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魅せるファサード

光の“かけら”を閉じ込める

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ガラス片を挟んだ“スプリンターガラス”と,熱線吸収ガラスの
2種類のパネルが複雑にきらめくファサードをつくり出している

photo: Naomichi Sode / SS

きらめくファサードの実現へ

スイスの高級時計ブランドHUBLOT(ウブロ)。同社創業40周年となった昨年の4月,その旗艦店が東京・銀座にオープンした。ファサードを飾る屏風状に配された2種類のガラスパネルが,昼間は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。夕方になると,向かい側の建物を映し込んだり,反射光があたり琥珀色に輝いたりする。そして夜には端部に仕込まれたLED照明により不規則に照らし出される。時間の経過とともに,表情を変えるファサードを実現している。

そのうちひとつのガラスパネルは,2枚の合わせ板ガラスの間に,“スプリンター(かけら)”と呼ぶ細かなガラス片が封入されたものである*。ウブロ社から示されたこのデザインを実現するためには,屋外の使用に耐えられることや,耐震や耐風圧など日本の基準を満たす必要があった。

*なお,“スプリンターガラス”の製造法は特許出願中

ガラス片をガラスに挟む

2枚の板ガラスの間に挟むガラス片は,輝きが失われないようなベストの密度を検討した。その“かけら”は光を反射するガラス片と黒色のリサイクルガラス片からできていて,それらがこの複雑な輝きをつくり出している。

パネル製作にあたっては,実サイズによる試作品をつくり,取付けや納まりの確認を実際の現場でも行った。銀座の街でどのように見えるかを十分に検証した上で実施設計,そして工事が行われ,1年以上の期間をかけて完成に至った。光を閉じ込め,それを放つかのようなガラスによる,新たなるデザインが生まれた。

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photo: Naomichi Sode / SS

ShibauraCrystal 銀座

場所:
東京都中央区
発注者:
芝浦産業
店舗テナント:
ウブロLVMHウォッチ・ジュエリー・ジャパン
設計:
当社建築設計本部
テナントファサード,インテリア基本計画:
STUDIOFORMA
用途:
店舗,事務所
規模:
S造一部RC造(柱CFT) B1,10F 延べ2,565m2
工期:
2018年7月〜2020年4月

(東京建築支店施工)

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都市を灯す光壁

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光壁は和紙のアートワークを
ガラスに挟んでつくられた

photo: ISHIGURO Photographic Institute

街を照らす柔らかい和紙の光

日が暮れて,やがて銀座の街に明かりが灯り始めると,そのなかにまるで行灯のように柔らかな光を放つ建物がある。同じく銀座中央通りに位置する和菓子のブランド,宗家 源 吉兆庵の銀座本社ビルである。1階が和菓子の販売店舗,2〜5階が飲食施設となっている。

この印象的なファサードは,縦2.0m×幅1.4mもの大型の手漉き和紙を高透過倍強度ガラスで挟んでつくられた“光壁”。背後から照らされることで,和紙の模様が夜景のなかに浮かび上がる。輪が連鎖しながら広がっていく輪違い柄をモチーフとした,和紙デザイナーの堀木エリ子氏によるアートワークだ。

和紙を挟んだパネル製作にあたっては,和紙の素材感を押しつぶすことなく,同時に空気泡を残さない合わせ加工をしている。また和紙を際立たせるため,ガラス表面に無反射加工を施した。光壁の光源は昼光色のLEDを用い,実際に使用する和紙ガラスで実験を行って,器具の台数と配列を決定。和紙の存在感を表現しつつ,同時に銀座の周辺の明るさに埋もれることのないよう,現地での点灯試験によって光度の最終調整を入念に行った。

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じつはガラスのない避難バルコニーも光壁の一部に見えるよう,違和感のない光度で背面の壁をライトアップしている。夜景を幻想的に彩る裏には,さまざまな工夫が施されている。

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photo: ISHIGURO Photographic Institute

宗家 源 吉兆庵 銀座本社ビル

場所:
東京都中央区
発注者:
宗家 源 吉兆庵
デザイン監修:
Kプランニング
意匠・設備設計:
青島設計
構造設計:
当社建築設計本部
用途:
店舗,事務所
規模:
地上—S造(CFT造),地下—SRC造 
B1,9F,PH1F 延べ765m2
工期:
2018年3月〜2019年9月

(東京建築支店施工)

