高台の大天守を真横から見る
見学スペースは大天守の最上部の真横。素屋根の内部に設置するエレベータで登城し,優美な屋根を目の前で見ることができる。まさに期間限定の絶好のアングルだ。
たとえば屋根の軒の反り,唐破風,千鳥破風など,その曲線が手に取るように実感できる。軒先の瓦に着目すれば,2種類の家紋が交互に並ぶ。歴代の城主,豊臣家の桐と池田家の揚羽蝶であり,地元市民の野崎所長によれば「同じ家紋がつづく箇所もたまにあるようです」。
丸瓦の目地には漆喰が丸く塗られている。全国的にもめずらしい凝った雨仕舞いなのだが,これが壁の漆喰とともに“白鷺城”のイメージを醸し出す。しかし,雨の当たりやすい軒先ほど漆喰が黒ずみ,うねるような屋根の曲面とあいまって,グラデーションのように映る。
まもなく瓦が外され,壁の漆喰も塗り替えられる。作業が進むごとに訪れれば,新たな発見があるだろう。
手ごわい屋根のシルエット
見学の際に,素屋根の存在も気にすると,より楽しみが増すに違いない。たとえば,大天守と小天守のすき間は,最小で1.6mほど。軒の出は一直線とは限らない。この間を素屋根のトラス梁が抜けていく。鉄骨の直線と比べると,軒の反り具合をより実感できる。
屋根の2面が交わるライン「隅軒(すみのき)」は,美しいシルエットを描くが,この反りが素屋根工事の手ごわい敵となる。隅軒の直上に素屋根のコーナーを補強する斜材が渡るからだ。野崎所長が最も気を遣ったポイントである。
「平面図だけでは分かりません。隅軒の曲線を3次元で検討しなければ,鉄骨が当たらないかは検証できない。実際に鉄骨を“逃がした”層もありました」
こうした難所は,大天守と素屋根を重ね合わせた施工図でも実感できる。その工事のプロセスを次頁から紹介する。