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Chapter III Project×Person under-construction シンガポール建設事情

今なおいたるところで工事の槌音が絶えないシンガポール─。
当社も多くのプロジェクトを推進中で, シンガポールでも有数の大規模かつ複雑な工事を多く手掛ける。
厳しい条件の下で日夜建設や開発の事業を進める現場を訪ねた。

※本文中【】表記の数字は「プロジェクトマップ@シンガポール」掲載の地図に位置を表示

“世界金融ハブ”を総合力で一貫して施工
─ KOA マリーナベイ金融センター2期工事【142】

写真:マリーナベイ金融センター。中央施工中のビルが2期のタワー3で,右2棟が1期のタワー1・2(総延べ260,000m2 )

マリーナベイ金融センター。中央施工中のビルが2期のタワー3で,右2棟が1期のタワー1・2(総延べ260,000m2

工事概要(2期)

発注者:CBデベロップメント
基本設計:KPFアソシエイツ
実施設計:アーキテクトA61
用途:事務所,店舗,駐車場
規模:RC造 B3,46F 高さ245m
延べ199,692m2
工期:2009年9月~2012年6月

マリーナベイ金融センター(MBFC)は,新たな世界金融ハブとして建設されるシンガポール都市再開発の目玉となるプロジェクトである。合計約30万m2 のハイグレードなオフィススペースを有するオフィスタワー3棟と1万7,000m2 の商業施設,総戸数649戸の住宅タワー2棟からなる複合施設を,2期に分けて整備。当社JVは集合住宅2棟を除く全てを施工している。

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1期工事【136】(オフィスタワー2棟ほか,総延べ約26万m2 )の所長を務めた高橋広平工事管理部長は,「1期工事の実績と2期地下工事で工期を短縮する工法提案が高く評価された」と語る。現在の2期工事は,1期工事施工中に特命で受注。シンガポールでの建設工事は,所員は多国籍で,発注者の要求水準も非常に高く,契約的にも難しいものとなっている。「所長の負担は極めて大きいが,会社組織全体でフォローし,当時43歳だった私でもやり易い環境が整った。2期工事も日本や当地で着実に実績を積んだ若い所長が担当しています」。

2期工事は1期の竣工約1年前に着工し,地下工事に逆打ち工法に準じた「セミトップダウン」工法を導入することで,掘削と搬出が合理化されて大幅に工期短縮を実現した。1期の集合住宅入居開始で,新たな騒音規制の対象となり作業時間が制約されたものの,全体工程を十分にカバーしている。

工事の発注者は香港及びシンガポールの開発会社3社JV,その下に客先のプロジェクトマネージメントチームがつく。設計者はシンガポール内外の約10社が従事し,現場の監理者は建築,構造,設備延べ約20人に及ぶ。2期工事を担当する大高広之所長は,「関係者が多く物決め工程と調達計画のフォローには常に気が抜けない」という。「当社の体制はスタッフが約60人,作業員はピーク時で1日当たり1,600人に上った。2期工事ではセーフティースクリーンも導入して安全工程管理を徹底しています」。

9月28日, 「マリーナベイ金融センター2期工事・タワー3」の上棟式が現地で行われた。式典には,シンガポールのテオ・チーヒエン副首相をはじめ発注者,キーテナントとして入居予定のDBS銀行関係者,ならびに当社から山口専務らが出席。金貨を上棟用スラブパネルにセットする金貨埋込みの儀などを行い,上棟を祝い無事の完成を祈念した。

写真:1期工事を担当した高橋広平工事管理部長

1期工事を担当した
高橋広平工事管理部長

写真:大幅な工期短縮を実現した地下工事の「セミトップダウン」

大幅な工期短縮を実現した地下工事の「セミトップダウン」

写真:昇降式の外部足場「セーフティースクリーン」 

昇降式の外部足場「セーフティースクリーン」 

写真:ローカルスタッフの幹部と打合せする大高広之所長(中央)

ローカルスタッフの幹部と打合せする大高広之所長(中央)

写真:上棟式。金貨埋込みの儀に臨む山口専務(右)

上棟式。金貨埋込みの儀に臨む山口専務(右)