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春の海の輝きをつくる

図版

朝と夕方には斜めに射す光が建物の表面を照らす。海の輝きが銀座に再現された

銀座に現れた海の輝き

建物を覆う,透明に輝くガラスウォール。近づいて見上げると細かなピースが組み合わさっていることがわかる。日本を代表するハイジュエラー,ミキモト銀座4丁目本店ビル。そこには3万7,920個ものフロート合わせガラスが,高さ62mのファサード一面に敷き詰められている。外装デザインを担った内藤廣氏のデザインイメージは「春の海の輝き」だった。

ファサードは建物本体の外壁から離され,280mm×70mmのガラスピースが2枚合わさったものを市松状に配して構成されるという前例のないデザイン。そこで耐風圧,メンテナンス性など外装材として求められる機能にくわえ,銀座の目抜き通りで大量のガラスピースを用いる工事であることから,建材の脱落防止など施工中から完成後までの安全性確保が最も重要視され,慎重に検討が行われた。

クラフツマンシップの集積

ガラスの素材にはイメージに合う高透過,溶融,光学ガラスなどあらゆる可能性を探求し,内藤氏,ミキモトのイメージに適う意匠性や品質・作業性を比較した。そのなかで製法上自然破損のリスクをもつ強化ガラスでなく,フロートガラスを採用し,小口を磨かずクリアカットしたままの割肌として,“水面の輝き”を目指した。ガラスピースの製作にあたり,カット方法やピースどうしを支持材でつなげる穴あけ加工の検討,さらにそれらを約2m四方大にユニット化するため,実物大のサンプルをいくつもつくり検証を行った。現場でも安全性の検証にくわえ,風荷重,輝きのチェックがミキモトや内藤氏とともに行われるなど,数々の工程を経て完成。「設計の意図を尊重してくれ,よい共同作業ができた」と内藤氏は語っている。

一つひとつのガラスピースは,カットから合わせガラスにする作業,そしてガラスをボルトで留め付けるまで,ほぼすべて手作業で行われた。7万5,840枚のガラスを組み上げる膨大な作業量だ。ジュエリーがひとつずつ丹念に製作される過程にも通じ,ミキモトのクラフツマンシップを体現したファサードといえる。

図版

ミキモト銀座4丁目本店

場所:
東京都中央区
発注者:
ミキモト
設計:
当社建築設計本部
外装デザイン:
内藤廣建築設計事務所
ガラスピース製作:
三芝硝材
用途:
商業施設,事務所
規模:
S造 B2,12F,PH1F 延べ4,690m2
工期:
2015年9月〜2017年4月

(東京建築支店施工)

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彩りを演出する陶器のファサード

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ランダムに配されたセラミックピースが複雑な表情をつくる

photo: Naomichi Sode / SS

賑わいを演出する「のれん」

銀座エリア最大級の複合施設,GINZA SIX。その低層部の外観デザインの特徴は店舗ごとに設置されている「のれん」だ。銀座の街並みがもつ歴史と美しさとの連続性を図り,人々を迎え入れる仕掛けである。通りに面してエントランスをもつブランド店舗は,それぞれが独自のファサードを設け,ブランドの世界観とともに,街の賑わいを創出している。

そのなかでセリーヌ銀座の外観をまとうのは,セラミック製のピース。セリーヌ社がデザインに際して,日本固有の歴史や風土のなかで育まれてきた伝統工芸による陶器の素材を採用した。ピースはひとつずつ岐阜県多治見市の窯元で特殊な技術により焼成され,釉薬の醸し出す独特の色合いを出している。それを約2,200ピース,角度を変えて配置することで,陶器の自然な色味の変化もくわわり,複雑に表情が変わるファサードをつくりあげた。

自然素材を建材に用いる

セラミックピースを外壁材として計画・施工するにあたっては,鋳込み成形という方法で形状が均一になるよう,またすべてのピースに穴を開けステンレスワイヤーを通せるように製造し,品質管理や落下防止の策をとった。そして実物大の試作品をつくり,ピースの配置や角度の調整,性能,安全性の検証などをセリーヌ社側と協議を重ね,実現させた。

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日中はピースの隙間から入る自然光が室内にさまざまな表情をつくり,夜間は店内の光が外の通りににじみ出る。自然素材に対する繊細なデザインが,街を印象的に演出している。

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photo: Naomichi Sode / SS

セリーヌ銀座(GINZA SIX)

場所:
東京都中央区
のれん実施設計・監理:当社建築設計本部
工期:
2016年4月〜2017年1月

(東京建築支店施工)

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