ホーム > KAJIMAダイジェスト > February 2021:THE SITE

THE SITE

異例尽くしの長大架橋
現場の英知を大河に集める

四国横断自動車道 吉野川大橋工事

徳島県を東西に流れる吉野川の河口に全長約1.7kmの高速道路の橋を架設する工事だ。
事業計画の変更により,陸上で製作したコンクリート製の箱桁を現場でつなぎ合わせる
プレキャストセグメント工法を採用した。その規模は,世界的に見ても大掛かりなものだ。
工事内容も架設方法も多岐にわたり,当社の総合力が試されている。

【工事概要】

四国横断自動車道 吉野川大橋工事

  • 場所:徳島県徳島市
  • 発注者:西日本高速道路
  • 基本設計:エイト日本技術開発
  • 詳細設計:鹿島・三井住友・東洋特定建設工事
    共同企業体
  • 規模:PC15径間連続箱桁橋 橋長1,696.5m
    幅員9.3m 桁高3.0~8.0m
  • 工期:2016年2月~2022年7月

(四国支店JV施工)

地図

徳島から各地へつなげる高速道路橋

昔から日本三大暴れ川のひとつに数えられてきた徳島県を流れる「四国三郎」こと吉野川。その河口は大河と呼ぶにふさわしく,川幅は1.3kmに達する。当社JVは2016年から,この場所で徳島南部自動車道(四国横断自動車道)の吉野川大橋(仮称)を架ける工事を進めている。この橋を含む延長7.5kmの開通によって,徳島市中心部が四国の各都市や,関西地方と高速道路で直接結ばれるようになる。

吉野川大橋は,橋長1,696.5mのPC(プレストレストコンクリート)15径間連続箱桁橋。連続構造のPC道路橋としては,日本最長級だ。橋脚工事などを経て,2020年2月からは河川上での桁の架設作業が始まり,2021年度中の開通に向け,工事は大詰めを迎えつつある。

改ページ
図版:側面図・平面図

桁の架設方法は陸上部を除き,プレキャストセグメント工法を採用した。吉野川右岸と近隣の徳島港内の2ヵ所に設けた製作ヤードで箱桁用のコンクリート製のセグメントを合計490個製作。架設地点まで運んだセグメントを,橋脚上の柱頭部から左右2方向に接続しながら,徐々に張り出していく。1スパン130mに使用するセグメントは41個。国内において,同工法で1スパンの支間長100mのPC橋を施工した例はあったが,130mの橋に適用するのは吉野川大橋が初めてで,世界的にも珍しい。

図版:桁側面図

片持ち状態で張り出す桁の長さは最大60m。セグメントの製作精度が橋の線形を大きく左右する。現場を率いる桝本恵太所長は「精度をミリ単位で把握できる最新の写真測量システムを採用しているので製作したセグメントの精度に自信を持って架設しています」と胸を張る。

橋脚8基も当社JVが施工した。河口に位置する現場は,海からの波や干満の影響を受けることから,海洋工事としての側面が強い。さらに浚渫工事,基礎工事,橋脚工事,セグメント製作工事,セグメント架設工事など工種が多岐にわたる。まさに当社の総合力を存分に発揮できる現場と言えるだろう。

桝本所長は,入社以来38年間,PC橋の設計と現場施工に携わってきた大ベテラン。これまでもPC複合トラス構造といった新工法に取り組むなど経験豊富だ。この工事には,入札前の技術提案の段階から関わってきた。「工事の特徴や技術的な課題について,あらかじめ時間をかけて勉強したことが今,現場で生きています」(桝本所長)。

写真:桝本恵太所長

桝本恵太所長

改ページ
図版:全長318.8mの架設桁によるセグメントの運搬。橋形クレーンでセグメントを吊って架設地点まで運搬する(2020年10月)

全長318.8mの架設桁によるセグメントの運搬。橋形クレーンでセグメントを吊って架設地点まで運搬する(2020年10月)

図版:1本の橋脚からやじろべえのようにセグメントを徐々につないでいく

1本の橋脚からやじろべえのようにセグメントを徐々につないでいく

工法の見直しで橋の品質が向上

当初の計画では,桁は場所打ちコンクリートで張り出し架設する予定だった。仮設桟橋を設置する代わりに,河川内に立つ橋脚に対し,陸上側から全長約400mの補助桁と呼ぶ仮設桁を架設。補助桁を使って,鉄筋などの材料を運び,配管でコンクリートを圧送する。橋脚1基につき桁の架設に要する期間は約9ヵ月。川の両側から補助桁を段階的に移動しながら,最大6基の橋脚から同時に張り出し架設することを想定していた。

