技術を未来のために使う——。そんな思いを抱き続ける人たちがいる。「保有する技術を何に使うか」に挑む機電の研究者たちである。
電子レンジの原理で未来のエネルギーを取り出す
日本近海に大量に存在が予測されるメタンハイドレート(以下MH)は,新たな国産エネルギー資源として注目されている。海底下にあるMHからメタンガスのみを分解・回収する方法を研究しているのは,技術研究所先端・メカトロニクスグループの露木健一郎上席研究員だ。井戸を用い海底からメタンガスを吸い上げる方法が考案されていたが,課題は分解すると周りから熱を奪うMHの性質により地層温度が下がり,MHの分解が進まなくなることだ。「熱を加えて分解を早められないか」そう考えたが,単純に温水を送るのでは効率が悪い。
そこで思いついたのが電子レンジ。水に吸収される周波数の電磁波を使って,水を含むものだけを温める電子レンジの原理の応用である。露木上席研究員にとって電磁波は非破壊検査で現場支援を行ってきたなじみの分野。MHのみに吸収され,水に吸収されにくい電磁波の周波数を探し求めた。試行錯誤の上,MHの加熱に適した周波数を見つけることに成功した。夢へ一歩近づいた。
※上記はMH資源開発研究コンソーシアム(MH21)の生産手法開発に関する研究として行われたものです
土木工学と電子工学の融合を目指して
「自分の健康状態を教えてくれる構造物が造れないか」。7年前に,技術研究所先端・メカトロニクスグループの今井道男主任研究員は思いたった。これまで構造物の劣化状況を把握するには,目視や歪ゲージで,コンクリートの歪やひび割れを確認するのが一般的だったが,多くの人員を要することや精度などの課題があった。
目を付けたのは,専門分野の電気・電子分野で良く使われていた光ファイバーセンサーである。関連する国内外の論文を読みあさった。その中から,構造物に適した光ファイバーセンサーを見つける。新技術の開発を始めると同時に,既にインフラの老朽化が進む米国へ留学をする。留学先では,ストック社会での土木構造物やそのメンテナンスについて学んだ。新たな技術を実際に適用するには,構造物自体の構造や材料などについて専門知識が必要と考えたからだ。
帰国後,開発は一気に進み,実証実験により,歪やひび割れを高い精度でモニタリングできることを確認した。今後,橋梁や発電所などの重要構造物での実用化を目指す。「夢はシビオニクス(シビル+エレクトロニクス)という言葉を世の中に広めること」と熱く語る。
本格的な技術競争時代を迎え,これまで以上に工事入手時の技術提案の重要性が増している。特に,機械や仮設備における技術提案は,他社との差別化できる技術が多く,工期短縮やコスト競争力に直接つながる。提案力強化のため,土木・建築部門との連携に加え,機電部門として本社・支店・現場との技術情報の交換を活発化させている。
「現場で本当に使え,競争力のある技術を提案していきたい」と話してくれたのは,機械部技術1グループ(ダム・造成・トンネル)の重永晃洋次長。トンネル関係のプロジェクトに対する技術提案や施工支援業務,施工機械関連の技術開発に関わる。
「現在,様々な技術開発を加速しているが,着実に成果を挙げてくれる頼もしい存在」と土木管理本部土木工務部の福家佳則担当部長の評価は高い。機電は,今の時代を乗り切るキーワードの一つと言える。