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怒涛の300時間

被災翌日の11日朝,出動要請を受けた当社職員が現地入りした。
国土交通省から示された全体工程は2週間。そのうち,荒締切工は1週間でこなさなければならない。
工事完成までの怒涛の300時間を追った。

写真:怒涛の300時間

“チーム武蔵水路”

9月11日午前9時,被災地対岸の広場に「H27台風18号常総市三坂町緊急復旧現地対策本部」が設営され,当社は上流工区を担当することが決まった。現場を任せられたのは「武蔵水路中流部改築工事」の道脇誠所長と「原子力東海村工事」の半澤光洋所長。両名ともに豊富な経験をもつ実力者である。

工事自体はシンプルだ。根固めブロックで基礎を固め,盛土して荒締切と呼ばれる堤防を構築。その上に遮水シートを展張して護岸連節ブロックで仕上げる。さらに川側に設ける二重締切は,鋼矢板を2列に打設してその間に土砂を中詰めしていく。

課題になったのは,工期である。極端な短工期では,施工体制の構築が工事成功の鍵を握る。発災当日,赴任が決まった道脇所長は,武蔵水路の現場からの戦力投入に踏み切った。“チーム武蔵水路”が中心になれば,指示の流れが円滑に運ぶ。職員と協力会社に声をかけ,強い施工体制を擁立した。両所長は前日から連絡を取り合い,資機材を手配して現場に乗り込んだ。当日は早朝に落ち合い,現地踏査を開始。早々に進入路拡張や資機材搬入などの施工計画を立てていった。

写真:道脇誠所長(左),半澤光洋所長(右)

道脇誠所長(左)は,これまでに数々の突貫工事を完成に導き,関東支店の土木工事管理部長も務めた。半澤光洋所長は,武蔵水路の副所長を務め,アルジェリア東西高速道路に従事した経験も持つ

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“あらゆる目”に対応する

「現場は“あらゆる目”から見られていた」と半澤所長は振り返る。発注者はもちろん,地域住民が常に現場を見守り,報道で取り上げられる機会も多かった。

工事開始から数時間が経ち,現地対策本部から「当日中に根固めブロック投入に着手せよ」と連絡が入った。現場は進入路造成準備をしている段階。タイミングが半日早く,無理をすれば次工程が遅れかねない。しかし,“あらゆる目”に取り巻かれる災害復旧だからこそ,目に見える工事着手が必要だった。半澤所長は覚悟を決めて号令をかけ,22時の根固めブロック投入開始を決めた。必要な資機材の搬入を手配し,工程組替えを指示する。結果として,21時59分に根固めブロックが到着して投入が無事行われた。その様子は,復旧工事着手として全国に報道された。半澤所長はいう。「進入路造成に専念していれば,何も対策がとられていないと思われたかもしれない。工事の進捗をわかりやすく示すことも大切だと改めて感じました」。

写真:発注者から提示された手書きの応急復旧断面図

発注者から提示された手書きの応急復旧断面図。このほか,流域付近の地図と工程表,備蓄資材表が工事にあたって示された(提供:国土交通省関東地方整備局)

写真:職員打合せの様子

職員打合せの様子。武蔵水路から8名,支店などから6名が駆けつけ,合計14名の初期編成が組まれた。工事は24時間体制で進んだ

写真:根固めブロックの投入状況

根固めブロックの投入状況。被災翌日の21:59に第一投が行われた

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「剣の舞作戦」

施工の最大のポイントは,土運搬だった。堤体構築に必要な土砂は,目視でおよそ1万m3。この盛土を4日で終わらせるために,1日に2,500m3以上の土砂を運搬しなければならない。これに対して,現場進入路は幅員3m,延長600mの堤防天端道路のみ。現場は進入路の拡充を急ぎ,退避・展開場を6ヵ所設ける造成を着工直後からはじめた。車両誘導員は12名を配置。誘導員は世話役クラスの精鋭を揃え,無線誘導で「実車優先」しながら空車を入れ替える訓練も行った。

写真:拡張された進入路

拡張された進入路

一晩で進入路拡充を終えて搬入体制が本格的に整うと,根固めブロックの投入を続けながら土運搬が開始された。ダンプトラックが,転回して土砂を投下し,退避する。3分に1台のペースで舞うように土砂を搬入していく。類を見ない車両コントロールは,楽曲『剣の舞』になぞらえて,発注者から“剣の舞作戦”と名付けられた。

