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Feature 3: 海外の都市土木

経済成長が続く首都ジャカルタでは,港湾や道路,下水道などのインフラ整備が,その成長に追いついていないのが現状だ。
しかし,徐々にインフラ整備事業が動き出し,当社も高架道路の施工を行っている。
ここでは,苦労しながらも,工事を進める姿をレポートする。

港湾施設へのアクセス道路

ジャカルタ中心街から北東に約20kmのタンジュンプリオク港近くで,当社はインドネシアの建設大手ワスキタ・カリヤとJO(共同施工)で,高架道路の施工を進めている。現場周辺は,「スナヤン・スクウェア」の洗練されたモダンな雰囲気とは様変わりし,バラックが連なる東南アジアの下町の風景が広がっている。タンジュンプリオク港は,インドネシア最大の港で,コンテナ取扱量は,横浜,神戸を上回り,その量は年々増加しているため,様々な課題を抱えている。その一つが,港湾施設へのアクセス道路の慢性的渋滞である。港に入るコンテナトレーラーなど大型車両の混雑が激しく,物流リードタイムを長期化させ,港湾機能が著しく低下している。そのため,日本のODA(円借款)により「タンジュンプリオクアクセス道路建設事業」が進められている。当社JOは全長約11kmのうち東側約2.7kmを担当し,当社社員7名が日々工事を進めている。現場を統括する福田善治所長と工事全体を管理する田坂敬介工事課長が現場の状況を説明してくれた。

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“僅かな光”を手掛かりに

「交渉やコミュニケーション面での苦労が絶えない」と福田所長は厳しい表情で切り出した。特に共同施工を行うワスキタ・カリヤとの関係構築は,簡単にはいかなかった。福田所長は,イランやスリランカ,フィリピンなどでも海外工事を経験し,インドネシアが7ヵ国目となる。国が変われば,文化,宗教,考え方が違うのは百も承知で,相手をリスペクトすることの重要性を理解し,数々のプロジェクトを成功に導いてきた。

しかし,企業者や協力会社ではなく,対等なパートナーがいる共同施工は想像以上に難しい。品質,コスト,調達などの現場運営の重要事項を当社単独で決められないからだ。例えば業者選定一つとっても互いに合意をする必要がある。また,インドネシア人は,会社の信頼より個人の信頼を重視する傾向があり,信頼関係がないと,なかなか本音を言ってくれない。そのため,重要事項の決定には時間を要し,工事が進まない状態が続いた。ワスキタ・カリヤといえば,かつて共に合併会社「ワスキタ・カジマ」を設立した会社だ。当社は,数多の土木・建築工事を通じて,技術や経営管理手法の移転を行い,同社発展に尽くしてきたが,「ワスキタ・カジマ」がない今,信頼関係の構築はゼロからのスタートとなった。

両者の関係に変化が見えてきたのは,定例会議の中で「できることから工事を進めよう」という前向きな意見が出てからだ。「突然で驚いたが,国籍に関係なく“もの造りを通して社会に貢献する”という土木屋として共通の哲学が根底にあったと思う」と福田所長は振り返る。しかし,ようやく見えてきた“希望の光”は,灯っては消えるという状況が繰り返され,“僅かな光”を手掛かりに工事を進めていく感覚だったという。

図版:田坂敬介工事課長,福田善治所長

左:田坂敬介 工事課長(40)
海外勤務歴:7年
経験国:ベトナム,アルジェリア,インドネシア

右:福田善治 所長(54)
海外勤務歴:28年
経験国:イラン,香港,タイ,スリランカ, フィリピン,アルジェリア,インドネシア

図版:都市土木の現場で工事を進める当社社員7名

都市土木の現場で工事を進める当社社員7名

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“道路を待つ人”のために

現在,現場は高架道路の下部工が着々と進んでいる。全70ピア(橋脚)のうち,約4割が完了したところだ(5月末現在)。「今年9月から,送出し工法による橋桁の架設を始めるので,それまでに急ピッチで下部工の施工を進めています」とアルジェリア東西高速道路などで経験を積んできた田坂工事課長は説明する。この工事は,技術的にはシンプルだが,苦労するのは,周りの交通や近隣へのきめ細かい配慮が必要な都市土木であること。「中央分離帯を拡幅して,既存の交通を迂回させて工事をしますが,どうしても道路上空での作業も発生します。周辺道路に影響がでないように,安全面には非常に気を使います」。都市土木の苦労は万国共通だが,海外ならではの苦労もある。赴任して1年になり,インドネシア語で作業指示はできるようになった。しかし,優れた専門工事会社が少ないため,根気強く,繰り返し,丁寧に,指示をしないと現場が動いていかないという。品質や安全を管理するため,一日中現場に張り付くこともある。

「様々な苦労があり,思いどおりには行かないのが海外工事。その反面,計画どおり構造物ができた時の歓びはひとしおです。また,海外では国内に比べ,大きなスコープを任せてもらえます。例えば,入社2〜3年目でも,国内の工事課長に近い立場で仕事ができます。責任は重いですが,若くしてマネジメント力がつき,やりがいを感じられると思います」と田坂工事課長は海外現場の魅力を語る。 そして,周辺道路の渋滞を見るたびに“道路を待つ人”がいると実感するという。人々の暮らしを,より豊かに――土木技術者の原点を見出している。

「用地の未収用部分があるなど様々な課題はあるが,今できることをしっかりやる。そして,少しでも良い状況を目指し,全員でチャレンジしていく。そうすれば,工事が終わった時,ワスキタの社員とも一緒に,仕事を成し遂げた歓びを味わえる」と福田所長。ワスキタ・カリヤのヘンドロ副工事長と現場で話す姿は,“消えることのない希望の光”だと感じた。

図版:現在,高架道路の下部工が最盛期を迎えている

現在,高架道路の下部工が最盛期を迎えている

図版:港湾施設へのアクセス道路

図版:左から福田所長,ヘンドロ副工事長,田坂工事課長

左から福田所長,ヘンドロ副工事長,田坂工事課長

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図版:完成予想パース

完成予想パース

工事概要
タンジュンプリオクアクセス道路E2工区

場所:
インドネシア ジャカルタ
発注者:
インドネシア 公共事業省
設計:
日本工営,八千代エンジニヤリング
規模:
片側3車線上下6車線高速道路(2.74km),
出入口ランプ(1.94km)
工期:
2011年10月~2014年10月

Columm ジャカルタの悩み“交通渋滞”

タンジュンプリオク港周辺に限らず,ジャカルタでは交通渋滞が社会問題となっている。そのため,中心市街地では3人以上の乗車を基本とする乗り入れ規制“three in one”を実施しているが渋滞解消には至っていない。会議時間に遅れても「マチェット(渋滞)」と言えば事足りるのが現状だ。

福田所長の場合,スナヤン・スクウェアのアパートから現場まで約20kmの距離で,通常であれば40分程度の道のり。しかし,大渋滞になると2時間以上の覚悟が必要となる。最近は渋滞がひどく,途中下車して30分程度歩いて現場事務所まで通勤しているという。

Feature2で紹介した赤木所長,若山所長は,通勤距離が約70kmもあり,5時45分にアパートを出発して,7時30分からの朝礼ギリギリに到着するそうだ。渋滞を解消する道路インフラの整備が急がれる。

図版:現場周辺は港に入るコンテナトレーラーで大渋滞する

現場周辺は港に入るコンテナトレーラーで大渋滞する

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