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技術とデザインの融合

美観を保つ技術

図版

平滑なコンクリート面を長年保っている壁面

photo: Nozomu Shimao / SS

性能と美観を兼ね備える

コンクリートは、乾燥によって収縮することでひび割れが生じ,トラブルになることがある。これらは美観を損なうだけでなく,構造物の耐久性の低下や漏水の原因になる場合もあり,維持管理の観点からも注意が必要である。

当社技術研究所本館研究棟の東西の妻壁には,コンクリートの収縮ひび割れの発生を極限まで抑えた無収縮コンクリート,クラフリート® Hyperが用いられている。目地なしで白色塗装を施されたシンプルな外壁は,クラフリートHyperの特徴のひとつである「条件によりひび割れ誘発目地が不要」を実現したデザインだ。宿命とも言えるひび割れを防ぐため,コンクリートにはあらかじめひび割れ誘発目地を入れておく必要があるが,乾燥による収縮を極限まで抑制することで、その目地をなくす技術である。

2011年の竣工以来,技研を訪れる見学者からは感嘆の声が多く,技術への関心も高い一方で「この状態を何年維持できるのか」と注目されてきた。およそ10年が経過した現在,その外観は変わることなく,美しい白さのまま。きわめて高い性能を維持しつづけている。

図版

鹿島技術研究所 本館 研究棟

場所:
東京都調布市
設計:
当社建築設計本部
規模:
RC造 B1, 5F 
延べ8,914m2
工期:
2010年4月〜2011年10月

(東京建築支店施工)

改ページ

ファサードエンジニアリングのかたち

図版

意匠性と環境性の両面を併せもつ
ダブルスキン・カーテンウォール

photo: Nozomu Shimao / SS

機能を備えた外装

資生堂が横浜みなとみらい21地区に築いた研究施設,グローバルイノベーションセンター S/PARK(以下GIC)。コンセプトとして掲げられたのは,街との一体感を高め,研究所のアクティビティが感じられる「透明性」。内外にオープンな空間構成とガラスで包まれたファサードはその象徴である。

ガラスの外装は,明るく開放的である反面,そのままでは熱負荷をまともに受けてしまう。熱性能を高めた高機能ガラスを用いて対応するのもひとつの解決策だが,GICの北,東面外装にはダブルスキン・カーテンウォールを採用した。これは二重のガラスカーテンウォールで,内側と外側のスキン(ガラス)のバッファーが熱対流を起こし,居住環境を守る仕組みである。ガラスの透明感という意匠性と,日射遮蔽と断熱という機能性の両面に対応した環境性能の高いファサードだ。

このGICの北,東面の窓側には,イノベーションスペースという2層吹抜けのエリアが方角を変え11層にわたって設けられている。メインの実験室とボーダーレスにつながり,ワークエリアの延長として研究者の交流,創造をもたらす場だ。この開放的な吹抜けをダブルスキン・カーテンウォールとし,綿密な温熱シミュレーションに基づいて熱溜まりなどを解消した快適な居住環境をつくりあげた。

鹿島の強み

多機能化・高度化する建築外装の潮流では耐候性や耐久性などにくわえ,環境性能が強く求められている。そうしたなか,意匠と機能の両方からアプローチする「ファサード・エンジニアリング」という分野が改めて注目されている。

ここには多彩な技術や情報力をもった建築設計,構造設計,設備設計,環境,技術開発,施工までの多くの領域が横断的に連携することが重要で,まさに当社のもつ総合力が発揮される分野である。

GICのように,ファサード・エンジニアリングが体現された建築がこれからもより一層求められていくだろう。

図版

photo: Nozomu Shimao / SS

資生堂グローバルイノベーションセンター
S/PARK

場所:
横浜市西区
発注者:
資生堂
設計:
当社建築設計本部
用途:
研究所
規模:
S造一部SRC造 B1,16F 
延べ 56,181m2
工期:
2016年10月〜2018年10月

(横浜支店施工)

column

当社の技術の粋を集めた,技術者必携の1冊

図版

中山 實 編著
鈴木博行・和田 環・権藤 尚・
巴 史郎・佐々木正治・冨田 洸 著
鹿島出版会発行/
A5判並製・270頁

建築物の仕上げをつくる建築材料。素材由来の性質から,日々進化する最新の技術まで,その知見は座学のみならず実践を経てこそ深められる。そうした蓄積が,本特集で紹介したさまざまなプロジェクトにも活かされている。

これらの技術開発や,設計・施工の技術支援に関わった当社技術者集団が執筆する『建築仕上材料と技術の知識』が,建設系専門出版を手がける当社グループ会社・鹿島出版会から昨夏に刊行された。各種の仕上材料から機能性材料にいたる14種の建築材料と技術の知識を[基本知識]編,[応用知識]編に分け,写真やグラフなどを豊富に使って解説している。見開きで展開された構成は,必要なところのみを参照するにも読みやすい,まさに技術者必携の1冊。ぜひご一読ください。

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