックスカルバートを築造する工事である。その掘削土量は約25万m3で,全工区の6割強を占める。
1日の乗降客が11万人を超える郊外のターミナルの機能を止めることなく,大規模空間を造る。現場を統括する井上久志所長は,「駅直下の軌道仮受け工事では,154連の工事桁を終電後から始発までの限られた時間に,最大3ヵ所の同時施工で11ヵ月行いました」と工事の難しさを語る。「京王線と京王相模原線の分岐部では,一体的に軌道を仮受けするPCR工法を採用し,安全かつ短工期を実現しました」。さらに隣接する他社工区の工事に対し,第3工区は合計3回シールド機の到達,回転,発進を行う立坑として地下躯体の一部を先行整備した。
仮設,仮設,仮設そして本設
鉄道工事は,計画段階では最終的な完成形があるだけで,どのように工事を進めていくかは施工者の知恵に委ねられる。工事を担当する森暢典工事課長は,「施工のキータームに現場の状況を考慮して肉付けしていきます。厳しい条件のもとで,隣接工区とも綿密に調整を図りながら,できるところから手をつけることが多い」という。
土留に始まり,軌道を仮受けし,橋上仮駅舎建設を経て本体工事へと続く流れの中で,工程のほとんどは仮設工事となる。線路が上部を覆っているため,駅周辺でようやく確保した分散するヤードで搬入・搬出を行う。「工事の進捗にしたがって利用できるヤードも日々変わっていきます」と,森工事課長は振り返る。常に工事への発想力が求められている。
現在は本体工事がほぼ終了し,建築の内装工事が追い込みに入っている。「長距離走の土木工事のあとを追って,建築工事は短距離走でよくやっています」と井上所長は,土木・建築の連携を強調する。2012年度の地下化切替を目指して事業を推進中である。
京王線と京王相模原線の線路が複雑に交差する調布駅西側の分岐部では,軌道上に精巧な分岐器が輻輳している。地下化工事の仮受けでは,工事桁を用いるのが一般的だが,この工事では軌道に多数の分岐器があり工事桁の架設が困難なため,分岐部で初めてPCR工法が採用された。土被り1.2mの軌道直下に,地下躯体の上床版として本設利用する,剛性が高いPC桁を推進するもの。82m×24mの広範囲の軌道及び分岐器を非開削で全面仮受けする。
施工手順は,まず1.2m角の断面のトンネルを人力で掘り進め,順次角形鋼管を推進する。さらにPCR桁が投入されて角形鋼管を押し出し,PCR桁に置換していく。合計65本のPCR桁で軌道の仮受け後,地上に近い地下1階スラブを先行して施工し, その下を掘り進める“逆巻き工法”による大規模開削工法で大空間を地下に確保した。