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現場では~津軽蓬田トンネルの女性技術者~

建設現場には,神様を祀る文化がある。
自然が起こす人智を超えた災厄から現場を護るためである。トンネル現場では
「山の神(女神)が嫉妬して災害をもたらす」といわれ,近年まで女人禁忌の風習が残っていた。
トンネル現場は,女性の進出が遅れていた建設業の象徴でもある。
ここでは,津軽蓬田トンネルで活躍する技術者,橋本麻未さんを紹介する。

津軽蓬田トンネル

青森空港から車で40分ほど。津軽半島に位置する津軽蓬田トンネルは,新青森駅と新函館駅(仮称)を結ぶ北海道新幹線整備事業の一部で,総延長6,190mの山岳トンネル。工事の大きな特徴は,国内2例目となるSENS工法と,国内初となる大断面シールド機の地上発進工法の採用。SENS工法は,シールド工法とNATMの利点を併せ持つ工法で,シールド機が切羽を安定させながら掘削を進め,同時にテール部分でコンクリートを打設して一次覆工を行う。

橋本さんの担当職務は,掘進管理。トンネル切羽近くの中央管理室で,シールド機による掘進とコンクリート自動打設を管理する。

津軽蓬田トンネル地図

水しぶきを浴びながら

朝礼が終わると,その足で橋本さんは坑内に向かった。掘進は1,500m地点に達したばかり。業務中は坑内外を頻繁に出入りするため,移動にはバイクや乗用車を利用する。24時間稼働する掘進を3交替制で担当者が管理し,この日は8時から16時までの勤務。週替りで夜勤も担当する。

中央管理室に到着すると,引継ぎデータを眺め,システムモニターを確認して掘進の状況を把握する。「漏水量が多いようですね」。そう言いながら,中央管理室を出て現地に向かった。脱型前の内型枠の隙間から水が漏れているのがわかる。ドリルを携え,軽いフットワークで漏水箇所まで駆けつけると,ペンライトで入念に位置を確認し,内型枠ごしに一次覆工のコンクリートをドリルで削孔しはじめた。脱型の可否を確認するため,コンクリートの充填状況をみているのだ。

防水シートの施工と二次覆工が続いて行われるため,漏水自体にはそれほどの心配はいらない。しかし,コンクリートの充填不足が原因であれば問題は深刻である。水しぶきを浴びながら,確認作業を行った。

写真:水しぶきを浴びながら

写真:水しぶきを浴びながら

写真:水しぶきを浴びながら

日本の土木技術

橋本さんは京都大学大学院工学研究科を修了後, 2006年,当社に入社。3年半の土木設計本部勤務を経て,2009年10月に現場に着任した。

青森での生活について,「お酒と魚が美味しい」と笑いながら話す。学生時代の趣味は海外放浪。暇をみつけては一人旅を楽しんだという。旅行中,日の丸のついた土木構造物を目にする機会があり,日本の土木技術が世界各地で活躍していることを知った。海外では,土木技術は“市民の技術”といわれる。土木の学生というだけで,賞賛を受けたこともあった。「当たり前のようにそこに佇み,当たり前のように人の役に立つのが土木構造物」と橋本さんはいう。「その施工に携わりたい」。各地を巡るたびに思いは強まり,当社の門を叩いた。

写真:橋本さん

写真:橋本さん

改ページ

一人の技術者

漏水の処置を終えた後も,動きは止まらない。次々とPHSが鳴る。測量用のプリズムの取付けや立会いのほか,油圧ホースの油漏れ,排水用バキュームの詰まり…。掘進・コンクリート打設管理を行いながら,連絡の度に現地に駆け付けて対応していく。担当時間を終え,後任者に引継ぎを行って,現場事務所に戻った。

活き活きと業務をこなす橋本さんについて,佐々木孝博所長が「男女の別なしに,一人の技術者として成長が著しい」と評価すれば,掘進責任者の亀山好秀課長代理は「知的好奇心が旺盛で,新しいことを次々と吸収していく」と話す。二人が声をそろえるのは「現場の皆から可愛がられている」ことである。橋本さんは明るく前向き。ものづくりに真摯な姿勢で臨む懸命な姿に,周囲の人間がつい面倒を見たくなるのだという。

人々の役に立つものをつくりたいと飛び込んだ建設業。北海道新幹線整備事業は本州と北海道を結ぶ一大プロジェクトで,うってつけの現場ともいえる。たくさんの人々が開通を待ちわびるなか,工事は進んでいく。「やりがいを感じないわけがないじゃないですか」。

写真:橋本さん

写真:橋本さん

写真:橋本さん

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