しかし,事業工程の見直しにより,着工前の段階で吉野川大橋の施工期間を短縮する必要が生じた。そこで,当社JVが考えたのがプレキャストセグメント工法による張り出し架設だ。この方法であれば,1スパン130m分のセグメント架設は3週間程度で完了する。設備の移動なども考慮すると,1スパン2ヵ月程度のスピード施工ができる。
上部工の監理技術者を務める山口統央(つねひさ)副所長は,「当初の方法では,高強度コンクリートを最大400m圧送することから,品質管理上の課題も残されていました。ヤードで製作するプレキャストセグメントならば,高い品質を確保でき,気象条件にも左右されにくくなります」と説明する。

写真:山口統央副所長

山口統央副所長

改ページ

入社26年目の山口副所長は,静岡県浜松市のはまゆう大橋(2003年竣工)の工事で補助桁を併用した張り出し架設を経験したことから,この工事に技術提案から加わった。大学院在学時にプレキャストセグメント工法に関する研究をしており,入社の際,当時新東名高速道路や伊勢湾岸自動車道などの高架橋工事で採り入れられていた同工法の工事に携わることを希望していたという。20年以上の時を経て,吉野川大橋で念願を叶えた形だ。

川や海の上でのプレキャストセグメント工法の架設は,セグメントを台船で運搬することが多い。ただし,現場の右岸側の水域を中心に全体の7~8割が水深3m以下と浅く,台船を用いるには水深が足りない。川底を浚渫すると,周辺環境への影響が大きい。そこで,右岸側の架設には,架設済みの橋面上をセグメントを台車に載せ,運ぶ方法を選んだ。

架設済みの桁と,次に架設する桁はつながっていないので,その範囲は鋼製の架設桁をセグメントの移動に用いる。右岸側の陸上部に位置する桁の上で組み立てた架設桁は全長318.8m,鋼重約2,000t。それを河川内の橋脚に向けて,送り出した。

「セグメントの張り出し架設が完了するごとに,2,000tの架設桁を130m送り出し,桁のたわみ最大6mを処理する作業で1週間を要します。1スパン130mもある桁を送り出した前例がなく,送り出し時にどのような挙動が生じるか手探りな部分もあり,最初のうちはとても苦労しました」。山口副所長はこのように明かす。

図版:右岸側にあるセグメント製作ヤード

右岸側にあるセグメント製作ヤード

図版:製作ヤードでセグメントを台車へ積み込む

製作ヤードでセグメントを
台車へ積み込む

図版:架設済みの橋面上を架設桁まで台車で移動するセグメント

架設済みの橋面上を架設桁まで
台車で移動するセグメント

プレキャスト化を極める装置の改良

架設桁を全区間で使用できるかというと,実はそうではない。左岸側に位置する4基の橋脚から張り出す桁は半径2,000mのカーブを描くため,直線状の架設桁は,橋脚上に設置できないからだ。この範囲では,台船輸送に必要な水深を確保できることから,張り出した桁の先端に設置したエレクションノーズと呼ぶ装置を用いて,台船上からセグメントを吊り上げる方法を適用した。架設桁と同時並行で施工することにより工程も短縮できる。

エレクションノーズは従来タイプに改良を加え,2組4台を新造した。横山由宏機電課長は,改良の狙いを次のように説明する。「最初にエレクションノーズを設置する柱頭部は,場所打ちコンクリートによる構築が避けられません。装置を小型化し,いかにして場所打ちの範囲を狭めるかとても苦心しました」。

そこで考え出されたのが,対となる2台のエレクションノーズを背中合わせで一体化することだった。装置の一部を重ね合わせるようにすることで,装置の全長を短くできる。セグメントを張り出し,エレクションノーズを2台に切り離して,それぞれ前進させたとき,従来のエレクションノーズと同様の独立した構造になるよう装置後方に部材を追加する。

従来タイプのエレクションノーズは柱頭部に少なくとも長さ15mの設置スペースが必要だったが,改良タイプでは,8mにまで抑えた。省スペース化できた分,プレキャストによる施工範囲を広げられ,より一層の施工の合理化や高品質化が図れた。

写真:横山由宏機電課長

横山由宏機電課長

改ページ
図版:幅8mの柱頭部に設置した改良タイプのエレクションノーズ。全長35.4m

幅8mの柱頭部に設置した改良タイプのエレクションノーズ。全長35.4m

図版:張り出し架設中のエレクションノーズ。2台に切り離した装置1台あたりの長さは21m(現場撮影)

張り出し架設中のエレクションノーズ。2台に切り離した装置1台あたりの長さは21m(現場撮影)