最終的には1日に3,000m3以上の搬入が可能になったが,それでも道脇所長は工期への不安が払拭できずにいたという。3日目の夜にかかってきた発注者からの電話に,荒締切が間に合うとは言い切れず,4日目に堤防の法面整正がはじまって,ようやく光明が見えたという。「強い使命感で現場に臨み,臨機応変に措置を講じていましたが,形になるには時間がかかる。不安は常に付きまとっていました」。

写真:荒締切の施工状況

荒締切の施工状況。狭隘な現場に重機が輻輳する

写真:連節ブロックの施工状況

連節ブロックの施工状況

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技術者としての経験

遅れが生じれば人海戦術で機械と人員をつぎ込み,荒締切復旧が指定工期内に成し遂げられた。二重締切では,クレーン作業が錯綜しない時間に中詰め作業を並行し,作業工程を1.5日短縮した。そして9月23日17時,1日を残して工事は完成を迎えた。道脇所長は「思わず全員で万歳をした」と振り返る。

無事故無災害で工期内に完成できたのは,所長2人体制によるところが大きかった。半澤所長は,重機土工事と発注者協議を一手に推進。道脇所長は,労務調達や進捗管理,社内外への報告対応も行った。決してどちらか一人ではやりきれない状況だったという。

もちろん,完成は職員の懸命の努力の賜物でもある。平時とは緊張感が異なる環境の下,気力・体力の限界と戦いながら業務に邁進した。職員からは,工事を通じて自分に足りないことがあるとわかったという声も上がった。道脇所長がいう。「技術者として職務にあたっていれば,無理を通さざるをえない場面も出てくる。そのときに,“できない”ではなく,“どうすればできるか”と考える。そこに自身で気づかなければならない。彼らにはいい経験になったはずだ」。

後日,発注者から現場に感謝状が贈られた。怒涛の300時間を乗り越え,責務を果たした証だった。

写真:二重締切の施工状況

二重締切の施工状況

写真:工事完了全景(提供:国土交通省関東地方整備局)

工事完了全景(提供:国土交通省関東地方整備局)

図版:600mの現場進入路に6ヵ所の退避・展開場を設け,12名の車両誘導員を配置した

600mの現場進入路に6ヵ所の退避・展開場を設け,12名の車両誘導員を配置した。これにより,3,000m3/日の築堤材搬入を果たし,発注者から「剣の舞作戦」と称賛された。名前の由来は,3分間に1台のペースで舞うように土砂を搬入する車両をアラム・ハチャトゥリアン作曲の「剣の舞」になぞらえたことによる

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写真:復旧に従事した職員と作業員(9月23日現場にて撮影)

復旧に従事した職員と作業員(9月23日現場にて撮影)

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300時間の経過状況

9月10日

発災。道脇所長と半澤所長が現地赴任決定。両所長が連絡を取り労務・資機材手配などを行う。

9月11日

道脇・半澤所長が早朝から現地踏査。鹿島は上流側の施工担当に決定。
作業ヤード造成などの作業を開始。21:59,最初の根固めブロックを投入。

9月12日

作業ヤード造成完了,根固めブロック設置を継続,ブロック間盛土開始。

9月13日

根固めブロック投入完了(236個)。盛土継続。

9月14日

盛土累計4,600m3完了,二重締切の鋼矢板の搬入完了。

9月15日

盛土累計7,000m3完了,遮水シート施工開始。

9月16日

堤体盛土8,800m3完了,法面整形を急ぐ。連節ブロック施工開始。
連節ブロックは100m2張ったところで積直し。

9月17日

前夜から降雨も,大部分は遮水シート施工済みのため支障なし。
連節ブロック設置完了。指定工期内の23時に荒締切完成。

9月18日

二重締切鋼矢板打設開始。

9月19日

鋼矢板累計57枚打設完了。タイロッド施工開始。

9月20日

鋼矢板累計196枚打設完了。二重締切中詰材の仮置き完了,施工開始。

9月21日

鋼矢板累計260枚打設完了。

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9月22日

鋼矢板累計304枚打設完了。

9月23日

二重締切中詰め3,000m3完了。無事故無災害で工期内に全ての施工完了。現地対策本部に報告。

9月24日

重機搬出。

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