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自然環境を大切にする大規模現場
─ KOA ITE中央キャンパス及び本部棟新築工事【143】

写真:現場全景(2011年11月)。12基のタワークレーンで11棟の建物を同時施工

現場全景(2011年11月)。12基のタワークレーンで11棟の建物を同時施工

工事概要

発注者:シンガポール国立技術教育機 関(ITE)
設計:RSPアーキテクツ(意匠・構造),スクワイア・メック(設備)ほか
規模:PCa・RC造一部S造 ITE本部棟,劇場棟, 実習棟3棟,講義棟4棟,スポーツ棟,航空棟 400mトラック,50mプール,駐車場 
総延べ279,615m2
工期:2011年2 月~2012年9月

シンガポール国立技術教育機関(ITE)は国の技術教育主要機関で,10校に分散した校舎を東・西・中央の3地域に統合する計画が進められている。最初の東部キャンパス整備をKOAが担当し,2004年に完成させた。今回の工事はその最終段階となる。建設現場は,奥行き約450mで約11haの巨大な敷地に,11棟の建物を4つの工区に分けて同時施工している。

このプロジェクトは,シンガポール政府の環境配慮認証・グリーンマークで最高位のプラ チナ賞取得を目標に掲げ,環境配慮の一環として,入札時に屋上緑化に関する設計変更提案を行った。

現場全体を統括する澤宏明所長は,「重量軽減とメンテナンス向上を目的に,屋上緑化の土を当社技術のケイソイルに変更する提案をしました。シンガポールの気候・風土に合ったケイソイルを海外事業本部, 建築管理本部,技術研究所の協力を得て現地で開発しています」と,鹿島の総合力を強調する。

写真:グリーンマーク・プラチナ賞をめざす現場の工事看板

グリーンマーク・プラチナ賞をめざす現場の工事看板

写真:澤宏明所長

澤宏明所長

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歴史ある病院を最先端へ再整備する
─ KOA シンガポール国立総合病院病理学棟新築工事【144】

写真:現場全景(2011年11月)。右はアトリウム部分完成予想パース

現場全景(2011年11月)。右はアトリウム部分完成予想パース

工事概要

発注者:シンガポール保健省
設計:CPGコンサルタンツ
規模:RC造 B2,13F 延べ86,089m2
工期:2010年11月~2013年3月

このプロジェクトは,シンガポールで190年という最古の歴史と最大級の規模を誇る国立総合病院の再整備事業である。

入札段階から工事を担当してきた鈴木栄一所長は,「現場を取り囲む病院関連の諸施設・利用者に対する環境を考慮し,騒音に加えて振動・埃には特に注意を払うことが必要です」と,既存病院敷地内における施工管理の難しさを語る。さらに深夜や土日曜祝日の工事が制限され,日中でも病院へ頻繁に出入りする緊急車両の通行を阻害しないように,工事車両を管理している。

病理学棟は,地下が研究用動物の管理施設,1階から7階までが事務所,及び臨床技術やシミュレーション施設,8階から13階が病理学棟と研究棟のツインタワーという施設構成。13階にはバイオセーフティ・レベル3という高気密な実験室が配置される。「レベル3は,世界的に見ても実施例が少なく,排気系統は高性能フィルターで除菌してから大気へ放出するなど,設備工事の比重が大きい建物」となるため,鈴木所長はじめ所員たちは今後ヤマ場を迎える設備工事に気を引き締めている。

写真:鈴木栄一所長

鈴木栄一所長

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使いながらインフラ設備を更新する
─ 海外土木支店 セノコ発電所工事【140】

写真:現場全景(2011年12月)

現場全景(2011年12月)

工事概要

原発注者:セノコ・エナジー
発注者:日立製作所/日立アジア
設計:日立製作所
用途:発電設備
規模:新設コンクリート工9,800m3
建屋鉄骨1,100t
工期:2009年12月~2012年5月

セノコ発電所は,シンガポール島の北端ウッドランド地区臨海部の工業地域に位置し,国内の電力供給拠点となっている。

この工事は,日系企業コンソーシアムによる既設発電設備の更新で,ステージIIにある3ユニットの250MW(石油焚)ボイラ・タービンを撤去して,2ユニットの422.3MW(コンバインド・サイクル・プラント)に改造する工事である。当社はこのプラント改造工事の土建工事を担当。工事内容は,既設ボイラ・タンクなどのコンクリート基礎・トレンチほかを解体,ガスタービンなど発電用新設機器類や建屋基礎・トレンチなどRC構造物の施工, 建屋(S造)の新築及び既設取放水路の健全度調査・補修などである。