横山機電課長は機電系の社員として,これまでに場所打ちコンクリートによるPC橋の張り出し架設を3つの現場で経験し,主にワーゲンと呼ばれる移動作業車の管理を担当してきた。今回のように大掛かりな装置の開発を手掛けたのは初めてだという。「この現場は規模が大きく,土木系の社員と色々な場面で調整する機会が多いです。経験したことがない困難に直面することもありましたが,その分,今まで以上にやりがいを感じています」と横山機電課長は話してくれた。

着工から6年目を迎えようとしている2021年1月現在,全体の約58%のセグメント架設が完了。さらなる工程短縮を目指して,2020年12月から昼夜兼行による施工に体制が増強された。現場社員の英知を結集した長大橋完成までの道のりがようやく見え始めた。

改ページ

現場の安全性を高めた
ナイスアイデア

当社JVが施工した8基の橋脚の基礎は,いずれも鋼管矢板井筒基礎工法によるものだ。直径約14mの円を描くように,外径1m,全長約60mの鋼管矢板を1基につき34~40本を並べて打設。円形の井筒の内側を掘削した後,水を抜き,橋脚を構築した。

図版:鋼管矢板の打設(2017年,現場撮影)

鋼管矢板の打設(2017年,現場撮影)

現場は南側から風が吹くと,特に海が荒れやすく,作業船を使った作業が止まりがちだ。太平洋を台風が通過すると,1週間程度は波が収まらない。

「着工1年目の非出水期の施工では,思っていた以上に稼働率を上げられませんでした。出水期の間に作戦を練り直し,2年目の施工に備えました」。このように振り返るのは,下部工の監理技術者を務める十河(そご)浩工事課長代理だ。

波の影響を受ける作業船をいかに使わずに施工するか。それが現場の稼働率を確保するポイントだった。そこで,十河工事課長代理は,鋼管矢板の打設が完了した各橋脚の井筒上に小型のタワークレーンと,井筒を囲う20m四方の作業構台を設置した。

写真:十河浩工事課長代理

十河浩工事課長代理

改ページ
図版:井筒上に設置したタワークレーンと作業構台(2018年,現場撮影)

井筒上に設置したタワークレーンと作業構台(2018年,現場撮影)

作業船のクレーンによる資材の吊り下ろし作業は,波による揺れが伴う。対して,タワークレーンは波の影響を受けないだけでなく,井筒の底へ吊り下ろす際,オペレーターが直接吊り荷を目視できる。作業構台は資材ヤードとして使用するほか,作業員の休憩スペースとしても活用した。

こうしたアイデアは,2014年ごろ携わった愛媛県の九島大橋の橋脚工事での経験を活かした。このほかにも十河工事課長代理が「ナイスアイデア」と自負する工夫がある。盤ぶくれ対策として,底盤コンクリートの中にメッシュ状に組んだ鉄筋を埋め込んだことだ。

底盤は,井筒内の水を抜いた際,地盤から地下水が噴き出てこないようにする蓋としての役割を持ち,井筒内の掘削後に水中でコンクリートを打設する。この現場では,過去の堆砂の変動や,津波を受けた際の洗掘の影響を考慮し,井筒内を最大で水深30mまで掘削した。そのため,井筒内の水を抜くと,高水圧によって,底盤が持ち上がる盤ぶくれのリスクが伴う。

対策として,底盤には比重が高い重量コンクリートを使用した。ただし,あくまでもコンクリートの重量で押さえ付けるためのもので,水圧で壊れないという確証はない。底盤にひびが入れば,漏水して井筒内が水没する恐れがある。そこで,従来は無筋の底盤を鉄筋で補強することによりその上に頂版が構築されるまでの間の安全性を高めた。

十河工事課長代理は現在入社14年目。この工事には,技術提案の段階から携わる。監理技術者に抜擢されたのは,32歳のときだ。若いながらも,それまでの海洋工事での経験や,機転が利く現場力を買われた。「若手のころから,自ら考えて行動することで現場のキーマンになれるように努めてきました。後輩たちにも仕事をやらされるのではなく,楽しめるようになってほしい」。下部工を無事成し遂げた充実感をこのように語る。

改ページ
図版:底盤コンクリート内に設置したメッシュ筋(2017年,現場撮影)

底盤コンクリート内に設置したメッシュ筋(2017年,現場撮影)

図版:水抜きが完了した井筒内(2018年,現場撮影)

水抜きが完了した井筒内(2018年,現場撮影)

図版:断面図・橋脚平面図

photo: 大村拓也(特記以外は同氏撮影)

ContentsFebruary 2021

ホーム > KAJIMAダイジェスト > February 2021:THE SITE

ページの先頭へ