東南アジアの金融センターとして成長著しいシンガポール─。
東西の海上貿易の要衝として栄えた歴史をもつ島国は,わずか東京23区ほどの広さに約520万人が生活する。
世界経済が激変する環境下でもしなやかに絶えず変化し,政府による各種インセンティブ制度が
民間投資を強力に後押しする。当社は半世紀以上にわたりこの地で建設事業に関わり,
この国の発展に寄与してきた。近年では開発事業の貢献も目覚ましい。グローバルな経済成長を
けん引する都市国家シンガポールにおける,当社グループの活躍をリポートする。
シンガポールの経済的発展に向けた都市づくりと,当社の働きやこれからの展望について,シンガポール・建設庁長官ジョン・キョン氏に,メッセージを頂いた。
2011年10月,世界銀行のビジネス環境ランキングで,シンガポールは6年連続で第1位に選ばれました。その主な要因として,建築許可の取得手続きが迅速かつ効率的であることが指摘されています。BCA*1 と関係機関が,インターネットを活用した申請システムを開発し,手続きの合理化に取り組んできた成果です。さらに,3次元CADの活用を促進します。BIM*2 を使うことで情報共有が容易になり,多くの建設プロジェクトの生産性向上に寄与するでしょう。BCAは,数年後にBIMでの建築許可申請の義務付けを考えています。
BCAは,グリーンビルディング*3 を後押しすることで,持続可能な国土開発を推進しています。2005年にグリーンマークの制度を導入し,2030年までに80%の建物をグリーン化することが国家目標です。グリーンビルディングの棟数は,初年度の対象プロジェクトは17件だけでしたが,現在では840件を超え,延床面積ではシンガポール全体の12%を占めるまでに着実に増加しました。今後,既存施設のグリーン化を進めるための新たな法整備も考えています。
生産性向上が経済成長を導くという国の方針のもとで,シンガポールの建設業の生産性向上を図り,安全性,高品質,持続可能性,使いやすさにつなげていく。この目標達成のために,BCAは建設生産性向上のロードマップを展開しており,外国人労働者の需給調整,建設労働者の技能向上,財政面でのインセンティブ付与などで生産性向上を図っています。今後10年で生産性を20~25%向上させることが長期的な目標です。
BCAは品質の評価基準づくりのために,鹿島の協力を得て,東京でいくつかの施工現場を訪問しましたが,その施工品質の高さはデザインや施工方法によるところが大きいと感じています。前・上級国務相(国家開発,教育担当)のグレース・フー氏が2010年に東京で建設生産性に関する視察を行った際には,鹿島が,工期を遵守して予算内でプロジェクトを進めるために,先進的な建設技術と優れた現場マネジメントの融合を強調していたことに感銘を受けています。鹿島の設計・施工案件では,物決めの早さと正確な工程管理で,予期せぬ設計変更への対応が可能となっており,設計・施工方式の活用が,シンガポールの建設業にとって有益であるという我々の確信をさらに強めることができたのです。こうした点は,建設生産性向上のロードマップを作成する上で非常に有益で,示唆に富むものでした。
鹿島は,BCAのコンストラクション・エクセレンス賞*4 を,オフィス・商業施設・住宅など多様な分野のプロジェクトで数多く受賞しています。また,BCAのCONQUAS*5 で鹿島のスコアは着実に向上しており,鹿島の最高得点(94.1点)はシンガポールで最上位クラスに位置しています。さらに,グリーンマーク賞を建設会社として15件,デベロッパーとして2件受賞しているほか,ユニバーサルデザイン賞も数多く受賞するなど,大きな存在感を発揮していることを称えます。品質に加えて環境への親和性を高め,持続可能性の確保に注力しているのが認められたのです。
鹿島には,これからも優れた取組みや建設技術の有用性について助言を続けていただき,新しい建設生産技術や建設マネジメントの手法をシンガポールにもたらすことで,現場の生産性をさらに高めることをお願いします。
*1 BCA(Building and Construction Authority:建設庁)は,MND(Ministry of National Development :国家開発省)の管轄下にある法定機関で,建設行政をマネジメントする組織として,高い安全性の確保,施工品質の改善,技能レベルの 向上などを目指している。
*2 Building Information Modeling
*3 環境配慮型の持続可能な建築物
*4 マネジメント,技術,施工品質に優れた建設会社を表彰するBCAの表彰制度
*5 建設プロジェクトの施工品質を高めるためのBCAの評価制度