2009年10月から現場に乗り込んだ加藤浩司所長は,「既存施設の解体と一部施設の改修・流用も並行する工事のため,現状を調べながら対処方法を考える,新築工事とは違った難しさがある」という。また,「ステージIIは四方を稼働中の発電設備に囲まれており,作業ヤードの確保と他社工事に合わせた施工管理のため,安全確保と作業工程の綿密な調整が必要です。これからシンガポールの 土木インフラも更新の 時代に入るので,これら の経験を今後に活かして いきたい」と,シンガポ ールでの新たな営業展 開も視野に入れている。

写真:加藤浩司所長

加藤浩司所長

写真:稼働中施設と改修する既存建屋に囲まれながらの施工風景

稼働中施設と改修する既存建屋に囲まれながらの施工風景

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商品企画で稀少価値をさらに高める
─ KOA ビショップスゲート住宅開発事業【141】

図:完成予想パース

完成予想パース

事業概要

事業会社:KOA
意匠設計:MDR,申請設計:RSP
施工:ポー・リャン建設
用途:住宅
規模:RC造 1・2棟—B1,5F
3棟—B1,2F 総延べ10,289m2
工期:2010年10月~2012年夏

最近のシンガポールのコンドミニアムは,中心市街地におけるカーテンウォールで包まれた高層物件が主流となっている。そうした中でKOAは,商業の中心地オーチャードから1kmほど,大使館や大邸宅が静かに佇む,高級戸建て住宅地のビショップスゲート通りの一角で,稀少性の高い低層コンドミニアムの分譲住宅事業を手掛けている。

「低層のコンドミニアムは,落ち着いた緑深い周辺環境に調和させるため,外観デザインで傾斜屋根を採用し,自然石を多用した温かみのあるアースカラーの外壁で統一しました」と,開発事業を担当する森重豪雄KOAプロジェクトディレクターは,この計画の特徴を述べた。住戸面積は300m2 から大きいもので600m2 あるというハイクラスのコンドミニアム。自然換気を積極的に取り入れるなど,住宅開発ではそれまであまり重視されていなかった環境設計に取り組んだことで, 政府が認定するグリーンマークで最高位のプラチナ賞を受賞している。今後予定している販売開始に向け, 現在は商品企画をコントロールしつつ販売戦略を構築している。

写真:全体模型を前にスタッフと森重豪雄KOAプロジェクトディレクター(左)

全体模型を前にスタッフと森重豪雄KOAプロジェクトディレクター(左)

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column 新嘉坡(シンガポール)達人

海外での建設事業・開発事業への展開─。
日本国内と異なる環境下でプロジェクトを推進していくためには,多彩な人材が不可欠となる。
あらゆる分野でバイタリティと創意工夫をもって新しい世界を切り拓く,当社グループの若き技術者たちの流儀を探る。

“技術の架け橋”のデザイナーとして駆け巡る

7月の着任以来ずっとバンコクで仕事をしていたので,シンガポールは10月末からです。周辺各国との間を設計の打合せで渡り歩いています。KDA(カジマ・デザイン・アジア)は,東南アジア・オセアニア地域を中心に建築デザインを業務とする鹿島の現地法人。設計・施工案件への対応強化を目的に1992年に設立されました。

建築設計本部在任中は,都内の大規模プロジェクトなど複雑な案件をやっていました。東京での仕事がマラソンならKDAは短距離走を何回もやる,というのが実感です。営業担当者も少ない中で設計者には営業的センスも求められます。お客様のニーズに対して,いかに欲しがっているものをピンポイントで返せるか。そのためにも週1回KDAオフィスのミーティングは大切です。情報を共有して必要に応じ相談し,さらに建築設計本部や技術研究所などから鹿島の技術を取り入れて設計の質を高めていきます。日本の技術との架け橋になれればと考えています。12月から2月末までの予定でインドに長期出張です。

