9号京都西立体千代原トンネル本体工事, アプローチ部整備工事
京都市西京区の国道9号・千代原口交差点付近は,1日の平均交通量が約5万台にのぼる。
渋滞は慢性化し,事故が頻発する交通の難所だった。
この解消策として進められているのが,地下立体交差化である。
交差点直下の地下埋設物など,数々の難条件をクリアするために,パイプルーフによる非開削工法を採用。
当社土木技術陣の叡智を結集して施工に当たった。
工事概要
9号京都西立体千代原トンネル本体工事
- 場所:
- 京都市西京区上桂三ノ宮町~塚ノ越町
- 発注者:
- 国土交通省 近畿地方整備局
- 設計:
- 建設技術研究所
- 規模:
- 施工延長370m(ボックスカルバート工)
非開削区間150m(パイプルーフ工)
開削区間220m - 工期:
- 2006年3月~2010年3月
(関西支店JV施工)
9号京都西立体アプローチ部整備工事
- 場所:
- 京都市西京区上桂三ノ宮町~塚ノ越町
- 発注者:
- 国土交通省 近畿地方整備局
- 設計:
- 建設技術研究所,中央コンサルタンツ,
近代設計ほか - 規模:
- 施工延長1,000m
ボックスカルバート工120m
U型擁壁工160mほか - 工期:
- 2009年2月~2012年2月
(関西支店施工)
世界最長のパイプルーフ
京都西立体交差事業(千代原口地区)は,国道9号が物集女(も ずめ)街道と交差する千代原口交差点に490mの地下トンネルを構築,その両側をアプローチ部で地上につなぐ延長1.0kmの工事である。供用中4車線のうち2車線をアンダーパス化するものである。
市街地人口集中地区で,周辺には病院,店舗,住宅などが密集。幹線国道の交通の流れへ悪い影響を与えずに施工することが絶対条件になった。さらに,交差点周辺には各種の重要地下埋設管(ガス,上下水道,電力,通信)が存在すること,トンネルまでの土被りが小さいことなどから,交差点直下の150mは地下を掘り進む非開削のパイプルーフ工法を採用。340mの開削部は路面覆工板を設置し,その下で工事を進めることにした。全長150mのパイプルーフは世界最長の規模になる。
機械と人力のコラボ
鋼管(パイプ)を水平方向に門型に押し込み,天井(ルーフ)や壁を造るパイプルーフ工法は,地盤崩壊の防止や地下埋設物を保護し,掘削作業を安全・確実に進めることができる。
9号道路上に築造した発進立坑から到達立坑に向け,水平部に19本,垂直部に17本の鋼管を施工する。鋼管は長さ約6mで,水平部と北側垂直部が直径約81cm,南側垂直部は直径約1m,前面が回転する掘進機で切羽前面を掘削し,鋼管を溶接しながら元押しジャッキで圧入する。工事箇所は玉石混じりの砂礫と粘性土が重なり合う地層のため,全地質対応型の泥水式掘進機を採用した。
径の大きい南側は鋼矢板など地中障害物を撤去する作業空間確保のためだ。比較的地中障害物が少ない南側下部では,掘進機の引戻し,再投入が可能な拡縮式掘進機を採用した。障害物のある地点に到達すると,機械の外枠を残した状態で機械本体を引き戻す。打設した鋼管内を,作業員が台車で進み,屈んだ姿勢のまま障害物を撤去する。
撤去作業に立ち会った小河亮介工事係は,「予測が難しい地中障害物を相手にしなければならず,工程確保に苦労した」と話す。
電力縦断管路が残置し,施工範囲に大きく干渉する南側上部では,掘進機による掘削よりも人力の方が施工性は向上すると判断。鋼管2本分の作業スペースを確保できる縦二連刃口金物を導入し,人が中に入り,立って掘削作業ができるようにした。
パイプルーフ施工後は,掘削と支保工建込みを繰り返し,トンネル躯体となるボックスカルバートを構築した。
障害物撤去手順(タイプ2)
地中埋設物との闘い
この事業は2003年にスタート。現場を指揮する田中啓之所長は4代目だ。非開削のトンネル工事は初めての経験だという。「技術的に難しい検討課題が多くあったが,その都度,本社や支店の支援を受けて乗り越えることができました」と話す。
「可能な限り機械化すべきだと思うが,施工条件が複雑な都市土木工事では,全てを機械に頼るわけにはいかない。機械と人力のバランスを取らなければ,工事は進まない」という田中所長。パイプルーフ施工現場では,社員が作業員と一緒になって,狭い鋼管内で測量や現地確認を行わなければならない。「若手社員が作業服をドロドロにしながら,しっかり現場管理してくれたおかげで大きなトラブルを防ぐことができた」
