ユニークで付加価値の高いサービスとは,そして得意分野を組み合わせた独自のサービスとは──。
現在KUSAは,高層賃貸アパートメント「SkyHouse®」の開発事業をとおして,新たな価値創造に挑んでいる。
その姿から,ビジョンを具現化するための施策とは何かが分かる。
これまで存在しなかったユニークな商品
2011年,全米中がクリスマス商戦で沸き立つなか“アトランタで本格的な住宅開発が再開!”というニュースがメディアを賑わせた。国際的な金融危機の引き金となったリーマン・ブラザーズの経営破綻から3年が経っていたが,アトランタの市街地には大きな爪あとが残り,新たな投資は皆無だった。そのなかで,KUSA傘下のバトソンクック・デベロップメント(BCDC)と南東部の住宅デベロッパー・ノヴェアがパートナーを組み,同一規格の高層賃貸アパートメントを「SkyHouse」シリーズとして提供する第1号案件の着工は,大きな話題となった。
「SkyHouse」は,これまで米国の住宅市場には存在しなかったユニークさが,特徴の一つである。一般に,米国では賃貸住宅は郊外型の低層集合住宅が多く,賃貸住宅を高層かつロケーションの良い都心 部で展開する事例は少なかった。ターゲットとなるユーザーも明確に絞り込んだ。20代から30代のジェネレーションY(Y世代)と呼ばれる世代だ。幼少期からインターネットに親しみ,消費行動などが,これまでの世代とは異なるといわれている。リーマンショックによる住宅ローン破綻もあり,特にY世代では,分譲から賃貸のニーズが高まると予想して企画された商品である。彼らのライフスタイルを意識し,最上階に屋外プール,ジム,パーティスペースなど共用のアメニティを集めた“空中の家(SkyHouse)”を演出した。これまでの賃貸住宅には,考えられなかった新たな発想である。
「BCDCは新しい事業機会を探し,新サービス・新商品へのチャレンジを検討していました。そこに,地域の住宅事情に詳しいノヴェアとの結び付きができ,新たな商品の誕生につながったのです」とKUSA社長として全米の事業を統括する大橋令明社長は当時を振り返る。アトランタで行われていたパーティで出会った両社の社長が2011年に再会し,デベロッパーとしての想いを語り合い,生まれたプロジェクトだという。今後,様々な都市でシリーズとして展開していく「SkyHouse」は,長期的な信頼関係を重んじる“南部気質”を持つ二人の手により,さらに発展していく。
KUSAグループの相乗効果
デベロッパーの商品企画が,どんなに優れていたとしても,ビジネスとして成立するかは別の話である。それは,ものづくりの現場が必ず存在するからだ。「事業成立には,施工リスクを如何に低減させるかがポイントとなります。その点,傘下の建設会社バトソンクックの施工能力は,大きなメリットになりました」。バトソンクックは,「SkyHouse」の施工にあたり,徹底的に無駄を省き施工の効率化を進めた。具体的には,1フロアを3区画に分け,鉄筋工,型枠工,コンクリート工などの専門工事を区画毎に流れ作業を行える仕組みを考案した。また「Lean Boot Camp(リーンブートキャンプ)」と呼ばれる協力会社への教育工程を盛り込み,作業の標準化や他の工事からのノウハウなどの水平展開を行っている。ネーミングは,トヨタ生産方式を研究した生産管理手法「リーン生産方式」に由来する。これらの取組みは,工期短縮・コスト低減を可能にし,施工リスクをグループ内でコントロールすることに成功した。事業会社の得意分野を組み合わせ,ユニークで付加価値の高いサービスを提供するというビジョンの体現といえる。
新たな利益確保を目指して
昨年,KUSAは全米有数の流通倉庫開発・運営事業を行ってきたグループ会社IDIを売却した。今後,「SkyHouse」のようなアパートメント開発など有望市場へ,IDI売却収入を再投資し,新たな利益確保を目指していく考えだ。「市場ニーズを慎重に見極め,リスクとリターンのバランスを図りながら,新たなビジネスモデルを志向していきます。そのためには,開発・設計・施工機能のコラボレーションをさらに進化させていきます」。KUSAグループは,将来を見据え,新たな価値創造に向け動きだしている。