写真:KDA 小川一人 チーフアーキテクト

KDA
小川一人チーフアーキテクト

写真:週替わりで各国を飛び廻るスケジュール

週替わりで各国を飛び廻るスケジュール

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多国籍の人々とのチームワークの心をもって

国内工事を8年経験した後,2005年の国際要員研修時からずっとシンガポールです。ITEの現場では, 4工区で最大の本部棟・劇場棟工区のプロジェクトマネージャー(PM)と全体工区の施工計画全般のPMを務めています。

現地の法律や建設業の習慣などを理解するまでは,一般的な業務をこなすのにも苦労しました。現場規模の大きいものが多く,数段上の立場で仕事を任されるため,やりがいと同時に責任も大きくなります。KOAローカルスタッフが多国籍で,作業員の国籍も多岐に渡り,会話の基本は英語ですが,作業員へはスタッフが中国語・マレー語・タミル語などを使って細部を通訳しています。

多国籍の外国人同士が集まって仕事をする難しさはあっても,人と人のつながりで工事を進めることに変わりはありません。そのために①明確な目標設定と指示を出す,②人の意見を真剣に聞く,③本音で話をする,④相談しやすい雰囲気をつくり的確に問題を解決へ導く,といった意識と熱意を常に持って対応しています。

写真:KOA ITE中央キャンパス及び本部棟新築工事 福田寛紀 プロジェクトマネージャー

KOA ITE中央キャンパス及び
本部棟新築工事
福田寛紀プロジェクトマネージャー

写真:多様な顔触れが集まる工事のミーティング

多様な顔触れが集まる工事のミーティング

フォア・ザ・プロジェクトで取り組む

2005年に入社後,数年国内の土木現場で実務を積み,初めての海外現場となったベトナム・カントー橋を経て,シンガポールのセノコ発電所工事を入手段階から担当しています。

既存の発電設備を更新する工事で,日系プラントメーカーなどを中心とする企業コンソーシアムの下,当社は土建部分の担当です。毎日,当社の工事と機械・電気・配管を担当する他社の工事の間で,鹿島のコンストラクションマネージャーとして細かい作業調整を行っています。

稼働中の施設に囲まれた狭い作業ヤードで担当工事を進めるため,工事場所の確保や作業時間の割当てなど各社との調整は困難を極めます。日系企業といっても担当者はほとんど外国人。とにかく彼らの意見を良く聞いて粘り強く調整します。プロジェクト全体がスムーズに進むように,他社工事についても積極的に理解を深め,時には他社と一緒に問題解決に取り組み,良好な関係を築きながら工事を進めています。

写真:海外土木支店 セノコ発電所工事事務所 鈴木和仁 コンストラクションマネージャー

海外土木支店 セノコ発電所工事事務所
鈴木和仁コンストラクションマネージャー

写真:毎日の打合せで細かい作業調整が行われる

毎日の打合せで細かい作業調整が行われる

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5つ星ホテルの運営業務で“超一流”を学ぶ

開発事業本部で5年間ほど住宅事業などを担当し,1年半前に赴任しました。シンガポールでは,ビショップスゲート住宅開発などの開発事業を担当しています。さらに,1982年開業のリージェント・ホテルのオーナー企業(25%出資)として,ホテルの運営業務を担当しています。今年で30周年を迎える老舗5つ星ホテルのオペレーションで収益性をいかに高めるか。日々の運営状況・業績をチェックしながら,予算をオペレーターと協議して定め, メンテナンスや改修などの企画検討・実施を行い,配当金の交渉なども行います。オペレーターのスタッフは超一流揃いなので,ホテルというサービス業について教わることは多いです。

英語はシンガポールに来てから本格的に始めました。英会話は今も悪戦苦闘中ですが,意識して英語に多く触れるようにしています。オフには英語版のコミック「One Piece」を読んで泣くのが楽しみです。

写真:ホテルのスタッフと打ち合せるKOA 開発事業部石山岳瑠アシスタントマネージャー (右)

ホテルのスタッフと打ち合せる
KOA 開発事業部
石山岳瑠アシスタントマネージャー (右)

写真:リージェント・ホテル外観

リージェント・ホテル外観

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