米国景気の着実な回復,日系企業の積極投資などにより,
KUSAは今年度,約1,500億円(昨年度の約1.5倍)の受注を見込んでいる。
この多くは,ハワイアン・ドレッジング,バトソンクック,KBDG,オースチン(受注高順)によるものだ。
KBDG以外の3社は,企業買収によりKUSAのグループ会社となり,好業績に大きく貢献している。
ここでは十数年前から進められてきた企業買収戦略から米国でのビジネスを知る。
ハワイNo.1ゼネコンは鹿島グループ
アラモアナショッピングセンター,ハワイプリンスホテル,ハレクラニホテル――。ハワイを訪れた人には,馴染み深い施設だろう。これらは全てハワイアン・ドレッジングが施工を担当している。110年以上,ハワイの地に根付き,業界のリーダーとして親しまれてきた知名度の高い会社だ。鹿島との関係は,1980年代前半,現在KBDGに属する設計会社KAIが設計監理を行った日系企業の本社ビルを施工したことに遡る。1990年代に入り,当社が開発を手掛けたハワイ島のフアラライ・リゾートの施工も担当した。その後,数々のプロジェクトを共に対応し,良好な関係を築いてきた。
2001年,親会社の経営が悪化。ハワイの良きパートナーは,厳しい経営環境での舵取りを強いられていた。そのことを知ったKUSAが,買収交渉に動きだす。約6ヵ月にわたる交渉を経て,2002年にグループ企業の一員となった。買収契約の成立直後に,重機や情報システムなどの設備投資に資金を投入,生産性が向上し,従業員の士気もあがった。買収当時ハワイNo.2に甘んじていたが,すぐに首位を奪回し,以来その座を守っている。
企業買収は“信頼関係”から
その後,2005年にオースチン,2008年にバトソンクックを買収し,グループの一員として迎えている。企業買収と聞くと,投資目的や敵対的買収をイメージする人が多いのではないだろうか。しかし,当時KUSA社長として企業買収を進めてきた海外事業本部長の越島常務は「最も大切なのは,信頼関係をつくること」と力説する。その一例がオースチンの買収に見ることができる。同社は創業135年の歴史を持つエンジニアリング力に強みを持つ建設会社である。“オースチン・メソッド”と呼ばれる設計と工事をほぼ同時進行させる高度な設計・施工一貫サービスを提供してきた老舗企業だ。全米に多くの優良顧客を持ち,優秀なエンジニア集団として知られていた。
2008年,事業が競売により売却されることになった。入札まで1ヵ月の検討期間しかなかったが,何よりも重視したのが同社経営陣との対話と実際の仕事ぶりを知ることだった。「作っている図面,現場での作業を見れば,買収すべき企業なのかが分かってくる。短い時間だったが,社長はじめ経営陣との対話のなかで,仕事への真摯な姿勢に共感でき,将来同じ道を歩いていく仲間として相思相愛の関係になれたことが大きい」。買収できるかは入札に委ねられていたが,入札前に構築した信頼関係があったからこそ,今も頼れるパートナーとして互いに認め合えるという。
苦い経験が教えてくれた戦略
こうした企業買収戦略は,1990年代,日本のバブル崩壊が起点となる。これまで屋台骨だった日系企業からの受注が低迷。KUSAは米系企業からの受注拡大を目指す。
日本人中心だった事業会社の経営陣を一掃し,米国の大手建設会社から人材をスカウトした。しかし,受注拡大に成功したものの販管費増加などによる採算性悪化,これまで強みであった丹念な顧客対応も十分とはいえなくなった。経営陣を入れ替えるだけの改革では,新市場開拓は難しいと身をもって知ることになる。
この経験から,米国のように建設業が成熟産業となっている国では,顧客やサブコン,地域との関係,人と組織を動かす仕組みをゼロから構築することは現実的ではないと改めて認識し,事業拡大にあたって,企業買収という選択に踏みだすのである。
鹿島グループのDNA
「顧客を大切にし,品質にこだわり,工期を守る」。鹿島が守ってきた企業文化や社風,DNAを共有できることが,企業買収を成功させるポイントだという。
買収した3社のコーポレートサイトには,“WE DELIVER QUALITY〈私たちは品質をお届けます〉”(ハワイアン・ドレッジング),“THE FIRST THING WE BUILD IS THE RELATIONSHIP〈最初の仕事は,信頼関係を築くことです〉”(バトソンクック),“Results, not Excuses〈言い訳ではなく,結果を〉”(オースチン)という言葉が掲げられている。