これからの市街地での土木工事は地中埋設物との闘いになるといわれる。最先端の技術を駆使する現場でも,地中埋設物は試掘や探査の地道な繰返しで探り出すしかない。「万が一,ライフラインを切断したりすれば影響は計り知れない」と,田中所長は話す。
情報発信で土木技術をPR
この工事で確立した施工方法や開発技術は数多い。「色々な検討や実験を行うなど,みんなで知恵を出し合った。実際に工事に適用してみて,うまくいったときは嬉しく土木屋冥利に尽きる」(田中所長)と,施工実績は社内の報文に掲載したほか,当社の技術力をPRするために執筆した社外の論文や刊行物は20本以上に及ぶ。このプロジェクトで開発した施工技術は,平成21年度地盤工学会技術開発賞を始め,様々な賞を受賞した。この現場で適用された技術のいくつかを紹介しよう。
【箱型トンネルの全断面掘削工法】
掘削高さ10m,幅17mの大断面トンネルであり,従来であれば上部半断面を先進して掘削する工法を採用する。
本工事では,世界最長のパイプルーフを用いて箱型トンネルを全断面で掘削する工法を開発し,コスト縮減と工期短縮を図った。
【WIC(Well Inverter Control)システム】
トンネル掘削に伴い,掘削面が地下水位以下となるため,地下水位を下げる必要がある。インバータで揚水ポンプからの流量を自動制御し,従来方式より揚水量を低減できるシステムを開発し,井戸水を利用する周辺地域への配慮に努めた。
【ボイドキーパー】
地下埋設物(ガス管など)の沈下を最小限に抑えるために導入した当社開発の沈下抑止特殊充填材。同時に鋼管の推進力を低減するための滑剤としての機能も発揮した。
【掘進管理システム(KSCS)】
当社のシールド工事掘進管理システムをパイプルーフ工事用にアレンジした。切羽圧力,推力,掘進速度等の掘進管理データや線形管理データを一元的にリアルタイムで把握できる。パイプルーフの施工精度は計画線に対して±10cmの誤差範囲内だった。
【アワモル工法】
当社開発の長距離トンネルの中詰め工法で鋼管内部を充填。流動性が高く,固まった後に所定強度を確保する。世界最長のパイプルーフの内部を確実に充填することで,将来的な道路陥没を防止できる。
開削部と現在の工事
開削部は,供用中4車線のうち2車線を工事作業用に確保できる夜間がメインの作業時間帯となる。開削部では,地下水対策として,SMW(Soil Mixing Wall)工による土留め壁と水の浸入を防ぐ底版改良を造成。道路面に覆工板を設置し,掘削,土留め支保工を組み合わせて掘り下げ,トンネル躯体を造った。
現在,「アプローチ部整備工事」が進行している。取材日には,22時から翌6時という限られた時間で,路面覆工の撤去,歩道橋の付替え,残りの開削トンネルを造るためのSMW工,歩道切削工に伴う障害物撤去などが行われていた。
完成した千代原口交差点直下のトンネルの内部はすぐにでも車が通れそうな状態になっている。パイプルーフによる非開削工法を採用した現場だ。これだけの作業が,地上交通に影響を及ぼすことなく行われたと思うと,パイプルーフ工法の効果を実感させられる。
同時に,地中埋設物など土の中の状況を正確に把握し,最適な技術を駆使した社員・作業員の努力と使命感に,改めて強い感銘と敬意を覚えた。たくさんの車が,この立体交差を通り抜けていく日は近い。
その1 若手を育てる
田中所長は,前所長から「やさしい心と厳しい目によるものづくり」というスローガンを引き継いだ。人材育成に熱心で,多い時には5人いた若手社員に,OJT の一環として社内外の技術論文の作成を,指導している。「自分の業務成果をまとめることで,技術的な着眼点が違ってくる」という。「若手が,10年後にでも『あの所長のようになりたい』と思ってもらえたら嬉しい」と話す。
その2 頼れる兄貴分
若手社員を直接指導しているのが,監理技術者を務める江上眞工事課長代理。全体工程をまとめつつ,若手社員の昼・夜勤の日程管理に気を配る。「どうすればやりがいを感じてもらえるか,いつも考えている」という。普段は放任主義だが,若手が技術的な問題などで困れば,気軽に相談にのる。信頼しあい,仲間意識を育てる現場づくりに貢献する頼りがいのあるアニキだ。
その3 Good Job
この現場では,グッジョブカードの制度がある。安全推進を積極的に実践している作業員へ社員からカードを手渡しする。作業員への感謝の気持ちを伝え,コミュニケーションの一助になればと,始めた。毎月最も多くのカードを集めた人は,月初めの安全大会で表彰される。表彰状と共に渡されるのは,額入りの仕事姿の写真。家族に仕事内容を理解してもらえると好評だ。