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魅せる技術

細部から美観を保つ

図版

3階以上の部分は構造ブレースを兼ねた竹籠細工のような
スギ材の格子をガラスが覆っている

photo: Hiroyuki Hirai

ガラス面を美しく保つ

大分市中心部に建つ大分県立美術館は,木材で組んだ箱をガラスが包んだような外観が特徴だ。1・2階吹抜けのアトリウムのファサードは,全面開閉可能なガラス水平折戸となっている。折戸を開けると道路側からアトリウムへ人々が自由に行き来でき,「街に開かれた縁側としての美術館」という,設計者の坂 茂氏によるコンセプトが体現されている。

こうしたガラスを多用する建築では,防水性や気密性を確保するためガラス周りにシーリング材を充填する。一般的に耐候性・耐久性に優れるシリコーン系シーリング材を用いるのが主流だが,一方で時間が経過するとシリコーン特有の油分が染み出てガラスを汚し,清掃できないことが問題とされてきた。

当社では2009年に中部支店東部地区工事事務所(愛知県豊田市)を新築する際,シリル化アクリレート系の新型シーリング材とシリコーン系シーリング材を施工し,2年ごとに比較調査を行ってきた。新型シーリング材の方は従来引き起こしていた汚れがなくなり,伸びと強度の劣化もなかった。そこで、JIS規格外になることを説明し了解を得て,大分県立美術館の高透過ガラスの目地にこの新型シーリング材を使用した。竣工後6年経過した現在,そのガラス面ではシーリングに由来するような目立った汚れが発生していない。シーリング部分の経年劣化が少ないとみられている。

長く使われる建物では,維持管理を考えた設計,施工は欠かせない視点である。こうした細部の技術の向上が,優れた耐久性と美観の維持をもたらす。

図版

photo: Hiroyuki Hirai

OPAM大分県立美術館

場所:
大分県大分市
発注者:
大分県
設計:
坂茂建築設計
用途:
文化施設
規模:
S造一部RC・木造(免震構造)
B1,4F,PH1F 延べ16,769m2
工期:
2013年4月〜2014年10月

(九州支店JV施工)

シーリング材の違いによるガラス面の経年変化比較

施工から10年が経過した当社中部支店東部地区工事事務所のガラス面の変化を比較した。左はシリコーン系シーリングを用いたもの。シーリング材からシリコーンオイルが染み出てガラスを汚している(囲み部分)。右は新型シーリング材を用いたもの。ガラスの汚れが見られない。

図版:シーリング材の違いによるガラス面の経年変化比較
改ページ

建材がつくる脱炭素社会

図版

CO2-SUICOMでつくられた,プレキャストコンクリートパネルを張ったバルコニー天井部

建材から環境負荷低減を目指す

端正な集合住宅のバルコニー天井に張られた,一見普通のコンクリート。だがじつは未来の建設業界を背負って立つかもしれない,画期的な建材が用いられている。その名はCO2-SUICOM*。コンクリートは,製法上CO2を大量に発生することで知られるが,これはCO2を強制的に吸収・反応させた養生方法で製造するもの。2012年にBrillia ist 中野セントラルパークで建築物に初めて適用した。

CO2-SUICOMは,コンクリートの主原料であるセメントの一部を特殊な混和材と置き換え,セメント製造時に排出されるCO2を削減する。さらに,この特殊混和材がCO2と反応してコンクリートを緻密化・硬化させる性質をもつ。よってコンクリート製造時におけるCO2排出量をゼロ以下にすることができる。また,この事例のようにバルコニーなど長期間にわたって外気に曝される部位では,中性化により鉄筋コンクリートの劣化が生じる懸念があるが,CO2-SUICOMの緻密さのおかげで外気がコンクリート内部に入りにくく,躯体コンクリートの保護にも有効だ。

脱炭素社会へ向けて,CO2-SUICOMは,その一翼を担う技術と期待されるだろう。

* CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)はCO2-Storage and Utilization for Infrastructure by COncrete Materialsの略であり,中国電力 ,鹿島,デンカの商標

改ページ
図版

photo: Nozomu Shimao / SS

Brillia ist 中野セントラルパーク

場所:
東京都中野区
発注者:
中野駅前開発特定目的会社
設計:
当社建築設計本部
用途:
共同住宅
規模:
RC造 5F 17戸 
延べ1,748m2
工期:
2010年6月〜2012年5月

(東京建築支店施工)

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